「ニービド城?知らないなぁ。」
「聞いたこともないな、そんな城。」
「…一体どこの街の城だね?」
「ああ、忙しいからまたにして頂戴。」
ニービド城の位置を聞こうにも、このミスティアには知る者は居る様子はなくて。
問いかけても、知らないという遠まわしの言葉ばかりが放たれた。
終いには、邪魔と言わんばかりのあしらいまで。
「……情報…集まらないものね。」
リナはハァッと大きくため息を付きながら呟いた。
城、という大きな言葉からして知っている人はすぐに見つかるものだと思っていたから。
といっても、リナ達の住まう世界にはいくつもの城は存在しているのだからなかなか見つからなくても可笑しくはなかった。
「…ニービド城とフーアで…聞き込みをしたらいいんじゃないかー?」
「……そうですね。それが一番手っ取り早く情報が集まるかもしれませんね。」
ガウリイの申し出にコクリと頷き賛成する。
「なら、二手に別れた方がいいかもしれないな。」
「そのようですね!」
ゼルガディスの申し出に力一杯に返事を返したのはアメリア。
グルリと全員の顔を見回し、どう別けるかと首を傾け考え始めた。
「……アメリア。」
「…何ですか?さん。」
「私は1人でミスティアで情報収集するわ。」
「「「「!!!」」」」
いきなりのの言葉に、当たり前のように驚きの表情を浮かべた4人。
を除く4人で二手に分かれるならば、きっとすぐに別けられるだろう。
きっと、悩むのはをどちらに入れるかで。
だからはそこでスパッと自分を切り捨てるように呟いた。
「だっ駄目です、さん!!」
しかし、アメリアは“うん”と首を縦には振らなかった。
「何故ですか?」
「何故、っていう問題じゃないだろ…」
の問いかけに、ゼルガディスは淡々とした口調で答えた。
既には仲間だから。
そして、フーア達に狙われているのは1人なのだから。
だからこそ1人で活動させるわけにはいかなくて。
「大丈夫ですよ、私なら。フーアに簡単に捕まりませんから。」
「だが……」
「……そんなに私は人の手を借りなきゃいけないほど弱く見えますか?」
スカートの下から飛び出ている尻尾を揺らしながら、4人を真っ直ぐ見据え問いかけた。
「……本当に平気なのね?」
「…ええ。大丈夫です。」
真剣そのものなを見て、リナは真面目にそう問いかけた。
するとはコクリと頷き、平気だと…大丈夫だと言葉を続けた。
「なら…分かったわ。」
「リナさん!」
「「リナ!」」
リナの言葉にアメリア、ガウリイ、ゼルガディスの3人は驚きの声を上げた。
に関しては、ただ1人嬉しそうににっこりと微笑を浮かべた。
「…ありがとうございます、リナ。」
「ただ…ヤバイと思ったら助けを求めるのよ。」
忠告をするように、の瞳を真っ直ぐ見つめて言った。
その言葉に何も言わずに、ただ頷くだけの。
「…………それでは、また後で。」
そう言うと、はクルリとリナ達に踵を返すとミスティアの人ごみの中へと消えていった。
Reality of sorrow
第3話
「すみません。お伺いしたい事があるのですが…」
「何だぁ?」
の声に反応するように、歩道を歩く1人の男が振り返った。
「フーアという名と…ニービド城という城を……聞いたことは…ありませんか?」
「知らねぇな……聞いたこともないよ。」
「…そう、ですか。」
しかし、の望む答えは帰ってくるはずもなくて。
その繰り返しがずっと…長時間続いた。
ミスティアでは、情報を得られないのではないか───
そう思い初めてしまうほど。
「…もし?」
「はい?」
悩んでいる最中、後ろから掛けられた声に反応し振り返る。
そこには1人の若い男性が佇んでいて。
「ニービド城とフーアという者について聞きまわっているそうですね?」
「!な、何か情報をお持ちなのですか!?」
呟かれた単語2つに反応し、目の色を変えるように食いかかる。
その反応を見て、男性はにやっと口元に笑みを浮かべた。
「ええ。大きな…情報を。」
「是非!是非教えてください!」
嫌な予感も感じることなく、はそう問いかけた。
思っても見なかった申し出だったから。
「ええ……」
トンッ………
「!?」
男性のその呟きと同時に、の首根っこに衝撃が生まれた。
目がチカチカするような感覚に陥ったは、ゆらりゆらりと地面に向かって倒れようとしていた。
それを男性が支え───
「これから…フーア様の所へお連れ致しましょう。」
「そ……ん、な…───……リ、ナ…アメリ…ア……ガ、ウリ………」
男性の言葉を聞き、そう呟いた。
……ゼルガディス!!!
