儚き月見草 第十四話
よく本やマンガを読んだり、TVを見たりゲームをしていると”三日三晩続く”という表現が目や耳に入る。
それをなんとなく聞いてはいるものの、聞き流していたし特に気にも留めていなかった。
が、今回初めて”三日三晩”の言葉の意味を身に染みて味わった。
「痛い……」
どこがと聞かれたらすぐに答えられないくらい全身が痛かった。
その原因は隣で呑気に寝ているティキ。
いや、元々の原因はあたしかもしれない。
お仕置きとか消毒っていうのも引け目があったから受け入れた。
だからって気絶したときをのぞいてノンストップってどういうことだ!!
しかもそのうちの数回は気絶しているにも関わらず、問答無用で続けられることもあった。
今現在は痛すぎて眠りにつけないほどだ。
あたしは術を使って服を手に取り着替えた。
こういうとき言霊って便利だと思う。
「何、服着てんだよ」
「……だってもうお昼だよ?」
「だから? もうちょっと寝てよーぜ?」
そう言ってティキはベッドの淵に座っていたあたしの腰に腕を回し、再び布団の中に引きずり込み後ろから抱き締めて服を乱していく。
「ちょっ、やだよ……」
「なんで?」
言いながらティキの手は洋服越しに胸の上。
感触を楽しむかのように手を動かし、耳元で(多分わざと)悲しそうに囁く。
「いつも…えっちなことばっかはぁ、やーだぁ……」
体を捻ったりと抵抗するけど、それは自分へ刺激を与える行為にしかならなくてすぐに止めた。
それでもされるがままは嫌だったので、手をびしびし叩く。
「いーじゃん。好きだからシたくなるんだし」
「好きだし、嫌いじゃないけど…でも、あたしはえっちなこと抜きで、普通にいちゃいちゃしたいのっっ……」
ティキは話してる最中なのにおかまいなしに頂を弄ったり、首筋に舌を這わせる。
その度にあたしも反応しちゃうからティキもおもしろがるんだろうけど……。
「ねっ……あたしの話、きーてる…?」
「聞いてるよ。でも可愛すぎるが悪い」
今までは服越しだったのに、するりと中に入り今度は下着越し。
ヤバイ。
本当にこのままじゃティキのペースにのせられて最後までいっちゃう!!!
「やだ!!!」
あたしはティキの手におもいっきり爪を立てていて、そこは血が滲み出していた。
ティキの行動はぴたっと止まった。
どうしたのか気になっておそるおそる振り向こうとすると、頭をがっと抑えられてキスをされていた。
抵抗したくてもできなくて、イノセンスの力も使えない。
「俺のこと嫌いになった?」
「そ……なわけ、ないじゃんっっ…」
いつのまにか押し倒され、あたしの上にはティキが跨っていて背景はちょっと豪華な天井になっていた。
息をぜはぜは切らせながらあたしはティキを睨む。
「じゃあなんでそんな顔して、俺を拒むんだよ」
「拒んでるわけじゃない!!
何?! ヤらなかったら嫌いになったとか、そうなるの?!」
「好きでもない奴とはヤんないだろ?」
「好きだったらなんでもアリなわけじゃない。今のティキやだ!!!」
手をつっぱって抵抗したら、片方の手で腕を纏め上げられ空いてる手は服を引き千切った。
ティキの顔は冷たくて、すごく怖かった。
その後のことはよく覚えていない。
覚えているのは嫌だって、やめてって言ってるのに聞いてもらえなくて無理矢理されたこと。
泣いてもそれすら快感とばかりに怖く、やらしく笑うティキの姿。
そして時折聞こえた『調教』『お仕置き』『逃がさない』『俺のもの』という言葉。
普段ならいつもと違う雰囲気にどきっとするのに、今回は冗談に聞こえなくてというか実際冗談じゃなくて怖くて怖くて逃げ出したかった。
なんでこうなっちゃったの?
あたしが何かしちゃった?
あんなに教団が嫌で、あそこから抜け出せてティキと一緒にいられるならどうなってもいいって思ってたのに、今はティキからも逃げ出したいと思った。
そして今、あたしはどこだかわからない街の噴水の前にぼーっと座っている。
どうやってここに来たんだっけ?
ぁあ、そうだ。
何度目かの行為で気絶しちゃって、目を覚ましたときティキも寝てた。
そのときに力を使って部屋を抜け出して、ロードにどこかに行きたいってお願いしたんだ。
あたしの姿を見て察してくれたのか、お金と服を持たせてくれて扉を繋げてくれたんだ。
『伯爵には僕から言っておいてあげるぅ。AKUMAもどっかしらにいるし、帰りたくなったら帰っておいで』
って言いながら見送ってくれて…。
勢いで飛び出してきたけど、これからどうしよう。
そんなことを考えながら溜息を吐いていたら目の前に影ができた。
影?
