もう見れない、あの笑顔は
もう聞けない、あの声は
もう届かない、僕の声……









誰が彼女のこころをころしたの









帰ってくると、必ず駆け付けてきた愛しい人。
けれど、今は全然来てくれはしない。
いつも同じ場所に座り、外を見つめるばかり。

綺麗とも、涼しいとも、暑いとも、汚いとも感じることなく、ずっとソコに。


「ただいま、ちゃん」


にこーっといつもの愛らしい笑顔を向けて、光邦は愛しい人──に声を掛けた。


「うーん やっぱりいつも見たいにダンマリかぁ……」


少しだけつまらなさそうに、プゥっと頬を膨らませた。
もうどれくらい、こうやって声をかけ続けているだろうか。
もうどれくらい、大好きな人の声を聞いていないのだろうか。
もうどれくらい……


「聞こえてないわけじゃない……よねぇ?」


大きな瞳でをじっと見つめ、首を傾げた。
反応がないだけで、反応出来ないだけで、聞こえているよね、と。
それだけは信じたかった。
全ての音を遮断していないと──それだけは、信じていたかった。








寒い、寒い、寒い……
悲しい、悲しい、悲しい……
苦しい、苦しい、苦しい……



真っ暗な、何もない場所には居た。
ギュッと身体を縮ませて、体温を逃がさないように必死に身体を密着させた。

大好きな人がそばに居ない。
声も聞こえない。

もう、こんな毎日がどれくらい続いただろうか。


あなたみたいな人が、ハニー先輩にふさわしいわけないでしょう!?


どんな手を一体使ったの?この雌豚!


嫌な言葉ばかりが思い起こされる。
庶民上がりの、言わば成金家庭であるに、一部の光邦ファンのお嬢様は冷たかった。


ただいまぁ〜


ちゃ〜んっ♪


懐かしい、愛しい声。
思い出の中でしか、思い出せない声に涙が込みあがってくる。


「……ちゃんっ!!」


そんな中、聞こえてきた声は思い出の中の声ではないものだった。
思い出に残っていない、違う声。
愛しい声には変わりないけれど、こんな緊迫感の籠った声は聞いたことのないものだった。











ちゃんっ お願いだから、起きてよぉ〜」


の肩を掴み、必死に意識を呼びもどそうと光邦は名前を呼んでいた。
今にも泣きそうなくらい、寂しそうな悲しそうな表情を浮かべて。


「どうして、僕の声に答えてくれないのぉ?」


「……」


光邦の声に呼応するように、の唇が微かに動いた。
誰かの、大勢の言葉によって心を殺していたの心がようやく動き出した瞬間だった。


ちゃん、起きてよぉ」


「……ニー先ぱ……」


ちゃん!?」


聞こえた声に、光邦の表情はぱぁぁぁっと明るくなった。


「ハニー……先、輩……」


しっかりと、耳に届けられたの声。
その声に涙を瞳に溜めると、勢いよく光邦はに抱き付いた。


「にああぁぁああっぁぁぁぁ……ちゃんが、起きたぁぁぁ」


「ハニー先輩……私は、もう……大丈夫、ですから」


抱きしめる光邦の温もりを確かめるように、もしっかりと光邦を抱きしめた。
ずっとずっと欲しかった温もりを、互いに求めあう。

聞きたかった声。
見たかった表情。
届けたかった言葉。

ずっとずっと溜まってきたものが、一気に溢れ出した。


「ずっとずっと……聞こえては居たんです、ハニー先輩の、声」


「え?」


「だけど……答えられなくて、怖くて……答えられなかったんです」



本当に、私はハニー先輩に相応しいのか……分からなかった
あの人たちの言うとおり、私は相応しくないのかもしれないと、多少ではあっても思ってしまったから

私は──…… 私、は──……



光邦を抱き締める腕に、力が籠った。


「僕、聞いたよ?」


「え?」


「誰かに、僕に相応しくないって言われたんだってね?」


「──っ」


光邦の言葉に、は息を呑んだ。
バレていたことに、恥ずかしさが込みあがっていく。


「でも、それを決めるのは僕やちゃんだよ?人に言われて心を揺らしてちゃ駄目だよぉ?」


「私は……ハニー先輩に相応しい人間、ですか?」


の問い掛けに、光邦はふっと微笑んだ。
ぺろっと舐めるように、の頬に口づけて。


「相応しい相応しくないは関係ないよぉ
 関係あるのは、僕がちゃんのそばに居たいかどうか……そして、ちゃんが僕のそばに居たいかどうか、だよぉ?」


「私は……ハニー先輩のそばに、いたい……です」


それは本心だった。
ずっとずっと、暗い中に居る時も思っていた事だった。
そばで、光邦の笑顔を見ていたいと、ずっとずっと思っていた。


「それなら、僕のそばにいればいいよぉ ね?」


「──…… は、い……」


光邦の簡単な言葉に、心が揺れた。
ふわりと、奈落の底に落ちていた心が光輝く温かい場所に持ち上げられるように浮上した。



大好き……



そんな言葉では片づけられないほど、光邦もも互いを必要としていた。







.................end





より強く二人が結ばれた瞬間……的な感じのストーリーに。
まったく関係ないですが、二十七万ヒット感謝のフリー夢です。
D.C.様にてお題をお借りしました。

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