鳴り響く鐘は、古時計…

静かに、巻き戻しの街の時間を刻む──────…









S.V 第十八話












「たぁ!」


「はっ!」


掛け声と共に、アクマを真空で切り裂き破壊する葉暖。
アレンは、十字架をエネルギーの槍のような形に変形し、切り裂いて破壊した。

同時に響く爆発音。



パングヴォイス!



アクマの一対が内でそう呟くと、パカッと開いた口。
そこから笑い声の様なゲラゲラという音が響き始めた。


「────っ!!!」


「ぐあっ 頭が…わ、割れ……るっ…!!!」


直にその音を聞いてしまったとアレンは頭を、耳を両手で覆った。
必死に音を防ごうとするも、手では防ぎきれない。



風切鎌!!



ゲラゲラと笑い声の響く中、鋭く伸びた二つの手(?)を振り回す二体目のアクマ。
まるでカマイタチのような攻撃を無差別に繰り広げる。


「くっ…!」


避けることに集中すると、声が耳に届き頭が痛い。
防ぐ事に集中するとカマイタチの様な攻撃を避けられない。

けれど、両方を同時にするとなるとどちらも受けてしまう。


「──!アレン、上!!!」


目を顰め、声を堪えながらアレンに攻撃を仕掛けようとする三体目のアクマに気付いたは慌てて声を上げた。
しかし、耳を塞ぐアレンにその声はなかなか届いてくれなかった。


「うわ!」


上から襲う重々しい攻撃を、間一髪で避けたアレン。
しかし、突如右膝に襲った痛みにしゃがみ込んだ。

異変に気付き視線を向けると、アレンの右膝から少し下のスネの辺りに炎の様な、氷の様な、不思議なものがついていた。
すぐに消えてしまったけれど。


「炎よりも熱いアイスファイヤ…
 少しでも触れる肉を焼き腐らせる あっという間」


「斬り裂こう 斬り裂こう」


「ダメダメ ボクのヴォイスで脳ミソを壊した方が面白いよ♪」


「「……… …… ………………」」


三体のアクマの会話に、アレンもも息を呑むしかなかった。
三体共に、どこか楽しげだったからこそ身の危険を感じた。


「斬り裂くんだよ」


「イヤ 腐らせる」


「脳ミソだってば!!!」


意見が食い違う三体。
突如始めたジャンケンに、少しだけ唖然としてしまう。


「………ハァ」


一つ溜め息を吐くと、十字架を銃口のような形に変形しエネルギー弾を放った。
無数の弾は三体のアクマへと向かう。


「ギャ────!!」


いきなりの攻撃に驚きの声を上げるアクマに、は内心。



アクマでも普通の人間みたいな反応……するんだ…



なんて驚いていた。


「何すんだ、テメェ!!!ジャンケンのスキに攻撃するなんて卑怯だぞ!!!」


「そんなもん……」


超音波のような声を発するアクマがのたうち回りながら発する言葉に、黒い笑みを浮かべるアレン。


「…待つわけないでしょ」


ハッキリとそう言い放った。
待っている程、人がいい訳ではない。

そして、は技をそう易々と出す事も出来ない。


「「「エクソシスト ブッ殺す!!!!」」」


三体のアクマの声が重なり、響き合う。
怒りに満ちた表情を浮かべ、アレンとに飛びかかる。


「来るっ!」


がそう声を上げ、構えた瞬間だった。
ピタリとアクマ達が動きを止めたのは。


「!?」


シーンとする最中、警戒する事は止めずアクマの様子を窺う二人。
しかし動き出す様子はなかった。


「─────…?」


何をしようとしているのだろうかと、眉を潜めると。

シュパッ!!!!

