力が入り乱れた。
敵の力、味方の力、五行の力、龍神の力……
沢山の力が入り乱れ、徐々にやあかね達の勝利へと導いていく。











transmigration 第四十一話











「はあああああああ!」


キイイイイイイインッ!!!

頼久の刀が黒麒麟の角に当たった。
互角に、もしかしたら頼久よりも優位に黒麒麟は戦っていた。


「臨 兵 闘 者 皆 陣 裂 在 前!
 はあああああああ!」


泰明も、九字を切り攻撃を仕掛けた。
強い力を持つ黒麒麟だったとしても、多くの攻撃を受ければただでは済まない。


「神子、今だ」


「はい」


泰明の言葉にコクリと頷いたあかねは、両手を黒麒麟に翳した。


「めぐれ天の声 ひびけ地の声 かのものを封ぜよ!」


カッ!

あかねの声に反応し、眩しい光が瞬いた。
黒麒麟を中心に光り、凝縮されていく。

そこには居たはずの黒麒麟の姿はなく、札が一枚あかねの元へ舞い降りた。
その札には、黒麒麟の姿が描かれていた。


「くっ……何故、なぜお前なのだ!?」


悲痛なアクラムの叫び声が上がった。
今の光景が信じられないと叫ぶかのような悲鳴だった。


「なぜ天も地も私ではなく……お前に与するのだ 天意は私ではなく、お前にあるというのか……?」


今にも膝をつきそうな雰囲気だった。
両手を見つめ、わなわなと。



アクラム……
あなたの敗因は……きっと、そうじゃない……そうじゃないんだよ……



まるで定められた運命のようにも見えた。
けれど、それすらもそれぞれの決定が選択肢がここへと導いてきたかのようにも思えた。


「…………」


黒髪を靡かせ、辺りをキョロキョロと見渡すラン。


「ここ、どこ……?どうして私、こんなところに……私、私……私、今まで何をしてたの?」


両手を見つめ、その掌を徐々に顔に近づけていく。
思い出せない記憶は、ランにとってただの苦痛にしかならなかった。


「あたま、痛い……な、に?黒い獣が、私の中から……溢れだして…………」


「蘭!────しっかりしろ、蘭!!」


両手で頭を抱え震えるランに、天真は声を張り上げた。
そんな天真に、ランは恐る恐る視線を向けた。


「おにい……ちゃん お兄ちゃん……助けて……助け、て……
 もういや、あれを……怖いものを呼ぶのは 苦しいよ、お兄ちゃん……」


頭を抱える手は、徐々に自分を抱きかかえるかのように腕に回された。
ギュッと必死に自分を保とうとするかのように、腕を抱く手に力が籠る。


「助けて!!」


「蘭!大丈夫だ、きっと助ける!」


「まだだ……まだお前は手放さぬぞ、ラン 最後の力まで私に捧げよ」


悲鳴を上げるランに、アクラムはニヤリと笑みを浮かべ視線を向けた。
その瞳に、ランはゾクッと嫌な感じを覚え身を竦めた。


「黒龍を呼ぶのだ、ラン 京を滅ぼすのだ お前を逃がさぬ!」


「駄目!黒龍を呼んじゃ────」


アクラムの声に、が悲鳴を上げた。
それは、白龍を呼ぶと神子がどうなるのかを知っていたから。
自然と、白龍を呼び起こる事は黒龍を呼ぶと起こることに連なると思ったから。


「蘭を離せ!!」


「天真くん!」


ランに駆けよりそうな天真を必死に繋ぎとめるあかね。
今敵の渦中に入って、無事でいられるとは思えなかった。


「待って!お願い、龍神の神子 この方を……この方を殺さないで!!」


「シリン……」


隠形で突如姿を現したシリンに、は驚き、あかねは同情の声を上げた。


「くだらぬ事を言うな、シリン!なぜ命乞いなどせねばならぬ!
 必要のない事だ、去れ!お前はもうなんの役にも立たぬ!」


「いいえ、去りません!お怒りもあえて受けます
 アクラム様のためなら……シリンはどんな事でも致します」


怒りの声を上げるアクラムに、シリンは凛として言った。
その口調、立ち振る舞いは本当に去りそうにないものだった。


「シリン……お前は、私が龍神の神子に叶わぬと思っているのか?
 目的を果たせぬと……そう思っておるのか?」


アクラムの表情は、徐々に険しくなっていった。
アクラムは、あかねを捉えられないとシリンに思われているのかと思ったようで、シリンを責める様に、冷たく厳しい言葉を向けていた。


