儚き月見草 第八話










さん、大丈夫ですか?」


「ん? 何がですか?」


「ずっと任務に出っぱなしで、お疲れなのでは……」


「大丈夫、大丈夫。任務には出っぱなしだけど、すぐに片付いてるから」


ティキに出会ってから2週間。


教団なんかにはいたくないから、できるだけ任務に行かせてほしい


と言ったら本当に帰る暇なんかないくらい任務を入れてくれた。



まぁ、流石に週1で帰るようには言われたんだけどね。



で、今日がその帰る日。
これから仕事を1つこなしたら帰ることになっている。
帰ったっておもしろいことなんか1つもない。
教団の人達には好奇の目と妖しむような視線を送られ、リナリーは気を使う素振りを見せるもののエクソシストへの勧誘は忘れない。
うざいことこのうえない。
だから教団にもあたしの安らげる場所はなかった。


「ありがとう、心配してくれて。でも移動の時にがっつり寝させてもらってるし、大丈夫ですよ」


とりあえず納得いかなげに見つめる探索隊の人に苦笑いを浮かべる。
今回の人は割といい人で、何かと気を使ってくれたり話しかけてくれる。

あたしが馴染めるように、ってか?

ストレートで唯一この人は『無理しないで』と言ってくれた。
いや、言ってくれる人はいたけどエクソシストをやらせようって思ってる人がほとんどだった。
落ち着いたらエクソシストをやれって考えてる人ばっかだったんだ。。
この能力が備わってから、なんとなく他人の言葉にどんな意味が含められてるかわかるようになった。
『嫌なら無理しないで』そういう思いが伝わってきて、教団にも良い人はいるんだと初めて思ったんだ。

だからこの人は唯一嫌いじゃなかった。



コムイさんに言ってみようかな。
もし我儘を聞いてくれるなら、あたしが任務に行くときはこの人にしてほしいって。



「さて、そろそろAKUMAの出現地だから、ここで待ってて下さい」


「ぁ、はい……」


「大丈夫。………ちゃんと帰ってきますから。
 そしたらお茶飲み行きましょ? さっき、美味しそうなお店見かけたんです」


コムイさんには、普段働き詰めだからか任務先で少し休息というか、遊んできていいと言われていた。
まぁ、早く終わりすぎだからっていうのもあるみたいだけど。
安心させるために言った約束だったけど、彼にとっては凄く嬉しかったみたいで目を輝かせていた。


「ぇえ!! 絶対ですよ!!?」


「わかってますよ。あたしだって、こんな訳のわかんないとこで死にたくないですもん」


そう言ってイノセンスを使って、彼を護る術?をかけた。
そしてAKUMAが出没すると思われる場所に向かった。









「おい、こいつか?」


「多分……」


「お前、とかいうエクソシストか?」


「そうだけど……まさか!!」


「そうさ、俺らノa」


「わぁあぁあぁあぁあーーーーーー!!!」


調査で出没率が高いとされてる地点に行くとAKUMA達が待ち構えていた。
あたしの存在に気付くとヒソヒソ話してから、声をかけられた。
でも、ここにはゴーレムがいる。
どんな機能かなんてハッキリ覚えてないけど、万が一教団にバレたら厄介なことになる。

だって、彼らはティキの使いで来たんだから……。

あたしはAKUMAたちにジェスチャーでとりあえず黙るように指示し、必死に頷いてるのを確認し急いでイノセンスの力で細工をした。
だってあたしはティキに頼んで教団を抜け出そうとしている。
もしかしたら彼はAKUMAを使って何かしようとしているのかもしれない。



