変わり続ける私の─────…武器。
それはまるで、変わり続けない私の─────…心の対のようだった。
S.V 第十二話
「…遅い」
「神田、仕方ないよ 嵐なんて私達人間がどうこう出来るものじゃないんだから」
ムッとした表情を浮かべ、列車に乗る為に佇む神田。
そんな神田に肩を竦め、呆れた口調で言葉を返すのはだった。
一行はあの後、教団へ戻る為に列車に乗るはずだったのだが嵐に遭遇した為に出発出来ずに居た。
駅のホーム──と言っても雨の凌げる場所に移動しているのだが──でいつ来るかも分からない列車を待っていた。
「…どうしましょう これじゃぁ、イノセンスを早く届けられません…」
「アレンも、そう落ち込まないの!こういう事だってある事なんだからさ!」
実際のところ、そうなのかは分からない。
もアレンと同じく、まだ入ったばかりの新人なのだ。
けれど、ここで一緒に落ち込んでいても意味はなかった。
「………はい」
しょんぼりとしたアレンの返事に、は盛大に肩を竦めた。
口から吐き出される息は冷たく、嵐の凄さを物語っていた。
「なかなかおさまりそうもないし、私はちょっくら出掛けてくるよ」
くるりと踵を返し手を振った。
歩むペースは止まることなく、は駅の出入り口へと向かっていた。
「神田、止めなくていいんですか?」
「どうせ嵐がやめば出発するのは分ってるんだ 放っておけ」
そんなの背を見つめながら、アレンは神田に問う。
しかし返ってきた答えは、意外にも突き放したものだった。
いいんだよ…アレン
今は…一人になりたいんだから…さ
改札口を出ながら、二人の会話が聞こえていた。
クスッ、と微笑みながら内心言葉を紡いでいた。
神田がそれを察して言ったのか、それともそうじゃないのかは知れない。
それでも、一人でいられるのは神田のあの一言があったからだった。
ザァァァァァ…
サクリ…
雨が降る中、ただひたすら歩み続ける。
ビュゥゥゥゥ…
サクリ…
サクリ…
風が吹く中、ただひたすら歩み続ける。
風で雨が全身に打ちつけられ、ズッシリと重みを帯びた団服。
顔に髪が張りついても、冷たい雫が顔のラインに沿って流れても、気にせずに歩き続けた。
「…私の武器は、どうして変化してるの…?」
違う技、というのならば納得は出来る。
けれどそうではないのだ。
同じ技。
けれど、変わる技。
その事に不安にならないわけがなかった。
────…誰も、答えてくれるわけ…ないよね
誰もついていないのだから当然の事。
なのに疑問形で言葉にしてしまった事実に、は苦笑を浮かべた。
「あの円の形の事か?」
「としか思えませんがね」
「────っ!?」
聞こえた二つの声に、は驚きの色を瞳に携え振り向いた。
こげ茶色の髪が揺れ、髪と髪の間から二つの姿が目に留まる。
か、んだっ…アレンッ!?
「どうして…ここにっ」
居るとは思っていなかった人物が現れた事に、動揺を隠せなかった。
泳ぐ瞳は、アレンと神田を交互に見つめ幾度も瞬きをしていた。
「こいつがうるせェんだよ 一人にするのは危ないって」
「だって、あの戦いの後ですよ!?
