訪れた変化は…………苦痛や円形だけではなかった─────…

私の…戦う理由さえも………変わって…いた…








S.V 第二十三話









「僕は殺せないよぉ?」


アレンの団服を脱ぎ捨てながらロードはクスクスと笑った。
三体のアクマの攻撃が一気にアレンに襲い掛かった。


「アレンくん!!!」


「その身体で、アクマ三体はキツイかぁ」


倒れるアレンに悲鳴を上げるミランダ。
そして、当然の事をいけしゃあしゃあと口にするロード。

その言葉を耳にし、は唇をかみしめる。


「くそっ」


アレンと違い、生身の身体に打たれた神田の杭。
必死に痛みに耐えながら、それを引きちぎるように抜いた。

真っ赤な鮮血がその場に滴り落ちる。



か、んだ………!?



その様子に、は目を見開いた。


「い、いや 助けて」


ミランダのその声で、ロードがミランダを見つめ不気味な笑みを浮かべている事に気付いた。



ヤバイ…



直観的に、そう感じた。


「お前も、それから…アクマに近い存在のお前も…そろそろ解放してやるよぉ」


「「────!」」


ロードの言葉に、アレンと神田はピクリと反応した。
スッと右手を上に上げ、ロードの指先は宙に浮く杭の様なローソクが沢山あった。
慌ててアレンはミランダに、神田はに向かって駆け出した。

ドドドドドドドドドドドドドド

激しい攻撃が、ミランダとの居た場所を襲った。


「─────!!神、田っ!?」


襲ってくるはずの衝撃はあらず、代わりに上から血が頬に落ちてきた。
身体中から血が滲み出て、それだけに留まらず、ロードの攻撃を受けていた。


「ダ、メ……か、ん……だ 私はいい……か、ら…」


「嫌だ」


庇う神田を退かしたかった
しかし、を守りたいと思った神田を退かせる程強い言葉は出なかった。

いう事を利かない身体。
目の前で鮮血を流す神田を見ている事しか出来なかった。



どうして守られてるの…?
どうして…私は、イザという時に何も出来ないの………?

これじゃぁ─────…



「────あの時、と……変わらない、じゃ……ない」


唇を強く噛みしめた
いつもは強い光を放つの瞳も、今は弱々しい光を放っていた。
今にも涙が滲み出てきそうなくらいに、揺らいでいた。



私、は─────



グググ…

動かない身体に力を込めて、真横に落ちている真空へと指を伸ばした。
身体は悲鳴を上げ、吐血しそうなくらいの苦しさがを襲った。

それでも、負けじと手を伸ばし指を伸ばす。


「────…私、は…皆、を 人、を………守り、たい…」


必死な思いに、まるで神が答えてくれたように真空はの手に渡った。
しっかりと柄を掴み、震える唇を開く。



違う……私がほんと……うに、守りたい…………のは……



ドクン…

胸が高鳴った。
の頭の中に横切るシルエットの正体は─────…



神田……



「月花防壁!!!」


地面に叩きつけられた真空。
それと同時にを中心に球形の防御壁が生まれ、と神田を包み込んだ。

両手を広げた広さの二倍が防御壁の最大範囲で、それだけ範囲を広げても二人しか中に入れることは出来なかった。



これが……限、界……か……



息を呑み、それ以上広がらない範囲に奥歯を噛みしめた。
それでも神田を助けることが出来た事に、内心ホッとしていた。











私がダメな理由

何やっても上手に出来ないくせに、やろうとするトコロ
もう、やらないと決めたくせに未練がましく、またやろうとするトコロ

どうせ、何も出来ないならやらなきゃいいのにね

馬鹿よね…



時計の前に駆け出し、アレンを助け起こしたミランダ。
アレンに抜いてもらった杭の所為で、真っ赤な鮮血が流れる両手。
それでも、ミランダは止まらずポツリと心の中で呟くと────

コアアアアアアアア

後ろに無言のままで佇む時計がミランダの心に反応を示した。
時計を、その前に座るミランダを中心にイノセンスが発動し始めたのだ。



…あら?何かしら…?
何かの存在を感じる……



不意に疑問になり、振り返るミランダ。
その視線には、あの古時計が留った。



時計…



「…イノセンス…?」


そう口にした瞬間、カッと眩しく光り出した。
その言葉を待っていたと言わんばかりに輝き、時計のマークが浮かび上がる。

カチ…

十二時ジャストを示す長針、短針。
次の瞬間、コチコチと時間が逆戻りし始めた。


「ミランダさん……」


徐々に消え逝くアレンの傷。
徐々に吸い出されるアレンの時間。


「…… ………… … …………」


カチ

小さくそう音が鳴ると、アレンの身体は無傷の頃に戻っていた。
傷を負った瞳も、身体も、そして服さえも。



あれは……適合者、って事…?



