「嫌だあああああああ!!!!!」


上がった悲鳴は血の海の中。
膝を付き、両手を血溜まりへとつけ、目の前に落ちた服を見つめた。

アクマの攻撃は血の弾丸。
血の弾丸にはアクマのウィルスが混入されており…
撃ち込まれた人間はたちまち、身体中に五芒星(ペンタクル)が浮かびあがり─────

パンッ…!!!


「お父さんっ!お母さんっ!!」


粉々に砕け散った身体は何も残らず、ただそこにあるのは着ていた服のみ。
それ以外には、両親は何も残さなかった。

こげ茶色のセミロングの髪を揺らしながら顔を左右に振る姿は、認めたくないと言わんばかり。
こげ茶色の鋭い瞳の奥には、悲しみの色だけが浮かび上がっていた。

少女の名は、












S.V 第一話













「どうし、て……」


「あ?」


は静かに、黒装束に身を包む青年へと近づいた。
名前も知らない、涙で視界が霞んで良く見えない。

けれど、相手は俗に言う救世主…というわけだった。



たくさんの人を助けてくれたのに…
どうして…どうして…



「どうして、お父さんとお母さんを助けてくれなかった!?!?」


黒装束の裾を掴み、思いっきり引っ張りながら叫んだ。
悲痛な叫びは、心に痛く、染みる。
青年は、何も言わずただに服の裾を引っ張られ続けていた。











お父さんも、お母さんも…悪い事なんてしてないのにどうして死ななくちゃいけなかった?
どうして殺されなくちゃいけなかった?

私を助けたから…私をかばったから…本当なら…死ぬのは私の方だったのに…
お父さんと…お母さんを…

返して──────



あれからどれくらい経ったのだろう。
黒装束の者はこの地を発ち、は一人家の片隅に座り込んでいた。


「両親を蘇らせてあげましょうカ?」


ひょっこり顔を現したのは顔の大きな、変な男。
耳は尖り、帽子を被り、心の闇を巧みに突いてくる。
男の名は、千年伯爵。


「お、父さん お母さん!!!」


悲痛なの叫びに、両親は千年伯爵の造った魔道式ボディへと魂を落とされた。
天へと昇るはずだった魂が、今、目の前に。


!よくも…よくもアクマにしたな!」


「お、お父さ、ん?」


「どうして…どうしてなの?…逃げられない、逃げられないじゃない!!!」


「お母さ、ん…?」


叱咤する声に、怒られる理由が分からず首を傾げた。


「「よくも…よくも…呪ってやる…!!」」


二人の声が一つに重なりガタガタと震える。
何か衝動を抑えるように、必死に必死に。


「さー命令です この娘を殺して、被りなさイ?」


「嫌だあああああああああああ!!!」


悲鳴と共に飛び散るのは、真っ赤な血。
胸を裂かれ『呪う』と罵声を浴びせられ、その場に倒れ込むシルエットが一つ。












憎い憎い憎い憎い…
お父さんとお母さんを殺したアクマが、それを作る伯爵が…
私を陥れ、お父さんとお母さんをアクマにした伯爵が…

憎い!