突如その場から空へと飛ぶように消えたアクマの姿。
瓦礫の山へと変化を遂げた店の中に、ポツンとアレンとが残されていた。


「…いったい…」


「何なんだ…………?」















「何なのアレは!?」


アパートの部屋の一室でミランダは声を荒げた。


「人間が化け…化け物に…!!昨日だって襲われたわ!!
 何なのアレー!あ、あの白髪の子だって手が手が………」


ムンクの叫びの様に両手で顔を抑えながら、必死に叫ぶ。
まるでこの世の終わりのような顔。


「落ち付いて、ミランダ」


「これが落ち着いて……っ」


シャラッ…

カシャン…

叫ぶミランダを宥めようと声を掛けたリナリー。
しかし、それも無駄に終わった。


「!」


落ちたぜんまいに気付いたリナリーの視線が床に留まる。


「うわおっ!!」


「きゃあっ」


「っ!?」


上げられた声と同時に椅子から倒れたミランダに、リナリーと無口ながらも傍に居た神田が驚きの表情と声を上げた。


「ゼー…ハー…」


「それ…ぜんまい?」


荒い息をしながらも、大切そうにゼンマイを手にするミランダ。
首をかしげ、リナリーは驚きながらも問い掛けた。


「…あの時計のか?」


ゼンマイの正体を予想した神田が、チラリと時計に視線を向けた。
するとたちまちミランダの顔が真っ赤に染まりあがった。


「バ、馬鹿みたいって思ってるんでしょっ こんなの…大事に持ってて…」


「そんなことないわ」


真っ赤になりながら、両手でゼンマイを大切そうに握り締めるミランダ。
そんなミランダの言葉にやんわりとリナリーは首を振った。

大切なものを大切にする人を馬鹿にするような人間ではなかった。
リナリーも、神田も。


「大事な思い出が…あるんでしょ?」


ふわりと微笑みながら問い掛ける言葉に、ミランダは何かを思い出すような表情を浮かべた。


「何をやらせても駄目な奴っているでしょ 私ってそれなの…
 子供のころから同級生の背中ばかり見てた 皆、私より何でも出来て……それで、スイスイ前へ行っちゃうの」


思い出すのは、ポツンと一人残され同級生との差が開くばかりの日々。
まるで周りは闇一色のようだった。


「大人になっても、そんな自分は相変わらずで…仕事は転職ばかりだったわ」


呟くミランダの瞳は、どこか遠くを見つめていた。
近くの現実を見つめない瞳は、思い出を溯っていた。


もう明日から来なくていいから


ま、待って下さい!


転職先のワンシーン。
いつもと同じ、辛い辛い言葉が待ち受ける。


こんなに役立たずな奴だとは思わなかったよ


まるで、猫にシッ、シッと追い払うようにする手付きで言う店の主人。
どんなに失敗ばかりするミランダでも、傷つく心は持ち合わせていた。

ポツンと、前にも後ろにも進めず孤立した台の上に立ち身動きの取れないミランダ。


「私ね…実は『ありがとう』って言われた事がないの
 それってね、誰かの役に立てた事ないのよ」


ペタリとその場に座り込みながら話すミランダ。
どこか諦めているような、けれど諦めきれずにいるような、そんな声だった。


「『ありがとう』って言われて…誰かに私の存在を認めてもらいたかった……」


そう呟くと、ミランダの瞳がツ…と時計へとうつろった。


「…時計がそこで何かかかわりがあるのか…」


神田のその言葉にミランダが静かに頷いた。


「そんな時だったの 古道具屋で捨てられそうになってる古時計と出会ったのは…」











溯る歳月。


「先代の店主がどっからか拾って来たもんでね
 綺麗な時計なんだが、どうにもネジが回らなくて動かねェんでさ」


ガシガシと後頭部を描きながら話す古道具屋の店主。


「ホントホント 嘘だと思うならさ、やってみなよ」


そう言うと、店主は時計のゼンマイをミランダへと差し出した。
それをミランダはじっと見つめた。



役立たずで捨てられる時計…
まるで私自身を見ているみたい…



自然とゼンマイを受け取り、時計へと差し込んでいた。

カチ…

カチ…

カチ…

静かに回すネジ、それを離した瞬間だった。
奇跡が、今まさに起こったのだ。

ゴ───────ン…


「ひっ」


音を奏でた動かない時計。
ミランダは驚きの声を上げた。

まさか、自分の手で動かない時計を動かしたなんてと、目を丸くした。


「動いた!時計が動いたよ!
 誰がやっても動かなかったというのに…!!!」


店主はミランダを後ろから掴みかかり声を上げた。
まるで嬉しさに満ちた大きな驚きの声だった。

ゴ─────ン…

ゴ─────ン…


「買いなよ、あんた!」


古時計が鳴り響く中、どこか感動が胸を占めていた。











「誰も動かせなかった古時計 その鐘の音は、私の心に響いたの
 駄目な私の存在を認めてくれた気が……したの」


そんなミランダの話を、リナリーも神田も横から口を入れることもできずに聞いていた。
まるで、本当に奇跡のような話を。

けれど、感じさせるイノセンスの存在の話を。












To be continued.....................






ヒロインは入れやすいのに、神田は会話に入れづらい…;
くそっ…この、パッツン男児め!!(おい)






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