そして、最後の最後に紡がれなかったゼルガディスの名前はの心の中で呟かれていた。
しかし、その声に反応するように、男性の目の前に佇んだのは4つの影。
「連れて行かせるわけには行かないわ。」
「さんは私達の仲間です。」
「勝手な事はさせないぜ!」
それぞれに呟く声は、の聞き覚えのある声。
「…リナ…アメリ、ア…ガウリイ…」
「やっぱり1人にさせるんじゃなかったな。」
「…ゼルガ……ディス……み、んな…来てくれたんだ。」
男性の腕に抱かれたままの状態で、は来てくれた4人に向かって声をかけた。
それは、本当に嬉しそうな口調で。
「当たり前でしょ!あたし達は仲間なんだから!」
「……ありがとう…」
「…で、アンタは誰なんだ?」
リナとのやり取りに区切りをつけるように、ゼルガディスが男性に問いかけた。
すると、グイッとを引き寄せ、両手を後ろに締め上げながらこう答えた。
「フーア様の部下だ。ディナート…と覚えてくれていていい。」
「ディナート?」
ゼルガディスの問いに答えられた言葉の中に聞きなれない言葉が入っていた。
その言葉に反応するように、アメリアが首をかしげた。
「我々内部の者の間で使われる手下の呼び名だ。」
「ふぅ〜ん。つまり、手下その1みたいなものね。」
部下…ディナートの言葉を耳にし、フンッと鼻で笑うようにあしらったリナ。
「……ま、そのように憶えてもらっても構わん。」
ちょっとムッとしたディナート。
その瞬間、グッと動く。
しかし、すぐにディナートが気付き腕を締め上げる力を強めると。
は声を上げ、そのままピタッと動きが止まる。
「少し静かにしていろ。すぐにフーア様のところへ連れて行ってやるから。」
「誰が!!話して下さい!!!」
「静かにしろと言うのが分からないのか!?」
「あぐっ!!」
ディナートと言い合いをする。
しかし、結局の腕を掴むディナートが優位なわけで。
唇を噛み締め、は成されるがままにされるしかなかった。
「を離せ。」
「嫌だ。折角捕まえたのだ。離すわけがないだろ?」
「なら……力ずくで!」
その叫びを聞いた瞬間、リナ達は全員戦闘モードに突入し構えに入った。
その様子を見て、ディナートも腰に差していた大振りの剣を抜き放ち、を捕まえたまま構えた。
「…来い!」
ディナートのその言葉と同時にリナ達はを助けるべくディナートに飛び掛った。
リナは魔法と剣で、ガウリイは剣で、アメリアは魔法と体術で、ゼルガディスは魔法と剣で、それぞれにディナートに攻撃を仕掛けた。
「「「ディム・ウィン!」」」
リナ、アメリア、ゼルガディスの3人の声が重なった。
ディナートに向かって突風が生み出され、ディナートと共にの動きが制限された。
その風に乗り、ガウリイがディナートの方へ剣を構えて斬りかかる。
「ちっ!」
キィン!!!
舌を鳴らし、を抱えたままガウリイの剣を受け止めようと剣を持ち上げようとした。
しかし、上にまで上がる事はなくて。
でも、ガウリイの剣も風に押された為に上手く扱う事が出来ず、剣と剣がかすかにぶつかり合った。
音が鳴り響いた瞬間、風は静かに消え去った。
「……ねぇ。誰か1人忘れてませんか?」
「あ?」
の呟きに眉を潜め、視線を向けるディナート。
「モノ・ヴォルト。」
バチバチバチ…!!
