「……さようなら」
そう言ったあの日、彼は何とも言えない表情を浮かべていた。
悲しいような、寂しいような、悔しいような、苦しいような、嬉しいような、虚しいような。
なんであなたは、あんな表情を浮かべていたの……?
その表情の理由が知りたい
「……また雨ね」
いつものように、大きな樹の下で雨宿りをしながらポツリと呟いた。
さんさんと降り続ける雨を見ると、はあの日を思い出してしまう。
大好きだった彼──ゼロスと別れることを決めたあの日を。
そして、数か月前からはある事に気付いていた。
「……私はあの日、さよならを告げたはずよね?」
誰もいない空間に、は静かに問い掛けた。
苦しい思いをしながら、必死に別れを切り出した。
人と魔族が幸せに結ばれあうなんて……あり得ないと思っていたから。
苦しい思いばかりをするのならば、きっと別れた方が楽なのだろうと──そう、心が思ったから。
だから、は好きだと嘆く心に蓋をして"さよなら"をした。
「……隠れても無駄よ?何年、あなたと付き合ってきたと思っているの?」
数か月、数日の付き合いなんかじゃなかった。
もっと長く、ずっとずっとそばに居た。
気付けば、いつも隣に居た。
「さんには敵わないですねぇ」
苦笑を浮かべ、ゼロスはようやく虚空から姿を現した。
雨の降る中佇む姿は──には様になっているように見えてしまった。
さよならをしたのに、胸が高鳴る。
駄目……迷っては
もう……別れを決めてさよならをしたのだから、求めちゃいけないわ
必死に戻ろうとする心を引きとめて、つなぎ止めて、奈落へ落して、蓋をする。
「いったい、私に何の用かしら?」
「さん……あれは、本気だったんですか?」
わざとらしく冷たくする。
寂しそうな笑みを浮かべて問い掛けるゼロスに、は小さく頷いた。
魔族らしくもない
それは昔から見え隠れしていたかもしれない。
もちろん、もとは生粋の魔族なのだから冷酷冷徹な部分はたくさん見てきた。
とある魔道士が『笑顔で首を斬れる奴よ』とゼロスを評価したらしいが──その通りだとも思っていた。
それでも、恋愛が絡めばゼロスは魔族らしくない一面を見せてきた。
「私は……あの日言ったとおり、もうあなたと付き合うつもりも会うつもりもないわ」
これが、自分の為にもゼロスの為にもなるのだとは言い聞かせるように言った。
「嘘ですね」
「えっ……わっ」
言って、ゼロスは姿を消すとを抱きしめていた。
後ろから、ギュッとを手放すまいとするように。
「僕なしで居られるわけがないじゃないですか」
「──なっ」
顔を真っ赤にして、声が裏返ってしまった。
否定なんてには出来なかった。
だって、本当の事だったから。
「嘘だと分かってて、僕もあなたの『さようなら』を受け入れましたよ
凄く後悔しましたし……凄く悲しかったです だけど、笑うべきだと思って、必死に笑顔を作っていたんですがねぇ」
もう、嘘も限界だとゼロスは笑った。
強く強くを抱きしめて、その肩口に顔を埋めた。
「……馬鹿な事を、言わないで」
「涙声で言っても、説得力はありませんよ?さん」
フッと笑って指摘をされ、は初めてそこで涙を流していたことに気付いた。
心では強く強くゼロスの事を求めていた。
求め求めて──けれどの意識がそれを拒んでいた。
虚勢を張って、必死に平然を装っていた糸が今プツリと切れたのだ。
「ゼロスも……さよならを言われた時、悲しかったの?」
「それは当然ですねぇ」
今、ようやくは理解した──あの日浮かべていたゼロスの表情の理由が。
悲しいけれど、受け入れるべきだと必死に笑っていた表情だったのだと、知った。
知れば、吹っ切れると思っていただが、むしろもっと胸が締め付けられて──好きが溢れそうになった。
「……まだ、間に合う?まだ、やり直せる?」
回された腕に手を添えて、背中に居るゼロスに問い掛けた。
私の好きは……まだ間に合う?
「──……僕は終わらせるつもりはなかったんで、全然間に合いますよ」
言って、抱き締める腕に力が籠った。
「よかった……」
ホッと胸をなで下ろして、瞳を伏せた。
「大嫌いよ……ゼロス」
それは、大好きの最上級。
魔族であるゼロスにとっての最上級。
愛してるじゃない、大嫌いなの
...................end
ゼロスがどうも遙かの某キャラと口調がダブってモヤモヤします(汗)
とりあえず、二十七万ヒット感謝のフリー夢ですが……内容は全く関係ありませんのであしからず。
ゼロスに、大嫌いって言ってみたいなと思ったのがキッカケです。(ぅぉぃ)
D.C.様でお題をお借りしました。
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