「だから命乞いか……はっ!ふざけるな、シリン
 お前は私を否定するというのか?下がれ、そして消えろ!私の前から、どこへなりと失せろ!」


「アクラム様!鬼の一族は、もうあなたとあたししかいない 他のものはもう……いないのです」


叫ぶアクラムを宥める様に、シリンは穏やかな口調で諭した。
かつては沢山のものが集い、アクラムを長に雅やかな生活をしていた。
なのに、今はもうその数が片手で数えられるほどになってしまったのだ。


「あたしは最後までお傍にいたかった でも……」


下唇を噛み、パッとシリンはアクラムから視線を逸らした。
小さく息を呑むと、逸らした視線を今度はあかねへと向けたのだ。


「お願いです、神子 アクラム様の代わりにあたしの命を差し出すから!!
 だから……だから、アクラム様の命を奪わないで!アクラム様も……もう、目的を果たすのは諦めてお逃げになってくださいっ」


シリンはそれほどまでにアクラムに生き延びて欲しかった。
アクラムがどれだけ目的を追い求めていたか、シリンも重々承知の上での発言だった。


「シリン……アクラムが……とっても大切なんだね
 酷い事をされても、捨て駒にされても……アクラムに命を捧げるんだね」


「そうよ あたしはアクラム様をお慕いしている
 アクラム様が死ぬなら、あたしが死んだ方がいい あなたなら……分かるでしょう?」


シリンの言葉にあかねは何も言えなかった。
けれど、はよく分かった。
大切な人には、自分の命を投げ出してでも生き延びて欲しいと願ってしまう。


「……そうだね 大切な人には……何としても、生きてて欲しいよね」


「あ……助けて……やめて、やめて!!」


小さく頷くの声のすぐ後。
上がったのはランの悲痛な叫びだった。


「ラン!?」


「もう、私の頭の中を掻きまわさないで!」


頭を抱える手に力が籠っている事が、傍から見てもよく分かる程だった。


「蘭!?どうしたんだ、しっかりしろ!」


「私の中が、黒く固まる────何かが私の身体を支配しようとしている……」


嫌な気配を纏うランに必死に叫び声を上げる。
今にも駆けより、抱き締めてやりたいほどに天真の心をかき乱していた。


「いや、いやだ、いやだ!もう何も壊したくない、そんな事……したくないの……っ!!」


「それこそが破壊の黒龍だ はっはっはっは!
 黒麒麟の消滅を知り、まさに降臨しようとしている!」


高らかにアクラムが笑った。
その笑い声に、全員の意識が視線が注がれた。


「ラン、呼べ!黒龍を召喚しろ!京を破壊するのだ!」


ドクン

ランの胸が張り裂けんばかりに、鼓動が高鳴った。
何かに呼応するかのように。


「ダメ!!召喚しちゃ────……駄目えええええええ!」


「いやああああああっ!私の身体を取らないでっ!!」


止めるの声も虚しく、ランの中の何かが渦巻き始めた。
ドクンドクンと脈打ちながらも、ランは身体を満たしていく何かに気付いていた。


「アクラム、やめて!やめてえええええ!」


「アクラム様!!」


あかねとシリンの悲痛な叫び声が木霊した。


「黒龍よ、姿を現せ!わが身を供物とし、京を破壊したらしめよ!」


ドクンッ!!!!!


「いや……来ないで……呼びたくない、壊したくない
 …………助けて!」


カッ!!!!

黒い光が瞬き、ランの身体が宙に浮いた。
その瞬間、ランを取り巻く空気がグンッと変わったことに誰もが気付いた。


「────何か、来る」


「うん……恐ろしい何かが……」



それは、きっと……たぶん……



だけが分かっていた。
やってくる正体が黒龍だと。
そして、それを鎮める方法も────だけが。


「なっ……何なのだ、これはっ!?!?」


「泰明さん!?みんな!?」


いきなりの声に、とあかねは八葉の方へと視線を向けた。
そこに広がる光景に、二人は目を離せずに息を呑んだのだった。










to be continued...............




黒龍来た────!!
遙か3の黒龍と遙か1の黒龍とでは……やっぱりイメージが違いますね。(笑)






transmigrationに戻る