「お、お、お…お前、まさかあの技を…また…」


「…だとしたら?」


動揺するアクマに、勝気な
そして、アレンは先ほど転換(コンバート)しつつあった腕の感覚を思い出し、再度挑戦し始めた。
ボコボコと変わり始める左腕。
けれど、アクマはそれに気づける程の余裕などなくなっていた。


「私は命を賭けてアクマを倒す その為にここに居る」


そう言うと、武器を手にした腕をズポッとアクマが纏う砂の中へと戻した。














S.V 第十話













「くそっ!!」


そう叫ぶと同時に、はアクマの外へと吐き出された。

ドシャッ…

砂の中に埋もれるように落ちた
そのタイミングを見計らっていたように、アレンは転換(コンバート)した銃器のような左腕をアクマに向けた。
そして、臆することなく撃った。


「ギャア!」


悲鳴を上げ、慌てて砂の中へと姿を隠すアクマ。
地面へと沢山突き刺さった細長いエネルギー体に降り立ち、地面をアレンは睨みつけた。



キレて……る?



その時、は率直にそう思った。
先ほど、の事があり怒りは一度収まったものの、やはり地面に倒れるやグゾルやララを見れば怒りが再熱したのだろう。


「そんなんじゃー砂になってる私は壊せないよ〜」


負けないと言わんばかりの口調で、アクマはアレンを挑発した。
きっと、一番してはいけなかった事だろう。

けれど、アクマの挑発に何も返さずアレンは再度銃器をアクマへと向けた。

ジャキッ…

アレンがエネルギー体を打ち出したのと同時に、アクマはアレンの左腕を模した右腕を突き出した。
まるで伸びる様に勢いよくアレンへと向かう腕。
けれど、アレンはそれを易々避けるも、目の前に迫ったアクマには反応が遅れ砂の中に閉じ込められてしまった。


「────アレンっ!?」


「ケケケケケケケ 捕まえた捕まえた!お前、もう駄目だな」


驚くとは裏腹に、冷静にその様子を見る神田。
そして、アレンを捕まえたアクマは楽しげに声を上げアレンを包む砂の腹をバンバンと叩いた。



暗くて何も…見えない…



アクマの纏う砂の中、アレンはそうポツリと思った。
暗闇の中では、どのあたりに居るのかという情報さえ見えないのだ。

全ては、アレンの勘や気配を探る力にかかっていた。


「何回刺したら死ぬかなぁ〜〜〜?」


そんなアレンをつゆ知らず、アクマは指先を尖らせた右手で何度も何度も自身の腹を刺した。
砂を通し、その攻撃をアレンに当てる為に。

ドスドス ドスドス

ドスドスドス ドスドスドス

何度も何度も、鋭い指先を腹に突き刺した。
逃れようがないんじゃないかと思わせるほどに。


「ウォーカー殿!」


楽しげな奇声を上げるアクマの声に被り、トマが慌てて声を上げた。
しかし、アクマのその様子を神田は冷静に見ていた。


「アレ、ン…死ぬ、な…まだ…まだ話してない事が、まだ聞いてない…事がある…」


「大丈夫だ」


の言葉に、神田はジッと視線を離さずに答えた。



殺気が消えてない
だから大丈夫だ…



そんな思いが胸にあったからこそ、ハッキリと言えた言葉だった。

ガキィイイン!!!

その直後、大きな音がアクマの方から聞こえた。
何か堅いものにぶち当たるような、大きな甲高い音。


「ガキ…?」


疑問そうに突き刺した腕の先を見るアクマ。
そんなアクマの背から、転換(コンバート)したままの左腕にアクマの鋭い指先を突き刺したまま飛び出て来たアレンが居た。


「─────!!!」


その様子に、は息をのんだ。
無事だったが、寄生型は対アクマ武器の損傷は痛手ではないのだろうかと。

バキンッ!!!

