「ケホケホっ……」
咳き込みながらも、雨に打たれながらは歩き続けた。
今頃、きっとリナが駆けつけてきているだろうと思いながら。
「…早く洞窟、見つけなくては。」
そう言いつつ、額に掛かる髪を掻き揚げた。
そんな中、ふと見かけたことのある風景を目にした。
「……こ、の森…もしかして。」
そこまで呟くと、クラリと辺りがゆがんで見えた。
息が荒く、頭がガンガンしボーっとする。
そんな中見えた風景に、はある確信を抱いた。
──…あの傷、は…やっぱ…り。
そこまで呟くと、は雨に打たれたままその場に倒れた。
最後にの目に留まったのは、逃げ去る際に近くの木々につけたの印だった。
星のマークに×の印を掛け合わせた、独自の目印。
つまりは、この森がフーア達の居る本拠地だという事だった。
「ゼ……ル…ここ、です…ここに…フーア達…が………」
そう呟いての意識はそこで途絶えた。





苦しい……凄く、苦し…い。

      心苦しくて……鬱悒くて………

                自分が凄く、嫌に…なる。

   こんな気持ち…私は知らない。

                         だから凄く、もどかしくなる。

           だから凄く、耐えきれない…────














Reality of sorrow 第4話















「……ッ!」
誰の声?私を呼ぶのは…誰?
聞こえる声は、の聞いたことのある声だった。
それでも、身体がだるくて心が苦しくて返事も出来ない、身体も動かせなかった。
!!!!」
今度はハッキリと声が聞こえた。
「……リ、ナ?」
そうポツリと息を漏らした。
うっすらと開いた瞳には、アメリアを支え歩み寄ってくるゼルガディスの姿が留まった。
ドクンと胸が痛くなり、開いた瞳を再度強く強く瞑ってしまった。
──…見たくないっ…
?どうしたんだ?」
瞳を開いたかと思ったら、急に瞑ってしまったに近づき、膝を付きながらの身体を抱きかかえガウリイが声をかける。
しかし、今だ苦しいのは収まっていなくは何も言えずに居た。
さん?…リナさん、さん…どうしたんですか?」
その様子に疑問を感じ、アメリアはゼルガディスに軽く耳打ちしの方へ近づいた。
しかし、アメリアの問いかけに誰も理由が分からずリナもガウリイも首を左右に振るだけだった。
─…お願い、それ以上…近づいて来ないで下さい…っ。
断固として瞳をギュッと瞑るは、内心強く呟きながら呼吸を整えようとしていた。
「…リナ?」
ふと、何かポツリポツリ呟いているのをガウリイがふと気が付いた。
首をかしげ、リナへ視線を向けると閉じていた瞳を丁度開く瞬間だった。
「ウィンディ・シールド!」
そう声を張り上げた瞬間、先ほどまで詠唱していた魔法が発動した。
バッとリナを中心に風の結界が周囲に張られた。
「……。」
無言のまま、ゆっくりとは瞳を薄っすらとだが開けた。
その瞬間、の口からホーっと息がゆっくり吐き出されたのに抱きかかえていたガウリイは気づいた。
!やっと目が覚めたのね!」
薄っすらと開かれたの瞳に気付き、リナは声を上げた。
それに反応し、アメリアとゼルガディスの視線もに注がれた。
「アメ、リアは…?」
どんなに辛くとも離れる前のアメリアの様子を思い出し、リナを見上げた。
「私なら…大丈夫ですよ、さん。」
そう言うと、ゼルガディスはアメリアがの視線に止まる場所へ移動した。
スッと視線の片隅に移ったゼルガディスとアメリアの姿に、は一瞬だけ息を呑むがすぐにホッとした表情を浮かべた。
「良かった…動けるようにはなったんですか?」
抱きかかえるガウリイに、大丈夫と一言添えて上半身を起こす。
まだ心配なのか、ガウリイは抱きかかえる事をやめてもの傍から離れずに居た。
「はい。あの後リナさん達が駆けつけて来てくれたんです。」
そう言いつつ、アメリアはゆっくりその場にしゃがみ込んだ。
それに合わせゼルガディスもしゃがみ込み──
「とりあえず…皆、座って休んだら…如何です、か?」
雨に濡れ続けたのもあるが、心の奥深くにある闇に心が辛くアメリアとゼルガディスを直視出来ずには呟いた。
は、今までこういった感情とは無縁の生活を送っていた。
その所為で、今現在心に芽生えている感情が何なのか分からずにもどかしさを感じていた。
どうしてゼルガディスとアメリアを直視出来ないんだろう、どうして心が苦しいんだろうと1人で悩んでいた。
「それより…」
ポツリとゼルガディスが問いかけた。
「…雨宿りの出来そうな場所は見つかりませんでした。」
ゼルガディスの言葉全てを聞く前にはそう答えていた。
「…そうか。だが、俺が聞きたいのは、そんな事じゃない。」
の言葉に短く返事を返すと、真っ直ぐを見つめたままいつもより強い口調で言葉を続けた。
「…?」
「何で1人で行動しようとした?あの現状で1人で動けば、こういう事になるかもしれないって…判断しなかった?」
その言葉に、はハッとして顔を背けた。
「それ…は……早くしない、と……アメリアの体力が持たないと思ったからで…」
「それなら、ライティングを使った後に一緒に結界の中で待つって選択もあったはずだ。」
の言い訳に、言い返すゼルガディス。
しかし、その言葉には言い返すことが出来ずに唇を噛み締めていた。
ゼルガディスの言い分は最もで、それに関してはリナもガウリイも同感だった。
「そうね…今回の行動は少し…あたし達も心配したわ。」
「確かに、らしくない行動だなー」
ゼルガディスの言葉に同意するように、コクコクと頷きながら意見を述べた。
その言葉から、本当に4人が心配してくれていた事が分かり俯きながら口を開いた。
「…すみませんでした。」
ポツリとつぶやいた声は、結界に打ち付けられる雨の音でかき消されるほど小さかった。
しかし、の反省の声は4人全員にちゃんと届いていて、聞こえていなくてもその行動から反省の雰囲気が伝わっていたはずだ。
「…アメリア?」
ふと、リナがアメリアが何かをブツブツ呟いているのに気が付いた。
ゼルガディスも、既にアメリアから離れて座っていた為何を呟いていたのか分からずに居た。
「リザレクション!」
アメリアの声に反応し、真っ白な光がアメリア自身を覆った。
徐々にアメリアの体力が回復し、風邪さえも治り始めた。
リカバリィの場合は、余計に悪化する恐れがあったためアメリアはまず自分にリザレクションをかけた。
全てに関して完全回復したアメリアは、再度呪文の詠唱を始め発動させた。
「…え?」
すると、今度はを真っ白な光が包み込んだ。
は、徐々に体力が回復しだるかった身体が徐々に楽になっていくのに気が付いた。
「あ、ありがとうございます…アメリア。」
ふと視線をアメリアに向け、見上げながらお礼を述べた。
すると、アメリアはただニッコリ笑みを浮かべ“いいんですよ!私は成すべき事をしたまでです!”と答えた。
「…とりあえず、ニケアに向かいましょう。」
そうリナが呟いた時、既に雨脚は収まり始めていた。
少し経てば雨は止み、光が森に照らしこまれるだろう。
「あ。そのことなんですが…」
思い出したことがあり、はそう切り出した。
今言わなければ、ニケアに行く事事態が無駄足になってしまうから。
というか、ただ遠回りしてしまうという事だから。
「…何かあったのか?」
眉にシワを寄せながら、ゼルガディスが身を乗り出して問いかけた。
「いえ…まだハッキリとは……ですが、私がフーア達から逃げ出した際につけた目印がこの森の木々に残っていたんです。」
少し悩んだだが、意を決して言葉にした。
実際、フーア達があの目印に気付いていない可能性だってゼロじゃない。
ならば、何故いまだにあの目印が残っているのかも謎なのだが。
「…それを追えばフーア達の居場所が分かるかもしれない…という事か。」
の言葉を聞き、ガウリイがポツリと呟いたが。
ガウリイにしては珍しく頭が働いた事もあって、リナが目を丸くしていた。
「それじゃぁ、雨が止み次第探し始めるとしましょーか!」
ニヤリと、笑みを浮かべリナはやる気満々に答えた。
まさか、ニケアに到着する前に情報が手に入るなんて誰が想像した事だろう。

















