嘆かないで これは運命だったのだから
悲しまないで これは必然だったのだから

偶然ではない必然 必ず起こると予測出来た出来事

私は決して憎んだりしないよ
私は決して嘆いたりしないよ

これは、必要不可欠な通り道



それは、いったい誰の言葉だったのだろうか。











S.V 第三十六話











「神田!」


「んだよ、モヤシ!」


ツカツカと歩み続ける神田を、アレンは後ろから呼びとめた。
そこはすでに、教団を出た後。
それでもまだ、教団からはさほど離れているわけでもなかった。


「……戻ってもいいんですよ?教団に…」


「ハッ 何を馬鹿な事を言っていやがる」


アレンの言葉に悪態を吐いた。
今にも唾を吐きだしそうなくらい、馬鹿にした態度。

ギロリと鋭い瞳がアレンを捕らえた。


「エクソシストはアクマを破壊する存在だ 俺だってエクソシスト…任務を放棄するなんてあっちゃいけねェんだよ!」


馬鹿かお前は、と言わんばかりの口調だった。
一人先を歩いていた神田と、後ろから追いかけて来ていたアレンやラビ、リナリーやクロウリーにブックマン。
少しだけ距離の空いたそこに、冷たい風がビュゥ〜っと吹いた。

サラリ…

黒い束ねられた長い髪が、風に踊った。


「だけど神田……いくらなんでも、辛いんじゃない?」


心を寄せた相手だというのは、リナリーにも他のみんなにも分かっていた事。
神田の変貌ぶりを見れば、一目瞭然。

口にし辛そうに、けれど言わなければ伝わらないと腹をくくったリナリーが言葉を発した。


「辛い?そんな感情……仕事には無用だろ」


冷酷冷徹でいないと、狩られるのはエクソシスト達。
それは誰もが理解し、肝に銘じてあるものだった。


「だけどさー、ユウ」


「ファーストネームで呼ぶな、兎!」


誰が聞いても分かるイライラ。
そして、下の名前で呼ばれたことに声を上げるがイライラする自分に神田がイライラしているのは誰もが分かった。


「本当によいのだな?神田ユウ」


厳しい声はブックマンのものだった。
その声に神田は静かに視線を向けるだけ。


嬢と対峙するという事は──────」


「分かってる それが分からねェ程馬鹿じゃねェよ」


フンッ、と鼻で笑った。
大切な人を自らの手で葬り去る。
その辛さをよく知っているアレンとクロウリーは顔を見合わせた。


「できれば…もう仲間には、私と同じ思いはして欲しくなかったである…」


「ええ…そうですね……」


クロウリーの言葉は神田には聞こえないほど小さなものだった。
そして、それが聞こえた間近にいたアレンは、同じ思いを抱えるからか同じく小さな声で言葉を返した。


「みぃーつけたぁ、エクソシスト」


くすくすとくぐもった笑い声が聞こえた。
視線を、向う先────神田よりも先へと向けた。
そこに佇むのは、厳つい姿をした見覚えのあるアクマの姿。


「………嬢…いや、アクマか」


「呼び辛かったら、で構わないよ?どーせ、この身体はのものなんだしねぇ!」


アッハハハハハハハハ

楽しげな笑い声が上がる。
その声に、ブックマンは嫌そうに眉間にシワを寄せた。


「お前はじゃねぇ!」


声を張り上げたのは、いつもクールに任務をこなす神田だった。


「おやおや 怖いこわぁい アッハハハハハハハ、フフフッ」


「何がおかしい!」


怖いと思っていない口ぶりに、神田は怒り声を上げる。
その度に、くすくすくすくすと楽しげな笑い声がの身体のアクマから零れ落ちる。


「べぇーっつに いやぁ、あんた可愛そうな奴だと思ってねぇ…フフフックッ」


喉を鳴らし、それはそれは楽しげな笑い声。
腹を抱え、高らかに笑う。


「さて……あたしを殺す覚悟は…できたのかなぁ?」


くすくすくすくす

人差し指を数字の七の様に指を曲げ、口元に持っていく。
そして、その指を伸ばしながらペロリと舐めた。


