「これは……これが黒龍の瘴気か 京がおおわれる……」


黒い瘴気が泰明ら八葉達の動きを止めていた。


「あかね、平気か!?」


、逃げろっ」


天真と泰明の声が上がった。
互いにそれぞれを心配する声が。


「どうして私達だけなんともないの?私が龍神の神子で、がその生まれ変わりだから?」


両手を見つめ、あかねはそう呟いた。
まるで、自分の内にある力を見つめるような瞳だった。


「私に……何が出来るの?龍神の神子だからこそできる事……」


「…………」


悩むが、どうしてもあかねには何が出来るのか分からなかった。
それは、龍神が神子にだけ出来る事をにしか知らせなかったからだ。
悩むあかねの様子を、はただ見つめていた。



私が……やらなきゃ……



ぐっと、は拳を握った。











transmigration 第四十二話











「ランは龍神を呼べたけど……私も呼べるの?」


「……駄目だよ、あかね ランは身体を取られるって言ってたじゃん」


行きついた答えに、慌てては否を唱えた。


「そうだ!あかね、無茶なこと考えるなよ 俺がきっと助ける……なんとかしてやるから!」


「天真の言うとおりだ 大丈夫だ、 だから危険は犯すな きっと、なんとかしてみせる」


天真はきっと、あかねを純粋に思い助けようと口にしたのだろう。
けれど泰明は何かを感じ取っていた。
前々から、が何かを隠していた事を感じ取っていたように、が何かをしようとしている事を。



泰明さんは……本当に、優しいんだね……



微笑を浮かべ、泰明を愛しそうに見つめた。
その表情は、泰明にとっては『ありがとう』と言っているように見えたようで。

ホッとした表情を浮かべていた。


「あかね、目を閉じて祈って」


「え?」


「あかねは、いざって時のために力を温存しとかなきゃ駄目 今は私が頑張るから……五行の力を私に」


の強い言葉に、あかねは一瞬息を呑んだ。
けれど、その気迫にあかねはコクンと頷いた。


!?」


先ほど危険は犯すなと言ったばかりだった。
泰明は驚き、声を上げた。

その声は、泰明にしては珍しい荒い声だった。



龍神を呼ぶ……約束通り、私が
みんなを────……泰明さんを、守る為に



決心したように、一度目を閉じ呼吸を整えると瞳を開いた。
ゆるぎない強い意志を携えた瞳を、泰明に向けた。


「大丈夫、泰明さん 絶対に────……大丈夫だから」


大丈夫なんて保障はどこにもなかった。
それでも、安心させるように柔らかく微笑んで告げた。



龍神……私に、応えて 今すぐに……私の声を聞き届けて
あの黒い霧を祓うために────……大切なものを守るために……



心で強く願うと、それは光となりの手元で光った。
こうこうと眩しいほどに神々しい光が。


「……?」


あかねが訝しげに眉を顰め、を見つめた。
しかし、にその声はすでに届いていなかった。



龍神……私に────……降りて来て!!!



カッ!!!!

眩しい光が辺りを包み込んだ。
激しい雷と共に、暗雲から舞い降りてきたのは一匹の龍。
うねり、くねりながら霧を祓い京を清らかなものに変えながら、の元へと降りてきた。


「……なぜ、龍神がのもとに?」


泰明が掠れる声で、そう告げた。
そして、ハッとした。



、まさか────……神子の代わりに龍神を召喚したのか!!!



それはつまり、ランが言っていたように身体を龍神に差し出すという事。
ギリ……と、泰明は奥歯を噛みしめた。


────!!!!!」


手を伸ばし、の腕を掴もうとした。
しかし一歩及ばず、は龍神の身体の中に吸収されていた。


「…………」


唇だけが、微かに動いた。
瞳は閉じたまま、泰明に何かを伝えるように静かに唇だけが動いていた。



大好き……だよ、泰明さん
ずっとずっと……大好き、愛してる
これが私の……守り方 ずっと黙ってて……ごめんね



告げた言葉は『愛してる』という短い言葉。
けれど、昇りゆく龍神の中でが思ったのは、たくさんの言葉だった。


────────!!!」


声が枯れるほどに、泰明は叫んだ。
へたりとその場に膝をつき、力なく項垂れるまでずっとずっと叫んでいた。

それは、が告げた短い言葉を感じ取ったから、読み取ったから。


「お前は……みなを────……私を守るために……ッ!!」


オッドアイから、一筋の涙が零れ落ちていた。


っどうしてっ……どうして、神子の私じゃなくて、あなたがっ!!!」


そして、何も出来ず自分だけが助かってしまったことにあかねは嘆いた。


「……アクラム」


立ち上がり、少し離れた場所で膝をつき泰明と同じように項垂れているアクラムにあかねは近づいた。


「そなたの勝ちだ 私には……とうてい及ばぬ力」


「もう……京を脅かさないで」


アクラムを見下ろし、冷たく言い放った。
それは、の意志を継いだと考えたから。

きっと、は平和な生活を望んでいると。


「……シリン アクラムを連れて……どこへなりと……」


そう言われ、シリンは一度頭を下げた。
あのシリンが珍しいと思いながらも、隠形で消える姿を見送った。

ペタ……

そして、あかねもようやくその場に座り込みが居ないという事を実感した。


「神子様……」


「私は……神子として、ここに来た きっと……居なくなるのは、私だったはずなのに……」


ギリ……

奥歯を噛みしめ、地面に着いた手に力を込めた。
土を握りしめ、瞳から大粒の涙がボロボロと零れだした。


「現れるのも突然で、居なくなるのも突然……か」


「友雅さん!」


パチン

扇子を閉じ、何を思ったのかそんな事を口にした。
当然の如く、あかねの声があがった。


「……泰明さん、ごめんなさい の事……」


「神子が謝る必要はない の考えに気付かなかったのは……私だ」


一向に立ちあがる様子のない泰明。
そんな様子を見ていると、あかねも他の八葉も藤姫も心締め付けられる思いだった。



ねぇ、
あなたは今……どこにいるの?



晴れ渡った空を見上げ、あかねは誰に問うでもなく疑問を心の中で呟いた。







to be continued..............




とうとうヒロインが居なくなった!!
どうなる、泰明!どうする、泰明!(ぉわ)






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