「あー…なんか、暇だなぁ…」


床に座り足を放りだしながら外を見つめた。
春の暖かさのある風が、ふわりと部屋を吹き抜けていった。


「そうだ!」


何かを思いついたは、大きな声を上げると勢いよく立ち上がった。
風で短いピンク色の髪が揺れ、その幼げな顔に楽しげな色が見えた。













transmigration 第六話













「藤姫ちゃ────ん!藤姫ちゃん、藤姫ちゃん!」


「そんなに慌てて、どうかしましたか?」


バタバタと慌ててやってきたに、少しだけ驚き気味の藤姫。
けれど、悪い気はしないらしく笑顔でを出迎えた。


「あ、うん…って 何かあったの?」


「いえ、あの……なんでもありませんわ」


藤姫の問い掛けに頷いたものの、少し様子が可笑しい藤姫にはいち早く気が付いた。
いつもとは違う、何かが違う藤姫。


「…嘘だね、藤姫ちゃん 私に嘘は吐かないでよ」


「……様 実は昨晩…お父様の具合が突然悪くなりまして…」



藤姫ちゃん…辛そう…
星の一族だから私に仕えてるって言っても…まだ十歳の幼い女の子なんだもんね



話す藤姫が本当に辛そうで、はギュッと胸が締め付けられる感じがした。
何か出来ないのだろうか。
何も出来ないのだろうか。
そんな事ばかりを考えてしまう。

けれど、には一つだけ出来る事があった。


「藤姫ちゃん、お父さんの傍に居てあげて」


「…様?」


「だって、心配でしょ?お父さんだもんね…当然だよ」


「ですが…私は神子様に…様に仕える身です」


優しく微笑み、藤姫を気遣う
けれど、藤姫は娘としてではなく星の一族としての役目を優先に考えてしまう。

ぽんぽん…

そんな藤姫には軽く首を左右に振りながら、藤姫の頭を優しく撫でた。


「気にしなくていいよ 私は大丈夫だから ね?」


様…ありがとう、ございます 様に仕える身でありながら、ご心配して頂くとは…
 お父様は京の中枢をになう貴族 他の貴族も大半がふせっている今、自分が倒れるわけにはいかないと…」


優しげなの笑みに、優しげに撫でる手に藤姫は嬉しそうに微笑んだ。
それから、また心配そうな表情を浮かべ自らの父親の事を話し始めた。


「お傍に居て、お父様の症状を少しでも和らげられるよう手を尽くしたいと思います」


「藤姫ちゃん ただ傍に居てあげるだけでもいいと思うよ」


「ですが…」


「……まぁ、それで藤姫ちゃんの気が済むなら…命一杯看病してあげて」


スッ、と藤姫の頭の上から撫でていた手を退けた。
その手で藤姫の両手をギュッと握り締めた。

今はきっと辛い時。
使命と父親を思う娘の気持ち、双方の板挟み状態なのだから。


「ありがとうございます、様 本当に…本当にありがとうございますっ」


「いいっていいって 今日は私もお休み貰って見晴らしのいい場所に行って気分転換でもしようかなーって思ってたし」


嬉しそうに強く強くお礼を言う藤姫に、苦笑を浮かべた。
そこまでお礼を言われるような事をしたとは思っていなかったから。

そして、ここへ来た本当の理由をは口にした。


「見晴らしのいい場所ですか 将軍塚とか…でしょうか?」


「うん、そう!そこに行ってみようかなぁ〜って」


「そうでしたか ですが、様…今日は─────」


「それじゃ、行ってきま───す!」


藤姫の口から出てきた場所の名に、大きく頷いた。
本当はどこがいいかと聞こうと思ったのだが、手間が省けた。
そして、藤姫がまた何かを紡ぐ前に行ってしまおうとは駈け出したのだった。


様っ!?様!今日は今日は……
 物忌みをして頂く日ですのに!!!」


そんな藤姫の声は、すでに姿を消してしまったには届きはしなかった。












「気持ちいいし、見晴らしもいいなぁ」


うーん、と身体を伸ばしながら大きく息を吸い込んだ。
そんな中、やはり目に留まるのは一段と少なくなりつつある緑だった。

として、ここに来て間もないのに知っているのは記憶があるからか。


「頑張らなくちゃいけないなぁ…」


そう改めて思うのだった。

シャンッ……

シャンッ…


「…あれ?また…鈴の音?」


聞こえた音に、は首を傾げた。
けれど今回は龍神の声は全く聞こえはしなかった。


「何か変だ…何だろう」


「龍神の神子」


「───ラン!?なんでここにっ!?」


眉間にシワを寄せ、疑問に思っていると聞こえた声。
ハッとして視線を向けると見覚えのある姿に、すんなりと名前が出てきた。

なんでここにと問いながらも、何かを感じずにはいられなかった。


「お館様がお前を始末しろと仰った」


「始末っ!?殺すって事!?」


ランの言葉には慌てて声を上げた。



アクラムは…あかねの力を欲してたんじゃなかったっけ…?



