信じたくはなかった
伝えていない言葉が沢山あったのに…………
お別れだなんて─────…
S.V 第三十五話
「いったい何だってんだよ、コムイ」
不機嫌極まりない神田の声。
そう思っているのは、神田ばかりではなかった。
の身体のアクマと対面した、アレンやラビ、クロウリーやブックマンも同じだった。
ただ一人、リナリーだけが詳しい現状を理解していなかった。
「ねぇ……どういう事?アクマの襲撃…それからアレン君たちの様子も変だし…」
心配気にリナリーはアレン達の顔を見つめた。
の事実は、まだコムイ達教団に残っていた者や別行動をしていたエクソシストや探索部隊(ファインダー)の者は知らなかった。
「…あのさー、コムイ」
「なんだい?」
「報告があるんさー」
「ラビ!?」
その口調から、アレンはラビはの事を告げるのだと察した。
だから驚きの声を上げた。
伝えてしまえば、きっとを敵視し破壊する標的にすることとなるだろう。
それは、誰もが分かっている事だった。
「アレン…これは、室長であるコムイに話さなきゃならない事だ
黙ってるわけにはいかないだろ」
いつにもまして真剣な眼差し、重い口調。
アレンはグッと言葉を詰まらせた。
「一体何があったんだい?と聞きたいところだけど……まずはボクの話を聞いて欲しい」
その言葉にその場に居るもの全てが顔を合わせコクリと頷いた。
「ちゃんが行方不明になった……いや、恐らくアクマの攻撃を受け……」
コムイのその言葉に、神田は視線を逸らした。
通信から聞こえてきた言葉、たぶんそれはそういう事。
「そう推測していたが……ボクとした事がね、すっかり忘れていたんだよ」
その言葉は、の正体を知っているものなら何を指し示しているのか分かるものだった。
は体内にダークマターの欠片を持っている。
そう易々とアクマの攻撃で死ぬのだろうか、と。
「ちゃんは、アクマになった可能性が高い」
ハッキリと言い切るコムイの言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。
戸惑う事なく、言い切るコムイがとても冷酷に見えた。
「その反応からすると……分かってはいたようだね」
「……そうじゃないんさ」
コムイの言葉に、ラビが重い口を開いた。
その言い出し方は、先ほどの報告と繋がるものがあった。
「…どういう事だい?」
「俺達、に……いや の内に潜んでいたアクマに会ったんさ」
その言葉にコムイは驚愕な表情を浮かべた。
「の体内にあるダークマターが、の身体の周りを強固にしてるだけで……の肉体そのもののままのアクマなんさ」
「「………っ」」
ラビの言葉に、コムイと神田が息をのんだ。
アクマになってしまったなら、破壊すれば良かった。
神田だって、きっとを想いそうしただろう。
しかし、そうじゃない。
「………あいつを…殺せと?」
低い唸る声で、神田は言葉を紡いだ。
想い人を手に掛けられるほど、神田だって人間出来ていない。
「…そうだね が伯爵側に行ってしまうとなると……ボクらとしても困る」
「だが!!!」
コムイの言葉に神田は噛み付く。
破壊するんじゃないのだ、殺すのだ。
跡形もなく消えるんじゃない、真っ赤な血を流し息絶え、身体が冷たく硬直するのだ。
「エクソシストは、アクマを破壊するためにあるんじゃなかったかい?神田くん」
「─────っ」
コムイの冷酷な発言に、顔をまともに見れなかった。
眉間のシワが徐々に濃くなっていく。
「今回、教団に戻ってきてもらったのは……
アクマになってしまったかもしれないの─────いや、もうアクマになってしまったと言った方がいいかな
そのの……捜索 そして……破壊の任務についてもらう為だ」
教団側としては、仲間からアクマを出すのは避けたい事。
いつ、何がキッカケで教団を見つけられ、門を破られるか分からない。
ここだけは、安全でなければならないのだ。
「元帥の捜索は他のエクソシストに任せてある」
それは有無を言わせない口調だった。
言えねぇっつーのか…?
あいつに……まだ、伝えてねぇ俺の気持ちを………
悔し気に、神田の表情が歪んだ。
「分かった その任務、受ける」
「「神田!?」」
「ユウ!?」
神田の言葉に、アレンとリナリーとラビの三人が驚きの声を上げた。
を一番に思っている神田が、そう易々受けるとは思えるはずもない。
だから、コムイも目を見開いていた。
「あいつを殺すのは……俺がやる 俺の手で………あいつを自由にする」
それは、決心だった。
の命に手を掛け、それを背負って生きていくという。
忘れずに、背負い続けるという。
「神田くん……伯爵に…付け込まれないようにね?」
「んな馬鹿なこと、誰がするかよ
が喜ぶわけがねぇ」
コムイの心配に、神田は吐き捨てるように言った。
の事を誰よりも一番に分かっている神田。
苦笑が零れた。
「そういう事なら、僕も手伝いますよ 神田にだけ…背負わせる事じゃないですからね」
「私もよ」
「俺もさー」
「私もである」
「一致したようだな」
アレン、リナリー、ラビ、クロウリー、ブックマン、それぞれの言葉が続けられた。
全員は顔を見合わせた。
こんな重いもの、神田一人に背負わせるほど冷酷じゃない。
どんなに喧嘩して、どんなに言い合いをしていても、結局は同じ目的を持つ仲間だから。
「すまないね 辛い仕事を押しつけて」
そんなコムイの言葉に返事もせず、神田は歩き出した。
の捜索に。
「オヤオヤ エクソシスト共が動き出したようでスネ」
「伯爵」
「どうしましタ?」
くすくすと笑う千年伯爵の元に、の身体のアクマが現れた。
呼びかけに振りむき、伯爵は笑いながら首を傾げる。
「そのエクソシスト達って……アレンとかいう奴らでしょ?」
「よく分かりましたネ その通りですヨ」
「なら…あたしに始末させてもらえない?あいつらとの戦い…途中だったんだよ」
その言葉に、伯爵は少しだけ考える素振りを見せた。
うーん、と唸りながら首を傾げる。
特別、その仕草が可愛く映るわけでもなかった。
「いいでしょウ 好きになさイ」
「やった!アッハハハハハハ!ボロボロのゲチョンゲチョンにしてあげるんだからぁ〜!
アーッハッハッハッハッハ!」
楽しげな高笑いを上げ、アクマは踵を返した。
向かうのは、アレン達エクソシストの居る場所。
「どこに隠れたって無駄だよぉ〜
あたしは、本部がどこにあるのか……知ってるんだからぁ ヒャヒャヒャヒャヒャヤヒャ!」
to be continued....................
とうとう対決です。
ヒロインと神田の運命はどーなってしまうのでしょうかっ!?
神田、決意しちゃったし……ヤバイよ!(汗)
S.Vに戻る