人は……生きていればこそ……
そう、生きているからこそ傷を負う生き物……
S.V 第二十五話
パンッ!!!!
大きな何かが消える音。
アクマの魂が見えていたアレンには、それがよく分かった。
だから、もくもくと煙る中ギリッと奥歯を噛みしめた。
「キャハハハハハハ」
大きく楽しそうに笑いだすロード。
アレンを爆発から間一髪で助けたのは、黒い靴(ダークブーツ)を発動させたリナリーだった。
「……………」
ズキ…
ツゥ……
左目の五芒星(ペンタクル)がズキズキと痛んだ。
そこから血が流れ出し、左側の顔を血で染めた。
「あ゙あっ…」
「!?ア、アレンくん!?」
様子がおかしくなったアレンに、驚き心配そうな声を上げたリナリー。
真っ赤な左手で、アレンは必死に左目付近を覆うように触っていた。
「くっそ……」
そう声を吐き捨てると同時に、左目から離される手。
「何で止めた!!!!」
責めるかのように、アレンの怒声がリナリーに向かった。
カッと目を見開き、リナリーは唇を噛みしめた。
良かれと思ってやった行動だったのに、怒鳴られたことに、悲しみを覚えた。
「………っ!」
バシッ!
リナリーの張り手がアレンの左頬を叩いた。
勢いよく叩かれた左頬は赤みを帯び、叩いたリナリーの右手もジンジンと痛んだ。
「………」
「…… …………」
いきなりの衝撃に驚き、身動ぎ出来ないアレン。
そして、叩いた右手をギュッと握り締め奥歯を噛みしめるリナリー。
二人の沈黙が、空間を覆った。
「仲間だからに決まってるでしょ…!!」
けれど、リナリーの震えた強い言葉が沈黙を破った。
瞳に涙を溜めてキッとアレンを睨む。
「スゴイスゴイ!爆発に飛び込もうとするなんて予想以上の反応だよぉ!」
「お前……」
ロードの楽しげな声に、余計に怒りが込み上げ頭に血が上るアレン。
「でも、いいのかなぁ?あっちの女の方はぁ」
「!!」
ロードの言葉で、ようやくミランダの方へと視線を向けたアレン。
すでに鋭い鎌の様な腕を持つアクマがミランダのイノセンスの発動する方へと向かっている途中だった。
「!!」
「ミランダさん!!」
ハッとするミランダ。
慌てて声を張り上げるアレン。
イノセンスを発動させようと、左手を伸ばすが間に合わない。
「─────っ」
駄目だとミランダが目をギュッと閉じた瞬間だった。
ダッ…
何かがミランダの方へと駆け寄る姿があった。
「!?」
さっきまで微動だにしなかったの姿があった。
アレンの悲痛な叫びで、漸く我に返ったようだ。
皆を守りたいと願ったばかりなのに…
また、助けられない所だったじゃん……
そう思いながら、は真空を構えた。
「はぁ!」
真空を思い切り振り下ろし、アクマを切り裂いた。
瞬間、もの凄い爆発音と煙が立ち上がった。
「なぁんだ…壊されちゃったか!今回はここまででいいやぁ」
傘を肩に担ぎながら、残念そうに呟くもどこか楽しげな雰囲気を醸し出すロード。
アレンに背を向け、ゆっくりと歩み出す。
「まぁ、思った以上に楽しかったよ」
ズゴゴゴゴゴ
クルリと振り返ると同時に、地面から突如現れた扉。
再度アレン達に背を向け、扉の中に入ろうとした。
ガチ
「優しいなぁ…アレンはぁ」
クスリと笑みを浮かべるロード。
ロードの後頭部には、エネルギー弾を発射する銃器に転換(コンバート)した銃口が押しつけられていた。
憎そうに睨みつけながらも、瞳から涙が零れ落ちる。
「僕の事憎いんだね 撃ちなよ」
溢れる涙は留まる事を知らずに、アレンの瞳から流れ落ちる。
ポタポタ…
「アレンのその手も兵器なんだからさぁ」
ギリ…
ロードの言葉に、アレンはそれでもエネルギー弾を発射出来ずに居た。
悔しい気持ちばかりが先走る。
「でも、アクマが消えてエクソシストが泣いちゃ駄目っしょー」
コツコツと歩みを進めるロード。
何の音もしない中で、靴音ばかりが響き渡った。
「そんなんじゃ、いつか孤立しちゃうよぉ」
私も……いつか孤立する…
ううん……もしかしたら、敵になってしまうかもしれないんだ……
アレンに向けられたロードの言葉に、も思い当たる事があった。
の存在意味。
