変わりゆく形…

増える、苦痛………









S.V 第二十二話









カーン…

カ───ン……

カ───── ン…

静かな音が鳴り響き、ミランダは時計に、アレンは壁に、神田は床に杭の様なもので打ち付け繋がれた。
目を薄く開きながらも、反応を示さず無言のままロードの椅子に座り続ける様子のおかしいリナリー。


「ほら、早くしないと仲間がみーんなアクマに殺されちゃうよぉ?」


「くっ…う………」


ロードの言葉で、はまた真空を振るう。
それぞれを必死に守ろうと、沢山のアクマの攻撃を真空で受け流す。

唯一目覚めていたミランダが、苦痛な表情でを見つめていた。


「───っ」


防御系の技を使おうにも、皆が皆離れて繋がれていて使えない。
苦痛に顔を歪ませながら、は沢山のレベル1のアクマを破壊する。


「ほらほら 技を使わないと、皆死んじゃうよぉ?」


ニヤニヤと嫌な笑み。
下唇を噛みしめ、は一瞬だけ瞳を逸らしギュッと瞑ると。



違う…そうじゃない………
私は……私、は──────…



目を開き、ロードを睨んだ。


「私は仲間の為にじゃない 私は悲しきアクマを破壊する者!
 私はアクマを破壊する為にある……!!」


そう叫ぶのに、どこかで胸がキリキリと痛んだ。

チャキ…

真空を構え、目の前に広がる沢山のアクマを睨みつける。


「月花吸冥!」


そう叫ぶと同時に、真空で手身近なアクマを切り裂いた。
すると、五日月の円形が生まれ切り裂いたアクマを中心に周りのアクマを吸い込み始めた。

それでも、間に合わないほどアクマ達は増えていく。
まるで、円形を変えるためだけに連れて来られているように。


「ほらほらぁ 早くしないと増えるよぉ?」


「───っ」


一向に減ってくれないアクマの数に、は下唇を噛みしめた。
苦しい痛みが胸を襲う度、攻撃の手が止んでしまう。

そして、また増えていくアクマの数。



早く…起きて……



そう願うのに、一向に目を開けてくれない三人。
真空を構え、再度アクマと向き合う。











舞う身体。



軌道を描く刃。



アクマの身体に食い込む真空。



爆発音。



もくもくと煙り立つ、煙。



減りゆくアクマ。





共に襲う、苦しみ虚無感。



五日月から上弦の月の形に変わる円。








そして……………



残ったのは、三体の───────…








「これくらいでいいかなぁ」


「ごほっ……かはっ ────っ」


楽しそうに笑みを浮かべるロードを前に、真空を地面に突き立ててその場によろけた。


ちゃん……」


「だいじょ……ぶ…」


ニコリと必死に笑みを作ろうに、心配そうな視線を向け続けるミランダ。
ずっと、の戦う過程を見ていたから。

徐々に苦しみ出すを、技を繰り出す度に変わる円の形を。


「…私、は……エクソシストだか、ら……」


アクマを破壊するものだから


先ほども言っていた言葉に、ミランダは今にも泣きだしそうな表情を向けた。
けれど、ミランダは感じていた。

アクマを破壊する者で、仲間のためじゃないのなら、守りながら戦う必要はないんじゃないかと。
そういう人は、きっと仲間を見捨てるんじゃないかと。


「…………っ」


涙で滲む瞳で、必死に辺りを見渡した。
誰か、誰でもいいから目を覚ましてと。



ここは………?



