目が覚めれば──教団は慌しかった。










儚き月見草 第三話










「なあ、おい」


「おお、か どうかしたのか?」


声を掛けたのは、科学班に所属するリーバーだった。
慌てていた足を止め、を見つめて問いかける。


「どうかしたのか?は私が聞きたいことだ 何でこんなに慌しいんだ?」


腕を組み、リーバーを真っ直ぐに見つめて疑問をぶつけた。
任務ならば、まだ達に言い渡されてはいない。
それに、この慌しさは任務に行くときのエクソシスト達のものとは違うような気がした。



どこかで似たような感じの事を……見たような覚えがあるんだよな



考えてもピンと来なくて、わけが分からず頭をぐしゃぐしゃと掻いた。


「そ、それはだな!もう少し待てば分かるから、少し待て!いいな!」


「は?おい、ちょ……待てよ!!」


慌てて言いくるめるように呟き、リーバーは駆け出し姿を消した。
何をそんなに知られたくないのかと、は首を傾げる。


「意味が分からん」


頭を掻いていた手をパッと離し、大きく溜め息を吐いた。
全く理解不能で、想像も付かない。


「邪魔だ」


「あ?なんだ、神田か」


「邪魔だと言っているのが聞こえねぇのか?てめぇは」


「あー、悪かったな!でも、ここはお前の道じゃないだろ?」


肩を竦め、眉間にシワを寄せながら神田に視線を向けた。
イライラしているような雰囲気が嫌でも伝わってくる。


「うぜぇ」


「……なんなんだよ、ほんっとに これから仲間としてやってく奴に言う台詞かよ」


「……仲間?」


神田の言葉に不機嫌極まりない口調で呟いた。
ああいう態度を取られては、だってキレずにはいられない。
まして、キレやすい性格なのだから。


「そうなんだろ?私はエクソシストになる、だから仲間……じゃないのか?」


眉間にシワを寄せて問いかけた。
はそういうものだと思っていたからこそ、違うのだろうかと少しだけ不安に思う。


「あいつは、仲間になる気はねぇって言ってなかったか?」


だろ?それに、いきなりエクソシストに──なんて正気でいられるはずがないだろ」


肩をすくめて呟いた。
にはの考えが、にはの考えがある。
一緒のときもあれば、違うときだって。



まあ、が本当に仲間になってくれるかは分からないけどな



それこそ、しか知りえないことだ。


「随分と飲み込みがいいんだな」


「まあな それに、理由がないわけじゃないしな」


飲み込みが言い訳じゃない。

戸惑いだって。

恐怖だって。

いろいろな感情が入り乱れて存在する。
けれど、戸惑い続けても怖がり続けても周りの時間は進んでいく。


「理由?」


「ああ 気になるのか?」


「はっ 誰が気になるかよ」


「じゃあ、聞くなよ」


呟くが、神田には少しだけ悲しげに見えたから。
けれど、いつもの様に返事をしていればいつの間にかの表情から悲しげな色は消えていた。


「……聞いてやると言ったらどうする」


突然の神田の言葉に、はきょとんとした。
一瞬だけ、瞳が揺れる。


「は?神田らしくもない」


「てめぇは俺の事を詳しく知らねぇだろ」


「知らないけど、知らないわけじゃない」


それは、がここへ来た経緯を知っていれば意味深に取れる言葉。
けれど知らなければ、ただ単に少し話しただけでも何となく分かると言っている様に取れる言葉でもあった。


「二人でなーに、話してるんさ〜?」


ひょっこりと神田との間にラビが現れた。
いつものにこやかな笑みを浮かべ、二人を交互に見つめる。


「何でもねぇよ」


「たいした事じゃないんだ、ラビ ただ、私が教団に入る理由を神田が聞いてやるとか言い出してだな」


「え!?ユウが!?珍しいさ、ユウがそんな事言うなんて」


「ファーストネームで呼ぶんじゃねえ!」


の言葉から、漫画で良く見た二人のやり取りが始まる。
その光景を間近で見られることが嬉しくて、無意識に笑っていた。


「で、理由ってなんなんさ?」


「ああ……簡単な話だよ」


苦笑を浮かべ、身につけているあまり目立たないネックレスに指先で触れた。

全ては語らない。
触れても平気な事だけ言葉にする。

それは弱さ。
それは苦しさ。