とりあえず教団の方で怪しまれたらAKUMAの数が多すぎて驚いて叫んだって設定にしておこうかな……。
実際は2体なんだけどね。



「もう大丈夫だよ。ここには誰も来れないし、通信機器にも細工したから会話もバレない」


「へぇ……ノア様が目を付けただけある。なかなかやるじゃねぇか」


「お世辞はいいから、用件を言いな」


「ぁあ……これを渡すように言われたんだよ」


そう言って渡されたのは1通の手紙だった。


「……ありがと。返事とかどうすればいい?」


「お前が俺達の仲間に会ったときに誰かしらに渡しとけばいいって言ってらしたぜ」


「了解」


「じゃあ、お前は俺達は破壊しな」


「……は?」


「俺達の仕事は終わった。ノア様にも仕事が終わったら壊されるように言われている」


あまりの潔さに思わずぽかーんとしてしまった。



何を言ってる?
”自分たちを壊せ”だって?



あたしはずかずかとAKUMAに近づき、1体ずつ殴り飛ばした(イノセンスでダメージを与えられるよう術を施し、ぐーで)


「アホか!!!」


「な……????!!」


「あたしは戦いたくないからそっちに行こうとしているんだ。
 勝手な正義を押し付けて、ヒーロー面したくないから反抗している。
 今だって仕方ないから任務としてあんた達の仲間破壊してるけど、本来はそれだって嫌なんだ!!!
 ちょっと待ってな!! 今から絶対ティキの元に帰る理由作ってやんだから!!!」


あたしはそう言って手渡された手紙を開き読み始めた。
中には

伯爵のOKが出た。
今すぐに呼び寄せることはできないけど、必ず迎えに行く。
それまで待っていてくれ。

と書いてあった。



よし。
あたしの計画は着実にゆっくりだけど進んでいる……。



「おい、あんた達!!!」


「はぃいぃい!!!」


「ティキに”了解。楽しみに待っている”って伝えておいて!!!」


「でも……」


「いいから!! あたし短気なの。早く返事聞いてもらいたいし、次の手紙が欲しい。
 帰るまで教団に攻撃されないよう守ってあげるから、とっとと戻れー!!!」


あたしは奴らを蹴っ飛ばし、術をかけて去って行くのを見送った。
AKUMAは内臓されている魂が苦しんでいることは知ってる。
イノセンスを使うことによって救済されることも。
だけど、今の彼らにはちゃんと意思がある。
それを壊すのも正直気が引けていた。

だから簡単に”自分を壊せ”と言われてもあたしにはできなかった。











「あの、ノア様……」


「ん? お前らなんで生きてんだ? 失敗したのか?」


「いえ……。ちゃんと手紙は渡しました」


「ですが………」


AKUMA達が先程のとのやりとりをティキに報告すると、笑いを堪えるように体を震わせた。


「っくっく……。本当おもしろい奴だよ…。
 ぉい、またお前らあいつに手紙渡してきて」


「ぁ、はい!!!」


「術を施してまでやるなんて、流石俺が見込んだ女だよ」


ティキはそう呟き、次は何書こうかなと考えた。
そうしてしばらくティキとのAKUMAを通じての文通が始まった。
その間もは一度もAKUMAを破壊しなかった。
毎回探索隊や周辺地域に術をかける際にこっそりゴーレムにも細工を施していた。
そして、ティキからの手紙を受け取りその場で返事を書いてまた渡す。
AKUMAにも術をかけ完全に気配を消させ、破壊したかのように裏工作もした。

だけど、それも完璧ではなかった。








ちゃん」


「なんですか?」


「最近ゴーレムの調子はどうだい?」


久しぶりに教団に戻り、報告をしにコムイさんの所に来ていた。
大体終わりどこか人気のない所に行こうかと立ち上がったら声をかけられた、

正直ドキッとした。


「ぁー、あんま使わないんでわかんないです」


「そうか…。君のゴーレムの今までの記録を見せてもらったんだけど、ちょっとおかしな点があってね」


「おかしな点、ですか?」


「ぁあ、本当にちょっとなんだけど探索隊と別れて再び合流するまでが不自然なんだよ」



イノセンスで細工してるからだ…。



口調は普通なのに、何かを疑ってるようでこちらの反応を伺ってるのがわかった。
元々反抗的だったし、なのに任務に行くようになったから疑われるのは仕方ない。
だけどここまで警戒というか良くない感情を向けられると余計良い気はしない。

