誤解を解かなくちゃ

ちゃんと話さなくちゃ

私はアクマじゃないって…











S.V 第十一話











『いいねぇ、青い空
 エメラルドグリーンの海 ベルファヴォーレ イタリアン♪』


「だから何だ」


電話越しにテンションの高いコムイに、神田はベリッと頬に貼っていたガーゼを外した。
発する声は面倒そうなものだった。


『何だ?フフン♪
 羨ましいんだい!ちくしょーめっ!!』


荒々しく声を上げながら、コムイはムッとした口調で呟いた。
受話器の向こうから、ポムポムと叩く音がする。

コムイの立場上から考えて、その音は判子か何かを押している音だろうと神田は判断した。
しかし何も言わず、テンションの高いコムイの言葉に耳を傾けていた。


『アクマ退治の報告から三日!何してるのさ!!
 ボクなんか皆にこき使われて、外にも出られない!』


「…」


『まるで、お城に幽閉されたプリンセ…』


「うるせーな 喚くな」


キャンキャンと鳴く動物のように、言葉は絶え間ない。
いつの間にか話がプリンセスへと移行しようとしている事が分かり、神田は言葉を切った。
いつまでも聞いていても、話は終わらないような気がした。


「文句はアイツに言えよ!つーかコムイ!俺、アイツと合わねェ」


『神田くんは誰とも合わないじゃないの
 ああ、ちゃんは別だったかな』


神田の言葉にズバッと言い切るコムイ。
しかし、ふとはそこまで合わないってわけじゃなかったかと思いだした。

確かに喧嘩腰だったり、言い合いをしていたりしていたが、みた感じそこまで感じはしなかった。
を認めている部分もあり、また前の任務後にの事を問い掛けても不機嫌極まりない態度で答えはしなかったから。


『で、アレンくんは?』


「あの都市にまだ人形と一緒に居る!!」


コムイの言葉にムッとする神田。
問い掛けにイライラとした雰囲気を漂わせた口調でハッキリと答えた。

ブチッ

点滴の針を抜きながら呟く表情は、まるで般若のようだった。


『…そのララっていう人形 そろそろなのかい?』


「多分な もうアレは五百年動いていた時の人形じゃない
 じき、止まるな」


コムイの真剣な声に、神田も真面目な口調で答えた。
雰囲気が、ガラリと変わったから。

人形の命は、刻一刻と削られていた。


「ちょっとちょっと!!何してんだい!安静にしてなきゃ駄目だろう!」


「帰る 金はそこに請求してくれ」


ドクターの慌てた言葉に平然と答える神田。
受話器を持ったまま、ピッとトマを指差した。

手渡す名刺に一度視線を向けるも、ドクターはまた慌てて神田へと視線を戻した。


「駄目駄目!駄目に決まってるだろう!あなた全治五か月の重傷患者だよ!」


「治った」


「そんな訳ないでしょ!」


答えるドクターの言葉は予想の範疇。
だからこそ、身体中に巻いた包帯を外しながら淡々と返せたのだ。
それでも、ドクターにはドクターの考えもありなかなか引き下がりはしなかった。


「神田なら大丈夫だよ、ドクター」


「あなたも!!」


現れたのは、神田よりも軽いがそれでも安静は絶対であるはずのだった。
すでに団服へと着替えも終わり、扉の向こう側に佇んでいた。


「ここで治るの待ってるほど、暇じゃないんだよね
 傷も縫い合わせてあるし、体力も回復した…行くよ」


「世話になった」


肩をすくめ、そういうの言葉の直後。
神田は外した包帯をぐるぐるに巻いたまま、ドクターに突き出した。
そして白いワイシャツを着ながら言った一言だった。


『今回の怪我、時間がかかったね 神田くん』


「でも治った」


『でも、時間がかかって来たって事はガタが来始めてるって事だ』


微かに耳に届くコムイの声。
けれど全ての言葉は耳には届く事無く、いったい何の話なのかとは首を傾げた。


『計り間違えちゃいけないよ キミの命の残量をね…』


けれど、運よく聞こえたコムイの声はもしかしたら聞いてはいけないものだったのかもしれない。
の顔から表情が消え失せた。



命の残量って…計り間違えちゃいけないって…
どういう…事?



そう思うも、口にするのは躊躇われてしまう。


『で、神田くん ちゃんにも代わってもらえるかな?』


「ああ」


差し出された受話器に、は私?と言わんばかりの視線を向けた。
その視線に答えるべく、神田はコクリと頷いた。


「もしもし コムイ室長?」


『ああ、ちゃんだね 大丈夫なのかい?神田くんと一緒に退院しちゃって』


それが心配だったのか、とは苦笑を洩らした。
受話器越しに聞こえるコムイの声は、本当に心配一色だった。


「大丈夫 体力も回復したし、傷口も縫い合わせてもらってるし…
 こんな所で何か月も待ってる程、暇じゃないでしょ?」


『まぁ、確かにそうなんだけど…』


「心配はご無用だよ、コムイ室長」


『それなら…いいんだけどね』


本人が大丈夫だと言っているのだから大丈夫だと言い張る
何よりも、前線から抜けてしまう事が嫌だったのだ。
ベッドの上で、誰かがアクマと対戦している事を考えれば考えるほど、胸が軋む。


