違うよ……違う………

私は確かに私─────…、だよ…










S.V 第十五話











「…い、いったい何が…?」


向けるの視線の先には、ベッドに眠るアレンの姿。
別れた後にいったい何がアレンに起こったのか。

事実は明らかに虚しいものだったのだけれど。


「…兄さんがちょっとね…」


苦笑を浮かべたリナリーの言葉に、何となく予想がついた。
といっても、何があったのかは分からない。
けれど、何かやらかしてアレンが被害にあったことは容易に想像がつく。

といっても、今の現状を見たからこその想像だけれど。


「………ん…
 ─────────っ!!!」


「わっ ビックリしたっ」


リナリーが驚くのは無理もない。
リナリーが少しだけ視線を離している瞬間に、アレンが小さく声を漏らし勢いよく起き上がったのだから。


「おはよう、アレン」


、それにリナリー」


起き上がったアレンに驚いた様子もなく、平然とごあいさつ。
気を失っていたアレンだけれど、からすれば関係もなかった。

額に乗せられていた冷たい水分を含んだタオルを右手でワシッと掴み、寝ぼけた口調で名前を呼んだ。


「こめんね、アレン君 兄さんの発明の所為で……」


椅子に腰かけながらリナリーが己の兄の起こした問題について謝っていた。
本来ならばコムイが謝るべきなのだろうけれど、現在コムイは居なかった。

きっと、コムリンUと反省中だろう。


「ここは…?」


「科学班研究室 城内の修理で皆は出払っちゃってるけどね」


アレンの問いかけにリナリーは親切に答えた。
あちらこちらから上がる修理の音に苦笑を浮かべて肩を竦め、「ほら、あの音」と指摘。


「あ…そういえば…」


「え?」


「これ…コートの中に入ってた」


何かをふと思い出したリナリーはごそごそと何かを取り出し、アレンへと差し出した。
両手で包むように差し出された手の内には、アレンが回収したイノセンスが入れ物に入って乗せられていた。

綺麗に輝く、エクソシスト達の大切なもの。


「あ、イノセンス!よかった…壊れてなくて…」


「ヘブラスカの所に持っていけば保護してくれるよ」


「あ、そうなんですか?わかりました…じゃぁ、早いところ持っていかないと…」


入れ物を受け取りながらホッとしたのもつかの間。
リナリーの言葉を受け、アレンは早くと立ち上がろうとした。


「アレン君」


「はい?」


けれど、リナリーの呼びかけにアレンの立ち上がる行動は制止された。


「おかえり も神田も、おかえり」


「た…ただいま……」


「ただいま♪」


アレンは照れ、は嬉しそうに微笑み、神田に至っては無反応。
それでも、きっと帰りを歓迎されるのは嬉しいのだろう。


「それじゃ、アレン行っておいで」


「はい」


のその言葉でアレンは立ち上がった。
イノセンスの入れ物を手にして、トンッと第一歩を踏み出す。

が。


「あ…


「ん?」


立ち止まり振り返ったアレン。
その事には首を傾げた。


「戻ってきたら…話、聞かせてもらいますからね」


「─────…りょーかい」


もともとそのつもりだったには、苦笑を浮かべるしかなかった。
コムイにも言われていた事なのだから、逃げるわけにもいかず。
逃げ続けても、いい事なんてメリットなんて、きっと何も─────…ない。