まぁ実際それだけのことはしてるんだけどね。


「不自然な点ってなんですか?」


「電波が本当に微弱なんだけど乱れるんだよ。
 ……まるで何かに妨害されてるかのように、ね……」


「へぇ? なんかあたしを疑ってるような言い方に聞こえるのは気のせいですか?」


じっと、真剣な目でこちらを見る。
疑っているのを隠しもしない。



そっちがそういう態度に出るなら、こっちも遠慮はしないよ?



肯定はしないが、自分でも思うけど生意気というか挑戦的かなぁって態度になっていた。


「そんなことはないさ。ただ、君の能力は”言霊”細工を施すことは不可能ではないんじゃないかな?」


「……あたしにはわかんないです。
 探索隊や周辺地域を護るのに発動させるし、破壊するときも同じ。
 だからその際に力の使い過ぎとかで反応しちゃってるかもですね。
 ほら、あたしって一応エクソシストなりたてだから、実はコントロールが不完全とか」


あたしは適当にそれっぽいことを言っておいた。
別に疑われたっていいさ。



もうすぐあたしはここからいなくなるんだからね



コムイさんの返事も聞かずに、何か言ってるのを無視してその場から去った。



どうせ、何言ってもあたしを疑う気持ちがなくなるわけじゃないんでしょ?
だったらもっと気分が悪くなるだけだもん。










「ぉい」


「ん? 何?」


かったるくなったし、どうやらリナリーは任務でいないみたいだから部屋に戻って昼寝でもしようと廊下を歩いていたら神田に声をかけられた。
そういうイメージがなかったから、内心結構驚いていたり。


「お前、なんで急に任務に行く気になった」


「理由は簡単、教団が嫌いだから。
 ここにいても陰口叩かれるし、リナリーがうざったいからね」


周りに人がいないのを確認して言う。
隠す気はないけど、大っぴらに言っていいことではないと思うからね。
でもまぁ神田ならいっかなって。


「お前のことをあんなに心配してるのにか?」


「その気持ちは一応嬉しいよ。
 でも結局はエクソシストになれって言ってる。
 気持ちはわかるって言ってるくせにね。そんな偽善はいらない」


「……理由はそれだけか?」


神田は壁にもたれかかり腕を組んだままこっちを睨む。
あたしはそんなの気にせず言葉を続けた。


「そうだよ?」


「ラビとと任務に行ってからお前の様子は変わった。
 ……そのときに何があった?」


「別に? 強いて言えば、その前の任務はリナリーと2人だった。
 それが本当にうざくてね、だからだよ」


「しらばっくれんな!!!」


面倒だったから、放って前を通ろうとしたら腕を掴まれた。
細くたって、年下だからって男だ。
掴まれたら当然痛い。


「別にしらばっくれてなんかないよ。これも本当」


「やっぱりまだ何か隠してるじゃねぇか!!!」


「……なんで全てを話さなきゃいけない?
 自由を奪い、脅迫をする奴らの仲間であるあんたに。
 確かに全部は話してないけど、教団連中やリナリーがうざいのっていうのも本音だよ」


「お前は…何を企んでいる?」


「………”手を離せ そして我が去るまで動くな”」


「っっっ……!!!」


手を離す気がなさそうだったので、言霊で強制的に切り抜けた。
あたしはこそこそされるより、こうして喧嘩を売られる方が嫌いじゃない。
ただいい加減面倒だったので発動してしまった。