「…雨、止んだようですね。」
アメリアは空を見上げると、ポツリと呟いた。
先ほどまで結界に打ち付けられていた雨が、ピタリと止んでいた。
すると、がブツブツと魔法の詠唱を始めた。
?」
どうした?と言う風にゼルガディスがに視線を向けた。
「珍しいわねーゼル。」
「?」
ニヤリと笑みを浮かべたまま、リナはゼルガディスに声をかけた。
ゼルガディスはに声をかけたのだが、リナの掛けられた声にも返事をしなければならない。
ちょっとムッとしながらも、リナへと視線を向けた。
「アンタがここまで他人に親身になるなんて…珍しいって言ってんのよ。」
「確かに、ゼルガディスさんはさんに親身になりますよね、結構。」
リナの言葉に、アメリアはコクコクと頷いていた。
アメリアの表情はいつものような笑みは元気さは欠けていたが、無理に笑っているというわけでもなくて。
まぁ、ちょっといつもと様子が違うように感じるだけだった。
「…まぁ、は俺と同じ合成獣だしな。」
それが理由だ、と言うように返事を返す。
しかし、リナもアメリアもそれだけじゃないと…何となく勘で感じていた。
確かに、同じ境遇ならば気持ちも分かるし何かと気が合うのかもしれないが。
それ以上の何かをアメリアもリナも感じていた。
しかし、こういう事に疎いガウリイは全く分かっていなかったのだが。
「ディム・ウィン!」
が唱えていた魔法を発動させた。
その瞬間、一同を覆っていた結界が壊れた。
「さて…行きましょう。」
そう言うと、は辺りをキョロキョロと見渡した。
まずどこに目印があるのか見つけなければ動けない。
─倒れた場所から離れていなければ、多分この辺に…
そう内心思いながら、視線を廻らせると。
「あ。ありました!」
そう声を上げ、は一番初めに目に付いた目印に駆け寄った。
「あ!待ちなさいよ、!」
リナはハッとして駆け出すの後を追いかける。
ガウリイ達も、そんなとリナを追いかけるように駆け出した。
「…この目印に沿って歩けば…多分フーア達の本拠地に向かう道に到着するかと思います。」
「…この目印だな?皆で探すか。」
の言葉に、ゼルガディスが1歩前へ出て目印を確認しながら呟いた。
コクリと頷きながら、木にくくり付けられた目印をなぞり再確認した。
円のマークの中に星の印を描き、その真中に黒い点が描かれているのが達の探している目印だった。
「よっし!さっさと探してフーアん所乗り込むわよ!」
ビシィッと効果音が鳴りそうな勢いで達を指差した。
コクリと頷き、それぞれ四方に散り目印を探し始めた。
どれ位探していたのだろうか、誰も声を発することなく黙々とあちらこちらと木々を見回った。
「リナさん!ガウリイさん!ゼルガディスさん!さん!!」
声を張り上げたのは、アメリアの声だった。
それに反応するように視線をクルリとそちらへ向け、全員がアメリアの元へと集まった。
「あったのね?」
「はい!これ…だと思うんですが…」
リナの問いかけに、コクリと頷き見つけた目印を指差した。
ここはの出番だろう。
もしもフーア達がの施した目印に気付いていたとしたら、カモフラージュに偽の目印を施した可能性もある。
ならば、その目印をつけた張本人のに確認してもらうのが筋ってものだろう。
「…ええ。これですね。間違いありません。」
コクリと頷き、間違いはなかったと呟いた。
「あ!それじゃないかっ!?」
すると、今度はガウリイの声が聞こえた。
指差す方へ視線を向けると、同じような目印のある木が目に付いた。
全員が顔を見合わせ、その目印の方へ向かうと──やはりそれも、の施した目印だった。
そこで、は思い出したのだ。
ここからは、結構見やすい木に見つけやすい場所に目印が施されていた事を。
「…後は簡単に見つかるかもしれません。」
「それは本当か?」
の言葉に1番に食いついたのはゼルガディスだった。
ゼルガディスはと同じ合成獣の身体。
ならば、この中でと同様に真剣になるのは当たり前だろう。