「また遊ぼぉ アレン……」
ギィィィィィ
開かれた扉の中に入っていくロード。
徐々に締まりゆく扉。
アレンは、最後まで攻撃する事が出来ずに居た。
「くそ……」
その葛藤が分かるから、リナリーもも神田も何も言わなかった。
「今度は、千年公のシナリオの内容でね」
最後に聞こえた言葉は、すでに扉がほぼ閉まり切っていた時だった。
バタン
閉まり切った扉を睨み、アレンは右手をギュッと握り締めた。
「!!」
ドッ
感じた振動は、大地を揺らすような感じだった。
「何だ!?」と声を上げるも、答えを待たずに地面には亀裂が走る。
「崩れてく…!?」
「う…」
驚くリナリーの声に、ミランダのうめき声。
「ミランダ?」とリナリーが問い掛けた瞬間、リナリーとミランダの座る床が崩れた。
「リナリー ミランダ!!」
「くっ…」
「!?」
声を上げるアレンに続けて上げられたのは、の声。
慌てて手を伸ばし、を支える神田達二人の床も崩れ始めた。
「神田、!!」
ドッ…
二人の名も呼び、駆け寄ろうとするがアレンの立つ地面さえも亀裂が走り崩れた。
ハッとするも、落ちる感覚を止めることは出来なかった。
「………あれ?」
手を伸ばした先に視線を向けると、血文字の書かれた壁。
キョトンと目を幾度も瞬かせていた。
「ど、うなってる…の?ミランダのアパート??」
同じく近くで気付いたも、驚きの瞳をしていた。
神田も同じように眉間にしわを寄せ、周りをキョロキョロと見つめる。
「さっきまで居たあの場所は……どこだったんだ…?」
あれもロードの力なのか………?
疑問の神田の言葉に顔を見合わせるアレンと。
そして、アレンは内心そう首を傾げていた。
「ミランダの様子がおかしい!!!」
上がった声に、三人は顔を見合わせた。
慌てて立ち上がり、声がした壁の向こう側へと駆け出した。
壁を曲がり、姿を現すと時計の前にうずくまり苦しそうなミランダの姿が目に留まった。
ヒーヒーと荒い息をしながらガタガタと震える姿は、異常。
「ミランダさん………!?」
驚くアレンの横を通り過ぎ、神田がミランダの所へと駆けつけた。
「発動を停めろ これ以上は体力が持たねぇ」
「…駄目よ………」
指示する神田の言葉も虚しく、ミランダはそれを拒否した。
脂汗をダラダラと掻きながら、首を左右に小さく振った。
「停めようとしたら……」
「…こっちに…寄ってくる?」
ミランダがそう呟き、発動を弱めるとミランダの周りにある丸い時計の様な模様がズズズと達に寄って行く。
それに眉をひそめ、がポツリと呟いた。
「す……」
顔を上げ、涙目で達を順番に見やる。
「吸い出した時間も…元に戻るみたいなの またあの傷を……負ってしまうわ…」
ギュッとミランダは自分の身体を抱き締めながら、言葉を続けた。
震える声は、ミランダの気持ちをよく伝えてくれる。
「いやよぉ…初めてありがとうって言ってもらえたのに…
これじゃ、意味ないじゃない………」
「発動を停めて 停めましょう、ミランダさん」
そう呟くミランダの肩を掴み、アレンは優しく呟いた。
ニッコリと微笑み、涙を流すミランダの瞳を真っすぐ見つめた。
「貴方が居たから今、僕等はここにいられる それだけで十分ですよ」
ポタポタ…
零れる涙は、床を濡らした。
涙のシミがジワリと床に生まれる。
「そうそう 自分の傷は自分で負うよ 自分の傷まで…人様に押し付けたり出来ない」
「そうですよ 生きていれば傷は癒えるんですし」
の言葉に、アレンの言葉に、ミランダの涙は止まらない。
余計に大粒の涙が頬を伝っていった。
「お願い 停めて……」
リナリーの言葉に、ミランダは強く目を閉じた。
涙を堪えるように、胸を襲う掴まれるような強い感覚に耐えながら。
「時計よ…───────」
To be continued.....................
神田ってなかなか発言させ辛いものがありますね。
ヒロイン関わりなら、結構発言出来るんですが…そうじゃないと…無口になりやがるぞ。(笑)
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