「!!!」
の口から紡がれたのは、触った者に電撃を流す魔法。
の腕を掴むディナートの腕を掴み、呪文を唱え魔法を発動させたのだ。
電気が身体に巻きつき、しびれたディナートはを離し、その場に倒れる。
「い…つのま…に。」
「…突風も、ガウリイさんの剣もダミーだった…という事ですよ。」
ディナートの言葉に答えたのは、ゆっくりと歩み寄ってきたアメリアだった。
「よく即座に判断できたわね、。」
「…何となくです。私でも出来る事ってコレくらいかなって…」
リナの言葉に苦笑しながら答えた。
実際ダミーだったなんて分かっているはずもなくて。
もちろん、ここでが何も出来なかったら出来なかったで、リナ達は他の方法を考えていたのだが。
の先ほどの一言───“誰か1人忘れてませんか?”という言葉を耳にして気付いたのだ。
は何かを仕掛けようとしていた───と。
「さて……あたし達の質問にサクサクッと答えて貰いましょうかぁ〜♪」
腰に両手を当てて、んっふっふっ♪と上機嫌にリナはディナートに近づいた。
そんなリナを見上げて、ディナートはビクビクと怯えていたのは言うまでもないだろう。
「…リナ。そんなやり方じゃ、こいつが警戒するんじゃないかー?」
「…それもそうね。」
ガウリイの珍しい鋭い一言に、ポムッと手を打ち合わせると納得した様に呟き。
その場にしゃがみ込み、ディナートを真っ直ぐ同じ目線で見つめた。
「…リナ、どうするつもりなんです?」
しゃがみ込むリナを見て首を傾げるのは。
一緒に旅をしていると言っても、まだ会って1ヵ月も…数週間も経たない仲。
知らない事があっても当然だろう。
「どうするって……そりゃーもちろん“ニービド城”のある国を吐かせるのよ。」
「…なるほど。それが一番手っ取り早いかもしれませんね。」
リナの言葉に納得をした。
リナの斜め後ろに中腰で立つと。
「でも、あまり酷い仕打ちはしないでくださいね?」
そう付け加えた。
リナ=インバースという人物の噂はかねがねは聞いていたから。
「なんか…アメリア達みたいな事言うわね…。」
「…そうなんですか?」
「…もの凄く。」
の言葉を聞き、苦笑しながら呟くリナ。
そんなリナの言葉にも同じく苦笑を浮かべながら返した。
「さて……話してもらおうか。」
「……嫌だ。」
ゼルガディスの言葉にディナートはキッパリと拒否の言葉を答えた。
「悪の化身である貴方に拒否権はありません!」
そのアメリアの一言に、アメリア以外の全員が唖然とした。
グッと拳を握り締め、顔の辺りまでその拳を持ってきながら力強く呟いた。
「取り合えず……答えてください。その方が…貴方の身の為ですから。」
「ほら、もこー言ってるんだから。」
「い や だ と言っているのが分からないのか!」
「……そーやって拒むんなら…あたしにも考えがあるわ。」
ディナートの言葉を耳にし、リナは腕を組みニヤリと笑みを浮かべた。
その笑みを見て、ディナートは表情を引き攣らせてリナを見つめた。
ポツリポツリと、リナは呪文を口ずさみ始めた。
その呪文を耳にし、ディナーとはハッとした顔をした。
一体何の魔法なのかに気がついたのだろう。
「まっ…待て!!話す、話すから…それだけは!!!」
ディナートの急いで呟くその言葉に、リナはにっこりと微笑んだ。
「分かればいいのよ、分かれば。で、ニービド城のある国はなんて国?」
「………。」
「…答えないなら…」
「ニッ……ニケアという国だ!!」
リナの問いかけに、なかなか口を開かないディナート。
頬をピクピクと引き攣らせながら呟くリナの言葉を耳にし、ディナートは急いで国名を呟いた。
「…ニケア?」
しかし聞いた事のない名前に、リナを含めた4人も顔を見合わせ首をかしげた。
「ここから南に行った海辺の国だ。」
「海辺、ですか。なら…すぐに見つかるかもしれませんね。」
ディナートの言葉を耳にし、はそう呟いた。
「ですね!では、早速ニケアに向かいましょう!」
