「………」
「何をしている」
無言のまま、いつの間にか佇んでしまっていた。
その事に気づいた神田は二人を抱き抱えたまま、同じく佇んでいた。
しかし一向に動き出そうとしないに、神田はしびれを切らしたのか声をかけた。
「え?」
「足が止まってる さっさと行くぞ」
「あ、うん」
指摘され、ようやく気付いた。
いつの間に…立ち止まってたんだろ…
そんなに気になるのかな…アレンの事…
進む神田を追いかける。
けれど意識はやはりアレンへと向けられていた。
アレンの言っていた言葉が気になるのか、歩みは途切れ途切れとなってしまう。
「……神田、ごめん!」
先輩でもある神田。
その神田の指示を仰ぐのが一番本当はいいのだろうけれども、気になってしまえば足手まといになる。
下唇を噛みしめると、はそう声を上げたのだった。
S.V 第七話
無事、破壊し終わっててっ!!!
走るは必死にそれだけを思っていた。
あの後、神田の言葉を待つことなく駈け出した。
後ろから神田の「待て!」という叫び声が聞こえた気もしたが、止まる事は出来なかった。
新人でもエクソシストはエクソシスト。
一度は現場を踏んだ身。
もうプロの仲間入り。
「アクマは破壊しなくちゃ…エクソシストにしか出来ない事
私はアクマを破壊する為にエクソシストになったのに…なんで逃げてんの…」
走るペースは変わらずに。
瓦礫を蹴り、建物の天辺を蹴り、アレンと別れた場所を目指す。
「……な、んで」
辿りついた先は、かなり破壊されていた。
ボロボロと崩れかかっていた建物は崩壊し、瓦礫は増していた。
そこにあるのはアレンの姿ではなく、アレンが闘っていたアクマの姿。
そしてその手には──────
「へへへっ お前も殺す!」
ティムキャンピーの尻尾を掴み、バシバシと地面へと叩き付けるアクマ。
ティムキャンピーの姿は無残にも砕け散っていた。
アレン・ウォーカー…
アクマの破壊に失敗したのか…くそっ
チッ、と舌打ちをするとは真空を握り締めた。
イノセンスを発動すると、巻かれていた白い布は消え失せ鈍く光る鋭い刃が現れた。
「おお〜?戻って来たのかぁ ひひひひひっ」
現れたの姿に歓喜の声を上げるアクマ。
強く真空を握りしめ相手の出方を伺おうと姿を見ると、そこで驚愕。
瞳が大きく見開かれた。
「あんた…なんでアレンの左腕を…」
戦闘体勢に入る為に転換(コンバート)していたアクマの姿に、途切れた口調で言葉を紡いだ。
そこにあるのは見知った左腕が映し出されていたのだから。
実際に、アクマがアレンの左腕を持っているのは右腕なのだが。
「くそっ 面倒な事になったね…」
カチャ、と音を立てて真空を構えた。
体勢を低くしアクマを見据え、グッと足に力を込めた。
「ヒャヒャヒャヒャヒャッ!お前もこの手の餌食にしてやるぅ〜〜〜」
「冗談じゃない!こんな所で、私は死なない!」
同時に降り出される転換(コンバート)されているアクマの右手との真空。
鈍い音を立てて二つはぶつかり合った。
「ああ〜ゾクゾクするぅ〜」
斬り合う中で楽しそうな表情を浮かべるアクマに眉間にシワを寄せた。
チッ、と小さく舌打ちをし、再度斬り込もうと真空を構えると。
「油・断・大・敵?;」
アクマの声と同時に現れたのは、レベル1のアクマ達。
「まだ居たのかっ!」
いくらなんでも一人でレベル1のアクマの大軍と、レベル2のアクマを相手にするのは至難。
神田ならやり切ってくれそうな気もするが、無事では済まないだろう。
そこで思い出すは、神田の回復力と回復の早さ。
あいつならどんな怪我してでもやり切りそうかも…
クスリ、と苦笑を浮かべた。
「負けてられないなぁ」
同じアクマを狩る者として、沸々と湧き上がる感情。
ゾクゾクと現れるアクマ達。
一発で仕留めるのは…無理、かな…
浮かび上がってきたアクマの位置を確認すると溜め息を吐いた。
どうやら先ほどの戦いでレベル2のアクマに、何となく範囲がバレてしまったようだ。
何か所かに分かれてアクマは存在していた。
けれど、そこからでもをアクマの弾丸で狙い撃つには十分だった。
「あまり連発したくないんだけどなぁ…」
何故苦しくなるのか、そんな理由は分らない。
けれど苦しくなるのは確実で、慣れていない苦しみは隙を生む原因となる。
けれど、ここで出し惜しみをするほど有利なわけでもなかった。
むしろ、不利。
これ以上神田を待たせる訳にも、居なくなったアレンを放っておくわけにもいかない、か…
ああ、面倒だなぁ…
肩を大きく落としながら溜め息。
そして視線はキッ、とアクマを睨みつけた。
「あの様子じゃー、あの技…連発出来ないんだろぉ〜?
