私は何?
私は誰?

私は─────

なら、私はどうしてここに居るの?
私はどうして…未来を知っているの?

私は…私は─────────────────










transmigration 第九話











「汝は異世界の者 元宮あかねと繋がりのある者」


「…それは分ってる」


「汝は、神子の身体に入り顔を見て…思ったことはないか?」


龍神の言葉に、はピクリと肩を揺らした。
思ったことはあった。
初めてその顔を見た時に思った事があった。


「私の顔とあかねの顔は……どうしてそっくりなの?」


鏡を見た時、率直に思った。
髪の長さが違うだけで、顔のつくりは同じだと。
今思えば、不思議でならない事ではないか。


「汝は神子の記憶を受け継ぎし者 だから過去の記憶も未来の記憶もある
 ただ、神子の記憶を受け継ぎし者故に、曖昧な記憶しか残っておらぬ」


龍神の淡々とした喋りに静かに耳を傾けた。
ドクンドクンと脈打つ鼓動に、胸が切り裂けそうだった。

ギュッ…

胸元の服をはしっかりと掴み、龍神の一字一句聞き逃すまいと耳を傾けていた。


「汝は神子の───────」













「嫌あああぁぁあああぁぁっぁぁああ!!!」


突如上がった悲鳴はどこでのものだったか。


生まれ変わりなのだ
 その為に、汝には神子の記憶がある



の頭に、木霊する龍神の声。
今しがた聞いてきた話の内容が、何度も何度も脳裏を反復していた。


「神子殿!」


「ああっぁぁぁああああぁぁぁぁっぁああ!!!」


生まれ変わりである汝しか、神子の身体に宿れぬ


「あかねっ!?」


汝の身体は……今や行方不明となっている


その龍神の言葉が決めてだったのか、の悲鳴は止まる事はなかった。
両手で頭を抱え、残像の様に聞こえ続ける言葉を悲鳴でかき消そうとしていた。


「私の身体を─────」


汝 の 身 体 は 今 や 行 方 不 明 と な っ て い る


「─────返してええぇぇぇええぇぇっぇぇえええ!」


その姿は、今にも壊れてしまいそうだった。
ボロボロと瞳から絶え間なく涙を流し、かき切れそうな程の悲鳴を上げる。


!お前はここに居る」


「─────────────っ!」


ふいに感じた身体を包み込むような温もり。
ふいに感じた自分を呼ぶ、温かな声。

ずっと聞こえていた『あかね』という名前ではなく、漸く気付いてもらえた自分の存在。


「……泰明…さ、ん?」


悲鳴は止まり、切れ切れにでもは抱き締める泰明を認識した。
漸く、目の前に居る八葉全員を認識し肩で息をし始めた。


「泰あ………きさ…ん…うっ……ふ、え…」


温かさに、その温もりに、の涙は誘われた。
止まりかけた涙は、また絶え間なくボロボロと流れ始めた。



生まれ変わりなのはどうでも良かった…
ああ、そうなんだって…納得出来たから
記憶だってそう 何で知ってるんだろうって思ってた事が分かって…安心して…

だけどっ…



キリキリと痛む胸は、涙を止めてはくれなかった。
涙で歪んだ視界は形をしっかりと見せてはくれなかった。


「何があった」


その言葉に、大きくの肩が揺れた。
話さなくてはいけない雰囲気。
そこで思い出したのは、龍神の言っていた事だった。

二重人格の可能性が低いということ、いずれ正体を聞かれるという事。


「………ぁ、の…私……」


スッと抱き締める泰明の胸を押し、距離を置き真っ直ぐ瞳を見つめた。
しっかりとを見据え、真実を聞こうとする真っ直ぐな瞳がの目に留まった。



聞かれたくない…知られたくない…
だって私は……皆に嘘をついてきた

辛い事も伝えなくちゃいけなくて…
分からない事は、どんなに辛いことでも言えなくて避けられなくて…


「離っ……し、て…!!!」


勢いよくは泰明の胸を押した。
距離が空き、その腕から逃れたは荒い息をしていた。


!」


ちゃん!?」


一気に駆け出し部屋を出て行ったに、泰明と詩紋が驚きの声を上げた。
慌てて追いかけるべく、その場に座っていた八葉はを追いかけた。

藤姫は一人、その場に残り皆の無事を祈るばかり。












私の身体はもう…どこにもないっ
あかねとしてしか…生きられないっ

そればかりか…私は皆に嘘をついてきたんだ…嫌われたくないっ
皆に辛い思いは……させたくないっ



駆ける足は止まることなく、土御門殿を出て行った。
京の町中へと飛び出て、向う先には一条戻り橋があった。


「────────────っ!?」


橋を渡ろうと視線を上げると、見えた姿に足は止まった。
ガクガクと膝が揺れ、目の前の出来事は夢じゃないかと思いたくなってしまう。


「どうして……こんな所に…どうして、ここに──────」











To be continued.........................





ヒロインの正体判明です。長らくお待たせしましたですね。(汗)
ヒロインの悲鳴は、あかねとの関係性にではなく『身体が行方不明=戻れない、あかねとしてしか生きられない』という部分からです。
そして最後もなんだか大変な事が待ってるような感じ…という事で、次回に続くぅ!(><)






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