そう思うも、アクラムの元に居るランが言っているのだからそうなのかもしれない。


「どうして…どうして殺すなんて そんなの…大変な事じゃない」


「大変ではない 簡単な事だ お館様の命令だから」


「それは違う!」


の問い掛けに、淡々とした口調で答えるラン。
人の命を奪う事を大変ではなく、簡単な事だと割り切るランの言葉にはゾクッと悪寒を感じた。
けれど、力強く違うと否定した。


「簡単なはずない!人の命を奪う事は…そう簡単にできるような事じゃないよ!!」


「────覚悟」


しかし、ランはの言葉に耳を傾けてはくれなかった。
向かってくる手は、どこか嫌な気配を感じさせた。


「───っ!」


グラリと、視界が揺らいだ。
気持ち悪さというのか、違和感というのか。
何か不思議なものを、は感じた。


「「!」」


聞こえた声は、天真と泰明のものだった。
二つの声が同時に聞こえ、慌ててランとへと駆け寄った。


「泰明、さん…天真くん…」


ランの手は触れていなかったものの、そこから感じる気配は邪悪なもの。
その気に中てられたのか。


!?大丈夫かっ!?」


「どうして…ここに…?」


駆け寄る天真を見上げ、その場にヘナヘナとしゃがみ込む
途切れ気味の言葉で、は一番問いたい事を口にした。
天真から少し遅れ到着した泰明は、静かにランを見据えていた。


「────ああっ!」


「ら、蘭っ!?」


「───え?」


声を上げたランに気付き、驚きの声を上げた天真。
何かを予測していたのか、そこまで盛大に驚かなかったもののそれでも眉を潜めてしまった。


「どうしてお前が鬼の一族に……?あれは…あいつは…俺の…俺の…………」


そこまで呟かれ、は何かを感じ取った。
否。
何かを思い出したのだ。


「─────妹だ」


その言葉を聞き、は瞳を見開いた。



ああ…やっぱり…



そう思ってしまうのも、記憶があるからか。
覚えていれば、もっと早くにランを見つけ出せたかもしれない。
そんな思いに、は少し悔しさを覚えた。


「ランが…天真くんの………妹」


「そうだ」


「やめて………やめて、やめて!違う…」


の言葉に肯定し頷く天真。
その言葉に、行動にランは悲鳴を上げた。
両手で頭を抱え、ブンブンと左右に振った。


「蘭 帰るぞ、蘭 お前が鬼だなんて、何かの間違えだろ?ほら…来いよ、蘭」


手を伸ばし、優しくお兄ちゃんの顔をする天真。
けれど、ランは決して手を伸ばす事はなかった。

ザッ…

音を立てて、ランは天真から離れる様に後ずさりをした。


「…蘭?」


シャンッ…


「お館様…
 ─────────お館様…!」


聞こえた鈴の音に反応するように、ランは声を漏らした。
天真に背を向け、敵対するアクラムの元へと戻ろうとする。


「蘭!待て、行くな!らぁぁああぁぁぁぁんっ!!!!」



天真、くん……
本当にランの事を………



必死に手を伸ばし、追いかけようとする天真。
その姿を見て、は改めて再度思った。
守れなかった事を、それほどまでに後悔していたのだと。


「天真、くん…早く…早、く…追いかけ…て!」


まだ気持ち悪さは、視界の揺らぎは収まらない。
それでも、今ここで天真を引きとめてはいけないと思った
途切れた声で、必死に強く追いかけるようにと指示をした。


 穢れに当たったのだ、大人しくしていろ」


「でもっ」


「…、大丈夫か?」


泰明の漸く発した一言は、叫ぶを制止させるものだった。
その声に反応し、天真も追い掛けるのを止め戻ってきた。

そして、それが当然だと言わんばかりに泰明は天真を見上げた。


「天真くん…ランを…ランを追いかけて…」


「無理だ、出来ない」


「どうしてっ…!」


動かしたくない、動きたくない身体を無理に動かし天真と向き合った。
手を伸ばし、天真の服を掴み追いかけるようにと再度言う。
けれど、天真は首を縦には振ってくれなかった。


「あいつは俺を拒んで逃げたんだぜ?追い掛けられるわけ…ないだろ…」


その言葉を聞いたら、強く言えるはずもなかった。
大切な肉親に拒まれる程、応えるものはないはずだ。


「…お前に心配掛けても仕方ねぇよな…悪い」


「謝らないで…天真くんは悪くなんてない…
 今まで、ずっと探してきたんでしょ?」


「…ああ ここに居るって分かっただけでも…十分だよな」


の問い掛けに肯定した天真。
そして、ポジティブに考えるようにした。

そう思わなければ、心が押しつぶされてしまいそうだったから。


「では、戻るとしよう」


「ああ、そうだな ここには…これ以上居たくない
 蘭ももう…ここには戻ってこないんだ…」


そこまで言うと、天真は静かに空を見上げた。


「なんで蘭は鬼のところになんて…を…狙うなんて…
 俺は…あいつと向かい合う時が来たら、戦わなきゃならない時が来たら…本当に戦えるんだろうか…」


小さな呟きは、の耳にも泰明の耳にも届いた。
けれど、その言葉に返す言葉は二人とも持ち合わせていなかった。
下手に何かを言うのは、むしろ逆効果だろうから。


「……?」


ふと、の最後の問い掛け以降声を聞いていない事を思い出した。
天真は振り返り、泰明はへと視線を落とした。

真っ青な顔が、そこにはあった。







To be continued........................





天真と蘭がはち合わせー!
これに合わせて物忌みイベントやりたいなーと思ってたので、合併させてみました。
確か、ここでの黒龍の神子は穢れた力も扱えていたなーと…穢れをまき散らしたりしてましたからね。
遙か3の朔ちゃんは違いますけど…(笑)
とりあえず、物忌みと蘭ちゃんを合わせて…ヒロインぶっ倒れイベって感じで♪






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