この世界で初めての─────…











unsophisticated two people











「頼久さんは………」


アクラムとの戦いも終わり、は頼久と共に京から離れ、元の世界へと戻って来ていた。
そして、本日二月十四日は頼久にとっても、そして頼久と過ごすにとっても、初めてのバレンタインだった。


「…あ、いたいた!」


待ち合わせはカフェ。
そこで目立つ青髪の頼久を見つけ、は小走りで近づいていった。

まだ来て間もないというのに、頼久を見ているともう何年もこの世界で暮らしているように感じてしまうくらい自然だった。


「神子殿 こちらです」


「頼久さん ここではでいいんですよ」


軽く手を掲げ、居場所を知らせる頼久。
けれど口から出てくる呼び名は、以前と変わりのないものだった。

それが、少しだけ恥ずかしくもあった。


……殿」


「頼久さん?」


「──────…


の指示に名を呼ぶも、やはり癖はなかなか抜けないもの。
どうしても名前の後に『殿』をつけてしまうが、この世界では傍から見れば可笑しく見える。

だから、もう一度頼久の名前を呼び直す様にと視線を向けると頼久は頑張った。
顔が赤く染まりあがっていたけれど。


「この世界では、それが普通なんですよ
 そうでなくても、頼久さんは私より年上なんですから」


にっこりと微笑みながら、は漸く椅子を引き腰掛けた。

京での世界ならば、主従関係が第一に考えられる。
だからたとえ相手が年下でも、従者ならば敬称を付ける。
でも、それは昔の世界での話。
今の世界でも、社会に出ればそういう部分も出てくるが恋人同士となれば別ものなのだ。


「まだまだ…私は勉強しなくてはいけない部分があるようですね
 にこれ以上の迷惑は掛けられませんから」


「頼久さん……
 私は迷惑だなんて思ったことは、一度もありませんよ?」


頼久の言葉に、微苦笑を浮かべた。
そうしてやんわりと首を左右に振る。


「そうだ 実は、今日ここに来てもらったのには理由があったんです」


ふと思い出し、本題に入る
その言葉に頼久は軽く首を傾げていた。



喜んでくれるかな……



ちょっとだけ、反応に期待してしまう。


「どうか、されたのですか?」


「うん あのね、頼久さん」


そう言うと、はゴソゴソと何かを取り出した。


「これ、プレゼントです」


テーブルの上に乗せたのは、青い包装紙に包まれた箱。
それを少しだけ照れくさそうに、は頼久へと差し出した。


「…プレゼント、ですか?」


「はい 今日はバレンタインデーっていうイベントの日なんです」


この世界に来て、ある程度言葉は覚えた頼久。
だからの言葉に『それは何と言う意味ですか?』という質問はせずにプレゼントに視線を落としていた。


「女性から、大好きな大切な男性へ気持ちを送る日なんですよ
 大体チョコレートって相場が決まってるので…私もそれにしたんですが」


そう言い、は頼久の切れ長の瞳をジッと見つめた。


「────…あ、ありがとう…ございます 私はとても嬉しいですよ、


「喜んでもらえたなら良かったですっ!」


瞳を細め、嬉しそうに微笑む頼久にホッとした。
優しい笑顔に癒されながらも、嬉しさが込み上げてくる。


「…開けてみてもいいですか?」


「え!?今ここでですか!?」


いきなりの言葉に、どうしても驚いてしまう。
もしも、中身を見てゲンナリしてしまったらどうしようとか、いらない事を考えてしまう。


「どんなものでも、からの贈り物です
 がっかりしたりしませんよ」


どうやら、思っていた事が顔に出てしまっていたらしい。
頼久の指摘に、ただ苦笑を浮かべる事しか出来なかった。

カサ…

包みが綺麗に開けられていく様を、は静かに見つめていた。



き、気に入ってくれればいいんだけど……



そればかりが、もんもんと脳裏を行ったり来たり。


「…美味しそうなお菓子ですね」


一粒、箱の中からチョコレートを取り出した。
ボコボコとした形が印象的な、トリュフチョコレート。

昔の時代に居た頼久ならば、洋風よりも和風系の方がいいかと思ったは和のチョコレートをチョイスしてきた。


「いただきます」


「……………ど、どうですか?お口に合いますか?」


もぐもぐと味わう頼久に、少しだけ心配そうな視線を向けた。
ジッと瞳を見つめ、首を傾げる姿に頼久が微かに微笑んだ。


「美味しいですよ、
 外と中の食感の違いと、甘酸っぱい味がとても美味しいです」


「本当ですか!?よ、良かったぁ〜
 実は、チョコレートに梅だったんで……大丈夫かなぁって心配してたんです」


「全然いけますよ も食べてみますか?」


その言葉に、は即座に首を縦に振る。
すると、頼久は公衆の面前にも関わらずチョコレートをつまみ食べるように指示をする。

それは恋人同士がやる『あーん』のようなもの。


「よっ、頼久さんっ じ、自分で食べられますよっ」


「あっ、も…申し訳ありません」


の指摘に恥ずかしい事をしたという事が分かった頼久。
京に居る頃に、頼久は時折凄いことをすると思っていたが、今改めてはそれを実感した。

どこまでも天然まっしぐらな部分のある頼久に苦笑を零し。


「頂きます」


未だ持ったままの頼久のチョコレートをパクリと食べた。
『あーん』の行為の出来上がり。

少しだけ恥ずかしそうに頬を染めながら、はこう言った。


「うん 美味しいです、頼久さん
 来年も……楽しみにしててくださいね?」









.......................end




バレンタインのフリー夢です。
頼久の呼び捨てはなんだか違和感ありありだと思いました。
そして、やっぱり頼久は時々凄いことを言ったりしたりしないとなぁ〜と思いましたとさ。(笑)

お持ち帰りと掲載自由、リンクと報告特に必要なし。
再配布や修正加筆等はしないで下さい。
掲載される際は管理人名の記載をお願いします。
コピペでお持ち帰り下さるのが一番手っ取り早いかと思います。






遙かなる時空の中で夢小説に戻る