失いたくない




無くしたくない




君が、大好きだから───────…




何があっても、離したくない───…













君の隣で












「ハニー先輩!!!」


「あ、ちゃん どーしたのぉ?」


は廊下で見かけた光邦に気付き、小走りで近付いた。
両手を上でブンブンと大きく左右に振りながら、満面の笑顔を浮かべて。
そんなの姿を目に止めた光邦は、の声に反応するように小走りで駆け寄ってきた。


「うん、美味しいケーキをね…手に入れたから一緒に食べたいなぁ〜って思って」


のその言葉に、光邦はとても嬉しそうな笑みを浮かべていた。
光邦にとってケーキは夕飯にもなる、大好きな食べ物。


「うん!食べよ食べよ、ちゃん♡」


「ハニー先輩、本当にケーキが大好きだよねぇ〜」


「だって美味しいんだもーん♡」


廊下を歩きながら、中庭へと向かうと光邦。
は大好きな光邦と一緒に食べられる事がとても嬉しくて笑みを浮かべた。
光邦は大好きなケーキを大好きなと食べられる事がとても嬉しくて笑みを浮かべた。


「ハニー先輩、ケーキたくさん食べても太らないなんて凄い羨ましいなぁ」


「んー?そーぉ?」


の言葉に光邦は首を傾げた。
そこまで羨ましがられるのは少し照れくさくて、頬をほんのり紅潮させていた。


「あ、でもハニー先輩の場合…たくさん身体動かしてるからかな?」


「多分ねー♡じゃないと、どんどん太っちゃうよぉ」


「それにしても…そー考えるとハニー先輩の運動量って……」


の疑問に光邦は多分そうだと肯定するように呟いた。
といっても、がポツリと独り言のように呟いた言葉どおりあれだけの量を食べる光邦が太らないのは相当な運動をしなくてはいけない。
そんなに運動をしている姿をは見た事がなかった。
だから余計にそれが疑問で疑問で、やっぱり光邦は太り難い体質なんだろうなぁ〜とか一人で完結させてみたり。


「どーしたの、ちゃん?」


「え?」


聞こえた光邦の問い掛けに、は首を傾げ視線を光邦に向けた。


「だって、ずーっとボーっとしてるから…」


「あ…うん ちょっと考え事してたの」


「そっかぁ じゃぁ…具合が悪いって訳じゃないんだね?」


「うん 全然元気だよ〜♪」


光邦の心配をよそに、本当に考え事をしていた
苦笑を浮かべながら大丈夫だと、ガッツポーズをしてみた。
その様子を見て、光邦はホッとしたのか────


「よーし!じゃぁ、中庭までひとっ走り行くよぉ〜♡」


「え…ええええ!?!?」


いきなりの発言に驚く暇もなく、光邦はの手を引いた。
その行為に驚き、けれど光邦の走るペースにあわせるのに足は自然と回転した。














そんなこんなで、いつの間にかと光邦は中庭へと到着していた。


「はぁ───…はぁはぁ…」


ちゃん、大丈夫?」


「う…、ん 平…気。」


光邦の問い掛けには荒い息を肩で繰り返しながら頷き、返事をした。
光邦の手にはいつの間にかから渡ったケーキの入った箱が握られていて。
は両手を膝について、口を開けたまま口呼吸を繰り返した。


「んー…でも大丈夫そうには見えないよ?無理はしちゃ駄目だからね?」


「…ん 分かってるよ、ハニー先輩」


光邦の心配に、微かに笑みを浮かべ視線を光邦へと向けた。
息は上がったままで高まる呼吸も脈もなかなか収まらなかった。


「それより…ハニ、ー先輩…ケー、キ…食べて────…下さい、ね」


「え?でも、ちゃんが落ち着くまで僕待つよぉ?」


額から落ちる汗を手の甲で拭いながら、は光邦に食べるように促した。
けれど光邦はそれを"うん"とすぐに受けることはなく、逆に待つと言ってくれた。
その言葉はにはとても嬉しい事だったけれど、何より早く味わって欲しかった。


「────…えへへ…ありがと、ハニー先輩」


ニッコリと微笑を浮かべた。
はいつもと変わりない、満面の笑みを浮かべているつもりだった。


「だから先に食べてて?私も落ち着いたら食べるから ね?」


笑みを失う事はなく、言葉を続けた。
けれど、いつもと違うその笑みに光邦はいち早く気付いていた。


「…ちゃん?」


「え?」


「僕に何か隠してる事、なぁい?」





「─────…っ」





光邦の鋭い言葉に、はギクッと息を呑んだ。


「ななななな何言ってるの?ハニー先輩 隠してる事なんてないに決まってるでしょ?」


「…ドモってるよ?ちゃん」


潔白だと言い訳をしようと口を開いた
けれど、その行為が隠し事をしているという事を明確に真実の方へと誘った。


「あの…ね、ハニー先輩 私─────…」


「────…ああ こんな所に居たんですね、


「「!!!」」


隠している事、それを隠し通すなんて無理だとは思った。
光邦はあの可愛い外見にそぐわず鋭い観察力を持つ。
隠していた事を離そうと口を開き呟き始めた瞬間、と光邦の耳に第三者の声が入り込んだ。