その様子を遠くから防御壁の中で見ていたは、眉を顰めた。


「ア、アレンくん 動けるの!?」


いきなり起き上がったアレンに、目を丸くさせたミランダ。
当然の問いかけを向けるが、アレンは微笑を浮かべていた。


「ミランダさん…やっぱり適合者だったんですね」


次の瞬間、アレンはギュッと左手に力を込めた。
イノセンスの、発動。


 あそこに向かう」


「…… …………」


神田の言葉にコクリと頷くと、地面に触れていた真空を離した。
瞬間、二人を包み込んでいた防御壁が突如消え失せた。

ズルリ

ズルリ

静かに、けれど確実に神田はを背負いながらミランダの発動するイノセンスの中へと身体を鎮めていった。
徐々に薄れる痛み。

の胸を襲っていた強い苦痛さえも、徐々に薄れていった。


「……楽に、なった?」


「ああ そうみたいだな」


の驚きの声に神田は淡々と返した。
ミランダとアレンが居る中心へと歩みを進めると、丁度アレンが発動した左手でリナリーの座る椅子ごとイノセンスの中へと引き込んだ瞬間だった。


 神田」


「大丈夫そうだな」


「神田こそ」


呼ばれた神田は肩をすくめながら、椅子に座るリナリーの前にしゃがむアレンの方へと歩みを向けた。
その神田の後を追うように、も歩みを向けた。

いつ発動させても大丈夫なように、神田もも手には対アクマ武器を持ったまま。


「リナリーは?大丈夫なの?」


の問い掛けにアレンは慌ててリナリーの手首に手を当てた。

トクン

トクン

静かに打つ脈は生きてる事を示す合図。


「生きてる………!」


「死んでたら困るって」


アレンの喜ぶ姿に、苦笑しながらは突っ込んだ。
それでも呟く表情は歓喜に満ちたものだった。


「外傷はあまり無いみてェだな」


「はい となると、あの音波系のアクマの攻撃を深く受けて神経がマヒしているのかもしれません」


「可能性は捨てきれないね」


何も映していないリナリーの瞳。
目の前でアレンが手を振っても反応を示さないのは当然の事だった。


「!?」


「どうした?アレン」


何かに気付いたアレンには首を傾げた。
分からないには、リナリーが何かを握りしめているなんて気付かなかった。


「アレンくん リナリーちゃんは…?」


「…大丈夫 この空間(なか)にいれば…」


徐々に吸い出されていくリナリーの時間。
それに目をやりながら、アレンは心配するミランダを安心させようと言葉を掛けた。


「…あれ…私…?」


「「リナリー!!」」


目覚めたリナリーに喜びの表情を浮かべるミランダ。
アレンとは顔を見合わせ、同時に名前を呼んだ。


「…目が覚めたか」


同じく、仲間の目覚めに内心安堵していた神田。
ポツリと言葉を漏らし、瞬間リナリーが手を開いた。

ぐさっ


「─────っ!?」


顔面に直撃した何かにアレンは、慌ててソレを掴んだ。
掴んだ感触で、そして衝撃を受けた後に開いた瞳で物が何なのかを確認すると。


「ティムキャンピー!何でそんなトコロから…っ」


「あ アレンくんが倒れた時、一緒に砕けちゃって…ずっとカケラを持ってたの」


驚くアレンに説明するリナリー。
元気にアレンに突っ込んでいったティムキャンピーに、少しだけ驚いていた。


「って、私どうしたの?ここ、どこ?」


何、この格好…とも口にしながらも辺りをキョロキョロと見渡した。
今まで意識がなかったのだから、当然の反応にミランダは何と言えばいいのか戸惑った。


「ミランダのイノセンスに助けられたんだよ 俺達は」


ぶっきら棒な口調で神田がリナリーの問いかけに答えた。
その言葉に、今度驚いたのはミランダだった。


「え?わ、私…?私が……?」


「そう」


驚き、己を指差しながら問う姿には頷いた。
そして、アレンはゆっくり視線を時計へと向けた。


「あなたが発動したこのイノセンスが、攻撃を受けた僕等の時間を吸い出してくれたんです
 ありがとう、ミランダ」


にっこりと、微笑みを浮かべアレンはミランダに視線を向けた。
動く唇が紡いだのは、ミランダには嬉しいであろうお礼の言葉だった。


「このヤロぉ!出てきやがれぇっ」


吹いた冷たい炎に、リナリーが即座に反応を示した。
イノセンスを発動させた。



演舞『霧風』!!!



アクマの攻撃を相殺させた。
竜巻のような風が攻撃を仕掛けたアクマ達の方へと突き進んでいく。


「この風はさっき戦ったエクソシストのメスの…
 ちくしょう!何も見えねェ!!!」


「どこだエクソシスト!!!」


叫びながら、無茶苦茶に攻撃を仕掛けるアクマ。
しかし、それでアレンやリナリー、神田やを始末出来るほど四人は弱くなかった。


「ここだよ」


ドッ

三つ頭のアクマの上に着地し、エネルギー弾を発射する銃器に転換(コンバート)された十字架をアレンはアクマの頭に押し付けた。
ハッと気付くも、すでに遅し。

ドンッ!!!

エネルギー弾がアクマを直撃。
直後、爆発音が響き煙がモクモクと上がった。


「へぇ〜 エクソシストって面白いねェ」


「なめて掛かったあんたの落ち度だね」


楽しそうな表情を浮かべるロードに、ハッキリと言い放つ
全員がイノセンスを発動させ、ロードを睨みつけた。


「「「「勝負だ ロード」」」」











To be continued.........................





ミランダのイノセンスが発動されました!
そして、ヒロインと神田の関係(?)が徐々に動き出し……ヒロインの戦う理由も変化!

いよいよ傷が吸収され万全な四人の総攻撃の開始です!(ぉ)
徐々にまた長さを短く出来たらなーとか思ってますw






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