儚き月見草 第十二話










「んっっ………」



寝てたのか…。
まだ瞼が重い。
あったかくて気持ちよくてなかなか開けられない。



瞼を開かせるのに時間がかかりつつも、なんとか開くと薄暗くてぼんやりしているけど目の前には大好きな彼の顔。


「ティキ……」


呼んでも返事はなかった。
寝ているのを邪魔するのも嫌だったから、大人しくしていることにした。
昨晩も”薬”を名目に行為をし、そのまま寝たから体がだるい。
でも嫌悪感とかそういうものは全くなく、逆に”ティキのもの”なんだと実感できて嬉しくて胸がいっぱいになる。
安心と満足感で再度心が満たされ、そうしたら眠気がまた戻ってきて、あたしはまたティキに擦り寄って再び意識を手放した。





「ぉい、起きろー」


「ん……? ティキ?」


「ぁあ。飯の時間だ、そろそろ行かないとなくなっちまうぞ?」


「うんー……」


寝起きが良いときと悪いときが激しいけど、今日は中間くらい?
起きる気はあるのに体がついていかない。
意識はあるし、返事もするけどなかなか起き上がらないあたしを苦笑いしながらティキが起こしてくれた。


「お前まだ半分くらい寝てるだろ」


「かもー」


「仕方ねぇな」


とか言いながらもティキの声はなんとなく笑っていて、昨日のうちにティキの部屋に持ってきていた洋服をテキパキと着せてくれた。


「食堂まで歩けるか?」


「頑張るー……。けど引っ張って〜」


「はいはい、お姫様」


ティキは脇の下に手を入れ立たせてくれて、手をぎゅっと繋いで転ばない程度の速度で歩きだし引っ張ってくれた。
歩いてるうちに段々意識が浮上してきて、到着した頃にはすっかり目が覚めていた。


「随分遅かったね〜」


「こいつがなかなか起きなかったんだよ」


「だって眠いんだもん」


最初に声をかけてきたのはロードだった。
ジャスデビは初対面以来なんとなく様子を伺って接するようになった。



まぁあたしも少し意地悪したしなぁ……。



スキンはあんまり話さないけど、おやつ時になると色々おいしいお菓子をくれる。
ロードは当たり障りのないくらいかな…?
普段ティキとずっと一緒にいるからあんまり深く関われないかもっていうのもあるんだけどね。


「ね〜、〜。後でボクの部屋においでよ〜」


「ロードの?」


いきなりなんだろうと思いつつ、チラッとティキを見る。


に好きにしろよ」


「うん。じゃあ食べたら一緒に行こ? あたしロードの部屋わかんないから連れてって」


「うん、いいよー」


何するんだろう?と思いながら、目の前にある自分のご飯を口に入れた。
そういえばここに来てから、ティキと離れるの初めてだなぁ……。









「適当に座ってぇ〜」


「うーん」


ロードに促され、ロードが座った椅子の向かいに腰かけた。


「まどろっこしいの嫌だからぁ、単刀直入に聞くけど、あんたなんなの?」


「は?」


「ティッキーに取り入って、伯爵も味方にして上手くここに入り込んでさぁ。何、企んでるの?」


「別に企んでなんかないけど?」


ロードは腕を組んで睨んで言う。



まぁ、元エクソシストの女がいきなり来て、自分の家族にべったりでボス(?)である伯爵のお墨付きももらっているとなると面白くないよなぁ。



「あたしはただ教団が嫌いだっただけ。
 戦いたくないのに戦えと言われ、嫌だと言えば”お前は寄生型だから拒否をすれば死ぬ”と脅される。
 こんなこと言われてずっとそこにいたいと思う? こっちに助けを求めるのは賭けだった。
 だって裏切り行為とみなされて”神を裏切った行為、咎落ち”だってなって死ぬかもしれないんだもん。
 でもあたしは死ななかった。たまたま伯爵がイノセンスに手を加えたものだったからだけどね」


「それが本当だって証拠は?」


「まぁ、そう言われちゃなにもないんだけどね」


あたしはまだ覚醒してないから、ノアになることもできない。
見た目は丸っきりエクソシストの女だ。


「証拠はないけど、でも教団との戦争が本格的になったそのときはみんなと一緒に戦う」


「……戦うのが嫌なんじゃないの?」


「嫌だよ。できることなら戦いたくない。でも、元敵だったあたしを受け入れてたティキや伯爵の役に立ちたいもん。
 今はまだ怖いけど……でも、時がきたらちゃんとやる」


あたしは拳をぐっと握り締め、しっかりとロードの目を見て話した。
ロードはあたしをまだ受け入れてない。
それは仕方ないと思う。
仲間意識とかそういうもんには興味が正直あまりなかったけど、ロードは”家族”だ。
ティキの大事な大事な。
だから、あたしも仲良くなりたい。


