「はい これがキミのイノセンスとなるものだよ」


手渡されたのは光り輝くイノセンス。
加工もされず、対アクマ武器にもされていない純粋なるイノセンスだった。

流れ込むエネルギーを受け、一瞬驚くも受け入れようと見つめる。


「私の…イノセンス…私に力を…貸してくれる…もの」


ポツリポツリと呟く声に、カッと光を放った。


「それは神のイノセンス 全知全能の力なり
 また一つ…我らは神を手に入れた…」


「!?な、に…?」


「ボクらのボス 大元帥の方々だよ」


聞こえた声には驚き視線を上げた。
持つイノセンスの反応は相変わらず変わらない。


「さあ キミの価値をあの方々にお見せするんだ」


「…え?どういう…意、味?」


コムイの言葉の意味が分からなかった。



価値?
見せる?
何を?



そんな疑問が純粋に脳裏に浮かんだ。












S.V 第二話













「─────!?」


しかし、そんな思考も突如身体を絡め取った白い姿にストップを掛けられた。
はイノセンスと共に、その白い姿に巻き取られた。


「イ…イ…イノセン…イノセン、ス…」


「やめっ…!」


呟くと同時に白い触手の様なものはに絡みついたまま。
ゆっくりと伸ばす先にあるのは、のイノセンス。

ハッとして慌てて声を上げるが、白い触手はズズズとイノセンスに入り込んでいった。



何、これ…!?
これがコムイ室長の言ってた『会ってもらいたい人』!?
やだ…気持ち悪い…!!



眉間にシワを寄せ、絡めとる触手とイノセンスに伸びる触手を交互に見つめた。
何も出来ないもどかしさに、悔しさを覚え。
何も出来ないもどかしさに、唇を噛みしめた。


「どうだいヘブラスカ?
 この神の使徒はキミのお気に召すかな?」


冗談を言っている場合じゃない、とはコムイに視線を向けた。
その視線は『何とかしろ』と言っているようで。
けれど、コムイはそんな事をするつもりは一切なかった。

これは必要な事だったから。



嫌だ…嫌だ…
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!!!



目をギュッと閉じ、同じ言葉を何度も反復。


「落ち着いて…私は敵、じゃ…ない」


そう言うと同時にヘブラスカは額をの額に当ててきた。
それと同時に聞こえてきたのは、音。

キイイイイイイン…

まるで甲高い音のように、音が聞こえてくる。


「イノセンスの発動は対アクマ武器と…適合者、がちゃんと…シンクロ出来てなければ…とても危険なんだぞ…」


意味が分からない、と言わんばかりに眉間のシワが増える。
けれど、離されない額に"まだ終わっていない"という事が分かった。


「二%…二十五%…四十、五十五…六十、七十八%…」


最後の七十八%で言葉の途切れたヘブラスカに、は眉を潜めて視線を向けた。
まだイノセンスは対アクマ武器に加工していないというのに出てきたパーセント。


「何を…し、た…?」


「どうやら七十八%が今、お前とイノセンスとのシンクロ率の最高値の様だ…」


「対アクマ武器じゃないのに…分かるの?」


「そのイノセンスは…すでにお前に反応を示しているから…」


「…シンクロ率、って?」


その問いかけに、ヘブラスカは質問の多い奴だと笑うように口元を緩めた。


「対アクマ武器発動の生命線となる数値だ…
 シンクロ率が低いほど発動は困難となり、適合者も危険になる…」

そう言いながら、ヘブラスカは触手で絡め取っていたを地面へと戻した。
着地した地面に足がつく感覚。
なんだか久々の様に感じてしまう。


「イノセンス、を対アクマ武器に加工…すれば…きっとシンクロ率は…上が、る…
 扱い、心を通わせるほど、に…イノセンスは…応えてくれる…」


その言葉には無言のまま視線を上げた。


「驚かすつもりはなかった…
 私はただ…お前のイノセンスに触れ、知ろうとしただけだ…」


その言葉には眉を潜めた。



イノセンスを知る?
私のイノセンスを?

それって…どういう…?



