わけが分からなかった
初めて……武器を使った
人じゃなかったけど……それでも、斬ったことには変わりはない









雲の通ひ路 第三話









、大丈夫!?」


「あはは……大丈夫だよ、望美 それより、久しぶり」


望美の言葉には笑った。
怪我をしてるわけじゃない。
ただ、疲れただけだ。

見慣れない場所にいきなり投げ込まれ、そして慣れないものを手に取った。


「あ、うん」


「お前は、望美と同じ場所から来たのか?」


望美と話していると、突如掛けられた声。
視線を上げると、そこには九郎の姿があった。


「あ、はい なんか、神子を助けてって言われていきなりここに連れてこられてて……」


「神子を……」


「助けて……」


「……だと?」


の言葉を、望美と朔が繰り返し、九郎が怪訝そうな視線でを見つめた。


「うん なんか、神子だけでは運命を乗り越えられないとか 私に破魂刀でって……」


「望美……」


「うん」


の言葉を聞き、朔が望美をジッと見つめた。
ふられた望美も、言われている言葉がどこか理解できる部分もある所為か目を見開いていて。


「白龍 もしかして、を呼んだのは……白龍なの?」


「うん 私が、呼んだ 神子を……助けて欲しくて 神子、悩んでるの……知ってた、から」


白龍が知っているはずなどなかった。
かなり昔の時空で貰った逆鱗のことさえも、そのあとの時空の白龍は知っていなかったから。


「かなり昔に行方を晦ましていた破魂刀 白龍が呼んだのだな」


「うん ずっと、眠ってた 主がずっと……いなかった、から」


白龍の言葉を最後に、誰も言葉を発さなかった。
はただ、おろおろとそれぞれを顔を見つめるだけ。


「私は……どうすればいいの?呼ばれても、助けたくても、剣の使い方なんて分からないし」


「……それならば、私が指導しよう」


の言葉にリズヴァーンが答えた。
その言葉に九郎が目を見開いた。


「しかし、先生!」


「九郎、見ただろう この者の力を」


「それは……」


素人を軍に入れることを躊躇う九郎。
神子である望美を助けるというのであれば、源氏の軍に属さなければならないのだ。
軍を預かるものとして、九郎がすぐに頷けるはずもなかった。


「剣技を磨けば、破魂刀は強い力に、なる」


「……私からも、お願いしたい!」


白龍の言葉を聞き、少しだけ考えていた望美が口を割った。
が居なければ輪廻を乗り越えられないというのなら、決して九郎を救う道へ進めない。
友達を、こんな危ない世界へ引き込むのは凄く気が引ける。
けれども、どうしても、助けて欲しかった。


「……お前はどうなんだ?」


「え?」


「助けてと呼ばれたとか、使い方が分からないとか……そういう話の前に、お前自身はどう思っていると聞いているんだ」


「──ぁ」


九郎の問い掛けで、望美は気付いた。
全ては白龍と望美の押し付けだ。
自身はどう思っているのかなんて、自身にしか分からない。


「戦うのは怖いけど……でも、望美が困ってるなら、私は助けたい」


躊躇わないわけじゃない。
戸惑わないわけじゃない。
それでも、友達の力になりたいと思うのは、きっと普通のことだろう。


「後悔はしないな?」


「……うん」


九郎の問い掛けに、は間を空けてから頷いた。


「なら、これから望美と一緒に源氏の軍に加わってもらう」








それが、私の運命の分かれ道だった。







「そっか〜ちゃんって言うんだ〜」


「はい 望美とは同じ学校のクラスメイトで──」


「くらす……めい、と?」


「あ、同じ学級で勉強をしている仲間って事ですよ」


景時と九郎と、楽しそうに話す
その様子を見ていた望美が会話に参加してきた。


「望美さん達の世界は平和な世界だそうですね」


「はい こういう危ないこともないし、ああいう武器も持つことなんてないですしね」


弁慶の言葉に、はにっこりと微笑んだ。
そう、こういう世界なんて知らなかった。



というか、私からすればあの源平の時代に来てるって事の方が驚きなんだけど……



そんな事を思いながら苦笑を浮かべていた。
源九郎義経とか、武蔵坊弁慶とか、梶原景時とか、完全に源平の時代だという証拠だろう。


「でも、すぐに馴染められてよかったよ」


「まぁ、人見知りしない性格が功を奏した……って感じかな?」


安堵する望美に、はニッと歯を見せて笑った。
その場に馴染みやすい性格だったのが良かったのだろう。
普通だったら、こんな世界に突然放り出されれば混乱して話どころじゃなくなるだろうから。


「……


「あ、リズ先生!」


縁側に現れたリズヴァーンに、は声を上げると立ち上がった。


?それに先生も……どうかされたのですか?」


「あ、ごめんなさい 話してなかったよね」


九郎の疑問そうな表情に、は"あ"と声を上げた。
すっかり忘れていたのだ。


「これからリズ先生に剣の稽古をつけてもらうんです」


「そうだったの?なら、待たせてはいけないわ」


「うん、ごめんね!それじゃ、行ってきます!」


朔の言葉に両手を顔の前であわせ、呟くとくるりと踵を返した。
ばたばたと慌しくリズヴァーンの後を追っていく。


「……、大丈夫かな?」


「……まあ、今は心配していても仕方がないと思うけどね」


心配する望美をよそに、クスッと笑いながらヒノエはが歩いていった方向を見つめた。


「そうですね 稽古が終われば戻ってくるんですし……僕は仕事に戻らせてもらいます」


「ああ、俺も行く」


呟き、弁慶は九郎と共に京邸を後にした。










to be continued...................





第三章 三草山、夜陰の戦場に入る前の間章って感じで。
ゲームでもあるように、人を斬ることもあるわけだから……少しは主人公が心を揺らすようになればいいなと。
そのためには必死に稽古をしていかないといけないわけで。(笑)

源氏の軍へ入る理由だけど、ぐだぐだのまま流れるように入る感じにしたかったので内容もぐだぐだに。
嫌という気持ちと、入るという気持ち相反する思いが入り乱れてて何とも言えずもがなみたいな?(ぉぃ)






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