そんな事を悠長に考えていると、再度上がった甲高い音。
それは割れる音だった。


「槍が!」


まさか壊れるとは思っても居なかったアクマは、心の底から驚く声を上げていた。



十字架が(イノセンス)が神経を伝い脳に直接教えてくれる
脳が身体を動かす 新しい対アクマ武器の…使い方…



目を細め、意識を集中させるアレン。
理解した瞬間、アレンの左腕が銃器の形から槍の様な鋭い形へと変化した。


「アレン、の…対アクマ武器が…転換(コンバート)された…?」


その様子は、アレンがどれだけこの戦いで成長したのかを物語っていた。
同じ新人ながら、動けず、盾にされていたは己の未熟さに悔しさを覚えた。

ズ…ザンッ…!!!

図上から足元まで、一直線に斬りつけたアレン。
アクマを覆っていた砂の皮膚が、一瞬にして剥がれ落ちた。


「これで生身だな」


その言葉と同時。

ドシャッ…

覆っていた砂が地面に落ち、その直後にアレンが砂の上に着地した。
エネルギーの槍を銃器の形へと転換(コンバート)しながら。


「写し取る時間はやらない すぐにぶち抜いてやる」


キレたアレンがこれほど怖いとは思わなかった。
鋭い目つきでアクマを睨み、銃口を向けた。

エネルギーが銃口に集まり始め、狙いを定めた。


「まだお前の腕が私には残ってるもんね!」


そんなアクマの言葉を無視し、アレンはエネルギーを発射した。
無数のエネルギーが槍のように発射され、アクマを襲った。


私は醜い人間だよ…ララを他人に壊されたくなかった


思い返されるグゾルの言葉。


ララ…私が死ぬ時、私の手でお前を壊させてくれ


脳裏を過るたびに、願いを叶えられなかった事が悔やまれた。

ゴッ…!

無数のエネルギーがアクマに向かい突き刺さる。


「グゾルは…ララを愛していたんだ!許さない!」


抱き締めあうグゾルとララ。
それが一番鮮明に二人の愛情を映し出す姿だった。


「なんで…なんで同じ奴の手なのに…何負けそうなんだよぉ!!!」


アクマの写し取ったアレンの左腕。
アクマの右腕にある腕がボロボロと砕け始めた。



貴様じゃそれが限界なんだよ
たとえ同じ武器だとしてもな…使い手が違う



アレンとアクマの戦いを冷静沈着に見守る神田。

も必死に戦いを脳裏に刻み込もうと、薄れる意識を保っていた。
ただ、もう言葉を発する気力も残っていなかった。



対アクマ武器を真に扱えるのは適合者(エクソシスト)だけだ
イノセンスとシンクロすればする程、エクソシストは強くなれる



エネルギーを打ち続けるアレンを見つめ、説明するように心で呟く神田。
その言葉はアクマには届いていなかった。
けれど、同じエクソシストである者ならばいつかは感じ理解する事だった。


「おおおっぉぉぉおおおおお!!!」


雄叫びを上げながら討ち続けるアレン。

ドクン

瞬間、鼓動が大きく脈を打った。
熱いものが喉の奥から込み上げてくる感覚を、アレンは即座に感じ取った。
だからこそ、瞳を見開き動きは止まった。


「!?」


ゴフッ…!!

真っ赤な血を吐きだしたアレンの左腕は、イノセンスの発動が止められた。
銃器の形をしていた腕は瞬時、右腕と同じ大きさの赤い腕へと変化したのだ。



しまった…



地面に膝をつき、下を見つめながら何度も咳き込んだ。
そのたびに込みあがってきた血が吐き出される。



リバウンド!
成長した武器についていけてないのか



「もらった!!」


アレンがそう思った瞬間、聞こえたアクマの声。
好機とばかりに動けなくなったアレンに飛び付いたのだ。


「アレ────」


キィイイィィンッ!!!

