「良くもやってくれたわねぇ」
「「!?!?」」
現れたのは一体のアクマ。
けれど、その形状は今まで相手にしてきたアクマとは違っていた。
「…レベル2か」
「レベル2?」
神田の言葉には首を傾げた。
その様子にチッと舌打ちが聞こえた。
「初期レベルから進化したアクマだ!
初期レベルより格段に強くなってる上に自我を持っていて、能力も未知数だ」
その言葉にはゴクリと息を呑んだ。
まだ苦しい胸。
けれど、そうも言っていられる状態ではないようだ。
S.V 第四話
「殺してやる あんた等殺して、もっと強くなるぅ〜〜〜〜〜!」
ニマニマとした視線がを突きさす。
恐怖で一瞬後退しそうになった衝動を抑え込み、は真空を抜き放つ。
両手で真空の柄を掴むと。
「イノセンス、発動」
その言葉を合図に真空を覆う白い布が消え失せた。
現れたのは鋭い刃。
「はああああぁぁぁああぁ!」
掛け声とともに駈け出したは、真空でそのアクマに斬りかかった。
しかし、腕で軽く受け流されてしまった攻撃。
次の瞬間襲ってきたのは──────
ガッ…!!
「ぐはっ!!!」
強い衝撃だった。
吹き飛ばされたは、そのまま壁に激突した。
ずり落ちると共に崩れ落ちる壁。
「一匹取ったりぃ〜〜〜!!」
「────っ!!!」
ゲホッ
小さく一つ咳き込んだ。
先ほどの衝撃で口の中を切ったのか、咳と同時に真っ赤な液体が吐き出された。
「チッ」
「来なくていい!」
神田の舌打ちが聞こえた。
ちらりと視線を向ければ、神田もに視線を向け駆けつけようとしていた。
だからは慌ててそう声を上げたのだった。
見捨てるって言ってたくせに…
何助けようとしてるんだか…
そんな事をは思った。
なんだか不思議に冷静でいられる。
狙われているのが自分だからだろうか。
「馬鹿が!死ぬ気か!?」
しかし、そんな神田の声には答えはしなかった。
「月花防壁!」
真空を地面に叩き付けると、ヒロインを中心に間近に球体の防壁が現れた。
その防壁がアクマの攻撃を防いだ。
「死ぬ気なんてさらさらないよ 私はアクマを破壊する為にここに居るんだから」
ハァハァ
荒い息を整えながら、嫌味ったらしく神田に向かって言い放つ。
その様子に神田は安堵の息を吐き捨てながらも、チッと小さく舌打ちをした。
「だああぁぁぁああああ!!!」
が真空を地面から離した瞬間、ヒロインを中心に張られていた防壁が崩れた。
次の瞬間、は地面を蹴りアクマに向かい突進していった。
振り上げるは真空。
それに呼応するように、神田も六幻を構え振り上げた。
ズ、ガッ…!!!
「くっ…」
「チッ!!!」
斬りかかるも斬り込めない刃。
アクマの腕が神田との攻撃を受け止めていた。
「くっそぉ〜!!」
二人が居た場所を薙いだのは、アクマの鋭い手だった。
瞬時、神田がの前に飛び出て腹を蹴った。
「ぐっ!」
「っ!!」
吹き飛ばされるは息を呑んだ。
「何をする」と声を上げようと神田に視線を向けると、左肩から右脇腹にかけて大きな切り傷があった。
団服は斬り裂かれ、そこから真っ赤な血が滴り落ちていた。
私が…逃げ遅れたから…
「何してる、バカ!!死にてぇのか!」
神田の怒声はとても緊迫していて、その声にビクリと肩を揺らしてしまう。
けれども致命的な傷の所為か次の瞬間、神田は地面に膝をついた。
「神田!?」
「今度こそ一匹取ったりぃ〜♪」
獲物は神田。
アクマの視線は神田一点に集中していた。
ヤ・バ・イ……
その様子を見て、率直にそう思った。
は慌てて真空を構えた。
けれど同時に思い出すのは、苦しみと何かが無くなる感覚だった。
「迷ってる暇はない 私がやらなきゃ…」
大きく息を吸い、はアクマを睨み付けた。
グッと地面を蹴り一気にアクマとの距離を縮めた。
「月花吸冥!」
真空でアクマを斬ると、二日月の空洞がアクマの身体に生まれた。
アクマはその空洞の中へと否応なしに吸い込まれ、破壊された。
「か、んだ…」
ドクン、ドクン、ドクン…
高鳴る鼓動は苦しくて、感じるものは無くなる何か。
眉間にシワを寄せながらも神田へと視線を向け、傾く身体は重力に従って地面へと倒れた。
見た感じ、に酷い外傷はなかった。
一番酷いのは壁に激突した時の傷だった。
「うっく…」
薄っすらと開いた視界に映るのは天井。