「…だな。膳は急げだ。」
アメリアの気合の込められた言葉に賛成するように頷くゼルガディス。
そんなゼルガディスとアメリアを見つめて、はにっこり微笑みながらも、何かモヤモヤするものを感じていた。
でも、はそれがナンなのか理解出来ずにいた。
「…なぁ。」
「何よ。」
「…こいつどうすんだ?」
ポツリと呟かれたガウリイの言葉にリナは首を傾げる。
すると、ガウリイはディナートを指差して問いかけた。
確かに、このまま放置なのだろうか…なんて。
「…放置よ、放置。取り合えず邪魔されないように縄でグルグルに縛り付けてね。」
そのリナの言葉にガウリイはハッとした顔をして。
ディナートへ視線を向けると、哀れみの視線を注いだ。
「……ご愁傷様ですね…」
ディナートの顔をジッと見つめながら呟いたのはだった。
なんと言うか、上司の命令で私を追ってきたのに…可哀想な人。
そう内心呟いていたのは誰も知ることのない事実だった。
「ニケアは……こっちね。ほら、急いで。」
地図を見ながら足を進めていく一行。
モタモタと歩くグループと、さっさと歩くグループに分かれているのは言うまでもなく。
リナはモタモタと歩く後ろのグループに、指示をした。
早く、と。
「リナさんが急ぎすぎなんですってば!」
しかし、そんなリナの言葉にアメリアは反論を返した。
確かに一見後ろを歩くグループが遅いとも見れるが。
実際、一緒に歩いているとリナの歩くペースが早いのはすぐに分かった。
「それは俺も思う所だな。」
「なーリナー…少し休もうぜー」
アメリアの言葉に賛同するゼルガディスに、疲れたと言い張るガウリイ。
確かに、あの速さのペースでずっと歩いていれば早いと思うし、疲れるだろう。
「…私も休みたいです。」
ガウリイの言葉に賛同するように、その場にしゃがみ込み呟く。
スカートの下から生えている尻尾は力なくダラリと地面にくっ付いていた。
「…大丈夫か?」
にそう問いかけるのはガウリイで。
同じく疲れている仲間だからか、2人は心配しあった。
「ったく…しょうがないわね。」
そう言いながらため息を着くと。
ざぁぁぁぁぁぁぁ……
そう雨が降り始めてきたのだ。
近くに大きな樹があるのを確認すると、達は一目散に樹の下に雨宿りした。
「…休憩になったな…自然と。」
「そ、そうですね。」
灰色の雲が覆う空を見上げながらゼルガディスがそう呟いた。
その言葉にが静かに返事を返した。
空を見上げれば、灰色の雲は厚くてさっきまで青かった空は見えなかった。
誰も、それ以上何も喋る事無く聞こえるのは雨音だけ。
ざぁぁぁぁぁぁぁぁ……
……ぁぁぁぁ……ぁぁ………
ざぁぁぁぁぁぁ………ぁぁぁぁぁ………
…ぁぁぁぁぁぁぁ………
樹の葉を打つ雨の音。
地面を叩く雨の音。
「…止みませんね…雨。」
「早く止めばいいんですけどね〜」
の言葉にいち早く反応したのはアメリアだった。
ジーッと降り続く雨を見つめて、ジーッと空を覆い続ける雨雲を見つめて。
絶え間なく降り続ける雨、雨、雨。
それは見た感じ、まだ降り止みそうはなかった。
「…雨って嫌いなんですよね…私。」
ハァッとため息を吐きながら呟くの言葉に、ゼルガディスが反応を示した。
「ああ…オレも雨は嫌いだな。」
猫との合成獣である、石人形と邪妖精との合成獣であるゼルガディス。
どちらも水が苦手な者との合成獣であるが故の言葉だろう。
「そんな事を言ってちゃ成長しませんよ、さんゼルガディスさん!」
「「……は?」」
いきなりの声、言葉に素っ頓狂な声を漏らしたのは勿論ゼルガディスとだった。
雨に打たれながら、ゴゴゴと瞳に炎を燃やすアメリアを見つめ唖然とした。
何を言っているんだろう、何をしているんだろう…と思いながら。
「“……は?”じゃありませんよ!苦手を克服しないと前には進めません!」
アメリアの後ろから、火山が噴火するんじゃないかと思うほどの熱気が伝わってきた。