そして、そこからは本当にの言うとおりトントン拍子に目印が発見された。

その目印に沿って道を歩んでいくと───地下へと繋がる道を発見した。













「ひゃ〜…暗いわね。」
地下へと進む道は暗く、ロウソクの火が揺らめいているだけだった。
「ゼルガディスさん、行きますよ!」
ゴォォォォと瞳に炎を浮かべながら、ゼルガディスの手を取り地下への道を歩み始めた。
その姿を見て、チクリとの胸が痛んだ。
「ガウリイ、。あたし達も行くわよ。」
そう言うと、ザッと地面を踏みしめ地下へと降り進んだ。
辺りは真っ暗で、ところどころにあるロウソクの火がユラユラと揺らめき達の影を揺らした。
その姿は、余計に不気味に感じさせた。
「…?さっきから黙ってるがどうかしたのか?」
ふと、が全く喋らないことに気付きゼルガディスが視線を向け問いかけた。
はじめは暗くてゼルガディスの顔が見えなかったのだが、ロウソクの火に照らされたのと暗闇に目が慣れてきたのとがあり、ゼルガディスの顔がはっきりと見えるようになってきた。
ゼルガディスと目が合い、スッとは視線を逸らした。
微かに頬を赤らめているのは、この暗がりとロウソクの火だけでは分からないだろう。
「…?」
「…な、なんでもないです。」
の様子が変なのに気付き、ゼルガディスは首をかしげた。
すると、ポツリとは声を漏らし答えたが、口調とは裏腹にいつもと何かが違っていた。
「…どこがなんでもないんだ。」
そう言いながら、カツカツとアメリアの傍から離れの元へとやって来た。
「本当に何でもないです!」
伸びてくるゼルガディスの手に気付き、はパシッと打ち払った。
しかし、打ち払った本人がハッとしてゼルガディスの方へ急いで視線を向けていた。
ゼルガディスは何も出来ずに、ただ呆然とを見やるしかなかった。
「あ…ごめ、んなさい…」
そう言いつつも、視線は泳ぎ徐々にゼルガディスから視線を外してしまった。
“いや、別にいい”としかゼルガディスは返事を返せず───
スタスタと先を歩き始めてしまった。
「…っ。」
そんなゼルガディスの背中を唇を噛み締めながら見つめるしかなかった。
、どうしたの?」
「…リナ。私…どうしたらいいんでしょうか。」
そんなの異変に気付き、リナは声をかけてきた。
その声に返事を返すように、シュンとしたまま問いかけた。
「…何、ってばゼルの事…」
「シー!シー!シー!」
リナの言葉を遮るように、は口元に人差し指を当て声を上げた。
「ああ、ごめんごめん。」
クスクス笑いながらも、慌てるが可愛いなぁ〜なんてリナは思ってしまう。
でも、今の反応を見れば誰でも思ってしまうことだろう。
「…何よ。顔、真っ赤よ?」
「…っ!」
リナは必死になるの顔を見て、プッと噴出した。
“やっぱり好きなんじゃない”と言う様に、リナはの顔を指摘した。
その言葉には当然のように顔をより真っ赤にさせた。
「やっと気付いたの?」
「……。」
今まで気付かなかった思いをリナが口に出さずとも教えてくれた。
コクリと頷き、知らなかった感情を胸にゼルガディスの後姿を見つめた。
さっきから感じたもどかしさ、モヤモヤはきっと嫉妬と言うものだろう。
「…ま、頑張んなさい?」
そう言うリナに、は左右に首を振った。
その反応にリナは“えっ!?”と驚きの視線を向けた。
まさか、あの言葉に対してこんな反応が来るとは予想していなかったから。
「…頑張んない。というか…頑張れないですよ。」
「何でよ?」
「………ゼルにはアメリアが居ますから。」
の以外な言葉にリナは絶句した。
何も言えずに、顔を伏せ続けるを見つめた。
確かに、リナから見てもゼルガディスとアメリアは仲が良く付き合っているようにも見えるときがある。
アメリアに関しては、ゼルガディスに思いを寄せてるんじゃ?と思える瞬間だってみせるのだ。
「あ゙〜…なるほど、ね。」
ポリポリと頬を掻きながら、視線を斜め上へ向けて呟いた。
何となくの言いたい事がリナは分かるようだ。
「それでも…が諦める理由なんてないんじゃない?」
「え?」
予想していなかった言葉が返ってきた所為で、は反応に遅れた。
「だって、好きって気持ちはそう変えられないでしょ?それに恋って言うのは付き合わなくても相手と両思いになれなくても恋だし。」
そう言うと、リナはニッと笑みを浮かべの頭を撫でた。
珍しい行動にはキョトンとしたまま。
「それに、あの2人が付き合ってるって話聞いたことあるの?事実じゃないかもしれないじゃない?」
「……私、諦めなくてもいいんですか?」
リナの言葉に、少し瞳を潤ませたまま問いかけた。
そんなをギュッと抱きしめると、リナは───
「当たり前じゃない。ここで“諦めろ”なんて言うほど非道で冷酷じゃないわよ、あたしは。」
クスクス笑いながら、を安心させるように言った。
それがリナの本当の気持ちだったからこそ、の心に響き渡った。
「リナさん、さん。何を話しているんですか?」
「!」
「あら、アメリア。何でもないわよ?」
いきなり掛けられた声に、はビクッと肩を揺らした。
その姿にアメリアは首をかしげ、リナは苦笑を浮かべ即座にアメリアに返事を返していた。
「そうなんですか〜?すっごい気になるんですけど。」
「ほらほら、本当になんでもないんだから。さっさと先へ進む!」
アメリアの詮索を打ち切るように、リナはパンパンと手を叩き指示をした。
と1番後ろに居るリナが仕切るなよ…」
ハァッとため息を吐きながら、ゼルガディスが呟いた。
