互いに大きくなる存在感

不思議な感覚は、徐々に姿を現し始める─────…











S.V 第十四話












チュンチュン…

   チュンチュン…

静かに窓の外で鳴く鳥の声に、目を覚ましたのは神田だった。
ソファーに深く腰掛けて横になっていた神田は、ゆっくりと瞳を開き。


「……おはよう、神田」


ベッドの上に起き上がっているの声で、ようやく意識が覚醒した。


「病人放っておいて眠りこけるなんて…神田は神経図太いねぇ」


「大事な任務直後に風邪で倒れる奴ほど神経図太くねェよ」


「んな!しょーがないじゃん、大雨だったんだから!!」


の言葉に喧嘩越しに言葉を返す神田。
勿論、その言葉が癪に障ったは、喧嘩越しに返すのは当然の事。

この後も、神田の喧嘩越しの言葉が代えてくるのもいつもの事。
そう思っていた。


「そんだけ元気なら出発出来るな」


「…ほへ?」


「何間抜けな声漏らしてんだ、てめェ」


予想外の展開に、は素っ頓狂な声を上げてしまった。
その事に呆れた表情を浮かべ、神田は突っ込みを入れるもソファから立ち上がり荷物をまとめ始めた。


「ちょっと!何、一人で先に行こうっての!?」


「てめぇが遅いだけだろ」


「んな!病み上がりの乙女を一人放置すると!?」


「誰が乙女だ、誰が」


「ちょっと、それはいくらなんでも聞き捨てならな────い!!!」


元気な時の二人のやりとり。
それはやはり顕在だった。


「…ったく、さっさと用意しろ 外で待ってる」


「…りょーかい」


肩を竦めた神田に、苦笑を浮かべた
軽い口調で返事を返すと、部屋を出て行く神田の後ろ姿を見つめた。

そうしてから漸く取りかかる出発準備。
といっても、荷物はそこまでなく軽く身なりを整えるくらいだろう。



……うん、やっぱりこういうのが私と神田だよね…



クスクスと、いつものやりとりに笑みが零れてしまうのは昨日の不思議な出来事があったから。
なんだかこの二日間、いつもという感じがなくてもどかしかったのだ。

何故、こう違うのかと心の中で眉をひそめてしまう。












「おまたせ、神田」


「おせぇ」


「これでも急いだんだからね!」


団服に身を包み、対アクマ武器の真空を背に漸く姿を現したに不機嫌極まりない言葉を投げる神田。
これも、いつもと同じ神田。

ムッとした表情を浮かべ、神田へと抗議を向けた。
そう、確かに身支度には時間はかからない。
大きな荷物があるわけでもないのだから。


「急いでほしいなら、私が用意してる間に宿のチェックアウトして置いてくれても良かったんじゃない?」


ごもっともな言い分に、神田は返す言葉もなかった。
「ゔ…」と小さくうめき声を上げ、ただ睨みつけるしか出来なかったのだ。


「神田は、私を待ってる間ボーっとしてたのかなぁ?」


「うっせぇ!さっさと行くぞ!」


の嫌みたっぷりな問い掛けに耐えられなくなった。
眉間のシワが徐々に色濃くなり、ドスドスと響きそうな足取りで二人は駅へと向かった。

過ぎ去った嵐。
これならば、通常運行の列車に乗れるだろう。

ポ──────!!!


、急げ!列車が出る!」


「分かってるって!黙って走れないの!?」


聞いていれば誰にでもわかる事実。
はそこまで馬鹿じゃないと言わんばかりの口調で声を上げた。

走る速度は落ちず、駆け込み乗車のように二人は列車に滑り込みセーフだった。


「てめぇが仕度すんのが遅いのがいけねェんだぞ!?」


「なっ!!!全部私の所為なわけっ!?」


「そうに決まってんだろ!」


「ふっざけんじゃねーよ!!」


が全て悪いと言い張る神田に、当然の如く反論した。
全てをの責任にされては冗談ではないのが一番の理由だろう。


「あー…さっさと座ろうよ」


肩をすくめ、手をパタパタと降りながら言い合いの終戦を示す。
勝手に言ってろと言わんばかりの態度。


「…ほら、神田 せっかく乗れたんだから、立ちっぱも嫌でしょ?」


そう言いながら、神田の返事も待たずには歩き出した。
どこか席はないかなーと辺りをキョロキョロと見渡しながら。


「…


「んあ?」


「こっちだ」


「は?」


呼ばれた名前に振り返り、言われた言葉にキョトンとした。
何がこっちなんだ?と首を傾げるも。

パシッ

の手は神田の手に掴まれ、ズイズイと有無を言わさず歩きだされた。
すれば当然、掴まれたも進まなくてはいけなくて。


「ちょっ、待ってって!どこ行くつもり!?」


必死に神田のペースに合わせながら早足で歩き、問い掛けた。
しかし、神田は一向に答える様子は見せなかった。


「あのさぁ、答えてくれなきゃ振りほどくよ?」


「勝手に言ってろ 女のお前に出来るわけねぇだろ?」


答えてもらおうと、そう言いだしたものの神田の言い分は正しかった。
男女の力の差なんて明らかで、今の年齢になれば十分差は開いてしまっている。

だからこそ、はムッとした表情を浮かべてしまうのだ。


「じゃー、痴漢だって大声で訴えても構わないわけ?」


「………」


さすがにそれは嫌だったようだ。


「すでに席は取ってある」


「………え?」


漸く答えた言葉に、またも間抜けな声を上げてしまう。
そんな返しが来るなんて予想できなかった。
といっても、こんな返しがくると思っていたという予想も出来ていなかったのだけれど。


「だからあんなに急かしたの?」


「ああ 席を取ったのに乗り遅れたんじゃ意味ねぇからな」


「…だから、チェックアウトの手続きしてなかったわけ?」


「………してる暇なんてなかったからな」


の問い掛けに、今度は答えた。
全ての疑問が解け、に苦笑が漏れる。



なんだ、そんな事だったんだ…



そう思えば、フフッと笑いが漏れてしまう。


「何笑ってんだ」


「別にー」


「ぜってぇ隠してんだろ!?」


「ほらほら、取った席まで案内してよー」


なんだか優位に立った気分になった
くすくすと笑いながら、ツッコミ(?)を入れる神田に催促。

チッと舌打ちが小さく聞こえるものの、の手を掴んでいた神田の手が外れた。


「最初から黙ってついて来てれば良かったんだよ」


「何か言った?」


「……こっちだ」


ボソリ

小さく漏れた神田の独り言。
それを聞き逃さなかったは、刺のある口調で問い掛ける。

まるで聞き逃したから教えてくれと言わんばかり。
何かを感じ取ったのか、神田は少し黙り込むと案内した。

その事に、が満足そうに笑みを浮かべたのは言うまでもないだろう。








To be continued....................




やっぱり神田はこうでなくちゃいけませんね。(笑)
てか、絶対ツンギレだよ…神田くん。
照れないんだよ…いや、照れるけど、その前に絶対キレるよ…神田くん。(苦笑)

さて、次回は漸く原作沿いに向かいます。
といっても、神田という存在があるのでオリジナルを結構含みますが…基本的な流れは原作沿いですので、ご注意下さい。






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