儚き月見草 第十話









目が覚めると、俺の腕の中で女が寝ていた。

そうだ。
昨日かっさらってきたエクソシスト”だった”女、だ……。
は不思議な女だった。
異世界から来て俺を知ってると言い、しかもエクソシストなのに教団が嫌で敵である俺に助けを求めてきた。

最初はただの好奇心だった。
全く信じてなかったわけじゃないけど、信じてたわけでもなく、教団を裏切るという覚悟がどれほどなのか。
それを見たくて誘いにのったっていうのもあった。
でもは伝達係に使ったAKUMAを壊さずに、イノセンスを使って守って帰させた。
それで俺の気持ちは段々変っていった。

文通のようなことをしていて、気持ちはひしひしと伝わってきた。
本当に辛い思いをしていること。
苦しんでいること。
元気な素振りは見せていても、内心は擦り切れそうなんだろう。
手紙には決まって書いてある文章があった。

──早くこんな所から抜け出したい。教団が怖い──

久しぶりに再会したときのは本当に安心したような表情で、それを見て俺は伯爵や家族たちを苦労して説得した甲斐があったと思った。
俺たちの戦争に巻き込んで申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、その分俺はこいつを幸せにしようと、穏やかな顔で眠っている彼女の寝顔を見てこっそりと胸に誓った。









「んー………」


「ぉ、起きたか?」


目を開けるとティキがいた。



夢? それとも現実?



「……本物?」


「なんだよ。俺の感触、忘れたのか?」


そう言ってぎゅっと力強く抱き締められた。
それと同時に腰に激痛が走る。


「あのね、夢かと思ったの。
 キャラとして見てた頃の夢の延長なのか、それとも教団にいた頃によく見た現実逃避からくる夢なのかって……」


「夢じゃねぇよ。俺はここにいる」


「うん……。あったかくて、涙が出そう…」


でも嫌な痛みじゃなくて、嬉しい痛みでこれは夢なんかじゃないって実感できる。
ついこの間までティキと一緒にいられるように!!って我武者羅に生きていた。
逃げたくて、逃げたくて、それしか考えてなかった。
でもやっぱり幸せすぎて夢なんじゃないかとも思うんだ。


「これぐらいで泣いてたら、これから身がもたねぇよ?」


「でも嬉しいんだからしょうがないじゃん」


もっともっと幸せを感じたくて、あたしはお互い裸なのも気にせずに強く強く抱き着いた。


「ねぇ、お前誘ってんの?」


「ティキのエッチー」


「男はみんなそんなもんだよ」


「ふーん?」


「で? 寝起きに一発イっとく?」


「まだ薬じゃないよね?」



今の時間はわかんないけど、あれは確か1日1回だったはず。
いくらなんでもまだ早いんじゃないかな?



そう思ってたらティキに軽いキスをされた。


「なんだよ。薬がないとお前に触れちゃいけないわけ?」


「ぇ……?」


「俺は薬関係なしにお前に触れたいの」


そう言って今度は深いキスをされた。
頭と腰をしっかり押さえつけられてるから逃げることは不可能。



まぁ逃げる気ないけどね。



「ぉ、もヤる気満々?」


「満々じゃないけど……でもティキだから嫌じゃない」


そう言ってふにゃーと笑うとティキの顔が一瞬きょとんとなってから、口元を押さえてそっぽを向かれてしまった。


「それ、反則」


「ぅわっ?!」


さっきまではティキの腕枕で話してたのに、体勢が変わって押し倒されている。


「ま、そういうことだから覚悟しろよ?」


「どういうことだよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


にやっと笑ったティキの顔にこっそりときめきつつ、今でも腰が痛いのにさらに痛めつけるのか……と少しばかり気が遠くなったのだった。
でも縛られるものがなく、好きな人とこうやってのんびり過ごせることが嬉しくて、まぁいっか。
と思えてしまう自分もいた。



ぁあ、本当に重症だゎ……。










「痛すぎて動けない……」


あれからティキの好き放題にされ、何度か意識は飛ぶし、腰が痛すぎるしであたしは布団の中で結構本気で昇天しそうになっていた(爆)
ティキが腰を撫でてくれてはいるものの、気やすめ程度にしかならない。


「悪かったって」


「本当に思ってるの?」


「思ってるって。ところで、これから家族たちに会いに行くぞ」


「は?」


突然の発言に目がきょとんとする。



いや、ちょっと待てよ。
この状況でか?



「無理無理無理無理!!!」


「俺が責任持って運んでやるから安心しろって」


「やだよ!! それはそれで恥ずかしい!!」


「なんで? 俺の女ってわかりやすくていいじゃん」


そう言って先程自分がつけたキスマークをそっと撫でる。
くすぐったくて身をよじるが、そんなのおかまいなしになぞっていく。


「俺は”快楽”のノアだからさ、欲に忠実だし独占欲も強いの」


「だからなんなのよ!!」


「だーから、こうやって俺のものですーって見せつけたいんだよ」


そう言って顔中にキスされたと思ったら、首筋や胸元にまたキスマークを増やされ、あたしがふにゃふにゃになっている間にいつのまにか着替えさせられていた。


「ティキのバカ!!」


「まーだそんなこと言う? もっと恥ずかしいことするぞ?」


立てないあたしはティキにお姫様抱っこで、みんながいるらしいリビングに連れて行かれてるわけだけどメチャメチャ恥ずかしくてマジでやめてほしい。
でもティキの顔も冗談ぽくはなかったので、渋々大人しくした。