その言葉にリナが“ゼルゥ?”と睨みを効かしたのは言うまでもないだろう。
「「「「「!?」」」」」
そんな中、いきなり邪悪な気配を感じた一同。
ハッとした顔をして、辺りをキョロキョロ見渡すも、邪悪な気配は辺りに満遍なく漂っていた。
「良く来たな!」
「フーア…っ!」
フッと姿を現したフーアを見つけ、は声を張り上げた。
まさか、こんなにもあっさり現れるとは思って居なかったから。
「自ら捕まりに来てくれて光栄だよ。」
クックックと喉を鳴らすように笑うフーアを、は何も出来ずに睨みつけるだけだった。
「その表情はなんだ。」
ムッと不機嫌そうな表情を浮かべると、スッと姿を消したフーア。
ハッとして辺りを見渡すが、気配が充満していてどこに居るのか特定出来なかった。
「くそっ…」
ガウリイは光の剣の柄の部分に手を添えると、身構えたまま気配を探っていた。
「なっ!?」
「何!?」
の短い声が上がったかと思うと、の目の前にはフーアの姿があった。
腰に差していた短剣がの喉元に寸前で止められていた。
その姿に驚きの声を上げたのはゼルガディスだった。
「…何の…まねですか?」
臆することなく、は目の前に居るフーアに問いかけた。
「馬鹿な事を聞くんだな。を捉えに来た…に決まってるだろ?」
「っ!?」
そう言った瞬間、開いていたフーアの片方の手がの腕をねじり上げた。
痛みに吐息だけが吐き出され、目をギュッと瞑った。
!!」
その様子にゼルガディスが声を上げた。
「ここでを渡して堪るか!」
そう言うと、ゼルガディスは腰に差していた剣を抜いた。
それに反応し、ガウリイもリナも剣を抜いた。
アメリアに関してはただ身構えるだけ。
「死に急いでいると見える!いいだろう!相手をしてやろう!」
そう言うと、の喉元に押し付けていた短剣をゼルガディス達へと向けた。
とりあえずの命の危機は脱したのだが、の身柄は拘束されたままだった。
「行くわよ!」
リナの声と同時に全員がフーアに向かって駆け出した。
それに対応するべく、フーアはを拘束したまま身構えた。
リナ、ガウリイ、ゼルガディスの剣を短剣で受け流しながらもアメリアの魔法も避ける。
それだけでなく、攻撃を避けながらも呪文を唱え魔法を発動させていた。
─私が邪魔で、リナ達は大きな攻撃が出来ないんですねっ…!
ハッとして内心そう呟くと、は思い出した。
今まで持っていてもなかなか使う事がなかった杖の存在を。
というか、出して魔力を増幅させて使うほどの相手に出くわす事がほぼなかったのだが。
「がっ!?」
の後ろ頭突きがフーアを捉えた。
あまりの不意打ちに、フーアの手が一瞬緩んだ隙を見ては逃げ出し折りたたんでしまっておいた杖を取り出した。
折りたたみ打としても、キチンと組み合わせれば頑丈な杖となる。
「リナ!今のうちに!」
そう声を上げた瞬間、リナは急いで呪文の詠唱を開始した。
その際、はフーアが逃げないように杖で応戦を繰り返し──
さん!早く逃げて下さい!リナさんの魔法がっ!!!」
そうアメリアが叫んだ瞬間、フーアの手がの腕を掴んだ。
「──しまっ…!」
一瞬アメリアに意識が向き、反応が遅れてしまった。
フーアは、掴んだ腕を勢い良く自分の方へと引き寄せた。
その反動で、は後ろにつんのめりバランスを崩しながらフーアの元へと舞い戻ってしまった。
「…!」
リナはハッとして、を見た。
このままでは折角唱えた魔法──ドラグ・スレイブが打てない。
「リナ!構わず撃って下さい!私は大丈夫ですから!」
リナの心情を察してか、そう声を張り上げた。
その言葉にリナの瞳がいつも以上に丸く見開かれた。
それでも、ここで魔法を撃ち何かに手があるならフーアにだけ攻撃を仕掛けることが出来る。
リナは意を決し、最後の言葉を紡いだ。
「…ドラグ・スレイブ!!!」
その言葉に、リナと以外の全員が驚きの表情を浮かべた。
「リナさん!まださんが居るんですよ!?」
「…今はこうするしか方法はないでしょ!?」
アメリアの言葉に、リナはただ強く言い張るしかなかった。
唇を噛み締め、アメリアはの様子を見ているしかなかった。
「ブラム・ファング!」
そう叫んだ瞬間、とフーアの間に魔法が生じた。
ハッとしてフーアは手を離してしまい、その一瞬の隙を得ては杖を軸にフーアの後ろへ回った。
「防御結界!」
そう声を張り上げると、フーアの後ろに結界が生まれた。
その結界があったお蔭で、リナのドラグ・スレイブはフーアにだけぶつかり、は結界のお蔭で守られた。
しかし……
「まさか、そう来るなんてなぁ。」
クックックと笑いながら、煙の中から現れたのは少々傷を負ったフーアだった。
「何でっ!?」
そう叫んだリナの目に、徐々に見えて来たのはフーアに抱きかかえられたぐったりとしたの姿。
「ッ!?」
何で?といわんばかりの視線を向けるリナにフーアは苦笑しながら答えた。
「答えは簡単。防御結界を張ったに鳩尾をお見舞いし、結界の中に入ったまで。少し攻撃を受けてしまったがね。」
いけしゃあしゃあと答えるフーアに、リナはギリッと奥歯を噛み締めた。
スゥッとフーアの身体は宙に浮き、リナ達を見下ろす形になった。
は預かった。返して欲しくば地下最深部へ来い。」
そう言うと虚空に姿を消した。
「…ーーーーーーーー!!」
ゼルガディスは手を伸ばし、そう叫ぶしかなかった。
その声は意識を失っているには届かず、近くに佇むアメリアが少し寂しげな表情を浮かべただけだった。