「クロス元帥!?」


怪我がある程度治った
今しがた門の前で門番に名前を呼ばれた赤髪の男性、クロス・マリアンに連れられ黒の教団の門前までやって来ていた。


「ここで…お父さんとお母さんを殺したアクマとか言う奴と…千年伯爵とかいう奴を倒せる力が手に入るんだね?」


「そうだ」


アクマの事も、イノセンスの事も、エクソシストの事も、まだ良く分からない
けれど、クロス元帥の話によればに反応したイノセンスがあったようで。



お父さんとお母さんを殺したアクマを、お父さんとお母さんをアクマにしようとした伯爵を…倒したい

私の人生は…本当ならば、もう終わっていたはずだった
なら、エクソシストとしての道に私の一生を注いでも…きっと十分だ



一人、門番を見つめながら内心思う
けれど次の瞬間、上げられた声にクロスもも黒の教団のメンツも驚く事となるのだった。


「こいつアウトォォォォォォォ!!!」


「「!?」」


まさか、ここで『アウト』宣言されるなんて思ってもいなかったから。


「こいつ、身体の五芒星(ペンタクル)に呪われてやがる!アウトだアウト!
 五芒星(ペンタクル)はアクマの印!こいつ奴らの…
 千年伯爵の仲間─かも─だー!!!」


「はっ!?」


門番の宣言に、驚きの声を上げたのは当然
アクマではないのに、そう言われたことにビクリと肩が揺れる。

そう、アクマではないのだ。


「クロス元帥が連れて来たのが…アクマ?まさか…
 うそだろ…?」


ガヤガヤと教団内部が騒がしくなる中、一人そこから抜け出た者が居た。
黒髪の鋭い瞳が印象的な青年。


「ちょっと待って!別に私、アクマじゃないし…!
 呪われてるだけで…千年伯爵の仲間じゃないっ!!!」


そう必死に言うも、誰も信じてくれる気配はなかった。
クロス元帥にしては何も言わず、様子を見ているだけだった。


「一匹で来るとはいー度胸じゃねぇか」


門番の上。
塀に足を掛ける形で佇み声を上げた青年にはビクリと肩を揺らした。
感じたのは殺気。
鋭く突き刺さるような、今にも殺されると思ってしまう、そんな殺気。

ブワッ!!

容赦なく振り下ろされる刃に、は両手で頭を抱えしゃがみ込んだ。
両目をギュッと瞑り。


「い、嫌だあああああああああ!!!」


悲鳴は喉をかき切るほど甲高く上げられた。



こんな所でやられるなんて、冗談じゃないっ!!!



