「おま……え……」



そんな風に掠れた声が……忘れ……られ……ない…………











S.V 第三十八話











「神田ぁ?答え答え、急いで急いで!」


楽しげに急かすアクマに、神田は口ごもる。
駄目だと叫ぶ心と、誘惑に乗りたいと叫ぶ心に揺れ動かされた。


「…………」


「ねぇ、答えは!?あたしの傍に居たくないの!?の傍に────」


なかなか答えない神田にイライラが募る。
強い口調でアクマは神田に回答を促し、神田はゆっくりと唇を開いた。


「神田、駄目だよ!」


「そうですよ!いくらの身体だからって……」


慌てるリナリーとアレンを余所に、ラビもブックマンも余裕綽々だった。
クロウリーに関しては、ただオロオロとするばかり。


「うるせぇ!」


ギロリ

神田の睨みがアレンにだけ及ぶ。
グッと言葉に詰まってしまうアレン、そして怒りの矛先にはならなかったものの怒られる理由のあるリナリーも何も言えなくなった。


「……大丈夫さー、リナリー、アレン」


「そうじゃの お主らが想像するよりも……はるかに大人だぞ」


その言葉にアレンもリナリーも顔を見合わせ、その視線は徐々に神田へと注がれた。
見ればハラハラし始める心。
今にも叫びだしてしまいそうだ。


「俺の答えは────」


「うん?」


紡いだ神田の言葉。
首をかしげながらも、期待する言葉が来るのではないかとアクマは期待した。
楽しげな笑みを浮かべ、神田の言葉を待った。


「────ノー、だ テメェの身体はのだけどな、そこにははいねぇ!
 はなっから答えは決まってたんだよ!」


下げた六幻を一気に薙いだ。
剣先が硬く強化されたアクマの頬を掠めた。

嫌な音が、ギンギンと響く。


「……あーあ 最後のチャンスだったのになぁ〜」


大きく肩を竦め、溜め息を吐く。
残念そうな表情の中、目は楽しげに笑っていた。


「神田っ」


「変な心配してんじゃねーよ、モヤシ
 リナリーも、長い付き合いなんだから少しは信用しろ」


まるでアクマの誘いに乗るんじゃないかと言わんばかりに叫んでいたアレンとリナリーに、神田は溜め息交じりに言った。
リナリーとは、本当に小さい時からの付き合い。
一番神田の性格を分かっているのかもしれない。


「ご……ごめん……」


反射的に謝ってしまうリナリー。
それほど神田は不機嫌極まりない表情をしていたのか。


「あんた達って……案外酷い仲間だったんだねぇ
 あっははははは!こりゃ、さっさとをアクマにして正解だったのかもねぇ!?ふはははっあははははは!」


ケタケタ、ケタケタ

楽しげな笑いばかりが木霊する。
目は三日月に細められ、口も同じく三日月の様に歪められていた。

それはまるで"異様"という言葉が似合いそうなものだった。


「てめぇがそう思うなら、それでいい
 だが、がどう思っていたかどうかは……てめぇには分らねぇ!」


ギュッ

神田は叫びながら六幻の柄を握る手に力を込めた。


「あはははははははは!分かるわけないじゃん!あたしはじゃないもん!
 あっはははははははひーっははははひひひひひひ!」


お腹がよじれる、と言わんばかりに身体を捻り笑う。
ケタケタと止まる事を知らないかのように、笑い続ける。


「分かってんじゃねぇか 覚悟しろっ!」


そう言い、神田は六幻を振り下ろした。
その姿にアクマは余裕の笑みを浮かべ、強化された腕を上げ────

ザシュッ……

ポタポタ……ポタポタ……


「おま……え……」


一瞬にして、アクマを強化するダークマターが周りから消え去った。
振り下ろした六幻はアクマに斬り込まれ、ポタポタと真っ赤な血を流していた。


「あはは……ごめ、ん これくらいしか……出来ない……」


そこに居たのは、らしい笑み。
らしい言葉。

上げた腕をもう片方の腕が制し、苦しそうに辛そうに表情を歪めていた。


「────くぅっ」


慌てて神田が剣を引き抜く。
また、真っ赤な鮮血が散り地面を染めていく。


「全く……人を勝手に……消さないで、よね……
 これでも必死に消えまいとしてたんだからさ……」


溜め息をつきながらも、やはり辛そうなのには変わりない
途切れ途切れな言葉、荒い息、額には冷や汗をかいていた。


「けど……もうそろそろ……限界、かな……
 母さんや父さんをアクマにしてしまった時点で……私、の人生は終わってたも同然だったのかな……
 アクマの……養分になってただけ……だったのかな……ハハハ…我ながら情けない…」


息を整えながらも、言葉を紡ぐ。
まるで、今ここで話さなければあとがないと言わんばかりに止まる事なく話し続けた。


……無事で……」


「アレン?無事に……見える?」


か細いアレンの言葉に、は苦笑した。
身体的にも精神的にも、全くもって無事ではない。
むしろ、危険なままなのだ。

ポタポタ……

真っ赤な血と冷や汗が、肌を伝って地面を染める。


「さて、世間話は……ここまで、だね」


「……やはり、そうであったか」


の言葉を聞き、ブックマンは何かを悟る。
その言葉にリナリー、アレン、ラビ、クロウリー、そして神田の視線が集まった。


嬢は……アクマを抑え、出てきているのだ
 ほぼアクマに乗っ取られていると言っても過言ではない今……このまま出続けているにも限界がある、という事じゃ」


「その、通り……だよ 解説ありがとう」


ブックマンの言葉に苦笑しながら、はその言葉を肯定した。
アクマを消し去ったわけではない。
ただ、抑え込んでいるというだけ。



実際言うと……今にも……意識は飛びそう…………なんだ、よね……



内心苦笑が零れた。
こんなに必死になっているのは、仲間に傷ついて欲しくないから。
仲間を、傷つけたくないから。


「神田……最後の、お願い……」


「…………」


の言葉に、神田は頷く事も首を振る事も出来なかった。
だから、はただ言葉を続けるだけ。


「……私の意識があるうち……に……私、を────」


その言葉に全員が『まさか』という顔になった。
しかし、はそのまさかを口にしようとしており、その反応に驚きはしなかった。

それは、当然の反応だから。


「────……殺して……」











to be continued.........................




まさかのヒロイン復活!!頑張ってます、ヒロイン!
でも、まさかの発言!復活はさせようと思っては居たんですが…こんな早くにまさか発言!
ちょっとばっかし予想外の展開に、執筆してる私自身が驚きですよ。(笑)






S.Vに戻る