うーん、あんまり問題起こして疑われる要素を増やすのもよくないかな……。



そんなことを考えながら神田を放置し、部屋に戻った。








ただ、あたしが自分の首を絞めることになっても構わないと思っているのにも一応理由はあった。
それは先日AKUMAからもらった手紙の内容にあった。

準備は整った。
次にお前が”任務”で来た時に連れて行く。

そう書かれていた。
理由はわからないらしいけど、伯爵はあたしのいる場所がわかる術(すべ)があるらしい。
だから適当にAKUMAを各地に出し、教団を出て向かった方向に手紙を持たせたAKUMAを新たに向かわせていたらしい。
その要領でティキが来てくれるのだろう。



ようやく地獄から抜け出せる。



そう思うと胸が高鳴り、興奮して何をしても手につかなかった。
そしてあたしはうきうきで”任務”に向かった。










「よ。ずいぶんと待たせたな」


教団から渡された書類で出現地とされている場所に向かうと、AKUMAからこの場所を教えられた。
あたしはいつも通り術をかけ、逃がしてやってから指定された場所へと足を運んだ。

……ゴーレムを破壊して。

だってあたしにはもういらない物だもん。

指定された森で待っていたら、声をかけられた。
ずっと待ち焦がれたいた彼だった。


「やっと会えたね。今日までが凄く長く感じたよ」


「ああ。ずいぶんと待たせたな、


嬉しくて足が、体が震える。
少しずつ彼に近づき、苦笑いをして彼を見上げた。
頭を撫でてくれる手が優しくて温かく目を閉じる。
けど、雰囲気で真剣な顔に変わったのを感じまた目を開け彼を見つめた。


「このまま、連れてくけどいいのか?」


「うん。お願い……早くあたしを教団から引き離して?」


そう言ってティキに抱き着いた。



あんな所にいたくない。
ずっとティキと一緒にいたい。



その想いが溢れ、彼の胸に顔を埋めた。


「……」


が、急にティキの雰囲気というか空気が変わった。
顔を見ると険しい表情をしていた。


「ティキ?」


「誰だ?」


ティキがそう言うと急に人の気配が現れた。
あたしはそういうのを察したり、コントロールするのが得意じゃないからわかんなかったけど、これは見知った人のだ。
というくらいはわかる。


「……


、やっぱりお前……」


なんでここにいるのよ。
教団が、仲間だと言ってる連中が疑ってるのは知ってた。



だからってをよこすなんて……。



悲しそうな、辛そうな目をするが見れなくて視線を逸らしてしまった。


「どういうことなんだ、!? 任務に出るようになったのは、こういう事だったのか!?」


「ティキに会ってから様子が変わったから変だと思ってたんだ。
 だけど、ただ好きな奴に会えたからはしゃいでただけだと思ってたのに……っ」


なんであんたが泣きそうなのよ。
これから裏切ろうとしてる奴なんかのために泣かないで…。

でも、予想してなかったわけじゃなかった。


「やっぱり勘付いてたんだね、


「なっ……」


「あたしが気付いてないと思ってた?」


最初にティキに会った時にも一緒にいた。
それに、元々好きだったことも知ってるし、最近はあんまり会ってなかったけど心配するような、そんな目で見られてるのにはなんとなく気付いていた。


「あたし言ってたでしょ? 戦いたくないって。エクソシストにはならないって
 ここから逃げる──って」


あたしだって、本当ならを裏切りたくなんかない。
唯一同じ世界から来た友達だ。



一緒に戦って、悩んで、恋愛の悩みを聞いたりなんて、乙女ちっくなこともしてみたかったよ。



ただ、あたしにはのことまで気に掛ける余裕がなかった。
元々向こうの世界にいた時から教団のやり方には疑問があった。

でもその程度だ。

みんなが嫌いなわけではなかったんだ。
でも、最初の対応で一気にあたしの中での彼らへの評価が変わった。というか決定づけられた。
あそこにいるのが怖くて、誰を信じていいのかわからなかった。
初対面でいきなり探られ、拘束されて何を信じろと?
だからには悪いと思いつつも、あたしは教団から離れる決意をした。

