夢を見た。
夢を、見ていた。
「
イノ……セン、ス……」
「
選ばれた……使徒が、また……」
耳障りな音が響く。
脳に直接響くような、嫌な感じ。
イノセンス?使徒?
……そういう夢まで見るようになったのか、私は
内心そう笑った。
だって、今の言葉はまるで『D.Gray-man』の世界のようだったから。
好きだし、戻れないところまで落ちてしまっているけれど、今までに一度もD.Gray-manの夢なんて見たことがなかった。
「
召喚せよ、イノセンス──エクソシストを」
嫌な音が鳴り響いた。
耳を塞ぎ音を遮ろうとしても、まるで意味を成さないように……まるで体内から聞こえるように音は鳴り続ける。
「この音……私から、か?」
自分の喉下に指先を当てた。
息づいているような、他に何かがあるような、いつもの喉とは違う何かを感じた。
「
イノセンス──」
再びの声に、音がまた鳴り響き──真っ暗な世界へと落とされた。
儚き月見草 第一話
「な、何なんだ……これはっ!?」
気がつけば、周りは大自然。
空は暗く星が瞬き、人家のない森が延々と続く。
は、空中に突如放り出された。
「う、うわぁぁぁぁ!?」
真っ逆さまという言葉が似合うとおり、は勢い良く落ちていった。
重力に従って。
「さっきまで夢を見ていたんじゃなかったのか!?いきなりピンチじゃないか!」
どうすることも出来なかった。
ただ落ちていく流れに沿うことしか、は出来ない。
私はまだ、死にたくないっ
まだD.Gray-manを見届けていない。
ここで死ぬには未練たらったらなのだ。
「〜〜〜〜っ ……?」
身体に襲うであろう衝撃を覚悟して目をギュッと瞑った。
けれど、一向に衝撃は訪れない。
それどころか。
……温かい?
身体を包み込む温かさは、落ちるときに肌に感じていた冷たい空気とは違っていた。
「大丈夫さね?」
「……へっ!?」
鈴村さんボイス!?
聞こえた声には驚いた。
視線を上げて目を瞬いて、赤い髪が──目に留まる。
「ラ……あ、え……あ、大丈夫だ!ありがとう!」
うっかり名前を口にしそうになってしまった。
けれど、それでは不振がられてしまう。
なぜ知っているのかと。
いらぬ疑いは避けたいし、怪訝な顔をされるのも嫌だったから。
「それより……ここはどこなんだ?」
ラビに抱きかかえられ、けれどそれだけでは心もとなく首に手を回し必死にしがみ付いて問いかけた。
我ながら大胆な行動だな……
でも、そんな事言ってられないか
恥ずかしくなる行動だけれど、今はそんな事を言っていられる状態じゃなかった。
落ちては元も子もないのだから。
「戦場さ〜 いきなり現れたから何かと思ったぜ」
「戦場って……」
ラビの言葉に目を丸くさせた。
つまり。
本当にここはD.Gの世界って事なのかっ!?
疑っていたわけじゃない。
こうしてラビが目の前に現れたのだからD.Gの世界かもしれないという事はありえたのだ。
違う、そうじゃない。
私、いったいどんな夢を見ているんだっ?
夢の延長線上だと思った。
だから疑うことなくD.Gの世界だと信じ、はしゃいだ。
だって、夢の世界なら死ぬことだってない。
死にそうになれば、きっといつものように目が覚める。
「悪いけど、少し物陰で隠れててくれよ」
地面に下ろし、物陰を指差すラビにはコクコクと頷いた。
アクマとの戦いに巻き込まれるなんて冗談じゃない。
そういえば、さっきイノセンスに選ばれたとか……エクソシストを召喚とか……言ってたような?
それって詰まり自分のことだろうかと、は首を傾げた。
としたら、本当に都合のいい夢だ。
こうして好きなキャラと身近になれるなんて、都合がいいとしか言いようがない。
「ヤバイ……なんだ、この夢 都合よすぎる……」
嬉しいのに、不安が横切る。
嬉しいのに、怖い。
「くっ」
「あっ」
くぐもった声がの耳に届いた。
パッと顔を上げ、戦場へと視線を向けるとラビの苦戦する姿があった。
周りにはたくさんのアクマ。
どんなに戦いなれたラビでも、少し数が多すぎて分が悪い。
何でラビが一人で対応してんだ!?