瞳をパチパチと瞬かせながら、とゼルガディスはアメリアを見つめることしか出来なかった。
否、アメリアに掛ける言葉が見つからなかった。
「アメリア…は猫との合成獣なんだから仕方ないでしょ?」
ハァッとため息を吐きながら、の代わりに答えたのはリナだった。
猫は水が苦手な生き物。
だから、それと合成させられればそうなってしまうのは必然なわけで。
「…ならゼルガディスさん!ゼルガディスさんは克服しますよねっ!?」
「…アメリア。ゼルだって好きで苦手になったんじゃないと思うけど…?」
むむむ、と口をへの字にしてすぐさま標的をからゼルガディスに変えたアメリア。
しかし、すぐにリナの鋭い突っ込みがアメリアを捉えた。
「………。」
何も言えずに、ただ口をへの字にしてリナを見つめるアメリア。
そんなアメリアに苦笑しながらも、ため息を吐くリナ。
「…ありがとうございます、リナ。」
ニッコリと微笑を浮かべて、助け舟を出してくれたリナにお礼を述べた。
「あ、あたしは別に……」
に視線を向け、すぐに笑顔を見ると視線を逸らした。
頬を人差し指で軽く掻きながら呟いた。
「アメリアも、その心遣いありがとうございます。」
口をへの字にし続けているアメリアにも、はお礼の言葉を述べた。
ああやって気遣ってくれた言葉は、合成獣のからすれば嬉しい事であった。
殆どの人は今のリナやアメリア、ガウリイやゼルガディスの様に接してはくれないのだ。
だからこそ、には困ったアメリアの一言も嬉しいものだった。
「あ…いえ……あの…私は。」
ニッコリと微笑み、お礼を言うにアメリアは少し照れながら言葉を紡いだ。
まさか、あんな切り替えしが来るなんて予想もしていなかったから。
「にしても、雨全然止まないぞー?」
雨が延々と降り続ける空を見上げ、ガウリイはため息交じりにそう呟いた。
その言葉を肯定するように、同じく空を見上げため息を吐く一同。
「…ねぇ、リナ。私の勘違いかもしれませんが…雨脚が強くなった気が…」
ポツリとは呟いた。
それは、雨を眺めていた一同から見ても明らかな事だった。
「…勘違いなんかじゃないわよ…。」
「ああ…みたいだな。」
コクリと頷き、リナとゼルガディスはの言葉を肯定した。
このまま雨宿りを続けていれば止むかも…───
──…そう考えていたが、最悪雨脚だけが強くなる可能性も出た。
「…仕方ないわね。手分けして雨宿り出来そうな洞窟とか…見つけるしかないわね…」
大きくため息を吐き、リナはそう呟いた。
雨脚が強くても、まだザアザア降りになっていない今のうちに雨宿りが出来そうな場所を探しておくのが最適かもしれない。
リナのその提案は最善な行動に感じ、も含め一同は頷きあった。
「じゃ、いつもの通り二手に分かれましょう!」
「それが一番いいですねっ!行きましょう、ゼルガディスさん、さん!」
リナの言葉に力強く頷き返し、言葉を発するはアメリアだった。
名指しをされ、ゼルガディスはいつもの事だったのか、ただため息を吐くだけで。
は、一瞬驚いたようなそんな表情を浮かべた。
「じゃ、これで決定ね。ほら、行くわよガウリイ!」
「お、ちょっ…待てってリナっ…!」
リナに促されるように、手を引っ張られ歩いていくガウリイ。
そんな2人を見つめながら、ゼルガディスとアメリアとも手分けして雨宿りできそうな場所を探す為に歩き出した。
「…なかなか見つかりませんね。」
「ああ…そのようだな。」
アメリアのため息交じりの言葉に反応するように、ゼルガディスも頷き返した。
「諦めなければきっと見つかりますね!」
ゼルガディスの言葉にブンブンっと首を左右に激しく振りながら、アメリアは力強く呟き返した。
そんなアメリアの言葉を聞き、はコクリと頷き返した。
「そうですね…めげずに頑張りましょう。」
そう言いながら、雨でぬかるんだ道を歩き続けた。
雨はやむ事はなく、地面へと降り注いだ。
ぬちゃぬちゃ…
ぬちゃぬちゃ…
地面を踏みしめる音は、乾いた地面を踏みしめる時とは違った音が響いた。