回りからする煩い爆発音に、漸く瞳を開いたアレン。
それに気付いたミランダは、希望に満ちた瞳を向けた。

涙が溢れ、濡れ、揺らぎ霞む瞳を。


「ア、レン……くん……」


「…!ミ、ミランダ……」


聞こえた声にハッ、と反応をしたアレン。
けれど、次の瞬間左腕を襲う激痛に「痛っ」と眉を顰めた。

しかし、そんな痛みもボロボロのを目にしたら忘れてしまう程。
今にも倒れそうなから視線が逸らせない。


っ!?」


その声に神田はピクリと眉を動かした。
ゆっくりと意識が覚醒すると同時に、感じていなかった激痛が意識を急速に覚醒させた。

アレンが呼んだの名前に反応し、神田はゆっくりとぼやけた視界が開けた瞳でを探した。
瞬間────…


「─────… …………」


ドサッ…

カシャン…

微かに「良かった…」と動いたの唇。
声にはならず地面へと倒れ、真空は音を立てての隣に落ちた。


っ!!!」


「……だいじょ、うぶ 技を…使い過ぎ、ただけ…だか、ら…」


上がる神田の声に、は情けない表情を浮かべ呟いた。
その言葉にアレンも神田も驚愕の表情を浮かべた。

それは知っていたから。
が技を使うと、苦しみが襲い、円の形が変わる事を。
そして、アレンには見えるアクマの姿が悪化する事を。


「あ、起きたぁ〜〜〜?エクソシストのお人形…レアだろぉ?」


話声に気付き、アレンと神田が気付いた事を知ったロード。
ゆっくりと視線を向け、ニヤリと笑う。


「リナリー!!!!」


も重傷。
けれど、それ以上に違和感を感じるリナリーにアレンは声を上げた。
神田も、それを感じ取り下唇を噛み締める。


「リナリーって言うんだぁ 可愛い名前ェ♪」


ハートを周りに浮かべながら、名前を可愛いと褒めるロード。
アクマの一体がアレンや神田を見やり、口元を緩める。


「お前を庇いながら、あのお人形…必死で戦ってたぜェ
 そこの、ボロボロの女も……沢山のアクマ相手に必死だったぜェ」


「「………っ」」


その言葉に、神田もアレンも息を呑んだ。
己の無力さに悔しさがこみ上げる。



もっと俺が強ければ…に技を使わせる事はなかった…



そう後悔する神田。
変わりゆく己の心の中に、徐々に慣れてきた神田。

その正体が、神田は少しずつだけれど分かり始めていた。
この気持ちの正体を─────…


「キミは…さっきチケットを買いに来た…!?キミが『ロード』…?」


微笑を浮かべるロードを見つめ、ようやく気付いた正体。
アクマ達が呼んでいた名前。


「どうしてアクマと一緒に居る…?」



アクマの魂が………見えない…



「アクマじゃない………」


アクマではないのに、アクマと行動を共にするロードに眉が顰められた。
眉間に微かなシワが出来る。


「キミは何なんだ?」


「僕は人間だよぉ」


アレンの問いに、答えるロードは不気味な笑みを浮かべていた。
そして、あり得ないと言わんばかりの表情を浮かべるアレンに「何、その顔?」と声を上げた。


「人間がアクマと仲良しじゃいけないぃ?」


「アクマは………」


ロードの言葉に、必死に言葉を紡ぐアレン。
動けず倒れたままのや、瞳を開けたまま人形の様に微動だにしないリナリーや、時計に繋がれたままのミランダ…
そして、床に倒れ繋がれたままの神田に視線を向けながら。

けれど、最後に視線を向けるのはロードだった。


「人間を壊す為に伯爵が造った兵器だ 人間を狙ってるんだよ…?」


どうして仲良くできるの?と問うように、アレンは言葉を続けた。
すると、不気味な笑みはより濃くなる。


「兵器は人間が人間を殺す為にあるものでしょぉ?」


ズズズ…

静かに変わりゆくロードの肌の色。
徐々に濃く変わりゆく。


「千年公は僕の兄弟 僕達は選ばれた人間なの」


肌の大半が黒く変わり始める。
不気味なほどに、おかしく変わる。


「何も知らないんだね、エクソシストぉ お前等は偽りの神に選ばれた人間なんだよ」


ズズズ…

黒くなった肌。
額に浮かぶ沢山の十字架。

ペロリとロードは下を出し、己の親指を舐めた。


「僕達こそ、神に選ばれた本当の使徒なのさ 僕達ノアの一族がね」


後ろに神の銅像が見えるような錯覚。



ノア…?



聞き覚えのない言葉に、は眉を潜めた。
徐々に落ち着く胸の苦しさ。


「ノアの…一族?