僕みたいな怪我なら大丈夫でしょうが…結構酷い怪我だったんです!」
「だから、お前を一人にするのは危ないから追えだとよ」
アレンの気迫に神田は大きな溜め息を返した。
あの神田がアレンの押しに負けたという事に、は意外だった。
何の理由があろうとも、それだけの事で追ってくるとは思っていなかったから。
「ははっ 神田らしくない…」
「うっせぇな!」
の言葉に、神田はプイッとソッポを向いた。
どうやら当の本人も自分らしくない事を重々承知のようだった。
「らしくねぇのは、モヤシもそうだろ」
「ちょっ!僕はモヤシじゃなくて、アレンですってば!」
「確かにアレンもらしくないかもねぇ〜
あんなに私の事アクマだアクマだ言ってたのに」
肩を竦め、クスクスと笑いながら神田の言葉に同意。
その様子にアレンはガビーンとショックを受けたご様子。
「基本無視ですかっ!?ちょっと!」
そうツッコミを入れるも、すぐに立ち直り。
コホン…
一つ咳ばらいをした。
スッ、と瞳を細めを見つめる様子は突き刺さるものを感じさせた。
「…アレン?」
「モヤシ…?」
その様子に、ただならぬものを感じたと神田は同時にアレンの名を口にした。
といっても、神田に至ってはあだ名の様なものなのだが。
「確かに、アクマの仲間でないのは今回の戦いで良く分かりました
ですが…僕はまだ、を認めたわけじゃありません
そのアクマの五芒星(ペンタクル)…それから、僕の左目に移るソレも…不安の要素ですから」
アレンの言葉は、ズッシリとの胸に突き刺さった。
アクマの仲間ではないと分かってもらえたのは嬉しかった。
「それに関してはちゃんと話すよ、アレン 教団の皆も知っている事だからね
それに私もアレンに聞きたい事があるし」
急かさないでと言わんばかりに言葉を口にした。
話さなければいけない事が、にはあった。
そして、聞かなければならない事もあった。
「で…あの円の形がどうかしたのか?」
「っ!」
神田の問いかけに、ビクリと肩を揺らした。
の瞳が恐る恐る神田の瞳を捉え、視線を逸らせなくなった。
そうだ…聞かれてたんだ…
答えが欲しかったのに…聞かれてると分かった瞬間、ビクつくなんて…馬鹿みたい…
事実に苦笑ばかりが浮かぶ。
けれど、それは顔には出さず心のうちに秘めておいた。
「うん…ちょっと、技を使うたびに…形が変わってる気がして…」
「…教団に戻ったら、コムイに話してみればいいだろ」
「あ、うん そう────…だね」
気になる事、それはイノセンス…対アクマ武器の事。
ならば、科学班のコムイにでも聞いてみるのが一番という神田の答えは最もだった。
武器の損傷を直したり、イノセンスをその特性に合った武器に加工したりするのも科学班の仕事なのだから。
もしかしたら、何かが分かるかもしれない。
戸惑いながらも、当然の答えに間の抜けた返事を返した。
「って こんな場所で立ち話なんてしてたら風邪引いちゃいますよ!」
「あははは 確かにそーかもしれない…」
アレンの慌てた言い分に、は空笑いを浮かべ同意した。
と言っても、すでに頭が回らなくなってきているだったのだが。
「まぁ…もうびしょ濡れだから意味ないかもしれないけど…」
びしょびしょに濡れて水分を含んだ重い前髪。
それを人差し指と親指で摘みあげた。
「それでも、このままよりはマシでしょう!?
ほら、屋根のある場所に早く行きましょう!!」
パシッ…
アレンに手を握られ、サクサクと進む足取りに慌ててペースを慌てる。
けれど、徐々に目の前が回り始めるにそのペースはいささか早すぎた。
「おい、モヤシ!止まれ!」
「─────え?」
神田の言葉に、アレンは漸く後ろを振り返った。
その瞬間だった、神田とアレンの目の前での身体がグラついたのは。
グラ…
「っ!おい、!?」
倒れかけたを間一髪で抱き止めたのは、の手を握っていたアレンではなかった。
少し離れた場所で、先を歩く二人を見つめていた神田だった。
きっと、後ろを歩いていたからこその異変にいち早く気づけたのだろう。
「……ごめ…ん も…無理…」
荒い息をしながら、真っ赤に染め上げた顔。
今にも閉じてしまいそうな瞳で神田を見つめ、いつものからは想像も出来ない弱々しい声で呟いた。
「…っそ!病み上がりで雨の中佇む馬鹿が居るか!!」
閉じられた瞳。
を見つめながら、神田は荒い声を上げた。
傷口を縫い合わせ、歩けるようになったからと退院した。
けれど、神田とは違いまだ本調子ではないのだ。
そんな所にこの嵐の騒ぎと、雨の中に佇んでいた事が最悪を生んだ。
風邪と、傷口からの熱で倒れてしまったのだ。
「モヤシ!どこか宿を探せ!!」
「はっ、はい!」
モヤシの言葉にムッと反応するものの、今はそれどころではない。
慌てて返事をすると、駈け出した。
神田はその後をを抱き抱えたまま追い掛けた。
To be continued.....................
ということで、オリジナルストーリーが入りまっす!
一応、途中でアレンにはご退場願いますので…アレン好きの方はお覚悟を…(苦笑)
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