巻き戻る街…刻む時計…奇怪な現象…
もしかしたら、原因はすぐそばに…………?
S.V 第十九話
「アクマが退いた?」
「うん、そうなんだよね」
リナリーの驚く表情と共に発された言葉に、はコクリと頷いた。
手当てをしてくれる神田ではなく、アレンの手当てをするリナリーの方に視線を向けて。
「ちょっと様子が変でした 僕の事、殺す気満々だったのに」
染みる右足の怪我に涙目になりながら報告するアレン。
ミランダの住まう部屋のあるアパート周辺の見回りをした事も報告した。
「でも、良かった」
「え?」
「レベル2をあんなに相手するのは…ちゃんもそうだし、アレンくんだってまだ…」
「危険だな」
心配そうなリナリーを見つめ、話に耳を傾ける。
すると感じた手足の擦り傷への消毒の痛みと神田の短い一言。
「てめぇは、あの技そう簡単に使えねぇんだろ?」
「う…」
神田の鋭い一言に、声を漏らす。
つまりは、防御技か真空で斬り裂いての破壊対応しか出来ないのだ。
「アレンくんだって、新しい銃刀器型の武器…身体に負担がかかって、まだあまり長時間使えないんでしょう?」
「そうなんですよねぇ〜
結構体力作ってるんだけどなぁ……」
スクッ…
立ち上がりながら、右腕の筋肉を盛り上がらせるアレン。
そんなアレンを見つめリナリーが「でも、ちょっと身体大きくなったよね」と呟いた。
当然、アレンはその言葉に喜ぶのだった。
「で」
チラリと向けられたアレンの視線の先にあるのは、時計の前でガタガタと震えるミランダの姿だった。
ハンカチを持ち、時計をもくもくと磨いていた。
「何してんですか、ミランダさん」
「私達とアクマの事を説明してからずっとあそこで…動かなくなっちゃったの…」
ガタガタ…
キュッキュッ…
「私、ホントに何も知らないのよ…この街が勝手におかしくなったの
何で私が狙われなくちゃいけないの…?私が何したってのよぉぉ〜〜〜」
時計に泣き付くミランダの顔は、徐々に怖さを増していた。
ムンクの叫びの如く、顔はほっそりとしていた。
「もう嫌 もう何もかもイヤぁぁ〜」
ブツブツと呟く姿は不気味という言葉がしっくりくるものだった。
そんな姿にもアレンもブルルッと身震いしてしまう。
「く、暗い…」
「というか…怖い…」
「ずっとああなの」
アレンとの言葉に少しだけ困った表情を浮かべるリナリー。
神田は我関さずといった感じに、あまりミランダの様子に何かを感じているものはなかったようだ。
「ちょっと神田 何か言いなって」
「はぁ?何で俺なんだよ?」
ボソッ
小さく神田に指示をする。
しかし、そんな言葉を嫌そうな表情で受け流す神田。
「ミ、ミランダさん…」
だからこそ、アレンが腫れ物に触るように声を掛けた。
「私…は何も出来ないの!」
「───っ!?」
いきなり叫んだミランダにはビクリと肩を揺らし、視線を向けた。
瞳から涙を流し、必死に叫ぶミランダの姿が痛々しい。
「あなた達、凄い力持った人達なんでしょ!?
だったら、あなた達が早くこの街を助けてよ!」
「はい」
ミランダの言葉に神田がキレはしないかと、気が気でなかった。
けれど、プッツンとキレる前に発されたアレンの言葉が救いだった。
それはきっと、ミランダにとっても。
「助けます でも、その為にはミランダさんの助けがいるんです
貴方は街の奇怪と何かで関係している 僕達に手を貸して下さい」
パンッ
両手を合わせ、ミランダを見つめる。
それは子供の仕草。
年相応の、仕草だったように見えた。
「明日に戻りましょう」
その言葉にミランダは眉をハの字に下げ、涙を流しながらも希望を見出した。
コチ
コチ
コチ
鳴り響く古時計の音がやけにうるさく耳につく。
時計がある場所は一か所だけなのに、辺りから聞こえてくるような不思議な感じ。
一体何…?
その不思議な感覚に、は眉を潜め辺りを見渡した。
コチン!