「……ん。」
小さく声を漏らし、意識を取り戻す
しかし、普段なら動く身体が何故か動かない。
「…目が覚めたようね。」
不敵な笑みを浮かべた女性の姿がの瞳に映った。
「初めまして、と言った方がいいかしらね。」
「…誰?」
「ディノス、よ。」
「…魔族が私に何のようですか?」
ディノスと名乗る女魔族を見つめつつ、身体を縛り付けるものを引きちぎろうと身体に力を入れる。
「貴方の身体が必要なの。だから、その装置も壊されては困るわ。」
そういわれ、の視線は1度装置へと向けられた。
大きな機械から灰色のごつごつしたチューブが伸びていて、そのチューブがの身体に突き刺さっている状態。
しかし、何の装置なのか分からず首を傾げていると。
ドクンッ…!!!
「…えっ!?」
いきなりの脈には驚きの声を上げた。
チューブから脈打つ波がの身体にたたきつけられる。
まるでチューブからの体内に何かが流れ込もうとしているような。
「まだ早いわよ……高位魔族達よ。」
「!」
ディノスの言葉には言葉を失った。
チューブから脈打つ波が来る…その存在の先端にあるのは高位魔族だった。
高位魔族がチューブから流れ込んできたら、の体内にその存在が流れはいってくることとなる。
つまり…
「私を高位魔族と合成させるつもり…ですか?」
ギリッと奥歯を噛み締めながら、ディノスの言葉を待つ
そんなにディノスはニヤリと笑みを浮かべるだけだった。
「…そう、なんですね…」
そう言いつつ身体を動かすが、身体に突き刺さったチューブが外れずの身体からは血がにじみ出るだけだった。
「貴方が高位魔族と合成させられる瞬間を…彼女達にも見せてあげようと思っているのよ。」
「私はそう易々とまた合成獣になんてされません!」
ディノスの言葉にキッと睨みつけながら、叫んだ。
高位魔族なんかと合成獣にされたら、今度こその自我は消えうせるだろう。
はそんな事、遠慮したいに決まっているだろう。
「そう言っていても、この装置から抜け出せないんだろ?」
クックックッと笑いながら、言うのはディノスの後ろに仕えていたフーアだった。
「くっ…!」
!!!」
の喉の奥から押し出された声と同時に聞こえたのはゼルガディスの声だった。
バンッと大きな音を立て扉が開けられた先には、ゼルガディス含む全員が佇んでいた。
「…遅れたわね、。」
ハァハァと荒い息をしている様子からして、ここまでの道のりが簡単なものではなかったことが想像できる。
「さっさと倒して、を変な装置から助けるわよ!」
そう言うと、リナは腰に差している剣へと手を伸ばした。
「リナ!そこに居る女魔族がディノスよ!気をつけて!」
その瞬間、リナ達に何かの脈のような波が襲い掛かった。
「「「「なっ!?」」」」
そんな波動を送る何者かがここに居るのは分かるが、その姿が見えない。
今見えているフーアも、ディノスもそんな波動を送ったようには見えなかった。
「どうやら、貴方達に邪魔されたくないようよ?」
クスクス笑いながら言うディノスの視線は、に繋がっているチューブの先にある装置へ注がれていた。
「…え?」
「…リナ、その…装置の中には高位魔族が……っ!」
表情を歪めながらその事実をリナに述べた。
「なんだと!?」
リナより先に反応したのは、ガウリイだった。
「私に繋がっているチューブを通して、体内へ入り込もうと…してるんです。」
目をギュッと瞑って、震える声で答えていた。
どれだけの恐怖なのだろう。
今にも体内に入り込んでくるかもしれない高位魔族とチューブでつながれている気分は。
想像しなくとも、相当な恐怖、相当な不安なのだろう。
「リナ……私が…高位魔族と合成させられたら…」
「何言ってんだ!」
「…ゼル。お願い…そのときはゼルの手で…私を殺して下さい。」
リナへと言った言葉に反応したのはゼルガディスだった。
すぐに視線をゼルガディスに向けると、恐怖で震えた声で言葉を続けた。
しかし、ゼルガディスは力強く首を左右に振り“駄目だ!”と叫んだ。
「…フーア。」
「はっ!」
ディノスの声に反応し、フーアは返事を返しパチンと指を鳴らした。
その瞬間、今度は先ほどと比較も出来ないほどの大きな波動が辺りを振動させた。
「うあ゙あああ゙あああ゙ああ!!!」
!?」
「どうしたんだ!?」
突然のの悲鳴に一同は動揺を隠せずに居た。
「今、フーアの指示で軽く高位魔族がの体内へ入り込もうとするようにした。」
「なっ!?」
ディノスの言葉にアメリアが驚きの声を上げた。
それと同時に、ゴホッと咳き込みの口から真っ赤な血が吐き出された。
「フーア、ストップ。」
そういわれ、フーアは再度パチンと指を鳴らすと振動がピタリと止まった。
「…ハァハァ…」
荒い息を肩でしながら瞳に涙を浮かべ、ディノスを睨みつける
「大丈夫だ。まだの体内には入り込んでいない。外体を傷つけていただけだ。」
クツクツと笑いながら、心配そうなリナ達に親切に教えるディノス。
しかし、リナ達からは怒りを買うだけだった。
「ディノス!今すぐ、あたし達と戦いなさい!」
ビシッとディノスを指差し、怒りの口調で叫んだ。
その言葉にディノスは偉そうに笑い声を上げると、ブンッと音を立て手元に大振りの剣を出現させた。
「いいわ。相手してあげるわ。」
そう言うと、口元に笑みを浮かべた。
「フーアはの傍に居なさい。リナ・インバース達の相手はこの私だけで充分!」
そう言い、ディノスの表情が魔族特有の表情へと変化しつつあった。
フーアは、ディノスの言葉に返事を返しの傍へと足を運んだ。
ディノスの指示には、意味があった。
リナ達の相手をさせないのと、自分の支持1つですぐに装置を発動させることが出来るようにするために。
「アメリア、ガウリイ、ゼル。行くわよ!」
「はい!」
「「おう!!」」
リナの言葉に反応し、返事を返すと地面を踏みしめ駆け出した。
「「エルメキア・ランス!」」
アメリアとリナの魔法がディノスを襲い掛かる。
しかし、ディノスは持っていた大振りの剣とディノスの気迫で打ち消されてしまった。
「アストラル・ヴァイン!」
ゼルガディスの声に反応し、ガウリイの光の剣に魔法が宿る。
そして、再度唱えると同じく発動させ、今度はゼルガディスの光の剣に魔力が宿る。
「行くぞ!」
その声に反応し、全員は再度呪文を唱えディノスへ向かって駆け出した。