別の道を歩む決意を……


「ティキ。お願い」


「ああ」


、待っ──」


何を言われても決心が変わる気はない。
ただ辛そうな顔をするを見たくなかった。
あたしはティキの腕にしがみつき、顔を見ないようにした。


ぁぁああああっぁぁぁぁああぁぁっぁぁぁ!!!」


ごめん、ごめんね?
ここに来たときの始まりの形が違ったらあたしは隣を歩いていけたのかな?
少しだけ、ほんの少しだけ罪悪感を感じつつもあたしはティキに身を委ねついて行った。









「友達、よかったのか?」


「いいわけじゃないけど……あたしとの道は違う。
 あたしは同じ道を歩いていけない…」


「そうか……」


今はロードが作ってくれたらしい扉を抜け、伯爵の屋敷(ノアのみんなも滞在しているらしい)に着いたところだ。
なんというか、予想通り大きい!!(どーん
あたしはティキの腕にしがみついたまま、案内されるがままに中に入った。


「彼女がティッキーの言っていた子ですカ?」


「ぁあ」


「は・初めまして……」


伯爵がいるらしい部屋に通され、初めて対面する。
体もまぁ大きいけど、オーラもなんというか大きい人だった。


「これからはここが自分の家だと思って下さいネ」


「ありがとう、ございます……。
 あの、あたしここで何をすればいいでしょうか。みんなの仕事の手伝い、した方がいいですか?」


戦いは嫌だ。
怖い。

あいつらが敵として立ちはだかることは気にならない。
ただ”戦う”ということ自体が嫌だった。
でも敵であるあたしを温かく受け入れてくれたのだから、役に立てるのなら無理してでも頑張ろうとは思っていた。
あたしはティキの腕に抱き着きついたまま、彼の服をぎゅっと掴んで伯爵の返事を待った。


「貴女はずっとこの屋敷にいればいいんでス」


「……へ?」


「ティッキーから聞きましたガ、戦うことが嫌いなんですよネ?」


「はい……。怖いんです…。
 あたしは今まで戦うこととは無縁の生活をしていました。
 なのに”力がある、戦え”と言われてもどうすればいいかわからない。
 元々えぐいものが苦手だし、敵であったあたしを受け入れてくれた伯爵やティキ達の役に立ちたいって気持ちはあるのに、
 教団での仕打ちを思い出してイノセンスを使うのが怖いんです……」


「……貴女のイノセンスは、イノセンスであってイノセンスではなイ」


「……どういうことですか?」


言っていることがわからなかった。
隣にいるティキを見上げるが、彼も初耳だったらしく驚いている様子で首を横に振られた。
そんなあたし達の様子をちらっと見て、伯爵は真剣な顔と雰囲気で言葉を続けた。


「いずれ教団と直接戦うことになるでしょウ。
 その対抗策の1つとして”ある試み”をしてみたんでス」


「試み?」
「……それは”イノセンスのダークマター化”
 我々が回収したイノセンスの1つを改造したんでス。
 ギリギリのところまで分解し、”イノセンス”としての効力を無にし、ダークマターへと作り変えましタ。
 そしてそれを教団に送りこみ混乱させるために、ダークマターだと気付かれないよう別に確保しておいた、
 分解し効力を失ったイノセンスをコーティングして送りこんだんでス」


話が混乱する…。
だけど必死にフル回転させ出た結論をぶつけてみることにした。


「それはつまり、イノセンスの皮を被った元イノセンス・現ダークマターみたいな感じですか?」


「その通りでス♪
 ……我輩のせいで辛い思いをさせましたネ…」


そう言って伯爵はあたしとティキに歩み寄り、あたしの頭を優しく撫でてくれた。

敵だって言われていたけれど、その手は温かった…。

教団の方が”悪魔”のように感じる。
あたしは涙が溢れ、謝ってくれた伯爵への返事の言葉が出なかった。
そのかわり首を横に振って”謝らないでほしい”と伝えたかった。


のダークマターはまだ眠った状態でス。
 ダークマターを起こし、覚醒へと導く薬がここにありまス♪
 これを1日1回飲んで下さイ☆
 ただ物凄い劇薬なので気を付けてくださいネ」