ヒャヒャヒャヒャヒャ 勝負あったなぁ」
「は?馬鹿言わないでよ 誰が連発出来ないって?」
アクマの高笑いには不機嫌極まりない口調で返した。
チャキ、と真空の刃先をアクマに向ける。
「我慢すれば出来るんだよ、バーカ」
啖呵を切ると真空を構えたまま、素早くレベル1のアクマが集まる一点へと向かった。
まずは一か所。
「月花吸冥!!」
ザンッ…!!!
勢いよくその箇所に居る一体のアクマを真空で斬り裂いた。
アクマに生まれた三日月の空洞に周りのアクマもろとも吸い込み、大きな爆発音が鳴り響く。
「……っ」
生まれる苦しみ、感じる何かが無くなる感覚。
息を呑み、眉間のシワをより太く濃く深くしながらもの足は次の場所を目指す。
そこに留まるアクマが数体ならば、技を使わずに済んだだろう事には舌打ちをした。
沢山の箇所に、たくさんのアクマ。
それはの不利を強く叩きつけて来ていた。
「ンフフフフフフ?; ほらほらほらほらん?
早く倒さないとーヤられちゃうよん?」
不気味な笑い声が辺りに響く。
そんな中、は『月花吸冥』と叫ぶと同時に、次に向かった場所に居るアクマを一体斬り裂いた。
生まれた三日月の空洞に、周りのアクマも吸い込まれていく。
何か所も同じことを繰り返し、何度も上がる爆発音。
そのたびにの息は上がり、噛みしめる下唇からは真っ赤な血が流れ出していた。
「これで……最…後っ!!!
月花吸冥!!!!!」
ザシュッ…!!!
アクマを切り裂き、生まれた五日月の空洞。
その辺り一帯に存在していたアクマは、否応なく吸い込まれていく。
その様子をは肩で息をしながら、レベル2のアクマから意識を逸らさずに感じ取っていた。
一瞬見えた月の形に、は眉間のしわをより一層濃くした。
三日月だった月の形はたくさん技を使った今、すでに五日月へと変化していた。
ドォオオオォォォォンッ!!!!!
「これで…アクマ、はあんた一人…」
荒い息のまま言葉を発し、真空を構える。
一気に使い、一気に消耗した所為かフラつき意識が揺れる。
けれど倒れるわけにもいかず、は無理やり身体を発たせアクマと対峙していた。
「ん〜〜〜 ここまで弱れば簡単簡単♪
それにぃ〜その薙刀に斬られなければいいみたいだしぃ〜?」
今の様子の相手ならば、簡単だと嬉しそうに口にする。
ふざけるなと言いたい所だが、実際アクマの言っている事は正しかった。
「それじゃぁ、死んでねん!」
ズシャッ!!!!!
「ぐ……あっ…… つ、はっ」
感じた痛みは身体を貫通する、アクマの巨大な右腕。
アレンの左腕の形をした右腕の五本の指先を転換(コンバート)したようで、槍の様に伸びていた。
それがの身体を貫いていたのだ。
「く、そ…」
どうして私は…こんなにも…弱い、んだ……
この苦しみさえ…耐えられれば…慣れられれば…私は……私、は……
悔しく思う意識の中、ニヤリと笑うアクマの姿が目に留まった。
そして薄れゆく意識は、徐々に暗闇へと落ちて行った。
最後に見た光景は、の前から立ち去るアクマの後姿と間近に迫る地面だった。
To be continued............................
ヒロインが大変なことになっています。
こんなんで今後ちゃんと活躍できるのかっ!?!?!?(汗)
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