「「ラ・ティルト!」」
「エルメキア・フレイム!」
リナ、アメリア、ゼルガディスの魔法の後ろに隠れガウリイはディノスに向かって駆け出し攻撃を仕掛けた。
「チッ!」
舌打ちをしながらディノスはガウリイの攻撃を受け止め、リナ達の魔法を直撃した。
その直撃はやはり答えたのか、グラリと身体が揺らいだ。
「フーア!」
その声に反応し、フーアはニヤリと笑みを浮かべた。
パチンと指を鳴らすと。
「合成装置、発動!」
そう声を高らかに張り上げた瞬間、先ほどよりも何倍も強い波動がジリジリと辺りを振動させた。
「きゃああああああああああああああああああああ!!!!」
それと同時に、の悲鳴が響いた。
!!!」
「っああああ゙ああああ゙ああ゙あああ゙ああ゙あ゙あ!!」
ゼルガディスの声が聞こえているのか聞こえていないのかはわからないが、の悲鳴は今も止まる様子がない。
身体中に繋がれたチューブが大きく脈を打ちながら何かがの方へと進んでいく様子が見て分かる。
そして、身体とチューブの間から真っ赤な血が流れ始めているのが見えた。
ドウンッ!!!!!!!!!
「あ゙っあっあ゙っあ゙っ……」
大きくチューブが膨れ上がった瞬間、装置の動きが止まった。
それと同時に、の悲鳴も途切れ途切れになり──こちらもまたピタリと止まった。
「…?」
カクッと首を垂らしたまま、微動だにしないにリナは恐る恐る声を掛けた。
すると、ゆっくりとだがは顔を上げた。
!大丈夫か!?」
ゼルガディスがそう声を掛けるが、は全く返事を返さない。
「ゼル!下がって!」
そう言われた瞬間、ゼルガディスは後ろに飛びのいた。
チューブを引きちぎり、杖を手にしたはそのままゼルガディスの方へ跳んできたのだが。
さん!何故私達に攻撃をしかけるのですかっ!?」
アメリアはの攻撃を避けながら、声を上げた。
しかし、その言葉に返事はなく素早く杖で攻撃を繰り広げるのみだった。
「我々の実験は終了だ。クククク…ハハハハハハ!!」
ディノスは嬉しそうに声を張り上げ、を見つめた。
。さぁ、リナ・インバース共を始末してしまえ!」
そう言うと、は杖を力強く握りなおした。
ジリジリと近づきながら杖を振り下ろすと、リナ達はそのスピードに驚き急いで四方へ飛びのいた。
すると、地面にぶつかった杖は無傷なまま地面にヒビが入った。
「…っ…!」
「リナ?」
飛びのいた先で座り込むリナが目に入りガウリイが近寄った。
「大丈夫。ちょっと杖が足を掠っただけ。」
そう言いつつリカバリィを足に掛けるリナ。
の視線に、そんなリナが留まったのだろう。
地面を踏みしめ、は勢い良くリナの方へ駆け出した。
「ヤバイ!」
「リナさん!!!」
距離的に間に合わないリナとゼルガディス。
声を張り上げながら、手を伸ばすが全く届く距離ではなく。
「くそっ!!!」
ガウリイが光の剣を構え、の振り下ろす杖を受け止めた。
しかし、その杖の威力は相当なもので地面を踏みしめるガウリイの身体はに押され徐々に後ろに押されていた。
「リナっ…回復はまだかっ!?」
「まだっ……もう少し時間がっ…!」
ガウリイの言葉にリナは返事を返すが、は気にも留めずにジリジリとガウリイを押す。
ガウリイもの攻撃を受けているのが精一杯なのか、それともに攻撃できないのかその場に踏み止まるしか出来なかった。
「ぐあっ!」
しかし、が勢い良く杖を横になぎ払った為、ガウリイはバランスを崩し後ろに吹き飛ばされた。
そこにはリナの姿が───
「リナっ!」
「ガウリイ!」
ハッとして声を上げる2人はどうすることも出来ず目を瞑り──リナの目の前にガウリイは打ち付けられた。
「がはっ!!!」
地面に打ち付けられた際に、ガウリイは吐息を漏らした。
背中に響く痛みに顔を歪めた。
そんなガウリイにも回復途中のリナにも容赦なく杖が振り上げられ──振り下ろされた。
!」
さん!」
そんな3人の姿を見ていることしか出来ないゼルガディスとアメリアはただ叫ぶしかなかった。
すると、その声に反応するようにピタリと杖が寸前で止まった。
「……?」
ガウリイはゆっくりと瞳を開き、襲ってこない痛みに眉を潜めた。
目の前には何かに必死に抵抗する、先ほどとは違う表情の…本当のの姿があった。
「……?」
「…ご、めん……なさ……ぃ…」
何かに必死に抵抗しながら、ガウリイに謝る
!何をしている!?さっさと止めを刺しなさい!」
ディノスのその声が響くと──は杖を強く握り締め猛スピードでディノスの方へと駆け出した。
猫との合成獣、そして高位魔族との合成獣になったのスピードは通常の高位魔族の移動スピードより速かった。
「何っ!?」
「ディノス様!!」
の意外な予想外の行動にディノスもフーアも声を上げた。
しかし、その声を上げた次の瞬間ディノスの悲鳴が上がった。
「ぎやああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「ディノス様ーーーー!!!!」
悲鳴の方を向き、フーアは手を伸ばす。
しかし、塵と化し消えていくディノスの手を掴む事は出来ずディノスは消滅した。
「あ……ああ……」
カタカタと振るえ、声を漏らすフーア。
今、目の前に居る合成獣のに恐怖しているようだ。
「にげ…て…みん、な……逃げっ…」
そう言うの手はカタカタと震えていた。
体内に居る高位魔族の意思が復活し始めたようで、では抑えきれなくなっているようだ。
「このまま…じゃ、みんな…を殺……ちゃう…」
意識はまだのままなのか、逃げろと忠告し続けた。
しかし、身体は高位魔族に支配されてしまったのか徐々にリナ達の方へと歩み寄っていた。
リナの回復は終了していて、ゼルガディスとアメリアも駆けつけていた。
「おやおや。大変な事になってるようですねぇ。」
そう言いつつ、とリナ達の間に現れたのは紛れもなく謎のプリーストと称するゼロスだった。
「ゼロス!?」
「ゼロスさん!逃げて下さい!」
先ほどの魔族であるディノスを殺した瞬間を思い出したのか、リナの声を遮ってアメリアは叫んだ。
「…おやおや。中途半端に合成させられてしまったようですねぇ〜」
を見ると、ゼロスはポツリといつもの口調で呟いた。
そんな呑気なことを言っていられる状態なのだろうか。
「ちょっと失礼しますね。」