「こんなところで何してんだ? お嬢ちゃん」
「……あたしお嬢ちゃんなんて年じゃないですけど?」
やらしい笑みを浮かべた男があたしの前に立っている。
服の隙間からキスマークが見え隠れしてるあたしも十分やらしい格好で、それが悪いんだろうけど。
逃げたいけど腰痛いし、浮いたらダメだよなぁ……。
「どっちでもいい。そんなことより、1人なら俺と一緒に来ねぇか?」
「行かない」
「そんなこと言うなよ。あんたなら高く出すぜ?」
お金をちらつかせながらにたにた笑う男。
気持ち悪いったらありゃしない。
興味ありませんと態度に出しまくってそっぽを向いたら、無理矢理腕を掴まれた。
「離してよ!!」
「いいからこ──」
「姉さん!!
探しましたよ、こんな所にいたんですね!!」
本当にぶっ飛ばしてやろうかと思い始めていたら、後ろから急に肩を掴まれた。
振り返ってみると白髪の少年が立っていた。
この子アレンじゃん……。
驚いて固まっていたら相手の男に聞こえないように「話、合わせて」と言われた。
「もう!! 遅いよ、あんた」
「すいません。お店が混んでいたもので」
「言い訳はいらない。すいません、弟が来たんで手、離してもらえます?」
「弟って……似てねぇじゃねぇか!!」
「あたしお母さん似。こいつお父さん似。そういうことなんで離せ?」
しつこい男にイライラして笑顔なんだけどイラついてんだぞって雰囲気を出してみる。
「姉さん、こんな街中でキレないで下さいね? ほら、行きますよ」
アレンはばっと男から引き剥がしてくれて、しばらく姉弟のフリをしながら歩き続け少し行った所の路地まで来た。
「ありがとう、助けてくれて」
ティキのせいで痛くなった腰をさすりながらお礼を言う。
……なんか情けないなぁ。
「いえ、困っているときはお互い様ですから」
「だったらあたしも何か助けさせてよ。今、家出中で暇だしなんでもするよ?」
家出中と言うと、ぇえぇえ?!と驚くアレン。
そして持っていた荷物を落とす。
「ぁーあ。ん? お酒?」
「はい、師匠のなんです。お金ないのに買わないと怒るんです…」
ぶつぶつと陰を背負いながら愚痴り始めたアレン。
そういえば原作でも相当苦労してたっぽい感じだったなぁ。
「まぁ、仕方ないよ。クロスさんだもん。元気だせ、アレン」
言いながら肩をぽんってしたら、目を見開いてから肩に置いてた手をがしっと掴まれた。
「……僕、自己紹介しましたっけ?」
「……してないねぇ…」
「師匠の名前言いました?」
「聞いてない、かな…?」
「なんで知ってるんですか?」
不気味な笑顔を浮かべるアレンに優しく強制連行をされました。
あれなの。
笑顔なのに、逃げるなんて真似しないよね? てか、逃がさないぞ?
って顔と雰囲気だったの!!
実は体中がギシギシして歩くの辛いって言ったらおんぶしてくれたけど。
「師匠!! 何してんですか!!」
「ぁあ? 酌だよ酌。同じ飲むなら可愛い子の酌で飲んだ方が美味いからな」
アレンとクロスさんが滞在している所まで来ると、逃げないようにという名目の元肩に腕を回し隣に座らされ酌をすることになった。
それにアレンは激怒しているが、あたし的にはどーでもいい。
ティキにバレたら怒られるというか、拗ねるというかしそうだけど。
「で、あんたはなんで俺らのこと知ってたんだ?」
ぐびぐびと酒を飲み、入れろとコップを差し出しながら聞いてくる。
やっぱり聞かれるんだ…なんて内心思ったり。
「あたしは2人が物語になってる世界から来た。って言ったら信じます?」
そう言うと案の定2人はきょとんとしたまま固まってしまった。
あたしはお構いなしに話を続けることにした。
「突然エクソシストと伯爵の戦いに巻き込まれてこの世界に来た。
で、最近お世話になっている人と喧嘩…というか色々あって家出したらそこのアレンに会って助けてもらったんです。
ぶっ飛んだ話で信じられないかもしれないけど、本当の話だし信じる信じないは勝手だよ」
「神だなんだって言ってるんだ。そういうのもアリだろ」
「ぁ、わかってもらえるんだ? 助かりますよ」
特に気にしないと言った風にお酒を飲み続けるクロスさん。
適当な人でよかったと心の底から思った。
アレンは頭を抱えながら必死に理解しようと悩んでるけど。
「で、行くとこないし、アレンに恩返ししてないからしばらく一緒にいていいですか?」
「ぁあ構わねぇぜ。女は大歓迎だ」
「師匠!! 犯罪ですよ!!」
「言っとくけど、あたし21だからね?」
「ほら、問題ねぇ」
そう言ってほっぺにちゅーをされたよ。
ほっぺだからいーや。とか西洋だからアリだよね?って思ってたけど、直後アレンの「ししょーーーーーー!!!!」という叫び声が響いた(クロスさんは殴られた)
to be continued
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