「……わかりました」


「あともう1つ。ダークマターが覚醒するにつれて、はノアへと変わっていきまス」


「おいおい、話が全然見えねぇんだけど……」


あたしと同じくらいティキも混乱したのか、あたしをしっかり抱き締めてくれながらも髪をかき上げ眉間に皺を寄せた。
ダークマターの件に関しては理解できた。

けど、ノアへ変わるって……?


「我輩はイノセンスの改造ともう1つ、ノアを作るという試みをしたんでス」


「ノアを……作る?」


「イノセンスの改造をした理由は敵を混乱させるためでしタ。
 適当な人物に適合者として敵側に送り込み、タイミングを見計らってダークマターを覚醒させノアへと変化(へんげ)させ意識を奪い、攻撃をしかける予定でしタ」


その時の伯爵の目が凄く怖かった……。

殺意に満ちた、ギラギラとした目。

自分でもわかるほどにティキの腕を強く掴んでいた。



あたしの存在ってなんだろう。
戦いのためにしか存在できないんだろうか。



そう思うと涙が溢れ、止まらなかった。


……」


ティキはあたしの様子に気付いてくれ、宥めるように優しく頭を撫でてくれた。
そしてあたしからは見えなかったけど、おもいっきり伯爵を睨みつける。


「あくまで予定の話でス。
 理由はわかりませんガ、彼女が現れる前に時空が歪み(ゆがみ)その時に生じた時空の歪み(ひずみ)の向こうで彼女を見つけました。
 その時の姿が見えたと同時に思考が伝わってきたのでス。
 ”教団って本当に正義なのかな?””やり方を押し付けてるだけで、教団の方が悪に感じる”と……」


「……友人が、あたしの少し前に召喚されています。
 それにティキから聞いてるかもしれませんが、あたしはこの世界が物語になっている所から来ました。
 どっちが正しいとかはわからなかったけど、確かに教団のやり方に疑問を抱き良く思ってない部分もありました」


なんでそんな現象が起きたのかはわからない。
でも伯爵の言ってることは嘘じゃなかった。


「我輩はを歪み(ひずみ)越しに見たときに思いましタ。
 つらい思いをさせるかもしれないけれど、貴女なら”家族”になれるんじゃないト…。
 そしてこのダークマターを使いこなしてくれるのではト…」


「………」


「我々もこの戦いに勝ちたい理由がありまス。
 そのために協力してくれるのなら温かく迎え入れよう、もし向こうにつくのなら当初の予定通りにしようと思っていましタ」


「ちょっと待てよ!!
 立場的には都合が良いけど、それじゃあが可哀想だろ!!
 戦うことが嫌なのに無理矢理俺達の戦争に巻き込んで、こんなに辛い思いをさせて!!!」


ティキはあたしを片腕で抱きながら、空いてる手で伯爵に掴みかかった。
確かに伯爵の言ってることは自分の都合で巻きこむなんて冗談じゃない!!って感じでもある。
だけど、部外者だったあたしの為に”大切な家族”に掴みかかって本気で怒ってくれる彼の気持ちが凄く嬉しかった。


「ティッキーからの話を聞いたときは驚きましたが、辛い思いをさせていたと聞いた時は本当に悪いことをしたと思いましタ。
 最初は敵を潰すために動いてもらおうと思っていましたが、心の傷が癒えて、その時貴女の心が落ち着いて決心がついたその時はお願いするかもしれませン。
 その時まではゆっくりしていて下さイ。無理しなくていいですからネ♪」