「──────…」
大きな針の音と同時にミランダの表情が硬くなった。
それと同時にスクッと立ち上がるミランダ。
「ミ、ミランダさん…?」
「どうしたんだ?」
立ち上がったミランダにキョトンとした表情を向けるアレンに、神田は首を傾げた。
何をいきなり立ち上がったのか、理解不能。
「…… …………………………」
しかし、アレンの言葉にも神田の言葉にもミランダは何の反応も示さなかった。
起こした行動は一つ。
スタスタスタスタ…
バフッ…
「「「「…!?」」」」
ミランダは、いきなりベッドに潜り込んだ。
その様子に、全員が目を見開き驚いた。
「寝るんですか!?」
「まだそんな時間じゃな……」
「何か様子が変ね…」
「ああ」
突っ込むアレン、眉をひそめ時間を気にする、異変に気付いたリナリーに同意の相槌を打つ神田。
リナリーと神田は顔を見合すと、部屋の中を見渡す様に視線を巡らせた。
「皆!!!」
声を上げたのはリナリーだった。
三日月、星、四角、丸、ひし形などなど色々な形を模した時計の絵。
それが古時計を中心に部屋や街中に広がっていた。
ゴ──────ン…
静かに、古時計が時刻を示す音を鳴らす。
「な、何だコレ!?」
辺りを見渡し驚くアレンは、目を丸くさせていた。
ティムキャンピーを頭に乗せて、キョロキョロと視線を巡らせる。
ゴ────ン…
「────…まさか…」
も同じく目を丸くさせ、時計を見つめた。
ポカンと口を開け、視線が逸らせない。
ゴ───ン…
「あの時計か?」
けれど、神田は冷静だった。
ポツリと、的を射た言葉を的確に口にした。
ゴ───────ン…
ゴ────ン…
街中に鳴り響く古時計の音。
次の瞬間───…
「……………え?」
ギュルルルルル……
リナリーの間の抜けた声と、古時計の針が動く音が響く。
しかし、古時計の針の動きは通常では考えられないものだった。
針が…逆に戻りだした!
見ていたアレンが驚きながらも、心の中でそう呟いた。
回る針は止まらずに、ぐんぐん逆に回り続ける。
ズズズズズズズズ…
いろいろな形の時計の絵が、ぐんぐん時計に吸い込まれていく。
「きゃっ」
「捕まって、リナリー」
その流れに流され、吸い込まれそうになるリナリーにアレンは慌てて手を差し伸べた。
部屋の窓枠をガシッと掴み、流れる時計の絵に巻き込まれない様に必死だ。
「────っ」
「馬鹿野郎!」
バランスを崩し、時計の絵の流れに吸い込まれそうになる。
神田は悪態をつきながらも、流れに吸い込まれそうになるに手を差し伸べた。
「もっと素直に助けてくれないわけ!?」
「黙って捕まってろ、!」
神田の言葉にムッとしつつも、差し出された手を必死に掴む。
こんな時でも言い合いをやめないのは、不思議なものだ。
「今日の時間を吸ってるのか…」
吸い込まれる時計に紛れた映像は、今日アレン達が体験した出来事ばかり。
ミランダに会った時の事や、リナリーに似顔絵の紙を渡した時の事、その他いろいろ。
「……吸い込み────」
ズズズズズズズズズ…
「───終わる…」
ズズズズ…
コチ…
吸い込まれ終わった時間。
時計の針は七時を指し示していた。
「……?眩し………い……?」
突如眩しく感じた窓の外。
が視線を向けると同時に、その言葉に反応するようにアレンやリナリー、神田も視線を窓の外へと向けた。
「「「「────!!!」」」」
パァァァァァ…
明るい光が部屋の中へと差し込んでいた。
「あ、朝ぁ〜〜〜!?」
アレンの驚きの声の直後、ムクッとミランダが置きあがった。
そして、不思議な顔をするのだ。
「あら?私、いつの間にベッドに……」
その言葉に、四人とも全員が唖然とした。
ミランダ自らベッドに潜り込んだというのに、記憶にないのだから。
イノセンスを手に入れるまで…
それが達に残された、まだ安全で幸せな───────…この街での時間…
To be continued........................
イノセンスがとうとう発動しましたよ、ミランダの!
もうすぐロードの登場でもあります!
あの例のシーンがもうそろそろでございますー(^O^)/
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