のその声に、恐怖に反応する物質が一つ。
煌々と光るそれはクロス元帥の胸元から光を漏らし、存在を主張していた。


「…イノセンス、か?」


呟いたのは刃を向ける黒髪の青年。
鋭い目付きが印象的な青年の名は、神田ユウ。

驚きの瞳をに向けていた。
その瞬間、クロス元帥の方から吸い込む力を感じた。
その先にあるのは、に反応したイノセンスが一つだけだった。


「何も…ない?」


視線を向ける神田。
けれど何かがあるわけでもなかった。

そう、ただの無。
何も見えない、何も広がってはいない。
なのに感じる吸い込む力は物を徐々に引き寄せていた。


「…チッ」


それ即ち、の声に心にイノセンスが反応を示しているという事。
つまり、は適合者という事となる。


 、落ち付け」


その声に、悲鳴はピタリと止まった。
の向ける先にはクロス元帥の姿があった。

イノセンスは、まだのものとはなっていない。
ただ、それに反応しているだけで所有物となってはいなかった。

イノセンスは、寄生型か装備型のどちらかに分かれるのだから。


「クロス…元、帥」


「か、開門んん〜〜〜〜?」


黒の教団に居るお偉いさんの指示あってか、漸く門が開かれた。
重く圧し掛かるような、地響きと共に門番の左右にある門が上へ上へと上がっていく。



どういう事…?
さっきとうって変わったような…



開く門を見つめ、は内心首を傾げた。
その時、響いてきたのは男性の声だった。


『入場を許可します さ、争いは止めて入って入って
 神田くんも刀下ろしてー』


スピーカーから漏れてくる声に神田との視線は一か所に集まった。

スピーカーの向こうから何かしら声が聞こえてくる。
けれど、何を言っているかまで気にする事はなかった。

今、一番気にかかるのは入団出来るのか。
イノセンス適合者として、エクソシストになれるのか、だった。


「チッ」


「ほら、舌打ちなんてしてないで入んなさい!
 早く入らないと、門閉めちゃうわよ」


しぶしぶ従う、という態度を見せる神田。
現れたツインテールの黒髪の少女は門の中を指差した。




















「私は室長助手のリナリー・リー 室長の所まで案内するわね」


「宜しく 私は


リナリーの言葉には明るく返事を返した。
けれど、そんな挨拶に反応は見せずスタスタと歩き出した。



まぁ…いっか
どうせ入団出来れば、否応でも顔合わせる事になるだろうし



そんな安易な考えで、は立ち去る神田を気にする事無くリナリーに視線を向けなおした。

室長とはどんな人なのだろうか。
一体どんな話を聞けるのだろうか。

色々な期待と不安が入り混じる中、足取りは早く目的地へと向かっていた。


「あの、さ」


「何?」


「クロス元帥は?」


を落ち着かせた後、いつの間にか居なくなっていたクロス元帥。
その事を思い出したは聞きづらそうに問い掛けた。


「ああ、うん 先に室長の所に向かったみたい」


その言葉に、はあんぐりと口を開いた。
神田との争いの最中も助けてくれる事はなく観戦していたクロス元帥。
そして、コムイが入場を許可した途端に居なくなっていたクロス元帥は、が会うはずの室長の元へと走っていたのだ。


「っと、着いたわ ここよ」


そう言い指し示すのは一枚の扉。
扉を開き、中へ入ると。


「うわ」


小さく漏れた声。
驚いてしまうのは無理もない。
部屋中書類などで散らかり放題なのだから。


「ああ、いらっしゃい クロス・マリアン元帥から話は聞いたよ、ちゃん」


「ええと、初め…まして 話を聞いたって…」


眼鏡を指で押し上げながら笑顔を向ける室長。
は少し戸惑いを隠せない様子で挨拶を交わした。


「ああ、うん さっきキミが『呪われてる』って言ってたことについて…それから右胸の五芒星(ペンタクル)についてね
 そうそう、ボクはコムイ コムイ・リーです!」


「…そう、ですか …ってコムイ室長?ん?リー?」


コムイの言葉からは、きっと説明しなくても分かっているだろう事が把握できた。
両親を亡くし、アクマにしてしまい呪われ、その証に受けた右胸の五芒星(ペンタクル)まで。

気まずそうに声を漏らしたが、次の瞬間意識は他へと向けられた。
名前を覚えるべく口ずさんだ名前は、ある名前と一致し眉を潜めた。
けれど意識はすぐに、他の元へと走っていった。


「ああ、リナリーはボクの妹だよ〜
 可愛いでしょ〜可愛いでしょ〜」


シスコン発揮と言わんばかりの表情。
は少し呆れた様な表情を浮かべながらも「ハイハイ」と返事を返していた。

といっても、受け流し程度の返事の為に間にコムイが語ったリナリーの事は頭には入っていなかった。


「さて、本題だけど…
 イノセンスの適合者であるキミは、エクソシストになるつもりはあるかい?」


その言葉に、は大きく頷いた。
もとよりそのつもりで、ここの門を潜ったのだから。


「私は…仇であるアクマと伯爵を…この手で倒したい」


その言葉にまた、イノセンスが光り輝き反応を示した。
まるでの言葉に呼応するかのように。


「うん、いい返事だね
 それじゃ、キミにこれから会ってもらいたい人が居る」


「会ってもらいたい人?」


それが誰だか分らない。
エクソシストとなる人は、必ず会っているのだろうかとぐるぐると考えてしまう。

けれどコムイの「着いて来れば分かるよ」という言葉にしぶしぶ頷き、後ろを追うように歩きだした。









To be continued.............................





初D.Gray-manの夢小説です。
とりあえず原作沿いですが…アレンが黒の教団に到着する前にヒロインには到着しててほしいので…(笑)
トリップ夢もいいかなぁ〜と思ったのですが、それはまた追々。

てことで、あちこち突っ込み満載かと思いますがスルーでお願いします。






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