「きゃっ!!!」
「っ!」
の甲高い声が鳴り響き、それに反応しゼルガディスが腕を伸ばした。
何とか地面に倒れずに済んだは、ゼルガディスの腕によって抱きかかえられていた。
「…あ、ありがとうございます…ゼルガディス。」
「いや……怪我はないな?」
ホッと胸を撫で下ろしながら、お礼を述べる。
まだの表情は、一瞬の驚きの表情のまま固まっていたが。
それは徐々に落ち着きの表情へと向かっていた。
「さん、大丈夫ですか?」
2人のやり取りを見つめながら、ドクンドクンと脈を打つ音を消し去ろうとアメリアは問いかけた。
その言葉とゼルガディスの先ほどの言葉に反応を示したは、静かに2人を見つめた。
「ええ…大丈夫です。怪我も…なさそうですし。」
「ならいいんですけど。」
「ま。大事無くてよかったな。」
の言葉に、安堵の息を吐き捨てるゼルガディスとアメリア。
そんな2人を見て、はフッと表情に笑みを浮かべた。
「…どうかしましたか?」
「あ…ええ。2人とも、似たような事をお考えになるんですね。」
の笑みにいち早く気付いたアメリアが問いかけ、その言葉に言葉を返した。
似たような事を……言葉は違えども、問いかけた内容は一緒。
それに気付いたらしい言葉だった。
あれから、どれくらい歩いただろう。
歩き続けても続けても、雨宿りが出来そうな場所は見つからない。
リナとガウリイ達からも、見つけた───という合図はどこにも見えない。
という事は、リナ達も雨宿りが出来そうな場所を見つけていないという事になり。
「…はぁ。」
大きなため息を付きながら、は空を見上げた。
灰色の厚く重たそうな雲は空全体を覆い隠していた。
あの雲の上には、青く涼しげな空が広がっている事だろう。
──…いつになったら…見つかるんでしょうか…
そんなことを考えながら、空を見上げ続けた。
そんなの耳に、一際大きな声と音が聞こえた。
どさっ……!
「アメリア!!」
その2つの音に反応し、は視線を上から下へと移すと──
そこには真っ赤な顔をして倒れているアメリアの姿があった。
雨のなか歩き回り、探し回り過ぎたのだろう。
「…熱い…何処か…少しでも雨を遮れる場所は…」
そう思い辺りを見渡すが、今の雨脚では樹の下に雨宿りしても葉と葉の間から雨の雫が降ってくるだろう。
つまり、八方塞という事、手の打ちようがないのだ。
「ウィンディ・シールド!」
ポツリと魔法を詠唱すると、は即発動させた。
風の結界が達を包み込み、雨脚を遮った。
「…ゼル。どうします?」
アメリアの様子を見ながら、共に結界の中に入っているゼルガディスに問いかけた。
見た様子から、ゆっくりとしていられるほど余裕があるとは思えなかったから。
雨に打たれ続け、人一倍雨宿りの出来る所を探していたアメリアだ。
疲れが出て、発熱するのは誰しもが予測できた事だろう。
しかし、一行全員がアメリアを脅かす異変に気付かないほど動揺していたのだ。
この雨脚に。
止みそうもない雨脚に。
「私…は大丈夫ですか、ら。ゼルガディスさん…さん…早く…雨宿り先を…」
重く落ちて来るであろう瞼を無理やりこじ開けながら、アメリアは気丈に振舞いながら呟いた。
しかし、呟くその言葉は途中途中が途切れていて、全く大丈夫そうじゃないという事を強調していた。
そんなアメリアを目にし、はゼルガディスに視線を向けた。
それに気付き、ゼルガディスは疑問を含む瞳をに向けなおした。
その瞳は、疑問に満ちながらも何かを感付いている様な強さもあった。
「…ゼル。ウィンディ・シールドは使えますか?」
「いや…すまないがオレは使えない。」
の問いかけは予想していたのか、考える間も無く切り替えした。
その言葉に、がガックシと肩を落としたのは言うまでもないだろう。
それならば、どうするべきか…と自らの心に問いかける。
しかし、そんな事をして簡単に答えが出るほどの心は出来ては居なかった。
どうする事も出来ず、唇を噛み締めるだけだった。
