「神子様……なのですか?」


「うん?そうだけど…どうしたの?藤姫」


塗籠から出て、部屋へ戻ったあかね。
ぞろぞろと藤姫やら残りの八葉達が、部屋へと訪れてきた直後の藤姫の問い掛け。
何を当然の事を言っているのだろう、とあかねは首を傾げた。



なんか…あったのかな?
覚えてない期間が…あるみたいだし…

私に一体…何があったんだろう…













transmigration 第八話











「…ねぇ、何かあったの?天真くんも詩紋くんも泰明さんも…皆、変だよ?」


当然の指摘。
けれどあかねは何も知らないのだから、当然の疑問ではあった。


「あかねって…精神的な病気、何か持ってたか?」


「え?何、いきなり…」


「いいから答えて、あかねちゃん」


天真も詩紋も、見た事のないくらいに真剣そのもの。
その気迫に押されそうになりながらも、あかねはゴクリと息を呑んだ。


「持ってるわけないでしょ?そんな事言ってたら、本当に病気の人に失礼だよ?」


全くもう、と言わんばかりに溜め息を吐いた。
それはまるで、今までのあかねのようだった。
の面影など、何一つ残っては居なかった。


「……どういう、事なのでしょうか」


「永泉さん、いったい何の話ですか?」


疑問そうに眉間にシワを寄せる永泉に、あかねは首を傾げた。
何の話をしているのか、なぜそんな事を聞いてくるのかあかねには全くもって意味不明だった。


「……仕方ないだろう 隠していても、いずれ分かる事」


「そうですね 下手に隠し続けるよりも賢明な判断でしょう」


友雅に鷹通の言葉に、あかねは余計にシワを濃くした。
疑問そうな、不思議そうな、そんな視線が八葉と藤姫を嘗めまわす様に見つめた。


「神子 今から今までにあったことを全て話す」











聞いた話はとても信じられないものだった。
あかねは瞳を見開き、何度も瞬いた。
唇は潤いを失い、喉はカラカラになっていた。

思考が、どうしてもきちんと追いついてはくれなかった。


「…私、が…二重人格?」


「そうだ」


まさか、と思っていた事実にあかねは愕然とするしかなかった。
元の世界に居た時、そういう人が居る事は聞いていた。
けれど、自分には関係のないことと思っていたからこそ驚きは倍増だった。



二重、人格…
でも、そうだと…辻褄が合うんだよね…
目が覚める前と覚めた後の時期の違いに…



両手で顔を覆い隠し、あかねは床を見つめた。
座り続ける足さえも、その視界には留らなかった。


「といっても、まだは隠してる事ありそうなんだよな」


「うん、そうだね 全てを話してくれたって感じじゃないし…」


困惑するあかねをよそに、イノリと詩紋が言葉を紡いだ。
その言葉はあかねにとって、まだ二重人格だと決まったわけじゃないよと言ってくれているようにも聞こえた。


「…そうなの?詩紋くん、イノリくん」


「うん 僕が聞いた事のある症状と少し違うんだ」


「違う?」


あかねの言葉に詩紋は優しく微笑んだ。
静かにコクリと頷いて、詩紋は話を続けた。


「確かに、主人格であるあかねちゃんが副人格であるちゃんの行動を知らないのは分かるよ
 でも、僕ね…副人格の人は主人格の人の行動を見てる事が出来るって聞いた事があるんだ」