 人間……!?」


衝撃の事実に、アレンは驚きの声を上げた。
けれど、慌てた傘の「シ────!!!」という声により全てがかき消された。


「知らない人にウチの事喋っちゃ駄目レロ!!」


「え?何でぇ?」


「駄目レロ!今回こいつらとろーとタマの接触は伯爵タマのシナリオには無いんレロロ!?
 レロを勝手に持ち出した上に、これ以上勝手なことすると、伯爵タマにペンペンされるレロ」


「千年公は僕にそんな事しないもん」


慌てる傘にロードは呆れ顔。
伯爵はロードには甘いらしく、たぶんペンペンされるのは傘なのかもしれない。

といっても、傘をどうやってペンペンするのかも不明だが。


「物語を面白くする為の、ちょっとした脚色だよぉ こんなんくらいで、千年公のシナリオは変わらないってぇ」


その言葉に、その会話にアレンの苛立ちは頂点へと上り詰めた。



面白くする為に…?
それだけのために…を、リナリーをあんな風に………???



グググ…

怒りは徐々に込みあがり、アレンは杭で繋がれた左腕に力を込めた。
大きな音をたて、壁ごと腕を引き剥がしたアレン。


「何で怒ってるのぉ?僕が人間なのが信じらんない?」


ひょっこりと、アレンの前に座り込むロード。
力なく項垂れながらも、睨み続けることを忘れないアレンを見つめ微笑む。

ス…

ゆっくりと伸ばした腕がアレンの首に周り、抱き付く。


「─────……あったかいでしょぉ?」


ドクン…

ドクン…

脈打つ鼓動、感じる温もりは人間そのもの。


「人間と人間が触れあう感触でしょぉ?」


「………っ」


だからこそ、どうしてと思ってしまう。
人間だって分かったからこそ、どうしてアクマと千年伯爵と関わるのかと思ってしまう。


「同じ人間なのにどうして……」


動く左腕を必死に抑えるアレン。
ギリッと奥歯を噛みしめながらも、苦痛を含む口調で呟いた。


「同じ?それはちょっと違うなぁ」


ニヤリと口が大きく横に広がる。
アレンの左腕を掴むと─────

バンッ!!!



何を──────!?



いきなりの出来事にも神田も驚きの視線を向けた。
目を見開き、これ以上ないくらいに丸くさせた。


「なっ…!?自分から……」


驚きの声を上げるアレンの目の前で、顔の筋肉が露わになり倒れるロード。
しかし、すぐにアレンの胸倉を掴み顔を近づけた。


「僕等はさぁ、人間最古の使徒…ノアの遺伝子を受け継ぐ『超人』なんだよねェ」


そう言いながら、アレンと視線を交わらす。
回りに浮かぶ沢山の先端の尖った杭のようなキャンドル達。

その一つをガシッと攫むと。


「お前らヘボとは違うんだよぉ」


ドッ…!!


「──────っ!?」


「ぐああぁぁぁぁあああぁぁあ!!!」


アレンの左目をロードは、杭のようなキャンドルで突き刺した。
グロイその光景に息を呑むと、激痛に叫び声を上げるアレン。

見ていられない光景だけど、目を離せずに居た。


「プッ アハハ!」


笑いながらロードは血に染まった杭のようなキャンドルの先端を一舐めすると、地面に投げ捨てた。
徐々に再生する顔は、満面の笑みを浮かべていた。


「キャハハハハハ」


「……っ!!」


血だらけの左目を押さえながら、アレンは異様なロードを見つめた。
その様子に、ミランダは恐怖の声を上げていた。


「僕はヘボい人間を殺す事なんて…なんとも思わない ヘボヘボだらけのこの世界なんて────」


腰に手を当てて、コキコキと首を鳴らす。
完全に再生した顔は、先ほどと同じ顔をしていた。


「────だーいキライ♪
 お前らなんて皆死んじまえばいいんだ」


ニヤリニヤリと浮かぶ笑みに、アレンは悲しみに満ちた。
人間の中にも、こんな風に千年伯爵にくみする者は居るんだと。

その事実が、悲しかった。


「神だって、この世界の終焉を望んでる だから千年公と僕等に兵器(アクマ)を与えてくれたんだしぃ」


「そんなのは…神じゃない 本当の悪魔だ!!!」


スクッ…

大きな左手をエネルギー弾を発射する銃器に転換(コンバート)させ、立ち上がった。
白髪が邪魔をし、アレンの表情がよく見えなかった。


「そんなの………どっちでもいいよぉ」










To be continued.........................




本当は、もう少し先まで書きたかったなぁ〜というよくがあります。
が、これ以上長くするのは読者には面倒かと思いまして…切りっ!(笑)
次回までお待ちくださいー!






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