「トリックオアトリートだよぉ!」


「……え?」


言おうと思っていた言葉が、今目の前で言われていた。
その事に、は唖然として疑問の声を上げるしかなかった。
本当は、が光邦に言いたかった言葉だったから。










どちらも望み










「あれぇ?ちゃん、聞こえなかったぁ?『トリックオアトリート』だよぉ!」


「いえ……ハニー先輩、ちゃんと聞こえていましたよ」


問いかける光邦にはコクンと頷き返した。
聞こえないはずがない、こんな間近で、しかも大好きな人からの言葉なのだから。


「それじゃぁ」


「……ごめんなさい、ハニー先輩」


期待の瞳を向ける光邦に、は申し訳なさそうに呟いた。
眉尻を下げ、視線を下げる。


「実は……私も今言おうと思っていて……だから、何も用意していないんです」


から光邦に言うと思っていた言葉。
だからこそ、自分から光邦に何かを渡す必要はないと思っていた。
その手にも、そして学校へと持ってくる鞄の中にも、もちろんの家にも──それは用意されていなかった。


「あっれぇ〜?そぉなのぉ〜?」


「……はい」


光邦の言葉には小さく頷き返した。



こんなことなら、ハニー先輩の好きなケーキでも用意しておけばよかった……



自分から言えると思い込んでいたことを恥じた。


「それじゃぁ……」


「……?」


嬉しそうな表情を浮かべる光邦には首をかしげた。
そして、そこで思い出した。
お菓子をあげられなければ、待っているものがなんなのかを。


「……ちゃーん♪」


その声と同時に感じた頬への柔らかな感触。
慌ててそこを手のひらで覆うと、真っ赤な顔で光邦を見つめた。
頬に触れたのは光邦の唇。
そう理解してしまうと、どうしても赤面せずにはいられなかった。


ちゃん、顔真っ赤ぁ〜♪可愛いんだぁ〜♪」


歓喜極まっている光邦に、はパクパクと口を開閉させることしか出来なかった。
恥ずかしい。
けれど、嬉しいという気持ちが勝る。


「嫌だったぁ?」


そんな問い掛けにはブンブンと首を左右に振る。
嫌じゃないと、アピール。


「それじゃぁ、物足りなかったぁ?」


くすくすと笑いながらの光邦の問い掛けに、今度は顔を爆発させるように真っ赤に染め上げた。
けれど、慌てて首を左右に振る。
ここで『物足りなかった』と思われてしまったら、何をされてしまうか分からない。


「ふーん そっかぁ……なら、よかったよぉ♪」


含みのある相槌。
けれど、その後に帰ってきた嬉しそうな光邦の声には笑みを零した。


「ハニー先輩、ケーキ……用意できなくてごめんなさい
 だけど……これはこれで……凄く、嬉しかった──……です」


「…………」


の照れながらの謝罪と喜びの言葉に、光邦もうつったかのように顔を真っ赤に染め上げた。
そして、にぱっと明るい笑みを浮かべると。


「それならよかったぁ 僕、ケーキ用意されても嬉しかったけどぉ……やっぱり悪戯の方が嬉しかったし
 ちゃんも同じでよかったよぉ」


その言葉と共に抱きしめてくる光邦の背中に、も腕を回した。
といっても、光邦の方が身長が低いものだから抱きしめられるより『抱きつかれる』という言葉のほうがしっくりくるのだが。


「大好きだよぉ、ちゃん」


「はい 私もです……ハニー先輩」











....................end




ハニー先輩なら主人公がハロウィンの決まり文句をいう事を読んで、先に言うと思ったw
で、きっとお菓子をもらえても悪戯しても喜ぶんだ!(笑)

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