そう言うと、先ほどまで居た場所からゼロスの姿は虚空へフッと消えた。
「「「ゼロスっ!?」」」
「ゼロスさんっ!?」
いきなり消えたゼロスの名前を叫ぶも、返事は当たり前のようにあるわけがない。
「このっ…卑怯者!!!」
リナの悲痛なる叫びが地下最深部にこだました。
しかし、叫んだとしてもの動きが止まるはずがなかった。
既にもうすぐ手の届く場所まで近づきつつある
リナはグッと剣の柄を握り締めると、前へ突き出した。
「リナさんっ!?」
「ここで…私だって殺されるわけにはっ…」
「しかし、だからってをっ!」
いきなりの出来事にアメリアが声を上げ、震える声でリナが呟いた。
今の現状が怖くないなんて人、この中には居ないだろう。
!」
杖を振り下ろそうとするの目の前にゼルガディスが飛び出し、名前を呼んだ。
その瞬間、の動きがピタリと止まった。
それと同時にの体内から黒い霧がブワッと噴出した。
「…一体何が…?」
そうリナが呟くと、グラリとの身体が目の前に居るゼルガディスの方へと倒れた。
っ!?」
「大丈夫ですよ、リナさん。」
リナの悲鳴に近い声に反応し、答えたのはを受け止めたゼルガディスではなく何処かへ消えうせていたはずのゼロスだった。
「ゼロス!何でんな事言えんのよ!?」
「アストラルサイドから、不完全に合成させられていた高位魔族を切り離し消滅させて来ましたからね。」
リナの問いかけに、ゼロスはいけしゃあしゃあと答えた。
「う…リ、ナ…私…大丈…ですから。」
ニッコリ微笑みながら、近くに居るであろうリナにそう言った。
。気がついたか?」
声を漏らしたに、ゼルガディスがそう声を掛けた。
そんな様子をアメリアはただ悔しそうに悲しそうに寂しそうに見つめるしか出来なかった。
「あ…ゼ、ル。はい…気分は…大分すっきりしてますから。」
そう言うと、手でゼルガディスを押しのけ起き上がろうとした。
「少しこのままで居たらどう?」
リナがそう微笑みながら言うが、は首を左右に振った。
「大丈夫。もう…身体も痛くないし。」
そう言いながら立ち上がったは、どこをどう見ても元気そのものだった。
「ま…魔族…それに…ディノス様を……」
「おや?まだ居たんですか?」
ポツリと後ろから聞こえたフーアの声にゼロスはため息混じりに呟いた。
その手に持っているナイフを見て、ゼロスは眉を潜めたがリナ達は何も気付いていなかった。
「ディノス様の恨みーーーーー!俺が果たす!」
そう言うと、ナイフをしっかり持つとゼルガディスの方へ駆け出した。
「っ!」
ゼルガディスはハッとしたが、油断していた所為もあり反応が遅れた。
ドスッ!!!!!!!!!
「カハッ!!!」
!?」
フーアのナイフが刺さったのは、ゼルガディスを庇い目の前に飛び出しただった。
熱いものが喉の方へこみ上げてきたは、ゴホッと口から真っ赤な血を吐き出した。
「だ…い丈夫で…すから…大丈夫…ね?」
ニッコリと微笑みながら言うが、刺さったナイフの傷口からは絶え間なく血液が流れ出ていた。
ナイフが刺さったのは、の心臓近くの胸。
!!!!」
「ヤバイですね…」
「え?」
悲鳴をあげ、リナが駆け寄るとポツリとつぶやいたゼロスの言葉に視線を向けた。
「そのナイフ…魔力が備わっているようなんですよね…だからと言って、ナイフを抜けば…」
「血が噴出しますね。」
ゼロスの言葉を紡ぐように、アメリアが呟いた。
相当ヤバイ場所にナイフが刺さったようだ。
「あはは…自業自得ですよ…リナ達に襲い掛かった…私への罰ですね。」
クスクス笑いながら、はそう呟いた。
どうやら、はリナ達に襲い掛かったことを覚えていたようだ。
「…ごめんなさい。私の所為で……面倒な事…巻き込ん…しま…て…」
ゴホゴホと咳き込みつつ、血を吐きつつ呟くの目蓋は重く閉じ始めていた。
「アメリア、リザレクションを!!」
「あ!はいっ!」
リナの言葉にハッとして、アメリアはリザレクションの呪文の詠唱を開始した。
なるべく早く、早くと心では焦りながら呪文を一字一句間違えずに唱え───
「リザレクション!」
そう声を張り上げると、光がの傷口を包み込んだ。
周りからの生命力を使っての回復の為、の体力は減らずに治るはずなのだがの傷は一向に癒えない。
「リ、リナさん!全く回復の兆しが見えません!」
「なんだと!?」
そう叫びながら、アメリアは魔法を掛けるのも止めずに居たが驚きの声を上げるゼルガディスの声に一瞬意識が削がれた。
「ゴホゴホッ!!」
!リナ、が!」
咳き込むにハッとして、ガウリイが声を上げるとリナは視線をアメリアからに移した。
そこには苦しみながら咳き込み、口から血を吐き出す姿があった。
アメリアは自分の魔法だけではどうすることも出来ないと分かり、唇を噛み締めると。
「ゼロスさん!何かさんが助かる方法はないんですかっ!?」
「…まぁ、ある事はありますが…」
「教えろ、ゼロス!」
アメリアの言葉にポツリと言葉を返すゼロスに、ゼルガディスが食いついた。
「…命を分け与える、です。…全員がさんを中心に円を描き、手を繋ぎます。意識を集中し僕が皆さんの命の欠片をさんに送ります。」
「それで本当に助けられるんだな!?」
ゼロスの言葉に必死に食いつき、声を上げ身を乗り出した。
無言のままゼルガディスに向かって頷き、本当だという事を肯定した。
こんな状況で嘘を吐くほどゼロスはきっと非道で冷酷ではなかったと言うことだろう。
ちょっと魔族っぽく感じないが…それでも、ゼロスの本質は本当に魔族らしいのは誰もが知っている事だった。
「殺して…やる…」
「え?」
ポツリと聞こえた単語に、アメリアは視線をそちらへ向けた。
そこにはカタカタと震えながらも、の死を望むフーアの姿があった。
「ディノス様がいない今…実験は失敗だ…」
まるで狂気に満ちた眼差しをしているフーアに、ゼロスと気を失いつつある以外は恐怖を心に芽生えさせた。
「全く…邪魔しないでくれますかね?」
そう言いつつ、ゼロスは空間から突如黒い錐を発生させた。
「ぎゃあああああああああああ!!」
その黒い錐に貫かれたフーアは、悲鳴に近い声を発しその場に膝を付いた。
そしてサァァァっと風に流されるようにフーアの姿は虚空へと消えていった。
「おやおや。資料まで一緒に燃えちゃったようですねぇ。」
「…元々燃やすつもりだったんでしょ?」
