「退いて!今あんたと戦ってる暇はない!」
「退きません!アクマは破壊しなくてはいけないんです!」
断固として退かないアレンにイライラが募るエクソシスト。
「私はアクマじゃない!エクソシストだよ!早く向こうのアクマを倒さないと、イノセンスが!!!」
その言葉をアレンは信用しなかった。
アクマは敵、破壊する存在、悲しい存在だから。
けれど、目の前に居るエクソシストの話もあながち間違いではなかった。
「くそっ!」
そう声を上げると、今目の前に居る─アクマだと思われる─エクソシストに踵を返した。
襲ってくる様子がないのだから、今は向こうのアクマの相手をするべきだと。
もしかしたら、エクソシストに化けて騙しているのかもしれないとも考えていたのだが。
「やめろ!!!」
声を上げると同時に巨大化した左腕を突きだした。
探索部隊(ファインダー)の頭を踏みつぶすアクマの身体に、大きな衝撃が走った。
「何、お前?」
衝撃を与えたと思ったアレンの左腕はアクマの左手によって掴まれていた。
攻撃は与えられなかったのだ。
ド・ク・ン…
感じる悪寒にアレンに緊張が走った。
「何よ?」
ゴッ!!!
アクマの左足からの大ぶりの蹴りが、アレンの腹部に入った。
思い切り吹き飛ばされ、アレンの身体は廃墟の壁へと大激突。
大きな音を立てて建物ごと地面へと落下した。
「あの馬鹿…」
ガリ、と地面の砂利を踏む足が鳴る。
アレンの様子を見下ろし眺めていたのは、ともに来た神田だった。
S.V 第六話
バアアアアアァァァアアアアン!!!
大きな衝撃音。
立ち上る煙。
「やっぱ強いか…」
その様子を見ていたはポツリと呟いた。
今は人形の捕獲、イノセンス奪取を第一に考えた方が良さそう…
それは神田も同じだったらしく、アレンの加勢に回ろうとはしなかった。
「今までの白い奴らとは違うな 黒い奴だった」
蹴りあげた左足をゆっくりと地面へと戻すアクマ。
突如左手に感じる壊れる感覚にアクマは視線を向けた。
掌を上に向け、ゆっくりと視線を向けるとパリパリと表面が破壊されつつある手が目に留まった。
「あ───分かった、この破壊力」
そう言うとアレンの連れているゴーレム、ティムキャンピーの漂う辺りを見つめた。
「お前が『エクソシスト』とかいう奴だなぁ?」
その声が合図の様に、埋もれた瓦礫が一瞬持ちあがった。
そこから這い出てきたのはあちこち傷を負ったアレンだった。
向ける視線は怒りに満ち、睨みが効いていた。
「探索部隊(ファインダー)の人達を殺したのは…お前か…!」
「ヒャヒャヒャヒャ…」
アレンの言葉にニヤリと嫌な笑みを浮かべるアクマ。
まるで殺しを楽しむかのような。
「神田」
「…ようやく現れたか」
アレンを見やる神田の背後に現れたのはだった。
「全く、私の事あの白髪の少年…アレンってのに話してなかったの?」
「は?仲間が居るとだけ話しておいた」
その言葉には眉をひそめた。
あの様子はまるで仲間だとは思っていないようなものだった。
視線も、態度も、まるでアクマと対峙しているような感じだったんだけど…
まぁ、確かにアクマと勘違いしてたみたいだけど…
なんだかやるせない思いが胸を締め付ける。
「じゃあ、何でアレンは私を攻撃しようとしたわけ?」
「お前を?」
「そ ビックリしたよ〜いきなり『アクマだ!』だからね」
の言葉に今度は神田が驚いた。
瞳を見開き、滅多に見れないような表情を浮かべた。
「ま、とりあえず私がアクマじゃないのは神田も知ってるわけだし…
まずは人形の奪取に行こう」
「ああ」
の言葉に神田は頷いた。
未だ戦闘の続くアレンにチラリと視線を向けると、神田は背負う六幻に手を伸ばした。
「いくぞ、六幻 抜刀!」
神田は指を二本立て六幻の刀身に当てた。
カッ、と指を当てた部分が明るく発光した。
「イノセンス、発動」
刀身を指でスラリと撫で上げると、刃がカッと一瞬光を帯びた。
と神田は同時に地面を蹴った。
「ギャアアァァァアアアァァァアア」
上がったレベル1のアクマの叫びにアレンも、アレンと対峙するレベル2のアクマも意識を向けた。
飛ぶ二人の姿が目に映る。
「六幻 災厄招来」
フワッと飛びながら構える神田。
その斜め後ろで同じく構える。
二人の視線はアクマの集結する一か所を見つめていた。
「界蟲一幻!!」
「月花吸冥!!」
同時に横一線に六幻を振り切る神田。
その軌道から龍の頭の様な不思議な生物が飛び出し、アクマの方へ一直線に向かった。
はといえば、一番近場に居るアクマを斬り裂いていた。
するとアクマの身体に三日月の空洞が生まれ、周りのアクマもろとも空洞の中へと吸い込まれた。
ドオオオォォオオオン!!!!
同時に響く爆発音。
それと同時にバランスを崩し倒れそうになる。
ガッ!
「……っ」
慌てて地面に真空を突き刺しバランスを取った。
どういう…事だ?
