目がまわる

焦点が定まらない

気持ちが、悪い



それはすべて、穢れが原因だった。













transmigration 第七話













!?おい、!」


「天真、静かにしろ」


「んな冷静にしてる暇なんて……!!」


呼んでも全く返事をしない様子に、天真は心底慌てた。
しかし、泰明の冷静な反応にムキになってしまう天真。


「すべき事は決まっている 慌てず冷静に対処すれば素早く行える」


「……悪い」


叫ぶ天真に、なおも冷静沈着な泰明。
その言葉に、慌てる天真も冷静さを取り戻した。


「急いで藤姫の館に戻る」


「ああ」


泰明の言葉に、天真はただ頷くだけだった。










様っ!?!?」


泰明におぶられ、ぐったりとした
その様子に、藤姫は駆け寄りながら驚きの声を上げた。

やはり、朝無理にでも引きとめるべきだったと。


「藤姫 すぐに部屋を用意しろ 穢れに当たり衰弱しきっている」


「わ、分かりました」


泰明の説明に藤姫は慌てて頷き返すと、すぐさま部屋の用意の手続きに移った。

本来ならば、いつも使うの部屋で物忌みをするはずだった。
けれど今はそれ以上にヤバイ状態となった
用意された部屋は、月明かりも入らない塗籠だった。



ごめんね…藤姫ちゃん
迷惑ばっかり掛けちゃって…

お父さんの事心配で…看病したいはずなのに…
私が…私、が………



もどかしい思いが胸を埋没させる。
ギュッと心臓を掴まれるように、申し訳なさで一杯だった。


「藤、姫ちゃん……ごめんね…」


「いいのですわ、様 私は様に仕えている身なのですから」


泰明に背負われたまま、藤姫の部屋を出る直前。
切れ切れの言葉で謝ったのはだった。
そんなに、藤姫は気にする様子も見せず優しく言葉を返した。


 落ち着くまで静かにしているのだ」


「…は、い」


藤姫を背に、泰明は縁側を歩き始めた。
板敷きの廊下は歩くたびに軋んだ音を奏でていた。



どこまで…行くのかな…



片方は部屋が沢山あり、もう片方を見ると彩り鮮やかな庭が目に留まる。
再度視線を前に戻すと、泰明の黄緑色の髪の先にしっかりと閉じられた部屋が目に留まった。


「…あそこは?」


「あそこが塗籠だ には一日、あそこで過ごしてもらう」


「えっ?」


何だろう、と気にかかった部屋が例の場所。
泰明の言葉には目を見開き、自らの耳を疑った。


「なんだか…凄い暗そ、う…なんだけど…」


「納戸だからだろう」


ゆっくりと、宙に浮いていた足が床へと着く。
まだバランスの取れない身体はふらりと倒れそうになり、泰明の手を借りるしかなかった。


「すみません…迷惑ばっかり掛けちゃって…」


「気にするな 八葉は神子を…を守る為にある」


ギィィィィ…

泰明の声を聞きながら、扉が閉まる音が聞こえた。
暗くなる部屋の中は、まだ怖いがそうは言っていられる状態ではなかった。
明かりもつけられず、真っ暗な部屋の中では扉近くに座り込んだ。



私がちゃんと物忌みをしれいれば…こんな事にはならなかったのかな



そんな後悔ばかりがの頭を埋め尽くした。


「泰明さん…居る?」


「ああ」


「…良かった 一人でずっとここに居るのは…少し…寂しい…から…」


躊躇いがちなの言葉に泰明はいつもと同じ淡々とした言葉を返した。
ふわりと嬉しそうに笑みを浮かべるが、塗籠に入ってしまっている今、泰明が知る術はなかった。
それでも、嬉しそうな雰囲気はの声を通し伝わっていた。


「少し、寝た方がいい」


「…そう、するね」


暗い中で瞳を閉じても暗さは変わらない。
けれど、そんな中でもより闇に飲み込まれていく感じがした。

すぅっと、闇の渦の中に溶け込むような。
不思議な感じが。









優しい皆 だけど私は、皆を騙してる…
皆は許してくれる?私の事を
皆は信じてくれる?私の正体を知っても

ずっと隠し続ける事が、こんなに辛いなんて思わなかった…










「う…ん…」


瞳を開けても真っ暗な世界。
いつの間にか床に寝そべっていたらしく、頬が冷たくなっていた。


「目が覚めたか、


「─────え?」


起きた気配に気づいたらしい泰明の言葉。
気に掛ける声にドキリとするも、続けられた名に眉を顰めた。


「泰明さん 誰かと間違えてませんか?」


「何を言っている お前が自分はだと言ったのではないか」


の言葉に泰明は呆れ気味の言葉を零した。
私はあかねではない、だと言ったのは確かに自身だった。


「…泰明さん 私、あかねなんだけど…」


「…神子?」


漸くそこで、今会話をしていたのがではなくあかねだと気付いた。
罰の悪そうに「すまない…」と泰明が呟くも、あかねには意味不明だった。


「それより…ここはどこなんですか?」


「土御門殿の塗籠だ 今日は物忌みの日だったのだが、穢れに当たった」


「あ、だから全てを遮断できるように塗籠なんですね?」


泰明の説明で、何故真っ暗な場所に居たのか理解した。
納得する口調で確認するように呟くと、泰明から帰ってきたのは「ああ」という短い返事だった。


「だけど…もう物忌みの日になったんだ もっと時期が空いてると思ってたんだけど…」


「……」


あかねの独り言に、泰明は答えられなかった。
そう簡単にあかねに今までの事を説明してしまっていいのだろうか、という疑問が胸を占めていたから。

今のあかねの様子からして、きっとの存在を知らないのは必須。
とすれば、またが現れるまで黙っておくべきかと。

泰明にしては珍しい葛藤だった。









To be continued.......................




漸くあかねの登場です。(ぉ)
ヒロインとあかねは交互に登場させようかなーと…そして、そろそろヒロインの正体を明かそうかなぁ…と。
その中での泰明との恋愛になるかと思います。(ぉ)






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