大丈夫、進めてる……
私はちゃんと、みんなを守れる

その為に力を手に入れたんだから……

その為に、耐えるって、後悔はしないって決めたんだから……
どんなに過酷でも、酷くても……






私は進まなくちゃいけない───────












雲の通ひ路 第二十二話












「……朝」


目を覚ましたら、鳥のさえずりが聞こえてきた。
そして、目の前にはと望美を起こしにきた譲の姿がある。


「おはようございます、先輩、春日先輩」


「ん〜 おはよう、譲くん」


起こしに来た譲に挨拶をしながら、いそいそと起きだす望美。
けれど、隣で布団を敷き、眠っていたは上体を起こしたままあっけらかんと譲を見上げていた。


「あれ、私……いつ戻ってきたの?」


先輩、ヒノエと弁慶さんに連れてこられたんですよ
 神泉苑で眠っていたそうで……」


、凄いはしゃいでたもんね 疲れるのも当然だよ
 一人で基幸さんの所に報告に向かっちゃったくらいだし」


譲の説明ではようやく理解が出来た。
そして望美の疲れるのも当然と言われ、自分が神泉苑で眠ってしまったあと、疲れがドッと出て寝入ってしまったのだと気付く。


「そっか……ヒノエくんと弁慶さんには悪い事しちゃったなぁ
 あとでお礼言っとかないと」


はぁっと一つ息を吐きながら、ようやくも起きだした。


「そうした方がいいでしょうね
 せっかく今日、みんなでお祭りに行く事ですし……言う機会はいくらでもあると思いますよ」


譲はそう言いながら、二人の部屋を後にした。
カチャリと眼鏡を掛け直す姿を最後に見せて。


「弁慶さんとヒノエくん、何か言ってた?」


やはり、そこは気になってしまうのか着替えをし始めながらは疑問をぶつけた。
何か気付いていなかったか、何か望美に問い掛けはしなかったか。

気になる事は尽きる事がない。


「ううん、特に何も なになに?なにかあったの?」


「え、べ、別に何もないよ!!」


そんな問いをするものだから、望美も勘ぐってしまう。
けれどは慌てて首を左右に振って否と答えたのだが。


「怪しいなぁー」


余計勘ぐられてしまう結果に終わる。


「ふふっ 遊びはここまでにして、早く行こ
 譲くんの朝餉(あさげ)、食べ損ねちゃう!」


「あ、待ってよ!!私、昨日の夕ご飯は食べてないんだから!!」


置いて行かないでと、慌てては着物を洋服の上から羽織ると帯で軽く締め駆け出した。










「あ、ヒノエくん」


食事を終え、太陽が真上あたりに至った頃。
京邸の一室でヒノエの姿を見かけた。
弁慶はまだ来てはいないようだったが、いずれ来る事だろう。


「どうしたんだい?オレを探してくれていたんだ?」


フッと笑みを浮かべ、に近づいた。
その問い掛けに、は静かに頷き──同じく近づいていく。


「昨日はありがとう あと、心配かけちゃってごめんね」


神泉苑から連れてきてくれた事への感謝。
そして、それと同時になかなか邸へ戻らなかった事で心配を掛けただろうと、その事に謝罪をした。


「別に構わないさ を背負えたのだって、特権だからな」


「背負っ!?もしかして、おぶさって帰ってきてくれたの?」


「そうだよ それ以外にどうやって……ああ」


まさか背負ってきてくれたとはと驚く
けれど、背負う以外の運び方だとあと一つしかない。
には、そちらの方が恥ずかしいだろうに……全く気付かない。

だから。


はお姫様抱っこの方が良かったかい?」


そんなヒノエの問い掛けがに投げかけられた。


「いや、それは恥ずかしすぎるよ!!」


「なんだ、残念だね」


目を丸くして驚くに対し、ヒノエは肩を竦めるように苦笑した。
予想通りの反応だけれど、どこか物足りないと思ってしまうのは……惚れた弱みなのかもしれない。


「ヒノエくんは、いったい私に何を期待してるの?」


肩を竦め、苦笑しながらもはそんな風に問いかけた。
だって、『残念』なんて言われてしまっては気にせずにはいられない。

聞かなきゃいいのには聞いてしまう。
聞いてしまったら、聞かなかった事になんてできないのに。

それに気付いていないのか、気付きながらも好奇心が勝ってしまっているのか。


「……それをオレに聞くのかい?」


ふいに、真面目で真剣な表情へと移ろうヒノエ。
その時、は自分が何を問いかけたのか──意味を知る。


「えっとぉ……」


慌てて他の話題を探そうと視線を泳がせるも、の頭の中はパニック状態。
思い浮かぶのは、あの日の──ヒノエの思いを知った、あの日のヒノエの言葉ばかり。


そこまで否定されると悲しいね オレはお前に好意を抱いているよ?


興味じゃなかったの!?