「待たせたな。こいつが前に話しただ」


リビングらしき所に来るとロードと双子、スキンがいた。
なんかおもいっきりジロジロ見られてる。
まぁ体勢的に仕方ないかもしれないけど、すっごく居心地が悪い!!!
ティキはそんなの気にせずソファにどかっと座った(あたしはラッコ座り状態)


「こいつが俺たちのこと知ってるっていうエクソシスト?」


「ヒヒッ 裏切り者のエクソシスト♪」


「あたしはエクソシストなんかじゃない」


ジャスデロが言ったことに対してあたしは即答で言い返した。


「確かにあたしは教団にいて、そんな能力もある。
 でもこれはイノセンスであってイノセンスじゃないらしいし、あんな奴らの仲間になった覚えもない。
 一緒にしないでくれる?」


教団の連中と一緒にしてほしくなかった。
いたくてたわけじゃないし、あたしはあそこが大嫌いだ。

他の人たちはあたしの発言を聞いてきょとんとしたけど、次の瞬間には大爆笑していた。
でもその中で1人真剣な顔をしている人がいた。


「でもさ、の友達はそんな連中の仲間になる道を選んだんだろう? を見捨てて」


「それは違う!!!」


発言をしたのはティキだった。
あたしは大きな声で叫び、返していた。


「何が違う? が教団を嫌がっているのは知っていたんじゃないのか? それなのに助けなかったんだろう?」


「あたしが言わなかっただけ!! 嫌だってことを隠さなかったから、知っていたとは思う。
 だけどあたしがあそこを嫌がって、ずっと外に出ていたんだし相談もしなかった。
 あたしは友達だからって縛りたくなかったの。
 があそこで生きる道を、エクソシストになることを受け入れたならそれを否定する気も権利もあたしにはない。
 自分が口出しされたくないから、にもしなかった。ただそれだけだよ。
 人それぞれ幸せは違うから、あたしが幸せになるためにの幸せを潰したくない。だから何も言わなかった」


はみんなと打ち解けていたし、エクソシストとして生きると決意していた。



それはそれでいいと思う。
友達だから一緒じゃなきゃいけないわけじゃない。



意見が食い違えば無理に合わせる必要はないと思う。


「見捨てた、見捨てないって話なら見捨てたのはあたしの方だよ……。
 あそこで戦うことを最初から放棄して、敵であるティキやみんなに助けを求め縋ったんだから……」


「悪かった。余計なこと言ってごめんな? だからそんな顔すんな」


のことを思い出して、色んなことを考えてたらティキに頭を撫でられた。
ティキは悪いことしてない。
なのにどこまでも優しい彼に涙が出そうだった。
出そうだったんだけど……


「お前変な奴!!」


「ヒヒッ おかしい、おかしい♪」


「…… そこのポット、あの双子の上で引っくり返れ」


「「あちちちちちちちちちち!!!」」


せっかく感動してきゅんきゅんしてたのに、ジャスデロのせいで気分が台無し。



腹が立ったので自己紹介も兼ねて能力を使ってやった☆



「とりあえずあたしの能力は”言霊”言葉で色んなものを操れるの。あんな感じでね」


お湯がなくったらポットは落ちてデビットの頭の上に落ちた。



はっ、ザマーミロってんだよ。



ジャスデロはぜぇぜぇ言ってて、ロードとスキンはぽかんとしていた。
でも少し間を置いてロードが近寄って来た。


「その服というか、他の服も部屋の家具とかぜぇ〜んぶ僕が選んだんだよ」


「……そうなの?」


「うん。ティッキーに頼まれてね」


「そうなんだ……ありがとう」


2人の顔を順に見てお礼を言う。
ロードはまだ完全に心を許してくれたわけじゃないみたいだったけど、でも仲良くなろうとしてくれてる感じはした。


「おい、甘いものは好きか?」


「? うん」


「ならこれ、やる」


「!! ありがとう」


あたしは幸せいっぱいでスキンにもらったケーキを頬張った。


「お前、すっごい美味そうに食うのな」


「だっておいしいもーん♪」


「太るぞ……(ぼそり)」



おもしろそうに見ているティキは気にしなーい。
だって本当においしいんだもん♪

でもむかつくことを言ったデビットは許さない☆



「テーブルよ、デビットのところにとん──」


「だーーーー!!! 悪かった!! 悪かったから続きは言うな!!!」


デビットが慌てて邪魔をする。



そりゃそうだよね。
だってテーブル、高そうだし重そうだし、当たったら物凄く痛そうだもん。

でもそんなのあたし、知らない☆



「じゃあデビットがテーブルに向かって飛んで、勢いよく何度も落ちてしまえ☆」


あたしはデビットの叫び声と鈍く痛々しい音をバックコーラスにケーキの残りをほくほく気分で食べたのでした。









to be continued.....................




<あとがき>
ノアのみんなと対面編でした☆
みんな多少は警戒するけど、でもそこまで酷く拒絶するわけでもなく素直じゃないだけで、意外とすぐ受け入れてくれんじゃないかなぁと思うんだよね。
で、最後はちょっとコミカルな感じで(笑)






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