吹く冷たい風と、温かい温もり。
消え逝く温もりと、温かい液。
目の前に広がる光景が、どうしてもモノクロに見えた。
付着するソレが、違うものだと思えるように、脳が勝手に変えゆく色。
「────……これで……いいんだ、よ 神、田…………」
耳元で聞こえた囁きに、世界の全てを否定する悲鳴が上がった。
S.V 第三十九話
「────……殺して……」
呟かれた言葉に、その場に居る全員の息が止まったかのような静寂が訪れた。
目の前に居るは何を言っているのだろう。
目の前に居るは、本当に自分たちの知っているなんだろうか。
その一言で、いろいろな思いがぐるぐると廻った。
「私は……正気だよ、みんな
これしか……もう、手立てはない じゃないと……私は私の手で、みんなを殺しちゃう」
今にもカタカタと震え始める身体。
それは、内に押し込めていたアクマの復活を意味するものでもあった。
「だ、駄目です!!何故、なぜそんな事をしなくてはならないんですか!!!」
アレンの悲鳴に近い声があがった。
掠れ、喉が裂けるほどに叫ぶ声には悲しげな笑みを向けた。
「何故?それは────……私達がエクソシストだから 忘れた?アレン」
「────ッ!!」
それは、なんとも正論で悲しい事実。
エクソシストはアクマを倒さなくてはいけない。
「だけど、はエクソシストさ!!」
「先輩エクソシストなラビがみんなを引っ張らないでどうすんだ!?
私がエクソシスト!?何を見て言ってるっての!?」
ラビの言葉に、の叱咤が飛んだ。
怒りの声に、ラビは肩を揺らす。
どちらが年上だか分らない、そんな状態だった。
「もう……私はエクソシストでもなんでもないよ アクマの中に絡めとられてる……哀れな魂」
分かっていた事。
言葉にされれば、突き付けられる事実に誰も何も言えない。
「もう……私を解放してよ 私はもう……苦しみたくないね みんなが苦しむ姿も……もう、見たくない」
哀れな笑みを浮かべ、は神田を見つめた。
ニコリと微笑みを浮かべると。
「神田……出来ない?」
「できるわけ……ねぇだろ!?」
「…………だよ、ね」
問い掛けに否定で返された。
その答えは予想していたもので、は苦笑を浮かべ立ち上がろうとした。
ふらつく身体を、慌てて神田が支えた。
どこまでも……馬鹿だね、神田
私が……この瞬間を待ってたなんて知りもしない……
支える神田を見つめ、微笑が零れた。
ドンッ!!!
「────……?」
いきなり突き飛ばされた神田は、バランスを崩しその場に背中から倒れた。
すぐには後ずさりをし、距離を取る。
その手には。
「俺の六幻を奪って……どうするつもりだ?」
チャキ……
は神田の六幻を構えた。
発動している六幻は、には凶器となる。
「……分からないほど、馬鹿じゃないでしょ?」
悲しげな笑みが零れる。
それをは自らの胸に突き立てた。
「な!!!」
「やめて!!!」
「────────!!!!」
神田の短い悲鳴、リナリーの悲痛な叫び、アレンのはち切れんばかりの声。
その声を聞きながら、は笑みを浮かべていた。
「神田、発動を止めるさ!!!」
ラビがそう叫ぶも、遅かった。
ザシュッ……
「「「「「────ッ!!!」」」」」
深く深く刀身が突き刺さる身体。
どくどくと溢れ出てくる鮮血。
六幻を伝い、滴り落ちる場所を徐々に広げた。
「っ!!!」
慌てて神田はに駆け寄った。
「────……これで……いいんだ、よ 神、田…………」
を抱き締めた神田の耳元で、はそう告げた。
優しい声色で、咎める色など見せずに。
「あとは……この六幻で私を……切り裂いて そうすれば……私の中にいるアクマ毎…………破壊、出来る」
すでにアクマと一体化していた。
言われて神田もそうだろうと思った。
それでも。
「出来るわけ……ねぇだろ……」
「馬鹿……言ってんじゃないよ エクソシストが聞いて呆れるっつーの」
の言葉に神田は首を左右に振る。
その瞳からは、大粒の涙が零れおちそうだった。
「……大の男が……泣くなって エクソシストにとって別れはいつもの事じゃないの?」
くすっ
微笑み、震える真っ赤な手で神田の頬に触れた。
指先が触れる場所が真っ赤に染まり、手を引けば同じように赤が伸びる。
「私はじゃない の皮を被ったアクマ
私の言葉はの言葉じゃない の皮を被ったアクマの言葉
そう考えれば簡単でしょ?」
すでに身体に力が入らなくなった。
伸ばしていた手はダラリと力なく地面へと落ちた。
ジワリと、染みだす赤は止まらない。
「あんたの中の、私を壊さないで 私は……私のままで消え去りたい
私は私のままで────……みんなの記憶の中に、残りたい」
瞳を閉じ、は微笑んだ。
グ……
神田が六幻の柄を握った瞬間が、繋がるにも伝わった。
そう……そのまま……切り裂いて、私を
閉じた瞳に力が籠る。
身体に力が入らなくなったというのに、こういうときだけは力が入るものなのだとは内心苦笑した。
「…………さよなら」
ザシュッ……
「神、田────……」
神田は切り裂かなかった。
の身体を残すかのように、六幻を勢いよく引いた。
生暖かい鮮血が傷口からドクドクと溢れ出た。
飛び散る赤は世界を染め、神田の顔や髪、服にその存在を知らしめた。
「うあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁ!!!」
神田の、世界の全てを否定する悲鳴が大きく響き木霊した。
その腕には真っ赤に染まった最愛なるものを抱き締めて。
to be continued........................
大切な人を手に掛ける事って、本当に辛いことでしょうね。
さぁ、とうとうクライマックスです!
次回が最終回になるのかっ!?!?
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