「ダークマターの欠片があたしの身体を強化してくれてるのは、アレン達から聞かされてるよねぇ?」


その問いかけに誰も答えない。
その様子に、またの身体のアクマはクスクスと笑い「無言は肯定と取るからねぇ〜」と告げた。


「アクマを破壊する要領で戦わないと─────」


「あなたを倒す事は出来ない、という事ですよね?」


「あららぁ〜アレンは物分かりがいいねぇ アハハハハハ」


言葉を区切りアレンが続けざまに、アクマの言いたかった事を口にした。
その言葉に、嬉しげに声を上げた。


「倒すとは綺麗に言ったものであるな 結局は、私達にを殺させようとしているというのに」


クロウリーの冷たい視線がアクマを射抜く。



は…神田の大切な人なのである……
そのような酷な事を……



ギリ、と吸血鬼のような牙がなる。
悔しそうなその表情は、すぐにアクマへと伝わった。


「別にあたしは、殺されに来たわけじゃぁないよ?あんた達を始末しに来たのぉ」


アクマならば当然の行動。
神田はただ、睨みを利かせる事しか出来なかった。


「ただぁ…あんた達だって、ただで始末されるはずもないだろうからねぇ
 だから教えてあげただけだよ 勘違いしないでくれない?アッハハハハハッフフッ」


「そうだと思いましたよ アクマが…自らの意思で破壊されに来るはずないのは当然です」


アレンの言葉だけが、その場に響く。
誰も、その後に発言する者はいなかった。


「ねぇ……」


そして、その沈黙を破ったのは─────…の身体のアクマだった。


「御託はいい そろそろ…やり合おうよ?」


くすくすくすくす

楽しげな笑い声を響かせながら、そう言いだした。
それが狙い、それが目的。
また、エクソシスト達もそれが狙いでそれが目的だった。


「そうじゃな 何を言っても、やる事は変わりないのだからな」


ブックマンも、それに異存はなかった。


「じじぃ!」


「ラビ、耐えろ これが……エクソシストの仕事だ」


「っ」


ブックマンの発言に、当然の如くラビが声を上げた。
しかし切り捨てられた言葉に、息を吐くしか出来なかった。

声には出していなかったけれど、他の皆も同じ心境だったのだ。


「俺が行く」


「神田っ!?」


六幻を抜き、一歩アクマに向かい踏み出した神田。
それに驚きの声を上げたのはリナリーだった。


「神田はちゃんが大切じゃないの!?」


「大切だから……俺が手を下す そう………言っただろ」


呟く声はどことなく辛そうだった。



なら……どうして……?
大切なら…助けようと思わないの?神田……



リナリーは神田の背中を見つめ、そう思った。
しかし、その問いもすぐに答えを見つけたのだ。



ああ……そっか
助ける方法が……これしか、ない……んだったよ、ね……



悲しい道、辛い道。
どんなに泣き叫びたいことだろう。
どんなに嘆きたいことだろう。
けれど、神田は何一つ言わず自ら手を下すと名乗りあがる。

それは、大切だから故に自らの手で自由にしたいと願うから。
それは、大切だから故に背負い続けたいと願うから。


「覚悟しろよ 俺は……他の奴らほど甘くはねェぞ!!!」


そう叫び、イノセンスを発動させた。
光が刀身を流れ、力を発揮する。

ダンッ

地面を踏み、アクマに向かい切りかかる。
その表情は、無表情そうで辛そうなものだった。



「神、田………」



アクマの口から紡がれたのは、今までのアクマのものとは違っていた。
まるで、を思い出させるような───────……








to be continued.........................




とうとう最終決戦!
さて、最後に出てきたヒロインは一体!?!?






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