何度繰り返しても変わらない
助けたくても助けられない

それは必然の運命なの?

私は助けたい、あの人を──
運命を変える、あの人のために──


だけど、何度やっても同じ運命を辿ってしまう
発言を否定して、違う道へ進めようとしても

まるで、私をあざ笑っているかのように──運命は同じ場所へ辿り着いてしまう


どうしたらいいの……?
私は……どうしたら……









雲の通ひ路 第一話









「……え?」


目の前で起きた出来事が、には信じられなかった。
まるで夢のような、非現実的世界のような──不思議な感覚。


「消え、た?」


波にのまれるように吸い込まれていった望美と将臣と譲。
はただ一人だけ、渡り廊下に取り残されていた。



じょ、冗談でしょ……?



手を伸ばせばそこに居た三人。
けれど、今は手を伸ばしても掴むこともできない。
香りさえも一気に消えうせてしまったかのように、そこには存在感すらなくなっていた。


「望美?」


呟いて、一歩踏み出す。


「将臣?」


立ち止まり、きょろきょろと左右に視線を巡らせる。


「譲?」


振り返るように、今しがた自分が立っていた場所を見つめた。
けれど、の声に誰も答えてはくれなかった。
まるで、ずっと昔からそこにいなかったかのように。


私の神子を──


ザァァァァァァァ……


──助けて


「え?」


聞こえた声に疑問の声を上げた。
どこからするのかと視線を巡らせようとした瞬間。


「──っ!?」


白い霧のような波がを襲った。
呑み込むように、巻きつくように、引き込むように。



誰か……っ













「戻ってきた……九郎さん、絶対に助けるから
 でも……結構戻ってきちゃったんだ……私」


望美はじっと神泉苑のある方を見つめていた。

何度繰り返しても、頼朝に殺害されてしまう九郎。
救いたいのに、どう足掻いても同じ運命へと繋がってしまう。
だからこそ、より強く助ける事を望んでしまう。

グ、と拳を握り締めて強く望美は決意した。


「先輩?」


「え?あ、ううん なんでもないよ、譲くん」


首を傾げる譲に、望美は慌てて首を左右に振った。
時空を渡って戻ってきたということは誰にもバレるわけにはいかないのだ。
たとえ、幼馴染の譲でも。


「皆さん、九郎を呼んできましたよ」


地面を踏みしめる音を立てながら、望美に近付いていったのは黒い外套を羽織った弁慶だった。
その後ろには、弁慶に呼ばれ連れてこられた九郎の姿があった。


「せ、先生!?」


遅れて姿を現した九郎は、望美達とともにいる師匠のリズヴァーンの姿を見つけ驚いた。
まさか、ここに居るとは思ってもいなかったから。
けれど、すぐに咳払いをし驚きの表情は真顔の中へと掻き消された。


「先生、ご無沙汰しております」


「……息災のようだな」


同じように互いが互いに挨拶を交わす。
ビシッと背筋を伸ばしながら、リズヴァーンに頭を下げる様子は堅物な九郎らしいものだった。


「先生もお変わりなく……先生!?その、頬にあるのは……もしや……」


「頬の宝玉は八葉の証……そうですよね?」


驚く九郎をよそに、望美はふわりと微笑み呟いた。
まるで知っていましたと言わんばかりに。


「無論」


「八葉ならあたなも白龍の神子──望美を守ってくれますか?」


淡々と答えたリズヴァーンに、朔が真剣な眼差しを向けた。


「先生が一緒に戦ってくださるなら、心強いです
 これからの平家との戦のためにも、源氏に力を貸してください」


九郎も、考えは少し違っていても朔と同じことを考えていた。
少し考えるように、リズヴァーンは瞳を閉じていた。


「神子のために……八葉は在る 神子が源氏と共に戦うのであれば、私も従おう」


リズヴァーンの言葉に嬉しそうにパァァァァっと表情を明るくさせた。


「しかし……なぜ、先生がこのもの達と一緒に居られるのですか?」


「あ、九郎さんには話してませんでしたよね 先生は、私の剣の先生でもあるんです」


久々の感動の再会に九郎はすっかり忘れていた。
九郎の剣の師匠であるリズヴァーンがなぜ望美達と居るのか、という事を。


「諦めの悪い女だと思ってはいたが……まさか先生に師事するまでとは……」


呟き、目を丸くした九郎。
けれど、すぐに瞳を柔らかくさせハハッと笑った。

それほどまでに、戦いたいのかと。
それほどまでに、剣を取るのかと。


「そこまでしたんだ、あの技を使えるようになったのか?」


「はい ちゃんと修行したから大丈夫です」


望美の力量を量ろうと真っ直ぐ真剣な眼差しを向ける九郎に、望美はハッキリと答えた。


「そんな事は知っている 修行の成果を見せてみろ」


自信満々な望美に早くするようにと九郎は促した。
望美が必死に頑張っているのを、九郎は知っていた。
まして、九郎に剣を教えたリズヴァーンに教わったのだから、当然だと。

