アクマと人間との区別のつかないエクソシスト……
私達にとって……人間は──────…敵にも見えてしまう……
S.V 第二十八話
ドドドドドドドド
勢いよくアレンの銃器に転換(コンバート)された左手が、エネルギー弾を発射した。
沢山のアクマと建物へとぶつかった。
『
アレンとは違ってさ オレや…他のエクソシストにとって、人間は伯爵の味方に見えちまうんだなぁ
』
ラビの言っていた言葉が思い返されるアレン。
ギリと奥歯を噛み、銃口をアクマへと向ける。
「キャアアアアアア」
上がった悲鳴に、アレンはビクッと身体を揺らした。
細め睨んでいた瞳が大きく見開かれた。
「助けてぇ!!!」
アクマに捕まった女の姿。
必死に助けを求め、アレンに手を伸ばしていた。
ギリ…
またも、アレンは奥歯を噛みしめた。
己の弱さを打ちつけられ、悔しかったのだ。
バカだ僕は……
ノアが…人間が敵になると知ったぐらいでグラついて……
ラビの言葉で思い出した……
悔しさは前へ進む糧になる。
すっぽりと忘れていたコトを、アレンは思い出した。
団服の……理由を、思い出したのだ。
「なぜいつも団服(コート)を着ているかだと?」
スパー…と煙草を吹かしながらクロスが疑問符つきで呟いた。
その言葉に、まだ団服を着ていないアレンが頷いた。
「だって目立ちますよ、その服 十字架の紋章掲げてエクソシストって事がバレバレじゃないですか」
クロスはアレンの疑問はため息でまずは答えた。
何も分かっていないアレンは、まだ未熟者。
だから、教えるのだ。
団服をいつも着ている理由を。
「馬鹿弟子 バレるために着てるんだよ」
煙草を吸いながら口を動かすクロス。
口で物を銜えているとき特有の喋り方になった。
「お前とは違うのだ、阿呆 見えん敵を相手にこっちまで姿隠してどーする
こいつは"的"なのさ こうしてれば近づく者を全て疑える」
「襲われるのを……待ってるんですか…………?」
吐き出される煙が道を描いているようだった。
その煙の軌道を目で追いながら、アレンはポツリポツリと問い掛けた。
「そのための…団服(コート)だ」
そう言われても、アレンには分らなかった。
何故、わざわざ狙われなくちゃいけないのかと。
それは、アレンには分らない事だった。
アレンにある左目がある限り、決して理解する事の出来ない事。
「お前に……こんな不安はないのだろう アレン」
思い出されたクロスの言葉に、アレンは悔しかった。
どうして、こういう目に合わなければ分からないのだと、悔しかった。
何も分かっていなかったのだ、アレンは。
他のエクソシスト達の気持ちを、恐怖を、不安を。
何も………
「─────っ」
ギリ…
奥歯を噛みしめる顎に、力が籠った。
師匠もラビも…エクソシストになった人たちは皆、人間の中でずっと人間を敵と見て戦って来たんだろう……
その中に居るアクマと戦うために、身を曝して囮となって……守るべき人間を守るために………
ドンッ!!!!!
己の甘さに反吐が出そうになりながら、アレンは女を人質に取っていたアクマをエネルギー弾で破壊した。
有無も言わさずに、一発で。
「ああああ…!!」
「大丈夫?」
「ううっ ううう〜〜〜 う〜〜〜〜〜〜」
助かったことに奇声を上げた女に、優しく問い掛けるアレン。
心配気なアレンを前に、女はしゃがみ込み泣き出した。
カチ
「……… … ………」
ドンッ
「遅いよ……」
アレンの額に向けられたアクマの銃口。
それはアレンが助けた女のものだった。
しかし、まるでアレンはそれが分かっていたかのように女を疑いそして一歩早くエネルギー弾を腹部に打ち込んでいた。
僕はこの道を歩み続けると決めたんだ
なら、この団服と共に覚悟を……決めなければ
その思いがアレンを強くした。
「くそっ!!!」
「ラビ!?」
上がったラビの声に、アレンは慌てて視線を向けた。
そこには沢山のアクマに囲まれたラビの姿があった。
ヤバイと直観的に感じるものがあった。
ダンッ
「!?」
地面を踏みしめ、ラビを囲うアクマの群れに飛びこむの姿があった。
そのにラビは驚きの声を上げた。
「月花……」
「、駄目です!!!」
口ずさむ言葉に、アレンは慌てた。
ほんの少しだけ、アレンの表情が青くなった。
「……吸冥!」
ラビ付近のアクマを、真空で斬り裂いた。
すると、同時に上弦の月の形の空洞が生まれアクマがそこへと吸い込まれていった。
が真空で斬りつけたアクマを中心に、ある程度近くに居るアクマ達だけが。
ドオオオオオオオオオオン!!!
