帰りたいと願った
だけど、無理だろうと心の奥底で思ってた

私の心の帰る場所は、いつもいつも泰明さんの処
たとえ戻れなかったとしても、この心はいつも泰明さんに向ってる

だから、ねぇ……泰明さん
そんな悲しい顔をしないで?
そんな悲しい事を考えないで?
私は……強くて、弱くて、脆くて……でも真実しか見ようとしない泰明さんが好きだったんだから

真実から目を背けないで
真実から逃げ出さないで
私との思い出を────……忘れないで

生きて…………












transmigration 第四十四話












「……帰りたい 私、泰明さんの元に帰りたい!」


強く言った言葉。
けれど、半ば諦めかけていた言葉。


「では……戻るがよい その力を、我に託して」


光がの体からあふれ出ていった。
まるで泡のように、ふわふわと。


「────……ぇ」


小さく声を漏らした瞬間、龍神の姿が霞んだ。
龍神の声が小さくなった。
それは、の気のせいでも勘違いでもなく、まぎれもない事実だった。


「汝、その役目終えたり 我、汝の力と引き換えに────」


は、暗闇の中へと静かに落ちて行った。









「────ッ!ッ!!!」


上がった声に、はハッと瞳を開けた。
暗闇もなければ、龍神もおらず、声も聞こえない。
代わりにあるのは、見慣れた風景に見慣れた姿。

そして、愛おしい声だった。


「……泰明、さん?」


っ!!」


ギュッと、泰明はその存在を確かめるようにを抱きしめた。
広い胸板にの顔は押しあてられ、ぎゅうぎゅうと力強く締め付けられる。

間近で感じる泰明の温もりに、香りに、の胸はドキドキと高鳴っていた。


「どうして、私……」


「どうしては私の台詞だ!なぜ……なぜ相談をしてくれなかったのだ!?」


戻ってこれた事の驚きに呟いた
けれど、その言葉は泰明の心配という炎に油を注いだようなものとなった。

心配するオッドアイが、じっとの瞳を見詰めていた。


「……相談してたら、泰明さんは私を止めていたよね?」


「当然だ!」


「なら……あかねにだったら、龍神を呼ばせてもよかったって言うの?」


の問い掛けに声を荒げた。
しかし、続けられた言葉に泰明は言葉に詰まる。
あかねに呼ばせるのも、泰明は出来れば避けたかったのだ。


「龍神を呼ばずとも……八葉に助けを求めれば良かったのだ」


「なんとか出来た?あの力を」


の言い分は尤もだった。
あの力を前に、神子であるあかねと以外はなす術もなかったのだ。


「────……本当は、相談しようと思ったよ」


瞳を細め、本当の事を口にした。
大切な人にずっと隠し事をするのは辛いものだから。


「だけど、相談したら泰明さんは絶対止めた 止めたし、きっと『私に任せろ』って言ったと思う」


「…………」


の言葉は、正しかった。
泰明ならば、きっと何とかすると言い出しただろう。
そして、はそれに縋り────


「私、泰明さんを失いたくなかった 大切な人には、幸せに生きてほしかった」


「私も同じだ に幸せに生きてほしいと願っている!」


「うん そうだと思う……そうだと思ってた
 泰明さんなら……絶対、自分を犠牲にすると思ったよ」


ふふ、と軽く微笑んだ。
なんとも簡単に想像出来てしまう事。


「だからこそ、言えなかった だからこそ、私一人で何とかしようと思ったの」


「なぜだ!?」


泰明の問い掛けに、は静かに瞳を閉じた。
顔を見られないように、ギュッと泰明に抱きついて、顔を埋めて。


「私は、ここの世界の人じゃない あかねに龍神を呼ばせては、私の存在がなくなってしまう
 じゃぁ、泰明さんに何とかしてもらう?無理……泰明さん一人じゃ、きっと無理」


「そんな事はやってみなくては分からな────」


「分かるよ!!」


泰明の言葉を遮って、は叫んだ。

どんっ

泰明の胸を両手で押して、身体を離す。
涙でいっぱいになった瞳で、はじっと泰明を見詰めた。


「泰明さんは、神子の力には及ばない 八葉全員と力を合わせればどうかはわからないけど……
 だけど、八人全員が危ない目にあう必要なんてないじゃない!
 私一人でうまくいくなら……それが一番だよ」


神子の力と八葉の力がイコールで結ばれるはずなどなかったのだ。
神子は龍神と意思を疎通させる事が出来、五行を扱い、龍神の力を扱う事が出来る。
けれど、八葉は違う。


「私がダメなら……他の方法を考えればいい
 だけど、最初に八葉のみんなが試してみてダメだったら?誰が神子であるあかねを守るの!?」


の言葉に誰も反発出来なかった。
泰明でさえも、悲しげな表情を浮かべながらも最もの言葉に何も返せない。


「もう……いいでしょう?私はこうやって戻ってこれた みんな無事に乗り越えられた
 それで……いいじゃない」


……」


泰明はそう名前を口にすると、の存在を確かめるべくギュッと抱き付いた。
熱く熱く、強く強く、しっかりと。


「愛している ……私はお前を、愛している」


「うん こうやって……また聞けて、嬉しいよ」


泰明の背中に腕をまわし、もギュッと抱き付いた。
その温もりを感じるために。


「……んっ」


自然と惹かれあうように、重なり合った二人の唇。
互いの熱を奪いあうように、熱く長く重なり合う。


「私も……愛してる ずっとずっと……愛してる
 ずっとずっと……あなたのそばに居る」


優しい声が、とろけるように泰明の耳に届いた。
その言葉を嬉しそうに聞き入り、より抱き締める腕に力が籠る。










愛しい人
きっと、あなたに出会う為に私はやってきた
初めは「なぜ私が?」と思った 思ってた
だけど……今は違う

これは運命だったんだよね
あなたに出会う為に用意された運命

乗り越えて初めて、私はあなたと一つになれる
愛してる 大好き……そんな言葉では言い表せない程に、首っ丈

ねぇ?
もう絶対に離れないでね……ずっとそばに居てね
私も……絶対に離れないから ずっとそばに居るから

この、優しくも穏やかに流れる時間の中で
私の世界で、あなたと共に────……











......................end




ご愛読、ありがとうございました。
最後は現代エンディングでしめさせていただきました。
私の思いはこの話につぎ込めたかと思います。
もちろん、すべての思いや考えは言い尽くせないもので……全部とは言い切れませんが。
それでもあとがきで、ああだこうだとは言いません。
この話を読んで感じた全てが、私の言いたかった事の一部だと思ってくだされば幸いです。

本当に、最後まで読んでいただきありがとうございました。m(_ _)m






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