「今はまだティキにべったりしてばっかでなんにもできないけど、でもやれることは少しずつでもやりたいと思っている。
 だから今すぐ絶対に認めろとは言わない。けど、頑張るから少しずつでもいい。仲良くしよ…?」


あたしはそう言ってロードに手を差し出した。
彼女は少しの間あたしの顔と差し出した手を交互に見つめ、両手でしっかり握り返してくれた。


「意地悪言ってごめんねぇ? これから、よろしくね?」


「うん!!!」


認めてもらえたのが嬉しかった。
それからしばらくはロードの着せ替え人形になり、何着かもらってそのうちの1着を着て部屋に戻った。










「ティキ見て見て〜♪」


「ぉ、どうしたんだ?」


「ロードにもらったの」


ティキの部屋に来る前に自分の部屋に寄り、もらった服を衣裳部屋(物凄く広い)に置いてきた。
くるくる回って、どうどう?と聞くと笑顔で普通に可愛いと言われた。


「恥ずかしいー」


「だって本当のことだし」


「ぁー、ぅー……。ほ・他にも何着かもらったんだよ!! 衣裳部屋に置いてきたけど!!」


恥ずかしかったので、隣に座って話を逸らしてみた。



ティキは相変わらずニヤニヤしてたけど(むきー)



「今度俺も服、買ってやるよ」


「いっぱいあるし、悪いしいいよー」


「いいじゃん、俺もあげたいの。……エロくて脱がしやすいやつをな…」


「なっ!!? ティキなんか壁にふっと
 んんんんん……」


壁に吹っ飛んじゃえって言おうとしたら口を塞がれてしまった。キスで。
抵抗してんのに当たり前だけどビクともしなくて、どんどんティキのペースに持っていかれる。


「力、使わない?」


「どうしよっかなー」


「使うんだったら、ちょっと早いけど薬の時間にするよ? 
 が意地悪なんかする気が起きないくらいたーーーーーーーっぷり時間かけてな」


ティキが言うと洒落になんない。
どこにそんだけ元気があるんだってくらいティキは底なしレベルに凄い。
そのティキがたーーーーーーーーっぷりなんて言うんだから、下手したら明日になってもヤり続けるんじゃないんだろうか……。


「力使わないんで勘弁して下さい」


「じゃあ薬だけにするか」


「って今?! やだー!!!」


「俺とスんの嫌なのかよ」


「昼間っからは嫌!! たまにならいいけど、しょっちゅうは冗談じゃない!!
 ティキの体よ数分固まって動けなくなってしまえーーー!!!」


あたしは術を使ってティキを動けなくして、逃げた(どーん)
とにかく空き部屋に隠れてようかと思い、適当にドアを開けるとジャスデビがいた。


「まぁいいや。ちょっとかくまって!!」


「何がまぁいいやだよ!! ここ俺の部屋だし!!」


「うるさい!! あたしの貞操の危機なんだよ!! てか、デロも一緒の部屋じゃないの?」


部屋を見るとベッドは1つしかなくて、その上に2人で座って銃をいじっていた。


「デロは隣の部屋だよ。 ヒヒッ」


「いつでも一緒!! 一心同体☆だと思ってたゎ〜」


あたしは許可も得ず、同じくベッドの端に座った。
するとデビットがニヤリと笑った。


「あんたさぁ、わかってんの?」


「何が?」


「一応ここ男の部屋だぜ? 簡単にベッドに上がっていいの?」


そう言ってデビットが四つん這いで近寄ってきて、指で顎を持ちあげられ言われる。


「いや、その……あんた妹と同い年くらいだし子どもって感じしかしないというか……」


「子どもかどうかわからせてやろうか?」


そう言って勢いよく押し倒され、馬乗りされキスされた。
が、それと同時に勢いよくドアが開いた。


「ぉい、ここに来てねぇか………ってお前ら何してんだーーー!!!!」


「デデデデロは何もしてないからね!!?」


あたしもデビットもティキの登場に驚いて動くのを忘れて、キスをしたまま動けなかった。
が、それがマズかった。
ティキの逆鱗に触れ、わなわなと震えながらデビットを思いっきり殴り飛ばし、そのまま姫抱きであたしは強制送還されたのだった。
あたしはこのときもっと長く動けなくすればよかったなぁと目を遠くさせながら思った。


、100歩譲ってさっきのことはあいつが勝手にやったことだから気にしない。
 けど、約束破ってイノセンス使ったからお仕置きと消毒な?」


「はい………」


消毒って言ってる時点で十分気にしてんじゃんというツッコミをする間もなく、お仕置きをしっかり受け2人がみんなの前に姿を現したのは2日後だった。
そして後日、包帯と絆創膏でいっぱいになりボロボロなデビットが見かけられたとか。







to be continued






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