月花吸冥!
それは、最悪への道標………
S.V 第三十三話
「アレン君や神田くん達を一時収集して!」
コムイの悲痛な声が上がった。
何故そんな指示を出したのかというと、それは数時間前に溯る事となる。
「いらっしゃいませ、エクソシスト様方
ここの店主のアニタと申します はじめまして」
胸の前で両手を合わせ、ニコリと妖艶に微笑む美女、アニタ。
その美貌に、女のリナリーでさえも男性陣と一緒にポーっとしていた。
あのブックマンでさえ、頬を染めるほど。
「早速で申し訳ないのですが、クロス様はもうここにはおりません」
「「「「「え?」」」」」
アニタの言葉に、その場に居た五人のエクソシスト──ラビ、ブックマン、アレン、リナリー、クロウリー──は素っ頓狂の声を同時に上げた。
求め求めてここまで来たのに、居ないというのだから当然の反応である。
「八日程前に旅立たれました そして……」
そのあと紡がれた言葉は信じられないものだった。
信じたくない、というのはきっと全員の本心だろう。
「今……」
「なんて…?」
アレンの消え入る声を、リナリーが繋いだ。
「八日前に旅立たれたクロス様を乗せた船が、海上にて撃沈されたと─────…申し上げたのです」
そんなアニタの言葉に驚くアレン。
それでも、強い意志を灯す瞳が揺るがないのは強い思いがあったから。
強い確信があったから。
「師匠はどこへ向かったんですか?
沈んだ船の行き先はどこだったんですか?」
強い瞳がアニタを捕らえた。
その言葉に、アニタが今度は驚く番だった。
「僕の師匠は、こんな事で沈みませんよ」
「………………………そう、思う?」
そんなアニタの言葉に、アレンは無言のまま頷くのだった。
絶対に死ぬはずがない、沈むはずがない。
そう信じられるのは、クロスの元で修行をしてきたからかもしれない。
「マホジャ、私の船を出しておくれ」
スッ
アニタは長い、重い、たくさんの衣装をまとったまま立ち上がった。
「私は母の代より教団の協力者(サポーター)として陰ながらお力添えしてまいりました
クロス様を追われるのでしたら、我らがご案内致しましょう」
閉じられていた瞳が、ゆっくりと開かれた。
スッと切れ長の綺麗な瞳が、ゆっくりとアレン達を見つめる。
「行き先は日本────江戸でございます」
「ティムキャンピー、この海の先に師匠がいるのか?」
アレンの問いかけにティムキャンピーは返事はしない。
ただ、パタパタと羽根をはばたかせるだけ。
「できればあの国には行きたくなかったのになぁ…師匠の馬鹿
これで死んでたなんて事があったら……恨みますよ」
船の帆の上、骨組の一角でアレンは座っていた。
なんともバランスの悪い場所に座り、海を眺めていた。
キュインッ
アレンの左目が反応を示した。
アクマ!?
まだ遠い、どこからっ!?
慌てて辺りを見渡した。
左目が、そして右目が捕らえるアクマの大軍らしき黒い点達。
「みんな!!アクマです!アクマが来ます!!」
アレンが必死に声を張り上げ、仲間全員にその危機を知らせた。
その声に反応し、協力者(サポーター)もエクソシストも空を見上げた。
「なんて数なの!!!迎撃用意!」
「オレらの足止めか!?」
「総員、武器を持て!!」
「ウウ 歯が疼く…!!」
それぞれの声が、船上に上がった。
「「「「イノセンス発動!!」」」」
ドドドドドドドド
アクマ達が破壊されていく。
アレン達の攻撃には見向きもせず、破壊される仲間にも見向きもせず。
ただひたすら前へ進んでいく。
「何、だ?」
「こいつら、何やってんだ……船を通り越してくさ……!!」
驚きの瞳が、船上を駆け抜けていくアクマを見つめる。
「お?エクソシストが居るぞー!人間が居るぞぉー!」
上がった声に、上を通り過ぎていたアクマ達の意識が一斉にアレン達へと向けられた。
あの尋常ではない数のアクマの視線が、船という逃げ場のない場所に居るアレンや人間であるアニタ達に。
「皆さんは、下がっていて下さい!」
アレンの声にアニタは首を左右に振った。
手に持っているのは結界装置(タリズマン)だった。
「はいはいは〜〜〜〜い 皆はァさっさと目的地に行くんだよぉ!!」
現れたのはとても偉そうにえばるアクマの姿。
異様な雰囲気を醸し出す、いかつい姿。
「こいつ等は、あたしが始末すんだよ!邪魔すんなよ!
キャハハハハハハハハハハ!」
楽しそうな声が上がる。
しかし、他のアクマ達は顔を見合わせ嫌そうな様子。
しかし、アクマの一言により他のアクマ達は言う事を聞かざるを得なくなった。
「いいのかなぁ?ノア様や千年公に言っちゃうよぉ?」
クスクスと笑う姿は、まるで人間のよう。
「人間みたいだからって威張りやがって」
そう吐き捨てながらも、アクマ達は目的地へと進みを開始した。
また、あの数が猛スピードで船上を通り過ぎていく。
「さぁて…邪魔者も居なくなったことだし……あたしの手にかかって、死んでもらうよぉ?
キャハハハハハハハハ!それともぉ、やっぱり抵抗したいぃ?」
ケタケタと笑う姿は、殺戮を楽しんでいるようだった。
目の前のエクソシストや協力者(サポーター)に視線を落としながら、ニヤリと笑みを浮かべる。
「冗談言うなさー オレらがそう簡単にお前らアクマにやられる訳ないさー」
「アッハハハハハハ!面白いこと言うねぇ、ラビ
あんたにあたしはヤれないよぉ?」
槌を握り締めるラビを見つめ、アクマは笑い声を上げた。
その笑い声に、ラビは柄を力強く握りしめる。
シュババババババババ
「…不意打ちなんてよくないなぁ、アレン」
アレンの繰り出すエネルギー弾を、アクマは打ち消した。
虚無へと導いた。
「な……んで、その技………」
その方法に、アレンもラビも驚きを隠せずに居た。
目を見開き、目の前のアクマを見つめる。
喉ガ、唇ガ、渇ク。
「キャハハハハハハハハハハ!!教団ってトコから連絡は来てないのかなぁ?」
「なんでオレの名前だけじゃなくて、教団の事までっ!?!?」
「アッハハハハハハハハ!!!!!!知らないなら、教えてあげるよぉ!」
アクマの言葉にラビは驚きの声を上げた。
アレンやラビの名前だけでなく、教団の事さえ知っているアクマ。
どれだけ知能に優れているのかと、ラビは目を見開かせた。
「だってあたしはぁ…………」
ゴクッ
「──────に呼び出されたアクマァ
ずぅ────っとの中で日々成長していたんだもん、知ってて当然だよぉ?キャハハハハハ」
To be continued.........................
ヒロインの魂はすでにいずこかへ…
現れたのは、ヒロインのうちに居たアクマ。
といっても、呼びだされた両親の人格とは違うアクマですからねw
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