儚き月見草 第六話









「おーそーいー」


「悪い、悪い。そっちは随分早く終わったんだな」


「凄いのよ!! ってば一瞬でAKUMAを倒したんだから!!」


自分のことのように興奮して説明し始めるリナリー。
誉められてるんだけど、正直どうでもいいしリナリーがいい加減うざかったので適当に返事をし聞き流した。


「じゃあ、私は先帰るわね」


「いいなー。俺も早く帰りたいさ」


「帰りたくはないけど、終わらせたいのはあたしも一緒。だから文句言わない」


帰ろうとするリナリーを羨ましそうに見るラビ。



かったるいのにエクソシストしてあげてるんだから、抵抗ないんだったらキリキリ働け。



と心の中で毒づいた。
あたしは本気かわかんないけど、半泣きするラビを引きずって街中へと移動した。


「てか、最初あんなに暴れた割にちゃんとエクソシストしてるんだな」


「嫌なのは変わんないよ。ただ、諦めたって感じ? 命かかってるし、仕方ないみたいなー?」


「ふーん? 意外な気もするけど、まぁ無理はすんなよ?」


「わかってるって。やる気ないのは変わんないんだから、2人共頑張ってね♪」


「なんかズルくね?」


ぶーぶー文句を言うラビは適当に放置しつつも、街の様子を見回りながら話してた。


「まぁ、私達が頑張らないとだな。期待してるからな、先輩」


「ひっで〜……」


で意気込みつつも、軽くラビをいじめていた。



あんたは上手く馴染めたんだね。



よかったねと思いつつも、辺りをキョロキョロしていたら見覚えのある顔が見えた。


「ぁ…」


「どうした?」


「いいもん発見♪ あたし、ちょっと向こうで聞き込んでくるから」


「ちょっ、?!」


「どこ行くんさ?!」


2人の声なんか無視して、あたしは”いいもの”の所までずんずん歩いた。






「ねぇねぇ、お兄さんたち。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいですか?」


「ん?」


お世辞にも身なりがいいとは言えない男3人と可愛い男の子の集団に声をかけ、そのうちのぐるぐる眼鏡をかけた男の肩をぽんぽんと叩いた。
それはまさしくあたしが(しかたなく)在籍している教団と敵対する立場にある伯爵率いる(?)ノアの一族のティキ=ミックとその仲間たちだった。
ティキはあたしの身なりを見て一瞬、わかりづらかったけど本当に一瞬だけ眉をしかめた。
気付かないフリをしてあたしはにっこり笑いかけた。


「なに?」


「実はね、最近この辺りで妙な現象が起きてるって聞いたの。何か知らない? どんなことでもいいの」


ティキとその仲間たちの顔を見回し、首を傾げ言う。
今度はあからさまに眉をしかめていたが、またすぐに元の表情に戻り仲間たちを見回した。


「おい、お前ら何か知っているか?」


「いや、わかんねぇな」


「俺も」


口ぐちに言い、イーズも首を横に振った。
返事を待っている間、あたしは他の人にはバレないようティキをちらちらと見ていた。
興味を持ってほしかった。
そしてあたしを助けてと思いながらこっそり見つめる。
それをティキは気付いたんだか、気付いてないんだかはわかんないけどあたしの頭に手を置いた。


「悪いね、何も知らないみたいだ」


「そっか。ありが──」


ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


ティキが肩を竦め答え、返事をしている時に言葉を遮っての声がした。
あたしは驚いて思わずティキの後ろに隠れてしまった。


「仲間さん?」


「ぁあ、うんそう……」


「お前何してんだよ!!」


「ぁ、いや、うん、ごめん!! ただなんとなく!!」


の気迫に押されつつも、ティキの後ろに隠れながら答える。



だって仁王立ちしてるが怖いんだもん!!



今は白い方でも仮にもあたしが壁にしてる彼は敵だ。
は一緒にいるのがそんな彼だから怒ってるんだろう。


「ぁ、てかごめんなさい!!!」


「いや構わねぇよ」


、お前いきなり走り出したと思ったら何やってんだよ」


「何って仕事よ仕事。ちゃーんと聞き込みしてたのー」


慌ててティキから離れたが、特に気にする風もなくティキはにっこり笑っていた(白の方だとへらへらにも見えるけど…)
そんなうちらを見ては溜息を吐いた。
驚いてもいるようだったけど、”相手は敵なのに何やってんだ”と目は言っていた。
あえてスルーしたけど。



いくら友達でもあたしの計画は邪魔させない。
にはの、あたしにはあたしの幸せがある。



それが同じ場所にあるとは限らない。


「で、奇怪な現象って例えばどんな?」


「特に統一されてないからハッキリ『こうだ!!』とは言えないけど、えぐいものによく遭遇するかな。
 だからさ、お兄さん達も気を付けてね? 特にこんな可愛い子がスプラッタにするようなことはやめてよ?」


わかってるくせに質問してくるティキに白々しいと思いつつ、普通に答えイーズを抱き締めた。



元々子どもは好きだし、一度やってみたくて!!!(ぐっ



そんなことを考えながらイーズを堪能していたけど、とティキの表情が固まり雰囲気もどこか変わっていた。



……あたし何かした?


!!!」


「何よぉ……」


は突然大きな声を出した。



だから何だって言うんだ。
もしかしてよくわからないけど今がチャンスか?
ティキも様子がおかしいし…。



あたしは周りにバレないようこっそりイノセンスを発動し、ティキにだけ声が届くようコントロールし、またゴーレムにもちょっと細工をした。


どうしたの? ティキ=ミックさん?