だから無難なことだけ話す。


「アクマに傷つけられる人とか、アクマやノ──いや、アクマとの戦いで傷つく教団の人を放っておけなかったんだ
 な?至極簡単な理由だろ?」


「「……」」


笑うを見つめ、ラビも神田も只ならぬものを感じていた。
なぜそう思うのか。
なぜ一瞬でも悲しげな色を見せるのか。

なぜ、そんなにもネックレスを大切そうに扱うのか。


「おい、何でそんな哀れむ目で見るんだ?あ、馬鹿にしやがったな、お前ら!!」


一瞬きょとんとして、けれどすぐにムッとした表情を浮かべた。


「いや、そうじゃないって」


ラビが慌てて首を左右に振って、の言葉を否定する。
そんな二人を見て、神田は溜め息を吐くと歩みだした。


「おい、神田?」


「そろそろいいだろ、連れて行くぞ」


「あいあいさ〜」


「あ、待てよ!食堂だろ?そっち 行くならもっ」


なら、リナリーが連れてきてると思うさ〜」


歩き出すラビと神田を追いながら呟くに、ラビが笑いながら答えた。
本当に仲のいい友達なんだな、と思いながら。


「ああ、そうか 同室になったんだもんな……」



大丈夫かな、のやつ……



頷きながらも、心の片隅でそうやって心配してしまう。
の考えを知っているからこそ、不安に思ってしまう。
けれど、出来れば一緒に教団に居て欲しいとも思うから。









「あ、!」


「よ、 私より先に来てたんだな」


神田とラビから離れながら、の下へと駆け寄っていった。
昨日付けられた猿ぐつわは外され、食堂で自由にしていた。
それが嬉しくて、けれど不思議でもあった。


「猿ぐつわ、外れたんだな」


「まあね あのままじゃどうしようもないし」


全ては語られなかった。
けれど、なりにエクソシストになった理由があるようににもなりのエクソシストになる事を決意した理由があるのだろう。


「よく分からないが、決意したんだな」


も、なんか勝手に決意しちゃってたしね」


苦笑を浮かべるに、は「そりゃ、確かに」と笑った。
理由なんて分からない。
決意なんて、理由なんて人それぞれ。
それでも、一緒にエクソシストとして行動できるのは友達としては嬉しい限りだった。


「で、これはいったい何の騒ぎなんだ?」


軽く首をかしげ、はラビに話題を振った。
今の話をしていてもあからさまな反応がない当たり、の耳に入る前にエクソシストになるという事が伝わっていたのだろう。
どういう経緯で伝わったのかは知らないけれど。


「あれ?誰からも聞いてないのか?」


「だから、何がだよ」


きょとんとするラビに、あからさまに溜め息を吐く。
それと同時に、クラッカーの音があちらこちらで鳴り始めた。
驚き、あたりを見渡すと──


「歓迎会よ ちゃんとちゃんのね」


エクソシストや科学班の人達、他にもたくさんの人が食堂に詰め寄っていた。
みんな、それぞれにクラッカーを持って笑顔でを見つめる。


「歓迎……会?」


「折角、仲間になってくれるんだしさ……やっぱりパーッと親睦を深めるのも兼ねてさ」


きょとんとするにラビは明るい笑顔を浮かべた。
年上なのに、凄く可愛いと思えてしまうような幼い笑い方。


「──あ、ありがと……な」


、可愛いさー」


嬉しかった心遣い。
受け入れてくれたこと。
仲間と認識してくれたこと。

全てが。

照れながらもお礼を言うの反応が、教団に来てからずっと見ていたの反応と似ても似つかない。
だから、ラビは微笑みながらそんな風に呟き笑い声を上げた。


「それじゃー、くんとくんの歓迎会を始めようか」


コムイの一声で、場は一気に盛り上がりを見せた。
あちこちで騒ぎ、食し、笑いあう。
も、それぞれ違う楽しみ方で歓迎会を過ごしていった。

ただ一つ。
の胸に微少な引っかかりを残したまま。










to be continued...................





たぶん、歓迎会するんだろうなぁ〜と思いながら。
とりあえず、神田とラビと絡ませてみましたw
ちょいとリーバーさんも出したかったんで、最初の方にちびーっとだけ;






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