これくらいの量なら、二人での任務になりそうなのに
コムイは何をしているんだと、は内心突っ込みを入れていた。
「しまっ……」
そう声が聞こえた瞬間。
ラビの四方を囲うようにアクマがズラリと現れた。
いくら何でも、一気に倒せる量じゃない。
「だっ……」
ドクン……
心臓が脈を打った。
ラビを目の前で失いたくないと、早鐘を打つ。
声を上げ、無意識に立ち上がり、茂みから駆け出していた。
選ばれたと言っていた
召喚しろと言っていた
そして、私が召喚されたんだ
その関連から、もしかしたらイノセンスが使えるのではないかという考えには至った。
夢なんだから、きっと上手くいくと。
イノセンスに選ばれてなかったとしても、夢なら上手い具合に変換されるんだろうと。
その時、の喉下が赤く輝き、不思議な模様が現れた。
「駄目だっ!!逃げろぉぉぉ!!」
必死に逃げてと叫んでいた。
戦士が逃げるなんて、きっとあっちゃいけないのかもしれない。
それでも、名誉やプライドよりも『命』の方が大切だ。
「……へ?」
ラビが、そんな間の抜けた声を上げた瞬間だった。
見えない波動か何かに襲われたように、アクマ達は遠くへ吹き飛ばされ──爆発した。
「満 満 満 はあぁぁぁぁっ!!」
その隙にラビは槌を巨大化させ、アクマを叩き壊した。
一掃されたアクマは見る見る減り、姿を消した。
「……どういう、ことだ?」
自分の喉下を触り、疑問の声を上げた。
大きな声をあげ、叫んだ瞬間アクマが吹き飛ばされて爆発するなんて、想像なんて出来るはずもない。
「……イノセンスだ お前、エクソシストなんさ?」
片付け終わったラビが槌をしまいながら、に近づき問いかけた。
「知るかっ!私は何も知らない!」
そう、イノセンスやらエクソシストやら、そういう事は知っているけれど。
自分がどうなのかなんて、分かりやしない。
今、いきなりの出来事だったのだから。
「なるほどな そんじゃま、コムイに会ってみるといいさ〜」
ラビ好きだからラビの夢を見るなら分かる。
けれど、ここにコムイの名前が出てくるとか、終わりのない夢を見てるとか。
……夢、だよな?
イノセンスが発動したことといい、目の前で起きたアクマの爆発といい。
肌に感じる空気が、音が、全てが、夢じゃない現実のように感じた。
「……痛い」
「何してんのさ」
ぎゅむ、と頬を摘んだ。
痛いと感じる夢かとも思ったのだが、なんだか夢じゃないようにも感じてしまう。
分からないけれど、ここへ来る前に見ていた夢が、違和感を感じさせるのだ。
「……夢じゃ、ない?」
「はぁ?いったい何を言ってるんさ?ほら、いくさ」
腕をつかまれ、有無を言わさず教団本部へと連れて行かれる。
道順は覚えていなかった。
「君がラビの言っていた子だね」
コムイの声にドクンと心臓が脈打った。
「どうやら寄生型の声帯のイノセンスみたいだね ヘブラスカに見てもらおうか」
テンポ良く進んでいく話に、頭がついていかなかった。
だって、夢だと思っていたから。
夢だと思っていたのに、違和感が多くて、夢に思えなくて。
片耳から入った言葉がもう片方の耳から出て行くような。
「ここがヘブラスカの間だよ ここでイノセンスとのシンクロ率などを量ってもらうんだ」
知ってる
コムイの言葉に返事はしなかったものの、心のうちでそう告げていた。
「ずっと……分からなかった、イノセンス……の波動」
ヘブラスカがそう告げながら、白い触手のようなものが身体を這う。
漫画でアレンがされているのを見て"気持ち悪そう"とは思っていたものの、いざ自分がされてみると本当に気持ち悪いと思った。
いつの間にか眉間にシワが寄り、下唇を噛み締めていた。
「七十……七十八パーセント それがお前と武器とのシンクロ率のようだ」
嘘のようだった。
現実感のない感覚が身体を占める。
けれど話はを置いてでも進んでいく。
身体を這っていた触手が離れ、身体も床へと着地する。
……夢じゃ、ないのかもしれない……
身体で覚えた感覚が。
身体で感じた感覚が。
そうだと言っているようだった。
への土産話……になるかもしれないな
まぁ、無事戻れたら……の話だけどな
肩を竦め、そんなことを考えながらヘブラスカを見上げるように視線を上へ向けた。
この時の私は知らなかった
運命が、凄く皮肉だという事を──……
to be continued...........................
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開始しました、李央とのリレー連載夢!
空から降ってくるなら伸で槌の柄を伸ばせるラビが一番助けやすいかなぁ〜と。
ちなみに、一番最初の声はたぶん大元帥だと思われ。(ぁ) |
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