皆は……いつもそんな、恐ろしい思いをしていたの……?
S.V 第二十七話
ドオオオオオオオオオオオオン
凄まじい音が、窓の外から聞こえた。
ベッドの上から、は視線を外へと向けた。
「……煙?」
上がる煙に眉を潜めた。
ズキズキと痛む身体、けれどアレン達の姿がどこにもない。
そう思っていた時、窓の外の光景の中で見知った姿がチラリチラリと動いていた。
「……アレ、ン?それに……赤毛??」
見た事のない色に、は眉間にシワを寄せるもただ事じゃないと気付いた。
慌てて立ち上がり駆け出そうとするも、身体を襲う痛みに座り込みそうになる。
こんな事してる場合じゃないのにっ
奥歯を噛みしめ、は自らの身体に鞭を打つ。
グッ
足に力を込め、はゆっくりと歩み始めた。
「アレン、大通りは人が多くて危ねェよ アクマに背後を取られる」
そう言いながら、赤毛の少年ラビは持っていた大槌を小槌にする。
シュイイイイイイイイ
ゆっくりと徐々に、大きさを失っていく槌。
「人間を見たらアクマだって思わねェと
お前、今アクマを見分ける眼使えねェんだろ?」
「ご、ごめん ラビは今…どうして……」
「ん?」
ラビの指摘はごもっとも。
だからこそアレンは申し訳なさそうに呟き────
けれど、向けられたのはアクマだとすぐに分かった事への疑問。
「イノセンス発動!月花防壁!」
ドオオオオオオオオ
上がった声と同時に聞こえた爆発音。
ラビ達の付近を襲う爆発音に、ラビは襲い来るであろう衝撃に少しだけ身構えていた。
「………あれ?」
しかし襲ってこない衝撃の代わりに、目の前に立つの姿にキョトンとしていた。
「!」
「お待たせ」
上がったアレンの声に、苦笑交じりのの声。
地面につけていた真空を離した直後、ラビ達を覆い守っていた防御壁は消え去った。
「話は後さ 大槌小槌」
そう言い、クルクルと槌を回しだすラビ。
「満満満」
構え、三度そう唱えるとグングングンと槌は巨大化していった。
小さかった槌は人の身長の数倍以上の大きさになっている。
で、でででで、でっかくなった!?
ラビの持つ大槌を見て、アレンもも同じことを思った。
始めてみるラビの対アクマ武器に、二人とも驚きっぱなしだった。
「頭下げろよぉ────!」
そう言うと、グッとラビは大槌を持つ手に力を込めた。
グンッと一度後ろに手を引くと、勢いよく槌はラビの意思通りに動く。
「こんな大通りで、んなもん投げっとぉ……危ねぇだろ、アクマ!!!!」
ゴン!!!
叫び声と同時に、ラビの大槌がアクマを叩いた。
瞬間、爆発と共にラビの大槌は建物をも破壊した。
「ちょっ、建物までっ!?!?」
驚くにラビは笑い声を上げた。
「あは ダイジョブダイジョブ!コムイが弁償してくれっさ」
「いや……まず、そういう問題じゃ─────」
「とにかく、場所を変え────」
ひらひらと受け流すラビに、そういう問題じゃないと言おうとした。
しかし、それはラビの声により遮られ。
またラビの言葉も、違う声によって遮られるのだった。
「動くな!!!」
「あの子達です!黒服の子供!人を殺したんです!!」
「貴様ら!動くなよ!!」
野次馬の一人が警官を連れてきたようだ。
グイッとアレンの腕を掴み、連行しようと引っ張った。
「連行する、来い!」
「あ、いや……僕達は……」
スッ
警官に弁解しようとするアレンを無視し、ラビは静かに槌を警官に向けた。
さっきよりかは幾分か小さくなった槌。
それでも、まだ大きさはあり攻撃するには十分なものだった。
「や、やめなさい 何をっ」
「ラビ!?」
ふーん ラビって言うんだ
驚く警官とアレンとは裏腹に、は赤毛の少年の名前が分かったことに関心が向いていた。