同時に破壊されたアクマ達が爆発した。
煙ばかりがモクモクと立ち上がった。
「────────っ」
ドクンッ
上弦の月の形の空洞が生まれたのと同時に感じた、脈の高鳴り。
爆発音と同時に、の身体がグラリと揺れた。
「!!何故、使ったんですか!!」
使えばどうなるのか、分かっているじゃないかっ
自身が……一番よく知ってるはずなのにっ
技を使った事に、声を荒げたアレン。
それは、ロードとの戦いの時に話を聞いたから、そして今までの様子を見て来たから。
もし、ここに神田が居たら激怒していたことだろう。
「使うべき時……だった、から……だよ」
大きく息を吸い込み、激しい脈の動きを落ち付けようとした。
そしてアレンの言葉に、苦笑を浮かべながらゆっくりと答えた。
今使わなければ、ラビが危なかったかもしれないのだから。
「自分の身可愛さで……仲間を見捨てるなんてできるわけないじゃん
確かに……技を使うのは怖いよ?怖いけど……使わなきゃ だって私は────」
浮かべた苦笑が、笑顔へと変わる。
激しい鼓動は落ち付きを取り戻していた。
「─────…エクソシストだから」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
の言葉にアレンは息を呑んだ。
そう言われてしまったら、何も言い返せない。
だって、アレンだってエクソシストだから技を使う。
エクソシストだから、アクマと戦う。
だって、それは同じなのだ。
「 お前の話は聞いたさー
技…使わせる状態になっちまって悪かったさ だけど…サンキューな」
槌を構えながらも軽い口調でラビは言った。
その言葉には微笑を浮かべ、首を左右に振った。
「けど、アレン の言うとおりさ オレ達がに技を使わせない様にフォローできるならいい
けど、今みたいに駄目なら……には悪いが、エクソシストなら使って貰わなくちゃならない時がある」
「……ラビ」
ラビの言葉は当り前のものだった。
フォローが出来る時ならば、に技は使わせなくて済む。
だって、それは分かっている事。
何と言おうとも、やはり自分の身は可愛いのだから。
けれど、それだって時と場合があるのだ。
「……分かり、ました そうですね…やラビの、言うとおりです」
コクリと頷き、言葉を認めた。
アレンだってエクソシストなのだから、理解出来る話だった。
「さて、来るさー」
その声と同時に、残りの数体のアクマがアレン達に襲い掛かってきた。
「何体壊した?」
ボロボロの建物の残骸。
アレンももラビも、瓦礫の上に横になっていた。
そんなときに掛かったラビの問いかけに、もアレンも少しだけ記憶を遡った。
「…僕は三十……くらいですかね」
「私は三十三くらいー」
答えるアレンに続きも答えた。
といっても、の場合ラビを救うのに使った技で一気にアクマを吸い込んだのだから高くなって当然だ。
「あ、オレ勝った 三十七体だもん」
ラビの答えに、アレンは無言。
も苦笑を浮かべるだけで、返事はしなかった。
「そんなの数えませんよ」
「まぁ、確かに」
「オレ、何でも記録すんのがクセなのさぁ〜」
アレンのツッコミに、同意するは苦笑交じりだった。
その言葉にラビも少しだけ苦笑を浮かべていた。
ブックマン後継者ならではの、癖かもしれない。
「合わせて百か……単純にオレらだけに向けられた襲撃だな
お前とリナリーとが負傷してるのを狙ってか……」
ムクリ…
置きあがり、ズレたバンダナを直しながらラビは言葉を続けた。
「はたまた何か他の……目的、か……」
「「!」」
ピクリと反応を示しとアレンはゆっくりと起き上がった。
戦いに集中していた所為か、身体の怪我の事をすっかり忘れていた二人。
「大丈夫かな、病い……」
ズキッ
意識が散漫した瞬間、襲ってきた痛みに言葉は途切れた。
「「痛っ!」」
話していたアレンと無言で起き上がったの声が同時にそろった。
「大丈夫か?」
「うー…痛いけど、私は平気 ただの怪我だし……」
は苦笑しながら、立ち上がり終え息を吐きだした。
一番辛いのは技を使うたびに襲い掛かる苦しみだから。
「アレンはどうなんさ?まだ完治してないんだろ?その左」
「まぁね 僕も皆みたいに装備型の武器がよかったな」
左肩をさすりながら溜め息を吐いた。
寄生型は寄生型なりのいいところがあるけれど、不便なところがあるのも確か。
けれど、それは装備型も同じことだろう。
「病院ってあっちの方……だよな?」
「「うん」」
「たぶん……」
「確か…私も向こうからこっちに来たと思う」
ラビの問いにアレンとは顔を見合わせ頷いた。
それからアレンは付け加えるように多分といい、も思い返しながら呟いた。
「ここ握って」
「へ?」
「何?」
「大槌小槌……」
ヴ……
ラビに言われるがままに、ラビの対アクマ武器の槌の柄を握り締めるアレンと。
眉を顰め、首を傾げていると聞こえたラビの声に再度二人は顔を見合わせるのだった。
「伸!」
「い゙!?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
伸びる柄の勢いに、驚きの声を上げるアレンと。
それでも伸びる勢いは止まらず、グングン伸び続けた。
「病院まで伸伸し─────んっ!!!」
「「うひょええええぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」」
To be continued...................
アレンって、この時初めて他のエクソシストの不安を知ったんだろうなぁ〜と思いました。
だって左目がずっとあったのなら……知る事って出来ませんもんね。
『分かった』と思っていても、それは『分かった』うちには入っていなかったのでしょうから。
他のエクソシストからすれば……(苦笑)
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