「いいんですか? 戦わなくて……」


「ハイ♪ その分ティッキーに頑張ってもらいますかラ☆」


伯爵はにこっと笑い、ティキに掴まれたまま言った。



……本当に彼らが敵なんだろうか。
なんでこんないい人たちを倒そうとするんだろう。

今はまだ戦うことが怖い。
身体が拒絶してしまう。

でも、いつかあたしがマンガで見たような展開になったその時は力を貸そう。



そう心の中でこっそり決意をした。













「……大丈夫か?」


「うん、驚いたことがいっぱいあったけど平気。ティキがいたから……」


今は一通り話が終わり、ティキの部屋に来ていた。
ベッドに座って、ただ抱き締めあっていた。
ティキの腕の中はとても温かくて、ずっとここにいたいと思った。
あたしの部屋も一応用意はしてもらってあるんだけど、1人が嫌で我儘言ってこっちに来ている。


「そうか…。しばらくは一緒にいるから、ここに慣れることだけを考えろよ。他の余計なことは考えるな」


「ん……」


ティキはしばらくの間は任務には行かなくなった。
理由は精神的に不安定なあたしがここに慣れるまでは一緒にいた方がいいっていう伯爵の判断で。
とは言ってたけど、ティキ本人も希望してくれていたらしい。
あたしは念願の”脱☆教団”ができたにも関わらず、気分はすっきりしてるわけでもなく、うきうきなわけでもない。
ティキと一緒っていう安心感と甘えたいって気持ちが溢れて、離れられなかった。


「迷惑、いっぱいかけてごめんね?」


「なんでが謝るんだよ。俺達の戦争に巻き込んじまって、こっちが謝らなきゃいけないくらいだろ?」


「だってあたしのお守みたいなことさせちゃったし、任務の邪魔にもなってるよね?」


「ばーか」


そう言っておでことおでこをくっつけられた。
至近距離すぎてドキドキする。



あたし今絶対、顔が赤いと思う!!!



「俺が好きでやってんだから気にすんな」


「でも……」


「ちょっと黙って」


そう言って押し倒され、キスをされた。
最初は軽かったのに、段々深くなっていく……。
驚いたけど抵抗はしない。

だって相手は大好きなティキだもん。


「なぁ、このまま”薬”にしよっか」


「ん……」


伯爵から渡された薬。
イノセンスで隠されたダークマターを覚醒させる薬。
あともう1つ効力がある。
それは”ノア化の促進”だった。
でもこれには”あること”をしたら効きがただ飲んだだけの時の倍になると言われた。

それは”ノアの男の精液を体内に入れること”だった。
対内にノアの遺伝子を入れることで効果が上がるとか。
マジかよ!!って感じだけど、ティキが相手ならいいかもしれないと思った。

だからあたしは抵抗しないで、彼に身を委ねた……。










to be continued.........................






<あとがき>
今回も凄く長くなっちゃった!!
書きたいことがいっぱいあったから、いっぱい詰め込んでみたw

まず教団に1人くらいは理解者みたいな人がいてもいいかなって。
”エクソシスト辞めてもいい”とは言わないけど、無理はしないでくらいなら言えるかなって。
あと化学班の技術力の高さとの詰めの甘さで、実は疑われてもいいかなって。
前回のエリの話で疑われるところから、教団離脱までの大まかな流れがあったからそれを崩さず上手く繋がるようにエピソードを追加してみた!!
面白かったけど難しかった^^;

あと伯爵側の話。
伯爵は当初、ダークマターの宿主のことをAKUMA達みたいに操ろうとしていたんです。
でも予定変更で様子見をすることにした〜みたいな^^
自分たちの方に引き込んで、いきなり即戦力にしようとしても元は改造してもイノセンス。
何が起きるかわからないので、落ち付くまでは無理させず大人しくさせていようみたいな^^
あと伯爵なりの罪悪感もあればいいかなって^^






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