それは、自分たちよりも何倍も修羅場をくぐりぬけてきたラビの対応だったからこそ。
まだ、それほど戦ったわけではないアレンやよりかはラビの方が先輩でプロだ。
止める謂れはなかった。
「やめ………」
ゾク…
「……なさい」
「!!!」
警官が最初に発した二音。
その時、は嫌な何かを感じ取っていた。
そしてそれは正解だった。
バッと口と胴体を銃器に変えたアクマの姿に変わっていたのだ。
「─────っ」
ドドドドドドドド
アレンは発動して巨大化した左腕で、ラビは槌を回転させて攻撃をかわした。
は防御壁を作り、攻撃が止むのを待った。
「また新手!こいつら、オレらとドンパチしに来たみてぇだな」
ダンッ
ダンッ
地面を踏みしめ、場所を変える為に駆け出した三人。
「しっかし、アレン 反応が遅いぞ」
「……ラビ、だっけ?どういう意味?」
ラビの指摘には首を傾げた。
相手の名前を確認するように呟くと、肯定の意味で頷きが返ってきた。
「アクマの姿になってから戦闘体勢に入ってたら……いつか死ぬぞ」
「ごめん」
「……ラビは…どうして分かったの?」
ラビの指摘に申し訳なさそうにするアレン。
は首をかしげラビに問い掛け、アレンもそれに同意するように頷いていた。
アレンに至っては左目があったから、今まで気にした事がなかったのだろう。
見えるのだからアクマの姿になってから戦闘態勢に入る事などなかった。
そして、に至っては出会うのはいつもアクマの姿の者だけだった。
今回のような経験は初めてなのだ。
「分かんじゃねぇよ 全部、疑ってんだ」
ザッ
呟きながら、ラビもアレンもも地面に着地した。
そこはさっきの場所からある程度離れた場所。
列車が通る線路付近。
「自分に近づく奴は、全部ずっと疑ってる」
疑わないと、きりがない。
疑わないと、身が危険すぎるのだ。
それを、今回初めて身に染みたとアレン。
「昨日会った人間が、今日はアクマかもしれない オレらはそういうのと戦争してんだから」
その言葉は、痛いほど分かった。
アレンもも、身近な者をアクマにしてしまったから。
「お前らだって、分かってんだろ?そんな事」
「「…………」」
ラビの言葉に無言で顔を見合わせるとアレン。
そしてコクリと頷き、ゾロゾロと現れるアクマ達に視線を向けた。
「オレらはさ、圧倒的に不利なんだよ 便利な眼を持ってるアレンとは違ってさ
アクマは人間の中に簡単に紛れちまう」
ラビの言葉は先輩として、後輩に強く刻み込まれた。
こんな話、たくさんの戦争をたくさんの修羅場を迎えなきゃ出来ない話。
「オレや…他のエクソシストにとって、人間は伯爵の味方に見えちまうんだなぁ」
ゴクリ…
ラビの言葉にアレンもも息を呑んだ。
アクマだって分からなくて、すぐに構えることが出来なかった二人にとって今のラビの言葉は良く分かるものだった。
ドン!!!!!
「ラビ!!」
アクマの攻撃を慌てて避けたアレンは、二人の無事を確認するように声を上げた。
すると、煙の中からラビとの姿がユラリと現れた。
「大丈夫!レベル1ばっかだ!」
「私も大丈夫」
武器を構え、周りを囲うアクマを見据える三人。
ギュッと武器を握る手に力が籠る。
「さて……来いよ」
To be continued.......................
思い返せば、ヒロインはいつもいつもアクマの姿をしてる奴と戦ってたなー…うん。
ということで、今回はコムイとブックマン側の話じゃなくて…アレンとラビと一緒に戦闘側の話にしました。
実はね……コムイとブックマン側の話にしようかと思ってたんですけどねー(笑)
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