そして、左右に伸びる黒いシルエットがあった。
「大丈夫?」
「リナ、リー?コムイ室長…」
視界がハッキリすると、ぼやけた姿がハッキリとした。
心配そうに覗き込む二つのシルエットは、の良く知る人物。
兄妹であるリナリー・リーとコムイ・リーだった。
「そういえば、神田はっ!?」
「ここに居る」
「…え?だって、あの怪我…なんで、ここ…に…」
冴えた頭で思い出したのは、意識を手放す直前に見ていた神田の姿。
自分よりも大怪我をしたはずの神田の心配をするも、聞こえた声に素っ頓狂な声を上げた。
あの怪我で平然とここに居るはずもない、と思っていたから余計に驚くのだ。
「あんなもん治った」
「はぁ!?意味分かんない」
神田の言葉に眉を潜める。
治るわけもない。
そう思うのは当然の反応だった。
「そこまで威勢よく出来るなら、ちゃんも大丈夫だね」
「あ、うん 痛くもなんともない…」
コムイの言葉に両手を見つめる。
それからジロジロと自身の身体を見つめた。
外傷はほとんどなし。
背中の傷も痛みはしなかった。
「あんだけの怪我でぶっ倒れるなんて、弱い証拠だな」
「んな!!!」
神田の言葉に声を上げるも、何も言えなかった。
あの苦しみの説明がつかなかったから。
「…その様子だと、戦闘中に何かあったんだね?」
「「え?」」
「は?」
コムイの言葉に、、リナリー、神田の声が同時に響いた。
に限っては、なぜ分かる?と言わんばかりの視線を向けていた。
「そうだったのか?」
神田の問い掛けに答えられず、は視線を逸らした。
「別に…言う程の事じゃ…」
「ちゃん 倒れたんだから、大したことでしょう?」
リナリーの言葉には言葉に詰まった。
ここで倒れずに居れば、話さずに済んだのかもしれない。
「実は…イノセンスを発動して、技を使うと…どうしても苦しくて…何かが無くなる変な感じがするの」
その言葉にリナリーとコムイは顔を見合わせ首を傾げた。
神田に至っては反応には出さなかったが、内心眉を潜めていただろう。
初めて聞く症例だったからだ。
「あ、でもね 大丈夫だよ!我慢できない程じゃないし…
慣れない苦しさだったから今回は気を失っちゃったけど…慣れれば大丈夫だよ!」
慌ててそう言い繕った。
不安なのには変わりはないが、足手まといになるわけにはいかないのだ。
は前線に立ち、アクマを破壊すると決めた。
ここで前線から抜けるわけにはいかないと、気丈に振舞った。
「ちゃん…」
「コムイ室長!大丈夫だってば!それに、エクソシストって少ないんでしょ?」
「…無茶はしちゃ駄目だよ?」
の心意気に押され、負けたコムイ。
それでも無理はしないようにと念を押す事に留めた。
満面の笑みを浮かべ、は力強く頷き返すのだった。
「さて、さっそくだけど任務の話に移っていいかな?」
コムイの室長としての口調に息を呑み、頷いた。
「そうそう 神田くんはアレンくんと向かって貰うから後でちゃんと資料を渡すね」
コムイの言葉に神田は舌打ちをしながらも「ああ」と短く答えた。
そして渡す資料は一人のものだった。
アレンって誰だろ?
まだ私があった事のないエクソシスト…だよね
そんな事を思いながら、は資料へと視線を落とした。
「ちゃんには、神田くんとアレンくんより先に現場に向かって貰う
イノセンスをアクマに奪われるわけにはいかないからね アクマを早急に破壊し、イノセンスを保護してくれ」
「分かった」
そうとだけ言うとはすぐに立ち上がった。
資料を片手に団服を整える。
「行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
の言葉にコムイとリナリーが反応し、返事をした。
バタン
静かに閉まるドアの向こうから、規則正しい足音が徐々に遠のいていった。
To be continued....................
いよいよ原作第二巻に突入です!
アレンが入団した時は、まだヒロインは気を失って眠ってましたw
ちなみに、まだヒロインと神田以外はヒロインの使うイノセンスの技を知りません。
でも、あとあとアレ(?)なのでちゃんと明かしますよーとだけ言って、四話終了。
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