「春喜────…さ、ん」


「探しましたよ、 全く…どこに誰と居るのかと思えば…埴之塚先輩とでしたか」


途切れ途切れのの言葉をよそに、春喜と呼ばれた少年、酒嶋春喜は言葉を続けた。
近付く足取りは止まることなく、サクサクと光邦と並ぶの許へ。


「酒嶋君 ちゃんに何か用?」


「許婚の許に来るのに何か用がなくてはいけないと?」


光邦の問い掛けに春喜は首を傾げ、勝ち誇った表情で問いかけた。
歩むペースは止まらず、距離は徐々に縮んでいった。


「許、婚…?、ちゃん…?それって…どーいう…」


「…」


「ああ 、埴之塚君に話していなかったんですか」


「───っ」


光邦の問い掛けには視線を逸らし唇を噛み締めた。
何も言えない、何も言いたくないと思いながらもそれを通せるほど現状は楽ではなかった。
の代わりに言葉を発したのは春喜だった。


「ねぇちゃん?どーいう事か…話してよ」


「…ハニー先輩 私…実、は────…」


光邦の言葉には言葉を紡ぐが、やはり途中で途切れてしまう。
手に汗が滲み、ぬるぬるとする感覚を覚えた。


 話せないなら、俺が話しますよ」


「やっ…それは待って…!!!」


「ですが、話さないと話が先に進まないですよ?」


「───っ それくらい…



                 分かって…」


ちゃん 僕怒らないから…ちゃんと話して?」


話はをよそに進んでいった。
止まる事なく時間は進み、春喜と光邦の間でペースは短く小刻みに。





───…どうし、て…どうして…こーなっちゃうの…





はギュッと拳を握り締めて、内心呟いていた。
本当は春喜との許婚という話だって嫌だったのに、それを光邦に話さなくてはいけないという現状。
耐え切れるものではなかった。


、ちゃん…」


…」


たくさんの思いがの心を巡り巡って、ポロポロと涙が零れて来た。


「…え?」


けれど、それに気付いたのはではなく光邦と春喜だけだった。
瞳から大粒の涙が流れているなんて、は全然気付いていなかった。


「なんで…泣いてるの?ちゃん…僕、何か困らせる事したかなぁ?傷つける事…したかなぁ?」


首を傾げて光邦は涙を流すに問いかけた。





ただ僕は…ちゃんに本当の事を言って欲しかっただけだったのに…





涙を流すを見ると、光邦の心はギュッと締め付けられる気分だった。


「違うっ…違うの───…」


その言葉には首を左右にブンブンと振った。


 ちゃんと話さないと、埴之塚君には伝わりませんよ?」


「…それくらいっ…分かってるもん!!!」


春喜の言葉に瞳に涙を溜めて抗議の声を上げた。
分かってる、分かってるからこそはこんなにも告げる事に苦労する。


「あの、ね…ハニー先輩 私…春喜さんと許婚の仲なの
 最近…お母様とお父様に言われて…」


「───…」


光邦はただ、の話を静かに聞いていた。
震えるの声は、光邦の心をざわつかせた。


「近いうちに…私、春喜さんと…婚、約…しなくちゃいけなくて…」


「…っ!」


の言葉に光邦は息を呑み、悲しそうな顔を浮かべた。
しかし春喜といえば、嬉しそうな勝ち誇ったような…そんな表情だった。


「だからは埴之塚君とさよならしなくちゃならないんだよな」


「春喜さんっ…!」


「本当の事でしょう、


春喜の唐突の言葉には声を張り上げた。
けれど、その後紡がれた春喜の言葉通りそれは本当の事だったから。
それを言うのが凄く嫌だった…私はハニー先輩とさよならなんて…したくないから
唇を噛み切ってしまいそうなほど強く噛み締めた。
赤く、血が滲み唇が赤く染まった。


ちゃんは…それでイイの?」


「何を馬鹿な事を言っているのですか、埴之塚君」


光邦の問い掛けに春喜は苦笑を浮かべ呟いた。
イイもなにも、それしか方法はないと言わんばかりの口調で。
ぐいっ…!
の腕を掴み、春喜は自分の方へと腕を引いた。
その反動では春喜の胸に倒れこむ形で抱き留められていた。


「いっ───…やっ!離し…




                   離して、春喜さんっ!!」


しかし、すぐには拒否の反応をハッキリと示した。
春喜の胸板を押し、身体を引き離そうとしながら拒否の声を上げた。
その言葉に春喜は無言のまま、表情を変化させた。


「私、私は────…





               春喜さんとの婚約は嫌!
               私は───…私はハニー先輩が…埴之塚光邦さんが好きなの!」


懸命に、は声を上げた。
春喜を否定し、そして自分の心を口にした。


「…


「ごめんなさい、春喜さん でも…やっぱり気持ちに嘘は吐けないよ」


「───…全く君という人は…」


の言葉に春喜も諦めざるを得ないと悟った。
溜息を吐きながらも、何処かすがすがしい表情を浮かべているようにも見えた。


「埴之塚君 を幸せにしなければ許しませんからね」


「それは勿論だよ」


春喜の言葉に、光邦は自信満々に呟いた。
だってそれは、光邦もが好きだったから。


「────ハニー先輩」


ちゃん ちゃんと言うよ 僕はちゃんが好きだよ」


その言葉を聞いて、は涙を流した。
嬉しくて嬉しくて、心から溢れんばかりの涙がこみ上げてきた。


「失いたくない…離したくない 絶対に…離さないからね?」










ニヤリと笑いながら呟く光邦の表情はどこか。
自信満々だったと言う。











...............................The end






という事で、ハニー先輩夢完了ですです!!
この世界観(?)なら、こういう事もありそうですよね。
好きじゃない相手との政略結婚みたいな…w
けど、最後に愛は勝つのです!!!(笑
やっぱりHAPPY ENDはイイものですね。

感想等がありましたら、お待ちしておりま───す♪






桜蘭高校ホスト部夢小説に戻る