違うね 三草山の戦いで、お前に魅力を感じた


好意を──つまりは、慕わしい感情、恋慕を抱いていると言っていたヒノエ。
前は興味だと言っていたのに、三草山の戦いの時にその思いを加速させていた事をヒノエは明かしてくれた。

そして、こうも言っていた。


今言った事は本気だからな


だからこそ、余計にどうすればいいのか分からなかった。
自分が好きな相手には『好き』とハッキリと言える
それは、相手を信じ、自分の気持ちがやましいものじゃないと分かっているから。

ラブでもライクでも、好きという気持ちは隠すような代物じゃないと思っているから。



ど、どうしよう……
もしかしなくても、私、自分で墓穴掘った……よね?



けれど、はこんな風に好意を──しかも、ラブの好意を向けられる事なんてあるはずもなく。
自分からその感情を表すのは慣れていても、その感情を向けられる事には慣れていない。


……オレは、前にも言ったとは思うけど、お前を好いているよ
 いや──」


「いいいいい、言わなくていいよ!一度聞いたし!そのっ!」


全てを聞いてしまえば答えを出さなければならない。
それに気付いたは、慌ててヒノエの口に両手を押し付けて言葉を留めさせた。



ヒノエくんの事は嫌いじゃない……
嫌いじゃないけど……けど……



そう思うと同時に、の脳裏に横切るのは弁慶の姿。
それがなければ、きっとヒノエの好きに答えられたのだろう。

けれど、は気になってしまう人がいた。
気になってしまう人がいれば、おのずとヒノエと付き合うなんて出来るはずがない。


「その……の後は何を言うつもりだったんだい?」


ヒノエはゆっくりと口に押し付けられていたの両手を掴み、問いかけた。
グイッと自身の方に引き寄せて、近いけれど遠い……そんな距離でじっと見つめた。


「オレはを愛しているよ 誰にも渡したくないほどに、どうしようもない位にね」


「────っ」


そんな言葉を聞いてしまえば、は息を飲むしかなかった。

言われてしまった言葉。
出さなければいけなくなってしまった答え。

けれど。


「私は……ヒノエくんの思いに応えられない、よ」


「オレの事が嫌い?」


「違うっ、そうじゃない!!」


の言葉に、ヒノエが傷ついたような表情を浮かべ、か細い声で問いかけた。
そのままの体勢で、は首を左右に振って『嫌いじゃない』という事を口にした。
嫌いだったら、こんな風に近くに居ないし、困ったりなどするはずがない。

それはつまり、ラブに近いライク。


「じゃあ、オレと付き合ってよ、


「……ごめん
 ヒノエくんの事は嫌いじゃないけど、それは出来ない しちゃ……いけないよ」


ぐいっと引き寄せ、を抱きしめるヒノエ。
そんなヒノエの言葉に否と答えながら、はその胸板を押しのけようと腕に力を込めた。

けれど、男の人の腕の力に敵うはずもなく。


「それは、なんでなんだ?なんで、オレじゃいけない?」


こんなにもを好いているのにと、ヒノエは心の中で思った。
とても愛していて、どうしようもない位に恋心を加速させている。

誰にも渡したくない。
腕の中に抱きとめて、縛り付けてしまいたいくらいに。

ヒノエはを愛していた。


「それは……」


「……気になってる奴がいるんだろ?」


「────っ」


まさか、ヒノエからそんな言葉を聞く事になるとはは思ってもいなかった。
だからこそ、驚き、息を飲んでヒノエを丸い瞳で見つめた。


「気付いていないとでも思ったかい?」


「だって……」


だって、つい最近気付いた感情。
まだ恋と言うには至っていない、かすかな朧げな感情。


「なんで……オレを好きになってくれないんだ?
 オレの方が、お前を好きなのに……なんでっ」


「ヒノエくん……」


好いてくれる事は、だって嬉しかった。
そういう感情を嫌がる人は、きっといないだろう。

それでも。


「……ごめ──」


「その先は、まだ聞かないよ、


「え?」


謝ろうとしたの口を塞いだのは、ヒノエの手だった。
そして、柔らかく優しげに微笑むヒノエは。


「まだ、まだ……がそいつと付き合ったわけでも婚約したわけでも婚儀を挙げたわけでもない
 オレにも、まだ可能性はあるなら……オレは諦めないよ、


ウインクを一つ投げた。
そして、同時にぎゅっと抱きしめ──を腕の中から解放した。


「そいつがお前を泣かせるようなら……オレは無理やりにでも、お前をオレのものにするからな」


ヘタリとその場に座り込んでしまったを見つめ言いきると、踵を返してその場を後にした。












to be continued





ヒノエの宣戦布告ー!(笑)
興味が好意に代わり、そして愛してるに変わりましたよ(^o^)丿
でも、ヒノエごめんねー……これ、弁慶夢だから(笑)
でも、いつか弁慶ととヒノエの三人の間でどろどろっぽい事出来たらいいなぁって思ってます(^_-)-☆






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