「…リカバリィくらいは使えるが…」
「それじゃ駄目です。今のアメリアの体力を削らずに…どうにかしなくては。」
「それくらいオレも分かっている。…くそっ。」
ゼルガディスの言葉に首を左右に振りながら、更に唇を噛み締める強さを強めた。
そんなに、ゼルガディスの言葉が降り注ぎ、何も出来ずに居る自分───ゼルガディス自身───に向かって舌打ちをした。
“仕方ありませんね”と呟くの声に気付き、ゼルガディスは眉を潜めた。
一体何が仕方ないのだろうか。
「…ゼルはエア・ヴァルムは使えますか?」
「…え?あ、ああ…とりあえずは。どうした?」
の言葉に一瞬キョトンとしながら言葉を濁し。
最後にの言葉を肯定し、問いかけた。
しかし、はその問いかけの言葉には反応せずに、ただ自分の問いかけの言葉に対しての答えに満足そうに笑みを浮かべた。
「なら、この結界が壊れた後…ゼル1人でエア・ヴァルムを唱えて頂けますか?」
「───…は?」
唐突な言葉に、素っ頓狂な声が漏れる。
いきなりは何を言っているのだろう?
そう内心呟きながらも、視線はから外さずに見つめているとその視界の片隅で小さく動くの唇。
ゼルガディスは余計に眉を潜め見つめるしかなかった。
「ボム・ディ・ウィン!」
そうの声が響き渡った瞬間、高まった風の力が一気に解放された。
その風の力は凄まじく、の張った結界は跡形もなく崩れ───消え去った。
「ゼル!早く!」
そのの言葉に急かされるように、意味も分からず呪文を唱えた。
何故一度張った結界を壊し、再度結界を───しかも違う魔法の結界を張るのだろうかと疑問に思った。
そんなことを考えながらも、口で紡いでいた呪文が詠唱し終わると。
「エア・ヴァルム!!!」
ゼルガディスの声が響き渡り、周りに風の結界が張り巡らされた。
しかし、その結界が張られる瞬間に彼の傍から離れる姿が1つだけ存在した。
「…!?」
結界の中に居ると思っていたの姿が外に居て、雨で濡れていた。
それに驚き、ゼルガディスは声を上げた。
そんなゼルガディスには全く平気そうな表情を浮かべ、むしろ笑みを浮かべて口を開いた。
「私が雨宿りの出来そうな場所を探してきます。ゼルとアメリアはここで待って…リナとガウリイが来るのを待ってください。」
「…何を…」
──火より生まれし輝く光よ──
──我が手に集いて力となれ──
「ライティング!!」
の呪文の詠唱が終わり魔法を発動させた瞬間、短い時間だがとてつもなく眩しい大きな光が空を瞬いた。
きっとリナ達はこの光に気付き、この場所へやってくるだろう。
「…それじゃぁ、行って来ます。」
そうニッコリ微笑み、言うとは駆け出した。
猫と合成獣であるよりも、ゼルガディスの方がキツイだろうから。
それならば、ゼルガディスにアメリアの様子を見てもらい自身が探しに行くしかないだろう。
私は大丈夫ですから………
今は1人じゃないですから…
私にはリナとガウリイとアメリアと……
そしてゼルガディスが傍に居てくれますから……
フーアに追いかけられ……
逃げ回る事しか出来なかったあの頃の私ではありませんから……
たとえ追いかけられる立場は変わっていなくても…
私には今や仲間が居ます……
逃げ回る事ばかりせず立ち向かっていく勇気を…頂きました…
ですから私はもう……逃げません。
To be continued......................
て事で…長くお待たせいたしました、Reality of sorrow 第3話目をお送り致します!w
いやはや……ここまで長くお待たせしてしまい申し訳ないですね…
待たせてしまった割りには、こんな出来ですし……
本当に申し訳なくて申し訳なくて……(・・;
矛盾点とか…色々出て来ちゃいそうな気がしますが…気にせず読んで頂けたら幸いです。
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