「っっ……!!!?」


今度は眉間に雛が寄る。
上手く聞こえたようだ。
傍から見たらの声に驚いて喋れないでいる感じだけど、あたしはにバレないようにティキを見て笑った。


「悪い。ちょっと彼女貸して」


「ぇ?! ちょっと?!」


そう言ってティキはあたしの腕を掴んでずんずん歩きだした。
お友達さん達も目を点にさせていたが、そんなのお構いなしに人気のない所まで連れて来られた。








「いきなりなんなんですか?」


「…わかってると思うんだけど?」


わざとにやにやしながら言ってやった。
それに対しティキは煙草をふかしながらこちらを見る。
自分の思い描く展開に動き始めているのを感じ、胸が高鳴る。


「エクソシスト…。どこまで知っている?」


「とりあえず、貴方がノアの一族でどんな能力があるかは知っているよ」


人と目を合わせて話すのは苦手。
でも今、この時ばかりは逸らさずにじっと見つめて言った。
表情は笑顔を作っているけど、内心はかなりドキドキだ。


「……へぇ。随分と筒抜けみたいだな?」


「筒抜けじゃなくて知ってるの。
 ぶっ飛んだ話だけど、あたしはエクソシストと千年伯爵&ノアの一族の戦いがテーマになった物語が存在する世界から来たから」


「…つまり、この先の事を知っているんだな?」


ティキは面白いものを見つけた、凄く興味をそそられる。
そういう表情をし、ニヤリと笑い、あたしはそんなティキにドキッとした。


「少しだけどね」


「で? それで俺らを倒すつもりか?」


「そんなつもりはこれっぽちもないよ。むしろあたしは教団が大嫌い。あそこから助けてほしいと思ってる」


ついに言ってしまった。
案の定ティキは目を丸くし驚き首を傾るが、すぐに笑みを浮かべていた。


「助けてほしい? エクソシストが?」


「そうだよ。ダメ?」


「いや…。なら、ノアへ来るか? エクソシストを裏切れるなら」


何を言っているんだという感じで笑われた。けど、すぐに冷たい表情に変わり真剣な眼差しでこちらを見てくる。
でも待ち望んでいた言葉を言われ、あたしはついつい表情が緩んだ。


「上等よ。さっきも言ったけど、あたしは教団が大嫌いなの。
 でも今すぐにでも裏切りたいけど裏切れない理由がある。だから敵である貴方に助けてほしくてお願いしたの」


「その理由って何?」


「あたしはイノセンスが声帯に寄生しているの。
 そういうタイプのエクソシストは裏切ろうとすると、イノセンスが暴走し命を奪われる。
 それを咎落ちって言うんだけど、あたしは教団に『エクソシストをしないと咎落ちをして死ぬ』って脅されてるの。
 だからそれをどうにかしてくれるなら、あたしは喜んで裏切るし、知っている限りの情報は提供するよ」


「まぁ、千年公に頼めばどうにかなると思うけどな…。そういうことなら……」


ぽりぽりと頬を掻きながらティキは言った。
実際本当にどうにかなるかはわからないけど、AKUMAというものを生み出し長年教団というかイノセンスと敵対してきたんだから大丈夫ではないかと思う。


「お願い…。あんなとこにはもういたくないの…。何だってするから、だから、あたしを助けて……」


あたしはがっとティキの両腕を掴み懇願した。
外に出れば戦って死ぬかもしれない、中にいればいつ咎落ちするかわからない。
そんな恐怖に押し潰されそうで、不安な思いをするのはもう嫌だった。
今だってかなりギリギリなことをしているけど、それでも少しの可能性に賭けたかったし、何もしないで死ぬよりはマシだ。


「…その言葉を信じるよ」


「ぇ……?」


「俺が必ずお前を助けてやる。今度会えたらその時には、必ず連れて行くから待ってろ」


そう言ったかと思うと今度は抱き締められた。
頭をポンポンと撫でられ、今まで不安で押し潰されそうだった気持ちがスーッと引いていったような気がした。
まさかこんなにあっさりOKが出るとは思わなかった。


「ありがとう…」


「別に気にすんな。俺が好きでやることだ」


「でも言いたいの!!
 あたし、任務にいっぱい出る。どこに行かされるかわかんないけど、ずっと待ってるから…」


「ぁあ。必ず千年公を説得して助けてやるよ」


「楽しみに待ってる」


「当たり前だ。いずれ家族になるんだからな」


「…本当にありがとう」


ティキはすっと体を離し、おでこに1つキスを落としてから白い姿に戻った。
驚いて顔を赤くするあたしを楽しそうに見つめ、鼻歌交じりにあたしを引きずって元の場所に戻った。
案の定ティキは仲間達に質問責めされ、あたしもから半分尋問な説教を食らったのだった。

説教をされたものの、あたしの気分はこの世界に来て初めてすっきりしたかもしれない。
初対面で敵であるあたしを助けてくれる、家族だと言ってくれたことが本当に嬉しかった。
そのうち迎えに来てくれる。
そう思ったら、嫌な任務もとりあえず行こうと思えた。

思い立ったが吉で、あたしは教団に戻るなりコムイさんの所へ行き、


「教団なんかにはいたくないから、できるだけ任務に行かせてほしい」


と言った。
別に嘘はついてない。
教団にいて好奇の目で見られ、陰口を叩かれるのも嫌だったから。



早く、早くこんな所から救いだして?







to be continued......................




今回の話はチャットで大まかな話を決めてあって、それにちょっと手を加えてみた^^
途中とティキがいきなり雰囲気とかが変わったのは、スプラッタにするという言葉がティキの能力を使ってしないでと取られたからです。
実際エリと会話作ってる時、なんでが怒られたのか本当にわからなかったというね(笑)

は元々自由人だけど、教団が嫌いで教団に関わる人も基本嫌いだから自由っぷりに磨きがかかっています(笑)






儚き月見草に戻る