ゼロスの淡々とした言葉にリナはため息混じりに問いかけた。
その言葉にハッハッハッと笑いながら、ゼロスは肯定するように頷いた。
「さて…皆さん、円になって手を繋いでください。」
「「「「…。」」」」
ゼロスの言葉に、リナ達は顔を見合わせるとコクリと頷きを中心に円を描いて座った。
横に伸ばした手を握り、完璧な円がの周りに作られた。
瞳を閉じ、意識を集中し全員の心が1つになるのが手にとって感じた。
そう感じることが出来たのも、を真剣に心配しているから、そして間にゼロスが割り入っているからだろう。
目を閉じ意識を集中させてから、どれ位の時間が経ったのか分からなかった。
しかし、意識を集中させ始めてから誰かの胸の鼓動が聞こえるようになった。
その瞬間、フワッと身体から何かが抜ける感覚を覚えた一同。
「…もう大丈夫ですよ。」
そういうゼロスの言葉に反応し、いち早く円の中から抜け出したのはゼルガディスだった。
!」
「………。」
近づき、手を取り顔を覗き込み声を掛けるゼルガディスにの返事は返ってこなかった。
力なく手はゼルガディスの手に掴まれているだけだった。
「…?」
「どういう事だ、ゼロス。」
リナはの異変を感じ、ゆっくりとに近づき見下ろした。
怒りに満ちた口調で、ゼルガディスは近くにいるであろうゼロスに問いかけた。
「さぁ?僕には分かりませんよ。」
やる事はやりましたからね、と言いながら肩を竦めるゼロスにゼルガディスはチッと舌打ちをした。
「さて…やる事はやりましたのでさっさと退散させてもらいますよ。」
クスクス笑いながらニッコリ微笑みを浮かべたまま、スッと虚空に消えた。
「ゼロスーーーーーーーーー!!」
ウガーー!と今にも暴れだしそうになりながらリナは声を張り上げた。
しかし、ゼロスは返事をせずに気配までも消してしまった。
「…、起きろ。」
身体をユサユサと揺らしながらゼルガディスはを見下ろした。
しかし、一向には瞳さえ開けなかった。
「…何でだよ…。おい、起きたらどうだ、いい加減。」
「…ゼル。もうやめよう。」
一向に揺さぶるのをやめないゼルガディスにリナは寂しげに呟き、ゼルガディスの肩に手を乗せた。
しかし、肩に乗せてきたリナの手を払いのけの身体を揺らし続けた。
「ゼル…寝かせてあげよう?の事。」
「…まだ、言ってないんだ…」
「…え?」
リナの震える声にピクッと反応し、ゼルガディスは揺らす手を止めポツリと呟いた。
その言葉に驚きの視線を向けるのはリナと…そしてアメリアだった。
「…どういう事、ですか…ゼルガディスさん?」
「…俺…好きなんだよ…の事…っ!」
拳を握り締めたまま、やっと気付いた本当の気持ちをゼルガディスは呟いた。
“ああ、やっぱり…”とアメリアは思い、口には出さずにため息を吐いた。
「…ゼル。」
やっと気付いたゼルガディスの本当の思いにリナはなんとも言えない寂しさを感じていた。
リナは、の気持ちも知っていたから余計に寂しさを感じるのだろう。
「もっと…早くに気付ければ良かったんだけどな。」
フッと吐息を漏らすゼルガディスの横顔は哀愁が漂っていた。
この現状をどうすることも出来ない今、後悔してももう遅い。
「…ゼル、はね───」
「───待っ、て…」
リナの言葉を遮り、ようやく声を出せたのは──動かず喋らず居たはずのだった。
その声に驚き、全員に視線を集中させた。
!?お…きてたのか?」
もしも起きていたのだとしたら、さっきの告白を聞かれていたかもしれない。
そういう思いもあって、言葉を途切りながらゼルガディスは問いかけた。
「…はい。起きてた…んですが、身体がだるくて力が入らなくて…」
クシャッと表情を崩し、笑みを浮かべながら呟くの言葉にゼルガディスはボンッと爆発音がしそうなくらいの勢いで顔を真っ赤に染まらせた。
「…ゼル?」
真っ赤な顔をするゼルガディスに首を傾げて見上げると、余計にゼルガディスの顔は真っ赤に染まった。
口元に手を当てて、何も言えずにを見やる。
「…さっき言ってた事、本当ですか?」
ゆっくりと上半身を起こしながら、支えてくれているゼルガディスに問いかけた。
その言葉は聞いていたという事で、ゼルガディスからすれば恥ずかしい事この上ないのだ。
「っ!」
一瞬視線を泳がせるが“ゼル。”とリナがゼルガディスに視線を向けコクリと頷いた。
その姿を見て、観念したのか一呼吸置いてゼルガディスは“ああ。”と言いながら頷いてみせた。
「…私も…好きですよ?ゼルの事。」
ニッコリと微笑みながら呟く言葉に、ゼルガディスはキョトンとした表情を浮かべてしまった。
と言うよりも、固まってしまったと言った方が合っているだろう。
「ラブラブな所悪いんだけど…を病院に運ぶ事が先決よ。」
コホンと咳を1つすると、ゼルガディスとを見つめて言った。
命を繋げる事が出来たとしても、体力も魔力も皆無に等しい。
身体を休め、回復しなければならないのだから病院に入院するのは避けられないだろう。
「そうだな…」
満足気な表情を浮かべるゼルガディスは、をお姫様抱っこをし立ち上がった。
「きゃっ…!」
いきなりの慣れないお姫様抱っこに、は驚きの声を上げ───
「…真っ赤よ、顔。」
プッと噴出して笑い始めたのはリナだった。
その言葉を聞き、自分の顔が赤くなっている事が分かるようになると余計に顔を真っ赤に染めた。
アメリア以外にとっては、きっと幸せな結末だろう。
ちょっとお姫様抱っこをされているを、恨めしそうにアメリアは見つめていたが──
そのことに気付いている人は誰1人として居なかった。










To be continued...................







ギャース!!!4話で終わってしまった!!!(笑
と言うか…4話目がかなり長くなってる気がするのは私の気の所為でしょうか?(待
まぁ…初のゼル夢って事で……うふふふふv
アメリア以外はHAPPY ENDですねw
まぁ…アメリアには悪いですが…主人公がゼルと両思いになるにはアメリアが寂しい思いをしなきゃならんですからねぇ…
ゼロスだったら…リナかな?(ゎ
ガウリイでも…リナですねw(ゎ
という事で…また何かお話を考え付きましたら…UPしますぞ〜vv
楽しみにしててくださいね♪






Reality of sorrowに戻る