アクマの状態が、さっきより悪化している…あのエクソシスト
辛そうなを見つめ、アレンはそう思った。
「おいっ」
「私はいい!それより早く解除コードを…」
今にも倒れそうなに声を掛ける神田。
しかし首を激しく左右に振りながらは倒れている探索部隊(ファインダー)に視線を向けた。
チッと短く舌打ちすると、神田は慌てて探索部隊(ファインダー)へと駈け出した。
「おい あの結界装置(タリズマン)の解除コードは何だ?」
「来て……くれた、の……か エク……ソシ…スト」
神田の問いに苦しそうな声で、関係のない事を紡ぐ探索部隊(ファインダー)。
「早く答えろ 部隊の死を無駄にしたくないのならな」
「は…Have a hope"希望を持て"……だ…」
神田に解除コードを伝え力尽きた探索部隊(ファインダー)。
息も止まり、ガクッと力なく首は横に垂れた。
そうして神田は急ぎ結界のある場所へと飛び降りた。
「はぁ…はぁはぁ これで人形は…イノセンスの奪取は出来た…ね」
荒い息を整えながら、ユラリと立つ。
地面に突き刺した真空を抜き、神田の方へと向かった。
まだ苦しさは残るの足取りは、普段よりかは遅かった。
けれど、決して邪魔になるほどペースが遅いわけでもなかった。
「神田…人形は?」
「ああ、この通りだ 来い」
にそう答えると、神田は人形の方へと手を差し伸べた。
年老いた男と若い少女を抱き抱えると、身軽に破壊されつつある廃墟の上を飛び越えていった。
それに続くも、苦しそうながらも身軽に追いかけていった。
「いいもん!そっちは後で捕まえるから!」
少しいじけるような、けれど楽しむような口調でアクマは言った。
けれど、も神田もアクマの言葉に答える様子も気もなかった。
「神田!そのエクソシストはアクマです!!」
視線を向けると、先ほど対峙したエクソシストのが居た。
神田と共にアクマを破壊した瞬間を見たが、それでもアクマの姿が見えるのだ。
見た出来事よりも、その事実の方がアレンにとっては真実味があった。
「ちょっと!違うって言ったでしょ!?」
神田は見向きもしない。
言葉を口にするとすれば『ハッ』とか『チッ』とか『馬鹿か』の様な気がするくらいの表情を浮かべていた。
代わりに答えたのはだった。
アクマでないのは確かなのだから、変な言いがかりは付けるなと。
「あなたがそう言っていても、僕の目には見えるんです ダークマターに縛り付けられているアクマの魂が」
その言葉にはゴクリと息をのんだ。
が以前、何者かをアクマとして呼び寄せた事がある事を知らないと言えない発言だった。
「違う!!!確かに、私は両親をアクマにした!!けど、私はアクマじゃない!私は私!れっきとしただよ!」
それは自分が一番よく分かっていると。
キッとアレンを睨みつけて言い放つ。
その事については、教団側はみんな知っていた。
ただ知らないのは、新入りであるアレンだけだった。
の呪いについて、入団初日にクロス・マリアン元帥からコムイに伝わり、それは瞬く間に教団内部へと知れ渡っていた。
「モヤシ こいつはアクマじゃない それはコムイをはじめ教団に居る奴は全員知っている事だ」
神田も例外ではなかった。
コムイから収集が掛り、話しが伝わっていったのだ。
アレンも勿論、左目の呪いについては意識を失い眠っていたを除いて皆に知れ渡っているのだから当然と言えば当然だろう。
「ですがっ」
神田の言葉はもっともだった。
コムイが知り、尚且つ共に戦わせているのだから害意はないという事だ。
それでもアレンはなかなか信じる事が出来ずに居た。
「…アレン、私は敵じゃない 私はあんたと同じエクソシストの ま、新人だけどね」
肩を竦めるも、呟く言葉は真剣そのものでハッキリとしていた。
その言葉に、神田の言葉に、アレンの意思は揺らいだ。
「…対アクマ武器だってある それに、あんたが今気にしなきゃならないのは…」
その瞬間視線に映ったのは駈け出し始めたアクマの姿。
チラリとアレンからアクマへと視線を向けなおすと。
「そっちのアクマ でしょ?」
それと同時にアレンの左腕が動いた。
アクマの繰り出した攻撃を受け止めたのだ。
「助けないぜ 感情で動いたお前が悪いんだからな」
冷たい視線がアレンに突き刺さる。
神田は口調を弱めず、そのまま一気に。
「お前一人でなんとかしな」
そう言い切った。
けれど、アレンは神田にもにも目もくれずアクマから一定距離を取った。
「置いてっていいですよ」
「なっ!?」
アレンの口から紡がれた言葉に驚いた。
いくらなんでもレベル2を新人であるアレン一人で相手をするなど無謀もいいところ。
前回のレベル2を相手にしたならば、それはよく分かっていた事だった。
「イノセンスがキミの元にあるのなら安心です 僕はこのアクマを破壊してから行きます」
「何馬鹿な事をっ…!!!」
「行くぞ」
アレンの淡々とした口調には声を荒げた。
けれど神田は気にも留めず、タンッと地面を蹴った。
「くそっ!」
今ここで、新人であるが助けに回っても意味のない事。
それくらいは分っていたは、悔しそうに声を漏らすと神田の後を追った。
今はイノセンス確保の方が優先順位。
それは分っている事だった。
頼むから…アクマを破壊して…アレン・ウォーカー
意識を微かにアレンに向けた。
戦う姿は見えずとも、その気配を感じる事は出来た。
相手の力はいまだ未知数。
頼むから無事でいて欲しい、とそう願いながらの足は神田の後を追いかけた。
To be continued............................
任務二度目だと言うのに、なんだか手慣れてます、ヒロインさん。(笑)
とりあえず、初任務が結構大変で身に染みた…という感じでお願いします。(ぇ)
そして…アレン君、ヒロインをアクマと大勘違───いw
完全に疑いが晴れたわけじゃないですが…(おい)
徐々にヒロインの正体が浮き彫りに…ぬふふふふw
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