その思いは口にする事無く終わった。
けれども、ヘブラスカはまるでそれが分かっているようだった。


…お前のイノセンスは、闇に落ちたその時『闇に帰す者』となるだろう…
 私にはそう感じられた…それが、私の能力…」


「闇に帰す者…?闇に?」


全く意味が分からなかった。
イノセンスがどういう力なのかも分からない今、何が分かると言うのだろうか。
それでも、先ほどの発動から何となく感じるものはあった。


「コムイさん…わけ、分からないんだけど…」


助けを、否、説明を求める視線を送る。
じっ、とコムイの瞳を真っ直ぐに見つめた。


「イノセンス…アクマ…いろいろとあるだろうけど、ちゃんと説明するよ
 イノセンスはね…これから戦いに投じるキミ達エクソシストに深く関わりある話だからね」


その言葉に、は何も言わずに耳を傾けた。
ここで言葉を発する事が、憚られたのだ。


「この事実を知ってるのは黒の教団とヴァチカン そして、千年伯爵だけだ」


「……」


コムイの言葉は、の耳に重く響いた。
まるで何かに飲み込まれるような感覚。
見えるはずのない映像が、脳裏を素早く駆け抜けていく。






すべては約百年前
一つの石箱(キューブ)が発見されてから始まった

後生いの者達へ…

我々は闇に勝利し
そして滅びゆく者である
行く末に起こるであろう禍から
汝らを救済するため
今ここにメッセージを残す──────






「そこに入っていたのは古代文明からの一つの予言と…
 ある物質の使用方法だった」


「ある物質?」


「その石箱(キューブ)自体も"それ"だったんだが…『神の結晶』と呼ばれる不思議な力を帯びた物質でね
 ボク達はそれを『イノセンス』と呼んでる」


その言葉にはハッとした表情を浮かべた。
物質なんて分からない。
けれど、今コムイが発した言葉は聞き覚えもあった。

イ・ノ・セ・ン・ス。


「そう、キミに反応を示したあれもイノセンスだよ」


「!」


「対アクマ武器とは、イノセンスを加工し武器化したものの呼称なんだ」


そう言われて思い出すのは、イノセンスが反応したあの時の事。
輝く光はに反応したもの。
反応させたのは、の意思。


「石箱(キューブ)の作り手は、そのイノセンスをもって魔と共に訪れた千年伯爵と戦い打ち勝った者だという
 だが、結局世界は一度滅んでしまった
 約七千年前、旧約聖書に記された『ノアの洪水』がそれだ
 石箱(キューブ)はそれを『暗黒の三日間』と記しているけどね」


なんだか、とてつもない話に思えた。
ノアの洪水、暗黒の三日間。
普通に暮らしていれば、きっと関わりのない事だっただろう。


「そして石箱(キューブ)の予言によると、世界は再び伯爵によって終末を迎えるらしい」


「それって…『暗黒の三日間』の…再、来…」


そうとしか言いようがなかった。
コムイの説明を受けて、は無意識にポツリと呟いていた。


「現在、予言通りに伯爵はこの世界に再来した
 ヴァチカンはこの事実により、石箱(キューブ)のメッセージに従う事にしたんだ
 それが、イノセンスの復活と黒の教団の設立」


ちらりと、向けてしまうのはコムイの羽織る白き団服の左胸にあるローズクロス。






使途を集めよ!
イノセンスは一つにつき一人の使徒を選ぶ

それすなわち『適合者』!!

『適合者』なくばイノセンスは、その力を発動しない!!







「イノセンスの適合者 それがキミ達エクソシストの事だ
 だが伯爵もまた過去を忘れていなかった
 神を殺す軍団を作り出してきたんだ」


「…それが、AKUMA(アクマ)?」


「そう あの兵器はイノセンスが白ならば黒の存在である
 暗黒の物質『ダークマター』で造られている
 進化すればするほど、その物質は成長し強化されていく」


その言葉に息を呑んだ。
聞こえるはずもないのに、ゴクリと喉が鳴る音が聞こえた。


「伯爵はイノセンスを破壊し、その復活を阻止するつもりだ」


「復活を、阻止する?」


「イノセンスはノアの大洪水により世界中に飛散したんだ その数は全部で百九個
 我々はまず、各地に眠っているイノセンスを回収し、伯爵を倒せるだけの戦力を集めなければならない
 伯爵もまた、イノセンスを探し破壊すべく動いている」


その言葉に一つの言葉が脳裏を過った。
言葉、というよりかは単語だろう。


「イノセンスの…争奪戦争?」


「そうだ そして、我々がこの聖戦に負けた時、終末の予言は現実となる」


必死さは、その言葉からよく分かった。
世界を滅ぼさせない為に、何としても伯爵よりも早く集めなくてはならない。



アクマと…戦う…



自らの意思でここを訪れた。
けれど、戦う事を想像すれば身震いが起きる。
目の前で起きた惨劇に、何もできずに震えていた自分。

けれど、力を手にすれば戦う事が出来る。


「戦え それがイノセンスに選ばれたお前の宿命…」


聞こえたのはライトの当たる五人の大元帥の方からだった。
視線を向けると、微動だにしない大元帥の口から言葉が発されていた。

宿・命。


「ま、そんなところだ 以上で長い説明は終わり♪」


そんな言葉と共にコムイはに右手を差し出した。
機嫌の良さそうな笑顔を浮かべ、ウインクを向けてくる。


「一緒に世界の為に頑張りましょう 一銭にもなんないけどね」


「……うん」


苦笑を浮かべるしかなかった。
一銭にもならないけれど、誰かを守れるのならば。
差し出された右手をは握り返した。

ギュッ

と、強く強く。


「ようこそ、黒の教団へ!」




















宿命だとしても、私の意思は変わらない
これは私が私の意思で決めた事…



ポツリと呟くは宛がわれた自身の部屋のベッドにダイブした。
ギシ、と沈み柔らかい布団の感触。


「お父さん、お母さん 私…戦うよ その為に…ここに立ってるんだ
 もう…あの時みたいに私は無力じゃない…」


枕に顔を押し当てて、静かに瞳を閉じた。
真っ暗な闇が視界を覆う。








To be continued.......................




ということで、ヒロイン漸くエクソシストです!D.Gらしくなってきましたね!(待て)
次回には対アクマ武器は出来上がっている事でしょう♪
そして…今のヒロインは復讐心に燃え上っていますw






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