が慌てて名前を呼ぼうとした瞬間、それとは違う音が響いた。
アレンを引き裂く音でもなく、アレンがアクマを破壊する音でもない音。


「!?か、神田!」


「ちっ」


アレンは自分を庇う神田に驚きの声を上げ、丸くした瞳で見つめた。
ギリ、と歯を噛みしめ神田は六幻でアクマの攻撃を受け止めていたのだ。

じわりと傷口から、真っ赤な血が滲むにも関わらず。
見捨てる発言をしたにも関わらず、神田はアレンの絶えようとしていた命を助けた。



私は…ただ叫ぶだけしか…出来なかった
神田も同じくらい酷い怪我だっていうのに…私、は…



ギリ、とは神田を見つめ奥歯を噛みしめた。
悔しい気持ちが沸々と湧き上がる。


「こんな土壇場でヘバってんじゃねぇよ!!この根性無しが…!!」


般若のような表情を浮かべ、神田はアレンへと叱咤した。
くわっ、と噛み付きそうな程の勢いで神田は言葉を紡ぐ。


「あの二人を守るとかほざいたのはテメェだろうが!!
 を助けるべく行動したのも、テメェだ!!」


ギリギリと、上からの圧力は増すばかり。
アクマは攻撃を止めようともせず、神田が攻撃を受け止めていられるのも時間の問題だった。


「お前みたいな甘いやり方は大嫌いだが…口にした事を守らない奴はもっと嫌いだ!!」


「どっちにしても…嫌いなんじゃないですか」


神田の言葉に、アレンは乾いた笑みを浮かべた。

ドクッ…

ドクッ…

静かに、けれど確かに脈打つ鼓動にアレンはゴクリと息を呑んだ。
そして対アクマ武器の左腕で口元に付いた血を拭った。


「別にヘバってなんていませんよ
 ちょっと休憩しただけです」


それはただの強がり。
けれど、アレンと神田の間に言葉はそれだけでも十分だったのかもしれない。

共に闘った仲間。
それだけで相手を理解し始めるには十分な出来事なのかもしれない。

これから徐々に、相手の理解を深めていけば、十分なのかもしれない。


「……いちいちムカつく奴だ」


その言葉と同時に、神田は受け止めていたアクマの右腕を斬り上げた。
まるで、力が強くなったかのように。
まるで、いきなり強くなったかのように。


「な、にっ!?!?」


その出来事に驚かないアクマではなかった。
目を見開き、驚きの色を隠せない。



あと一回もってくれ、イノセンス…!!
発動!



歯を噛みしめ、心の中で強く思う。
グッとアレンは左腕を上に突き上げた。
銃口をアクマに向けて。


「「消し飛べ!!!!」」


アレンと神田の声が強く、重なり合った。
アレンのエネルギーが槍の様にいくつも銃口から発射され、神田の六幻から幾つもの蟲が放たれた。
それがアクマを襲い、破壊した。
爆発音と共に「エクソシストがぁ〜〜〜〜!」という声が聞こえたような気がした。

ドシャッ…


「か…んだ アレ、ン…」


倒れた音に視線を向ければ、仰向けに倒れた神田の姿とうつ伏せに倒れたアレンの姿が目に留まった。
そして空から、アクマに捉われていたイノセンスが落下し。

トサッ

小さく音を立て砂地に埋もれた。


「イノ…センス?」


聞こえた声はアレンのものだった。
ピクリとその声に、砂地に倒れたままのの瞳は安堵の色を含ませた。


「生きてて…下さい…もう、一度ララに…」


伸ばす手は必死に埋もれたイノセンスに向けられた。
アレンは必死に、イノセンスをその手に掴もうとしていた。

けれど、戦闘で痛手を負った身体はうまく動いてはくれなかった。









To be continued.....................





原作二巻、終了間近!!!
ヒロインがあまり活躍できず申し訳なく…!(><)
原作では、この後神田は別行動に入り活躍がめっきり減るのですが…ちょっと変わります!
変わりますので、楽しみにしててください!!!ウハッ☆






S.Vに戻る