「…やぁやぁ」


「コムイ室長…いったい何やらかしたんだか…」


ボロボロになりながらも、手を振り明るく姿を現したコムイ。
肩をすくめ、先ほどの話を思い出し、呆れる


「そー言わないでよ 少しでも皆の苦労が軽減できるようにって…発明したんだから」


「逆に苦労が増えるのは、どうかと思うけど…」


しっかりと突っ込みを入れることは忘れずに。
そんな中、いつの間にか姿を消していたリナリーはトレーに人数分のマグカップを乗せて姿を現した。


「あ、リナリー」


「今、珈琲入れてきたの 飲むでしょ?」


椅子に腰掛け、前後に揺らしながら歩いてきたリナリーに気付いた。
声をかければ、にっこりと可愛らしい笑みを向けてくれる。

今、科学班研究室に居るのは、リナリー、コムイ、神田の四人だった。
そうして、戻ってくるはずのアレンの分のマグカップも持って。


「ちゃんと説明しろよな、モヤシに」


「わーってるって じゃないと、私だってやり難いって」


神田の言葉に肩を竦めながら、言われなくても分かってると言葉を口にした。
今回のマテーテルでの任務だって、確かに大変だったのだから。

言わずに居る、なんて選択肢はすでにの中にはなかった。


「ならいいんだけどよ…」


「なんか、神田変わったね」


を心配する様子に、リナリーが苦笑を浮かべた。
それは誰が見ても一目瞭然な変化だった。


「ハ?誰が変わったって?」


との会話でそう言われたことに、少しだけ不機嫌そうな視線が向けられた。
けれど、その表情すらも今までと違うように見えてしまうのだから不思議なものだ。


「…やっぱり変わったわよ、神田
 どこが…って聞かれたら答えにくいんだけど…でも、何となく…雰囲気かな?変わったよ、確かに」


リナリーの言葉に、その場に居る誰もが頷いていた。
も、そしてコムイも。


「ただいま戻りました」


そんな話の最中、アレンの声が響いた。
視線を向ければ、ガチャとドアが開き白髪がドアから覗き出る。


「おかえりなさい、アレン君 大丈夫だった?」


「はい 無事、ちゃんと届けてきました」


リナリーの言葉に満面の笑みでアレンは答え、そしてソファーへと腰掛けた。
リナリーの隣には、そして違うソファーにはコムイとアレン。
神田といえば、ソファーに座らずに壁に寄りかかり佇んでいた。


「神田くんは座らないのかい?」


「ああ 俺はここでいい」


コムイの問い掛けにノーと首を左右に振る。
壁に寄りかかったまま、ジッと四人の座るソファーの方へと視線を向ける。

それは、話を聞く態度。


…話を、聞かせて下さい
 どうして、僕の左目にアクマが映るのか…なのに、なぜアクマじゃないのか…」


アレンの言葉にコクリとは頷いた。

ゴクリ…

息を呑む音が、なんだか大きくこの空間に響いてしまう気がする程に緊迫していた。
だからこそ、なかなか声を紡げなかった。



駄目…ちゃんと話さないと…



そうもう一度、は己に活を入れた。


「私は…一度、両親をアクマにしてしまったんだ
 伯爵の声に耳を傾けちゃって…それで、右胸にアクマの五芒星(ペンタクル)を…呪いを受けちゃったんだ

 …アレンの、その左目の五芒星(ペンタクル)と同じだよ 私はアクマの皮にはならなかった…」


ポツリポツリと物語る昔の出来事は、血みどろだった。
アレンと似た境遇、似た結果。

そして、似ている事はそれだけではなかった。


「…クロス元帥が私を助けてくれた 傷つけられて、血だらけの私を…
 そして、その時に─────」


「イノセンスの適合者だと分かったのですか?」


の言葉を遮り問い掛けるアレンに、静かに首を縦に振った。
だからこそ、傷つけられた傷が塞がるのを待ち、教団へやってきたのだから。


「それから、クロス元帥に連れられて教団に来た だから、私はアクマのはずがない
 だって、私がアクマだとしたら…クロス元帥はアクマの破壊に失敗している事になる」


「────… ……」


あれほどの力を持つクロスが、そう易々と失敗するはずがないのは弟子であるアレンが良く知っていた。
だからこそ、の言葉を全面否定はできなかった。


「分かりました がアクマではないのは………認めます」


「アレン…」


「ですが、もう一つ引っかかるものがあるんです」


「え?」


認めるというアレンの言葉に、嬉しさが込み上げられた。
胸の内が暖かくなるような、そんな感覚を感じている時に告げられた言葉に、は眉をひそめた。


「───…が技を使うたびに、見えるアクマの状態が悪化しているんです」


「────────…っ!?」


アレンの言葉は衝撃的なものだった。
言われた当の本人である以外の、リナリーやコムイや神田さえも驚きを隠せずに居た。
アレンがアクマを見れるのは承知の事だったからこそ、その事実に驚かずには居られなかった。


「………それって、どういう事なんでしょうか?」


アレンのその問いが、にとって今は痛く突き刺さるものだった。
グサリと、胸の奥深くに突き刺さり今にも抉ってしまいそうな。



苦しくなる原因と…アクマの状態の悪化は………
もしかして…イコール、なの?



そんな疑問が不意にの脳裏に浮かんだ。









To be continued...................




どひゃーです、どひゃー!
とりあえず、和解。和解はしましたが……なんだかまだ危ない匂いがプンプンと…(汗)
まぁ、アレンの問いにヒロインが答えられるのかと問われれば…今の現状では『ノー』としか私からは言えませんね。(はははw)






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