は──────…私…



私は───────…誰…?










S.V 第十六話












「な……に、それ…」


漏らした声は震えていた。
ハッキリと「何それ」と言ったつもりだったには、驚きを隠せない真実だった。
何故、震えてしまっているのか。


「僕と同じように呪いを受けているなら…五芒星(ペンタクル)があるのは納得出来ます
 ですが……アクマが見えるのはおかしいと思うんです しかも、それが技を使うたびに悪化していってるなんて…」


アクマでなければ、アクマの姿が見えるはずはない。
けれど、からはアクマの姿が見えてしまう。
それでも、はアクマではない。


「…… …………」


「前に、言ってたな」


「え?」


何と言えばいいのか分からなくて無言で居ると、神田の一言。
何か、あるのかと全員の視線が神田に注がれた。


「技を使うと苦しくなると」


「……あ」


「そう言えば言っていたね」


神田の思いもしない一言に、アレンもコムイも反応を示した。
リナリーに関しては驚く様に目を見開いていた。

それはまるで、技を使う度に悪化しているのと技を使う度に苦しくなるのがイコールされているようだ。


「…アクマではないのに、アクマが内蔵されているかもしれない事と…悪化し苦しくなる…その理由が分かればいいんだけどね…」


コムイの一言は重かった。
理由が分からないからこそ、アレンはをアクマだと勘違いしたのだから。

それを一番強く感じたにとって、コムイの一言は本当に重かった。


「…私がアクマだったら────…それは当然の事なのにね…」


ちゃん!」


「…!」


ポツリと何気なく呟いた一言に、リナリーの厳しい声が上がった。
言ってはいけない事。
きっとそうだったはずだ。
だからハッとして、両手で口元を覆い隠した。


「ここに居る者は…教団に居る者は、誰もちゃんをアクマだなんて思っていないよ
 そうだよね?アレン君 神田くん?」


カチャリと眼鏡をかけ直し、コムイが言葉を紡いだ。
思っていない。
そう、教団の者は誰もはアクマだと思っていない。


「ああ」


「はい 師匠がアクマの破壊に失敗するはずありませんし…イノセンスを使えていますしね」


だからこそ、アレンと神田が頷くのは当然だった。


「…ありが…とう…」


震える声、震える肩、震える睫毛。
心から、本当に認めてもらえた事に喜びを覚えた。

同じ目標を持つ仲間、それを強く感じた瞬間だった。


「そのうち、きっと謎が解けるよ」


「リナリー…うん、そうだね!」


リナリーの優しい声に、にっこりと微笑んだ。
力強く頷いた。


「さて…話が纏まった所で…任務の話に移らせてもらうよ」















「あ、居た居た!」


「リナリー!アレン!こっちこっち!」


上がった声に、椅子に腰掛けていたは視線を向けた。
軽く手を掲げて振りながら、姿を現したリナリーとアレンに合図をした。
同じ宿に止まっていたが、リナリーとアレンは少しだけ遅れて部屋から出てきたのだ。


「ごめんね、遅くなって」


「いいって それより何か手掛かりは見つかった?」


リナリーの謝罪には苦笑を浮かべ首を左右に振った。
そして、リナリーには己の隣を、アレンには神田の隣を勧めながら。


「なんか、アレンくんが見つけたみたいで…」


隣に座りながらのリナリーの言葉に、の視線はアレンへと注がれた。
アレンといえば、兆度神田とにらみ合いをしながら隣に腰かける所だった。


「ああ、そうです これ…」


コクリと一つ首を縦に振り、それから差し出したのは一枚のチラシ。
その裏に、アレン特製の似顔絵が描かれていた。

※似ていないけれど。


「これは何?アレンくん!」


「…すみません」


差し出されたチラシを手にしたのはではなく、リナリーだった。
スッと横から伸びた手はリナリーのもので、描かれた絵を見てアレンをじっと見つめた。

鼻を擦りながら、どこか申し訳なさそうなアレンは少しだけ上目使い。


「すみませんじゃない どうして見失っちゃったの?」


「凄く逃げ足速くて…この人 でもほら、似顔絵!こんな顔でしたよ!」


リナリーの厳しい声に、慌てて言い訳を述べるアレン。
そしてすぐさま話題を変えようと、渡したチラシに描かれた絵を指し示した。


「………似顔絵?」


「……… ………これが?」


ジッとリナリーの持つチラシに視線を向けた
一瞬にしてその表情が凍り付いた。
問い掛けのリナリーの言葉の直後、この世のものとは思えない輪郭をした似顔絵を指差して顔を引きつらせ問い掛けた。


