あなたの、ほんの些細な行動一つ一つで、私の心臓は悲鳴を上げる
どうして、あなたは……そんなにも私を翻弄するの?








心臓から侵食








「リナリー、どうしよう」


「どうしたの?」


食堂の一角で、少女──はリナリーに相談をしていた。
サラダと牛乳を片手に、まじまじとリナリーを見つめる。


「私、何だか心臓が変なの……」


言いながら、の視線は徐々に落ちていく。
最後には完全に俯いてしまい、その表情はリナリーには見えなくなった。


「心臓が?」


「うん なんか……神田を見ると、心臓が破けそうなくらい痛くなるの」


表情は見えないものの、リナリーには今のがどういう表情を浮かべているのかたやすく想像がついた。
答えは簡単──顔を真っ赤に染め上げた、乙女の表情だろう。


「神田を?」


「うん」


きょとんとした表情を浮かべ、リナリーはを見つめた。
何故、そんな事を自分に話すのかと不思議に思うが、たぶん恋心というものに気付いていないのだろうと答えは簡単にでた。
幼いころからエクソシストとしての訓練を受けてきたに、恋をする暇なんて今までなかったのだ。

余裕が出てきた今を除いて。


「……おい」


「っ!!」


掛かった神田の声に、は背筋をピシッと伸ばした。
それだけ緊張していることが、リナリーには分かったが神田は全く気に留める様子を見せず。


「エクソシストのくせに、それだけしか食わねぇのか?」


「……ぇ、あ……今、あまりお腹空いてなくて……」


びくびくとまるで怯えているように神田の言葉に返事を返した。
タイミングの悪い時に会ってしまったと、リナリーは内心苦笑した。


「まあ、いいじゃない、神田 ちゃんと普段は食事を取っているんだし、任務だってしっかりこなしてるでしょ?」


リナリーのフォローで、神田は舌打ちを一つしただけで立ち去っていった。
たった数分の出来事だったのに、それだけでの心臓は破けそうなくらいに脈動していた。


「リ、リナリー……やっぱり私、変だよぉ」


その声にハッと視線を向けると、はすでに涙目になっていた。
怖さからではなく、行き場のない感情のせいで。


「大丈夫よ、


「でも……私、変な病気なのかな?」


心配ごとはとんでもない方向へと飛んでいった。
その言葉に、リナリーはふっと微笑んだ。


「え?何、リナリー……何か分かってるなら教えてよっ」


「心配するほどのことじゃないわ」


「え?」


「だけど、これは人に教えられて知る事じゃないから、頑張って」


くすくす微笑みながら、リナリーは言い切り食べ終えた食器を持って立ち上がった。


「ちょっと、リナリー!!他人事だと思って……!!!」


「いいから、はそこで待ってて」


リナリーの言葉に頬を膨らましながらも、言われたとおりに席に大人しく座った。



いったい何なの?
わけ分からないよ……



頬杖をついて、むすったれながらサラダに手を付けた。
もぐもぐと口を動かしては、牛乳で流し込んで──そんな事を繰り返していると。


「おい」


「へ?」


掛けられた声に、パッと視線を上げると。


「か、神田!?」


いっきに身体が熱くなった。
頬が紅潮に、身体は火照り、緊張の所為か身体が強張ってしまう。


「少しは、食え それだけじゃ、やられるぞ」


どん、と神田はぶっきら棒に小さめの温かい蕎麦をの前に置いた。
それは神田が食べる量ではなく──小食の人が食べるような、少ない量。


「これ……?」


「お前にだ」


幾度も瞳を瞬かせ、蕎麦を見つめた。
視線を逸らしながらも、神田はの為に貰って来たと伝え近くの椅子に腰かけた。
珍しい神田の行動に、開いた口が塞がらない。


「いいの……?神田、蕎麦好きだし、食べたいんじゃ……」


「は?俺はすでに食ったからいいんだよ」


それはつまり、の為だけに貰って来たわけで。