「…見る事が…?」


詩紋の話は途方にもないものに感じた。
いつの間に、そんな知識を持っていたのだろうかと。

もしかしたら、出会った最初から持っていたのかもしれない。
もしかしたら、何かで読んだのかもしれない。

全ては何かの受け売りそうな言葉でしめられていた。


「うん だから、ちゃんが曖昧にしか覚えてないって言ってたのが少し疑問だったんだ
 それに…なんだか僕達の知らない未来も知ってるような気がして…」


もしかしたら、曖昧な人もいるのかもしれない。
だからそれは少しの疑問で済んだのだ。

だが、の言動を見て聞いていると不可解な部分がチラホラと見えてきたのだ。


「確かに、時々疑問に思える発言をしてる事あるよな
 表情とかも…知ってた風な時とか、何か感づいてた風な時もあったしな…」


「うん だから、あかねちゃんは二重人格じゃない可能性もあるんだ」


天真の言葉に詩紋は頷いた。
言いたかったことを完結にまとめてくれた事に、少し微笑みながら。
そして、あかねにとっては救いとなる一言を添えた。


「だが、そうなるとの存在が不可思議なものとなる」


「………うん」


があかねの奥深くに戻ってしまっている間に、着々と進む疑問の提示。
けれど、その疑問を解く鍵は今目の前には一つとしてなかった。
全ては疑問でしかなく、答えはしか持っていなかった。


「やはりに聞くしか方法はない」


「…そう、ですわね」


泰明の言葉に、藤姫は少しだけ躊躇いながらも肯定した。















「う…ん…」


目を開けば真っ暗な空間。
目を凝らしても何も見えず、耳を凝らしても何も聞こえず。



泰明さん、私が寝ちゃってから帰っちゃったのかな…



そんな疑問を頭に浮かべていた時だった。


「神子」


「だから私は神子じゃなくて─────」





聞こえた単語に反発すると、即座に帰ってきた名前。
その声に聞き覚えがあったは、ピクリと肩を揺らした。



ここは…塗籠じゃない…



「…ここは、どこ?」


「異空間 我が汝をここへ呼んだ」


「…龍神ね?」


「そうだ」


声、口調。
そして呼び方が、相手が龍神だという事を示していた。


「また…いったい何の用?」


「汝に話さなければならぬ時が出来た」


「え?」


話さなければならない事とは何なのか。
ドキリと心臓が高らかに鼓動を刻んだ。

眉間にシワを寄せ、軽く首を傾げて龍神を見つめた。


「まず一つ あかねに二重人格かも知れぬという事が伝わった」


「え?じゃぁ、今あかねが表に出てるの?」


「そういう事になる」


龍神の言葉に、は驚きの色を見せた。
ギョッと目を丸くし、龍神を見つめ肯定の言葉に瞳は泳いだ。


「だが、二重人格の可能性が低い事に気付かれた いずれ、八葉自ら汝の正体を問うてくるだろう」


「…!そんな…!」


龍神の発言に、は困り果てた。
全てを話すべきではないと思っていたからこそ、正体を問われてしまえば困ってしまう。
異次元から来たと答えれば、なぜあかねの中にいるのかと問われるのは必須。

おのずと全てを知らなくてはならず、おのずと全てを語らなくてはならなくなる。


「…そのため、汝に話さなくてはならない」


ゴクリと、息を呑んだ。
何を話されるのか、何を伝えられるのか。
気になっていた事が明らかになるのに、何故か胸がキリキリと痛い。



知るのが……怖いの?



痛む正体が恐怖と知り、は苦笑を浮かべた。
知りたがる心とは裏腹な恐怖心に、は少しばかり呆れてしまった。

言ってる事とやってる事が違うのだから。


「汝は────────」











To be continued..........................






詩紋くん、いつの間にそんな知識をっ!?(笑)
遙か時代の人達じゃ、きっと知らないだろうから現代の人で───という事で、一番詳しそうな詩紋くんにしました。

ちなみに、語っていた内容はイメージでもなんでもありません。
本で勉強したわけでもなく、身近にそういった方が居るのですが、詳しい事は伏せさせて頂きます。m(_ _)m
とりあえず、知っていた内容を羅列させて頂いただけですので…全員が全員そういう症状というわけではありません。
医者でもなければ、私自身が解離性同一性障害でもないので症例は一つしか知りません。
今回詩紋が話した内容は、私の知る症例の一つに過ぎませんのでご注意下さい。

ということで、実際にある病気を出したので忠告文を記載させて頂きました。






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