望美は、その九郎の態度に少しだけムッとしたが、すぐに出来ることを見せなければと思いなおし──剣を構えた。
望美はこれが初めてじゃなかったから。
前にやって、そして成功し……ちゃんと九郎に認められた。


「…………」


息を、一つ吐いた。
瞳を閉じ、心を落ち着かせると望美は自分自身を信じ、ゆっくりと瞳を開いた。

全てがスローに見える。
動きがゆっくりに見え、まるで周りの世界が止まったようだ。


「ふっ……」


吐き出す息と同時に、風を聞く音。
九郎達の目に留まったのは、綺麗に二つに斬られた舞い落ちる桜の花びらだった。


「凄いわ……」


「凄い凄い!見惚れちゃったよ!」


唖然としながらも感動する朔。
そして、対照的にはしゃぐように呟く景時。


「本当にこんな剣技を身につけてしまうなんて……凄いな……」


まるで美しいものを見るかのように、譲は望美を見つめていた。


「この姿、先輩にも……見せてやりたかったな」


「うん、そうだね」


ポツリと呟かれた譲の言葉に、望美は苦笑した。
こんな姿を見せたら、きっとは驚くに違いない。
けれど、長年付き合った友達だからこそ……見せてやりたいとも思えてしまう。


「凄い!凄いよ、神子!」


「わっ」


けれど、そんな意識もすぐに白龍の方へと移ろった。
可愛らしく幼い白龍が望美に抱きつかんとするような勢いで駆け寄ってきたのだ。


「この短期間で秘剣を身につけるとは、さすが白龍の神子ですね」


満足そうに、そして関心するような笑みを浮かべた弁慶。
何度もやったことがあり、そして戦を幾度も乗り越えてきた望美には簡単なことではあった。
それでも、やはり褒められるというのは嬉しいものだ。


「ありがとうございます 九郎さん、これで認めてもらえますよね?」


褒めちぎるみんなに笑顔でお礼を告げた望美。
くるりとすかさず九郎に視線を戻すと、真剣な面持ちで問いかけた。
戦場に出なければ守ることも出来ない。
助ける未来へ進めることも、回避することも。


「当たり前だろう 俺は口にしたことは守る」


真面目な面持ちで当然だと胸を張って言う九郎。
その態度も、言葉も、表情も、九郎が変わっていないという事を確認させる要因で、望美は安堵していた。
変わっていれば進む運命の先も変わってくるのだけれど、ここはきっとまだ違うはずだから。
だからこそ、望美はホッと胸を撫で下ろしていたのだ。


「ああ……それと、だ」


「はい?」


「戦えないと決め付けていたこと、すまなかった」


笑顔で謝る九郎。
その表情は、本当に戦えると分かって安堵して満足したようなものだった。

ヒュゥゥゥゥゥ……


「「…………」」


突如、嫌な風が吹いた。
ゾワリと悪寒が背筋を撫でるかのように。
瞬間、九郎とリズヴァーンの表情がとても真面目な将のものへとなっていた。


「あ」


小さく声を漏らし、遠い彼方にしまわれていた記憶が呼び起こされた。
ここで怨霊が出てくることを思い出し、望美も慌てて剣の柄を強く握った。


「フシュウウウゥゥゥウウウウゥゥゥ」


突如現れた怨霊は、奇声を発し望美達を見据えた。


「よく気付いたな!さすが……という事か
 この程度の怨霊、すぐに片付けるぞ!」


「はい!」


九郎の掛け声と同時に、望美は構えた。
その構えは、本当に幾度も戦を潜り抜けてきたもののようだった。











to be continued................




遙かなる時空の中で3の弁慶夢、連載開始ぃぃぃ──!!
第一話、ヒロインの登場がほとんどない……;
も、もうすぐ……うん、次回辺りには出てくるはず……っ(汗)






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