いっきに顔が真っ赤に染まりあがった。
先ほどの頬の紅潮の比でないほどに。


「おい、大丈夫かっ!?」


「だだだ、大丈夫……うん、平気」


両手で頬を抑えながらも、大丈夫だと伝える
けれど真っ赤な顔でそう言っても、説得力なんて全くなくて。


「真っ赤な顔して言う台詞じゃねぇな」


「──っ!」


伸ばされた神田の手にぴくっと反応を示し、両目をぎゅっと瞑った。
ひやりと、神田の掌がの額に触れ──ホッと安堵の息が聞こえた。


「熱はねぇみたいだな」


離れていく手に、寂しさをは感じた。
ここまで分かってしまえば、理解せずにはいられなかった。
認めずにはいられなかった。



私……神田が好きだ……



ぽけーっと、恋する乙女の瞳で神田を見つめた。
自覚してしまえば、もうその姿を見ただけで鼓動は早まる。
早く高鳴り過ぎて止まってしまうんじゃないかと思うくらいに、心臓が痛い。
心臓から侵食されて、ようやく気付いた恋心。
いくらなんでも遅いだろうと、は内心思うも──すでに育ちあがってしまっている恋心を持て余していた。


「……好き」


「あ?」


「私……神田が好きっ」


言って、ハッとしては両手で口を押さえた。
無意識の告白だった。
好き過ぎて心臓が既におかしくて、ようやく気付いた次の瞬間には愛の告白。
テンポは速いが、順番が違っていたのだから仕方がない。


「な゙っ……!」


二度目の告白で、ようやく"好き"の意味を理解した神田。
いつものしらっとした表情はそこにはなく、代わりに浮かんだのは真っ赤な照れた表情だった。
食堂に居る全員が一致して思った──珍しい神田を見れた、と。


「答えは……すぐじゃ、なくていいから……その……」


「ああ……分かった、分かったから、もう何も言うんじゃねぇ」


ガシガシと頭を掻きながら神田は視線をそらした。
これ以上何かを言えば、墓穴を掘るかもしれないと思ったのだ──も神田も。
だからこそ、この話はとりあえずここで終了させてしまいたかった。
公衆の面前で、これ以上恥ずかしい思いはしたくなかったから。


「う、うん……ごめん、いきなり……」


「謝るな!」


神田の怒鳴り声に、は肩をびくりと震わせた。
同時に、あちらこちらで上がる『怒鳴った』『かわいそう』という声。
イライラするも、が悪くないのは神田もよく分かっていた。


「悪い……そうじゃない 気持ちは、ありがたいが……これ以上公衆の面前でする話じゃねぇだろ」


「あ……」


言われて初めて気付いたは、真っ赤な顔がいっきに青ざめた。



わ、私……とんでもないことをっ



気付いた時には遅かった。
告白を食堂に居る人達に聞かれてしまっていたのだから。


「行くぞ」


「あ、うんっ」


そうして、逃げるように神田とは食堂を出ていった。
前を歩く神田の背中が遠いようで近くに見えた。



あんなに……前は遠くにあるように見えたのに



好きと自覚して、告白して──まるで距離が縮まったかのようだった。
手を伸ばせば掴めそうで、捕まえられそうで。



ああ……私、本当に神田が好きでしょうがないんだ……



愛しすぎて、好きすぎて、心臓が悲鳴を上げる。
好きという感情が、愛しいという感情が、の心臓を侵食していく。



好きだよ……神田



もう一度、心の中で神田の背中に告白をした。









....................end






好きって感情を育むのと、好きって自覚するのが逆になったらこうなるんじゃないかなと思ったのがきっかけです(笑)
ということで、二十七万ヒット感謝!の気持ちを込めてフリー夢です。
いえ、全く感謝の気持ちとは無縁の物語になっちゃいましたが……少しでも神田とらぶっちょ出来たらいいなと思います。
D.C.様でお題をお借りしました。

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