私も神田もエクソシストだから
命の危険を伴う任務なのは分かってる
アクマとの戦いなんて……本当に、死と隣り合わせな任務ばかりだから

分かってるよ?
分かってたよ?

だけど……やっぱり、怖いものは怖いの
あなたを失うかもしれないと思うと──怖くて怖くて仕方がない
死ぬことよりも、あなたを失うことの方が……私は、怖い









心に鬼を作る









団員の個室のある階の廊下。
部屋から出てきていたは、廊下にある柵に両腕を預け寄りかかり中央部分の吹き抜けに浮いたエレベーターを見つめていた。


「おい」


そんな時、掛けられた声でようやく気配に気付いた
軽く重心を身体に戻すと、柵に手を掛けたまま振り返った。


「……あ、神田」


「何してんだ」


「何って……」


問われた言葉に、返事がつっかえた。
不安になっているなんて、言えるはずもないのだ。


「──明日は早朝から任務だ 寝ねぇと身体がもたねぇぞ」


「分かってるって」


神田の言葉に、は弱く返すことしか出来なかった。
分かってるけれど、分かってないのだから。
本当に分かってる人は、きっとこうして起きてはいない。


「じゃぁ、何で神田は起きてるの?」


真っ直ぐに神田の瞳をは見つめた。
早朝から任務なのはだけじゃない。
に声を掛けてきた神田だって、同様に早朝からの任務が待っているのだ。


「俺はいいんだよ」


「そんなわけないでしょ?何で?何で神田は起きてるの?」


の問い掛けに神田は後頭部をガシガシと掻いて、困ったような表情を浮かべた。
それはが答えを聞くまで引かない性格をしている事を熟知していたから。


「──……不安なんだよ 悪ィかっ!?」


ふんっ、と視線を逸らしながら言い切った。
その言葉にはキョトンとし、首を傾げた。
あれほど強くて、そして自信のある神田が何を不安に思うのかがには分からなかった。


「神田が?不安?」


「何だよ、文句ありげだな」


「だって……神田が不安に思うとか、信じられないし」


不満げな表情を浮かべる神田の言葉に、はいけしゃあしゃあと言い放つ。
けれど、きっと誰もが同じ事を言うだろう。



いったい何を不安に思うんだろ?
あんなに強いのに
怪我したって……あんなに早く回復するのに



神田の回復力に関しては、は詳しいことは知らなかった。
回復するまでに時間がかかるようになっていることも、何も。


「俺が不安に思ってんのは、テメェのことだ!阿呆!」


「──は?え、私?」


カッと、歯をむき出しにして叫ぶ神田には間抜けな声を上げた。


「今度の任務、いつも以上に危険なもんなんだろ?」


「え、それは神田だって同じじゃ?」


「俺は死なねぇ だから不安になんてなるか、阿呆!」


神田の問い掛けには同じ問い掛けで返した。
その問い掛けに神田は呆れたように言い放つ。


「とにかく、俺はテメェが死ぬんじゃないかって不安なんだよ……」


ぶっきら棒に、視線を逸らしながら神田は伝えた。


「だから……起きてたの?」


「悪いか、眠れねぇんだよ!」


真っ赤になる神田がおかしくて、そして愛しくて。
は「ぷっ」と笑い声をもらした。



なんだ……神田も私と同じだったんだ



自分だけじゃなかったことに、少しだけは安堵していた。
神田も、のことで心配をし、眠れなくなるほどに不安な思いをしていた。


「悪くないよ、神田 私だって同じだったんだもん」


「あ゛?」


「神田は、確かに凄い回復力を持ってるし、凄い強いと思う
 だけど……やっぱり、神田が死んじゃうんじゃないかって不安に思うの」


言いながら、は神田に背を向けた。



見られたくない……今の顔を
きっと、凄く情けない顔をしてるから……



視線の先には、さっきまであった神田の顔はない。
変わりに見えるのは、吹き抜け部分に浮かぶ無人のエレベーター。


「私が死ぬことよりも、神田が死ぬことの方が怖い」


声が震えないように、は気丈に振舞った。
はっきりとした口調で、はっきりとした声で、その思いを口にする。
けれども、背けられたの顔はそんな声や口調とは裏腹な歪んだ表情を浮かべていた。


「大丈夫だ 俺は死なねぇし、テメェも死なねぇ」


「……神田」


後ろから抱きすくめられた事に驚いた
けれど、すぐに聞こえた優しい声色には優しくその名を呼んだ。


「どんなに危険な任務だって、無事に帰ってくるんだ」


「……うん」


「帰ってこなかったら許さねぇからな?」


「……うん」


「どこまでも、探し回ってやるからな?」


「……うん」


「俺から逃げられると思うな?」


「……うん」


「好きだ、


「……うん」


「無事に帰ってきたら、俺と付き合ってくれ」


「……うん」


神田の言葉に静かに頷き続ける
優しい声色は、珍しい神田の姿。
だから他に何も言わずに、「うんうん」と頷き続け──


「え?」


神田の最後の二つの言葉に、は頷いた後に気付き声を上げた。
パッと振り返ると、してやったりと笑う神田の笑顔。


「頷いたんだ、訂正は駄目だからな」


「〜〜〜〜っ分かってるよ!私だって……私だって神田が好きなんだから!」


それだけの約束があれば、強くなれる。
それだけの約束があれば、不安な気持ちもかき消せる。
約束を守るために、生き残る。
約束を守るために、強くなれる。
人は、心の支えがあるだけでこんなにも強くなれるのだ。






......................end




最後のくだりを実は凄くやりたかったw
という事で、二十五万ヒット感謝のリクエストの一つ、命の危険を伴う危ない任務に出掛ける神田とヒロインの話。
別々な任務だからこそ、互いのことを心配してしまう──なんて感じの前夜話です。
しかし、エクソシストがプロポーズしていいのかなって不安に思ったので告白→付き合う、の過程にとどまらせてもらいましたw
リクエストしてくださった方、ありがとうございました!

※「心に鬼を作る」というタイトルは「恐怖のあまり無用な想像をする」という意味です。

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