「それより、コムイ室長 アレンどうにかしてもらえない?」


『え?何かあったのかい?』


の突如の言葉に、コムイも驚きの色を見せた。


「何かも何も…私の事アクマと勘違いして攻撃仕掛けてきたんだよ?」


そのの言葉に、コムイは「あちゃー」と呟いた。
ほんの小さな微かな声だったが、の耳に軽微だったが届いた。


『そうだったのかい ちゃんとアレンくんには説明しなくちゃいけないようだね
 あの目を持つ為か…ちゃんの呪いに反応してしまったんだろうね

 ちょっと神田くんに代わってもらえるかい?』


あれこれと考えを巡らすコムイ。
きっと、この電話で指示する内容もすでに決めていた事だろうにの言葉でいくつか見返さなくてはならなくなったようだ。

「よし」と受話器の向こうから聞こえた次の瞬間、コムイから紡がれた指示に頷くとは神田に受話器を手渡した。


「なんだよ」


『つれないねー神田くんは』


「イタ電なら切るぞ コラ」


変わった直後聞こえた神田の不機嫌な声に、コムイはつまらなさそうな声を上げた。
それが神田の癪に障ったのか、切る発言。


『ちょっ、それは困るよー』


「じゃー何だ」


『この後の予定の話だよ 本当なら次の任務に向かって貰う予定だったんだけどね』


「別に構わないだろ
 イノセンスはモヤシに持っていかせれば だって居るわけだし」


コムイの話にはぁ?と言わんばかりの口調で呟いた。
いつもなら、共に誰かと任務をした場合片方にイノセンスを持っていかせ、もう片方に任務を出す。
という事は珍しくはなかった。


『そのちゃんとアレンくんが問題でね…』


コムイのその言葉で、神田は思い出した。


神田!そのエクソシストはアクマです!!


そう言ったアレンの言葉を。


「そういう事か…」


『あ、分かってくれたかい?
 ということで、アレンくんとちゃんと一緒に、一度教団に戻って来てもらえるかい?』












「歌だ…」


「ああ」


アレンの居る場所へ向かえば向かう程、大きくなる歌声。
それはララのものだったが、少しだけ何かが違う感覚がした。

それは、もうグゾルと共に何十年も過ごしたララではないからだろう。


「あれ?アレン…」


「ったく…
 何寝てんだ しっかり見張ってろ」


「!」


階段に座り、両膝を抱き抱えるようなアレンを見つけたのはだった。
その言葉に神田はため息をつくと、鋭い口調を向けた。


「神田 少し位アレンの事考えてあげてよ」


ずっと、痛々しいまでのララの声を聞いていたアレン。
辛い気持ちはきっと胸に芽生えているはず。
けれど、の言葉に神田は舌打ちしか返さなかった。


「あれ…?と全治五か月の人がなんで、こんな所に居るんですか?」


「動けるようになったからだよ」


「俺は治った」


アレンの問いに、は苦笑した。
そして短く言い張るのは神田だった。
あり得ないその言葉に、アレンは「嘘でしょ…」と呟くも「うるせェ」という神田の言葉に切り捨てられた。


「コムイからの連絡だ
 このまま俺達は一度教団へ戻る」


「…分かりました」


神田の言葉にアレンは少しだけ間を空けた。
沈黙が空間を占め、誰も言葉を発しようとはしなかった。


「辛いなら人形止めてこい」


「…そうだよ、アレン あれは、もう─────…『ララ』じゃないでしょ?」


神田との言葉にアレンは首を左右に振った。
決して首を縦に振る事はなかった。


「二人の約束なんですよ
 ララを壊すのはグゾルさんじゃないと…駄目なんです」


「でも────…」



グゾルはもう生きてないのに…



アレンの言葉にはそう言葉を発しそうだった。
けれど、喉より先に出すまいと言葉を飲み込んだ。

生きていないという事実は、アレンが誰よりも強く分かっている事だから。


「甘いな、お前は」


「神田!?」


「俺達は『破壊者』だ 『救済者』じゃないんだぜ」


神田の言葉には驚きを隠せずにいた。
今言わなくてもいい事ではないかと。

その言葉は、アレンにとって心に突き刺さるものなんじゃないかと。
だからこそ、神田の発言の後に何も言わず無言で居るアレンが心配になったのだ。


「……分かってますよ でも僕は…」


ヒュォオォォオオオ…

アレンが何かを言葉にしようとした。
けれど、後ろから吹きつける冷たい風により言葉は途切れさせられた。

いや。
もしかしたら、それは風だけではなかったのかもしれない。


「歌が…止まった…」


「ララが…人形の活動が…」



終わったんだ…漸く…



アレンの発言に続き、が声を漏らした。
歌の終わりはララの死を意味する。

ジャリ…

地面を踏みしめる音を立て、アレンは静にグゾルを膝に抱き歌う形で止まったララを見つめた。




グゾルが死んで三日目の夜。

人形は止まった。

グゾルを膝に抱いたまま…




静かに、ララの傍にアレンはしゃがみ込んだ。
それは任務遂行のため。
ララに埋め込まれたイノセンスを回収する為。

けれど、アレンはこの時思いもしていなかった。
ララからの幻聴のお礼が聞こえるなんて。

もしかしたら、それは幻聴ではなくそこにあった魂のお礼だったのかもしれない。


「アレン?」


遠くから、が声を掛けた。


「神田…
 それでも僕は───────…誰かを救える破壊者になりたいです」


風が舞い、冷たい感触が身体をすり抜ける。
涙ぐむアレンの震えた声が、そんな夜空に静かに響き渡った。







To be continued...................





アレン君、ヒロインと違って純粋にアクマを破壊する者になったようで…
なんか、ヒロインが黒だとアレンは白く感じます…(笑)
まぁ、原作の後半に向かうにつれてアレンってば黒く染まりあがっちゃってますけど…(笑)
原作沿いで行けば、この後コムリンUが登場する予定なのですが…ぶっ飛ばします。(笑)
一体何のために神田を任務に出さず連れ帰ったのさ!(笑)






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