「あれ…?変ですか?」


「うん、変…」


「この世の者とは思えないよ ほら、神田もそー思うでしょ?」


「ああ 人間には見えねぇな」


アレンの問い掛けに個々の意見を述べる。
特にと神田に関しては辛口意見だったのだが。


「でも、こんな事なら全員別々に行動しないで一緒に調査すれば良かったね
 昨夜退治したアクマ…確かに、その人に『イノセンス』って言ったの?」


リナリーはチラシを自身の方へ引き寄せ、視線を落とし問い掛けた。
その言葉に目の前にいつの間にか運ばれて来ていた食事に手をつけながらコクリと頷いたアレン。


「はい 道に迷って路地に入り込んだら偶然見つけて…
 運が良かったんです たぶん、今回の核心の人物だと思いますよ」


ガツガツ…

ガツガツ…

勢いよく、凄い勢いで食事を進めながらもリナリーの問い掛けに答えるアレン。
誰がどう見ても行儀のいい行為とは見えないものだった。


「アレンくん 今度から絶対に一緒に調査しよう
 見失ったのも迷ったからなんでしょ」


少しだけ呆れ気味の視線が向けられるアレン。
食べる量に呆れもするが、アレンの迷う率の高さにも呆れてしまう。


「リナリーやの方はどうでした? ああ、あと神田も」


一度、食事の手を止め問い掛けた。
最後に神田を付け加えるように問い掛けたのは、ちょっとした嫌がらせなのかもしれない。


「コムイ兄さんの推測はあたりみたいよ」


ホットのカップを手にし、フーフーと息を吹きかけながら答えた。


「この街に入った後、すぐ城門に引き返して街の外に出ようとしたんだけど…」


「どういうワケか気付くと街の中に戻っちゃうんでしょ?」


「あ、ちゃんも試したのね?」


「まぁね」


話すリナリーの話で何を言おうとしているのか分かった

コク…

一口だけカップに口をつけ、ホットコーヒーを飲むと口を挟んで答えた。
どうやら、リナリーが離そうとしていたのはそれで合っていたらしく返された言葉に頷いた。


「じゃぁ、街を囲う壁を壊して出られないかは試してみた?」


「あ、それはしてないや どうだった?」


今度ははしていなかった。
だからふるふると首を左右に振り、同じ問いをリナリーに返した。


「何か所かで試してみたけど、ダメね 穴から外に出たと思ったら、街の中の元の場所に戻されてたわ」


呟く声は少しだけ残念そうだった。
もしかしたら、そう予想していたらそれはそうだろう。


「それじゃ、やっぱり…」


アレンすらも食べる手を止め、少し残念そうな表情を浮かべリナリーを見つめた。


「私達、この街に閉じ込められて出られないって事」


「イノセンスの奇怪を解かない限りはな」


コクコクとカップの珈琲を飲みながら呟くリナリー。
その言葉を繋ぐように、溜め息交じりに神田が続けた。

全く面倒な任務に巻き込まれたもんだと言わんばかりに。









教団に入団してから三か月、は四か月あまり
今回、僕とリナリー、そしてと神田にあてられた任務はコムイさんをほとほと困らせたものだった

といっても、実際にはと神田はこの任務には関わっていなかったはずだったんだ
だけど、僕との事があり…コムイさんが神田とをこの任務に追加参加させた



「たぶんね たぶん、あると思うんだよね…イノセンス」


書類の山に囲まれながらコムイはそう言った。
難渋したような、そんな難しい表情を浮かべ。


「といっても…たぶんだからね、たぶん 期待しないでね、たぶんだから」


ズザザザザ…

崩れる書類の山も気にもせず、埋もれながらも言葉を続けるコムイ。
どこか、寝不足なのか眠そうな表情も微かにだけど見せていた。


「絶対じゃなくてたぶんだから でもまぁ、たぶん…あるんじゃないかなーってね たぶん」


たぶんたぶんと何度も呟くコムイに、四人は呆れた表情を浮かべていた。
神田に至っては大きく溜め息をついているくらい。


「分かりましたよ、たぶんは」


「なんてゆーかさ 巻き戻ってる街があるみたいなんだよね」


「は?」


「巻き戻る?」


肩を竦めていると、イノセンスがあると思われる場所の奇怪について告げられた。
その言葉は己の耳を疑うものだった。
は目を点にしてコムイを見つめ、アレンは疑問そうな表情を浮かべ問い掛けた。


「そう たぶん時間と空間が、とある一日で止まって…」


「その日を延々と繰り返してるって事だろ?」


「うん、神田くん その通り」


説明をするコムイを挟み、即座に確信を突く。
その言葉にコムイは頷き、リーバーが資料に目を落とした。

どこか少しやつれ、震えているように見えるのは気にしない事にしよう。


「調査の発端は、その街の酒屋と流通のある近隣の街の問屋の証言だ
 先月の十月九日に『十日までにロゼワイン十樽』との注文の電話を酒屋から受け、翌日十日に配達
 ところが何度街の城門をくぐっても中に入れず外に戻ってしまうので、君が悪くなり問屋は帰宅

 すぐに事情を話そうと酒屋に電話をしたが、通じず
 それから毎日、同じ時間に酒屋から『十日までにロゼワイン十樽』との電話がかかってくるらしい
 ちなみに、問屋はノイローゼで入院した」


ダラダラと、調査書に乗っている事項を読み上げた。
その話を聞いているだけで、本当に不気味に思える。
イノセンスの存在を、そしてイノセンスの特性を知らなかったら怪奇現象に思えて仕方ないだろう。


「調べたいんだけどさあ、この問屋同様に探索部隊(ファインダー)も街に入れないんだよ」


疲れきった口調で告げる事実に、は溜め息をつくしかなかった。
それはつまり、エクソシストが行かなくては何も解決できないという事だから。


「というわけで、ここからはボク等の推測なんだけど」


「…… …………」


ゴク…

一気に真面目な雰囲気に変わったのが手に取るように分かった。
だからこそ、息を呑みはコムイの言葉に耳を傾けた。


「一 もし、これがイノセンスの奇怪なら同じイノセンスを持つエクソシストなら中に入れるかもしれない
 二 ただし、街が本当に十月九日を保持し続けているとしたら、入れたとしても出てこれないかもしれない

 そして調べて回収!エクソシスト単独の時間のかかる任務だ…以上!」


そう言うと同時にコムイは疲れた息を吐き捨てながら、持っていた資料の本をベシッと額に押し付けた。









To be continued........................






漸くミランダ編突入です!
この章(?)で神田とヒロインの位置づけが変わっていけばいいなぁと思います。






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