この時の私は、凄く安易な考えだったんだと思う
この先に待つものの重さなんて全く分からなかった

分かろうとしなかった

だから安易に受け入れてしまった
だから安易に助けると言ってしまった









雲の通ひ路 第四話









「この辺りまで来ればよいだろう」


森の中は、木々で道が塞がれ足場は悪い。
けれど、きっと稽古にはもってこいの場所なのだろう。

特に、短期間で実力をつけるためには。
歴史で読んだことがある。
源義経が、鞍馬の天狗に稽古をつけてもらったとき、こういう足場の悪い森の中でたくさんの鍛錬を積んだと。


「あなたが、あの九郎さんに剣術を教えた鞍馬の天狗?」


「……それを知っているのか」


突如かけたの問い掛けに、リズヴァーンは驚きの表情を浮かべていた。
たぶん、望美も気づいていない事だろう。
譲もあの様子からでは、きっと気付いていない。


「だって、リズ先生が九郎さんの剣の師匠なわけだし」


「……必然、ということか」


「はい」


はっきりと頷き返すに、リズヴァーンはフッと笑みを浮かべた。


「それならば、私の実力も分かる……ということか」


「それは……稽古をつけてもらわないと分からないと思うんだけど……」


苦笑を浮かべてしまった。
だって、が知っているのは本の中の世界。
歴史という書物としてだけだ。


「ならば……参ろう」


「はい お願いします」


呟くと同時に、もリズヴァーンも剣を構えた。
風が吹き、葉や桜の花びらが舞うように落ちてくる。
その葉が、地面についた瞬間リズヴァーンが地面を蹴った。











「今日はここまでにしよう」


チン、と音をたて刃を鞘にしまった。


「はい」


も一つ息を吐くと、同じように二刀の剣を鞘におさめた。
ハードだったけれど分かりやすく、なおかつ実践を積みながらというのもあるのか飲み込みが早かった。


「すぐに……神子ほどの実力を身につけるだろう」


「え?ま、まさか……だって、望美って結構強いんでしょう?」


「そうだ だが……お前も資質がある」


リズヴァーンの言葉に驚きを隠せなかった。
だって、剣なんて握ったことなんてなかったのだ。
いきなりそんな事を言われても、戸惑ってしまう。


「剣を持つと決したのなら、決して迷うな 迷いは己を滅ぼす」


「……っ」


リズヴァーンの言葉に、ビクリと身体が反応した。
剣を持つと決したのだから、戦に借り出されるようになるわけだ。
もし、もし迷いが戦場で現れてしまったら?


「……はい 気をつけます」


「それでいい では、戻るとしよう じきに、日が落ちる」


背を向けたリズヴァーンの背中を見つめ、一つ息を呑みは再度決意を新たにした。
大きな背中。
その背中を見つめながら、森の外へと出て行った。









「お帰り、!」


「ただいま、望美 あ〜、もうお腹ぺこぺこだよ」


肩を竦めながら縁側を歩いていくと望美。
まだ日は完全に落ちきっていないものの、夕飯を食べる時間が近いだろう。


「身体動かした後じゃ、特にそうだよね 私も、今日は九郎さんと庭で稽古してたからクタクタ」


「九郎さんと?」


呟きながら、望美との相部屋へと入った。
ぱしっと障子を閉めながら、は首をかしげた。


「うん ほら、あれでも九郎さんって源氏の大将でしょ?」


「あ、そういえばそうだよね 源九郎義経だし……頼朝の名代なわけだから、強いはずだよね
 あの鞍馬の天狗に剣を教わったわけだし、弱かったらやばいか」


一人呟きながらは納得した。
そう、あの人柄の所為かすっかり忘れていたけれど強いのだ、九郎義経は。


「鞍馬の天狗?あれ?先生に剣を教わったんでしょ?九郎さんって」


「あれ?気付かない?」


クエスチョンマークを羅列させる望美に、はきょとんとした。
やっぱり、と内心思いながらその表情は苦笑へと移ろった。


「リズ先生ってどこに住んでる?」


「ええと……鞍馬の山奥」


「九郎さんが子供の頃、どこに預けられてた?」


「ええと……えーっと……鞍馬寺、だっけ?」


「そ」


「あ!」


まるで、歴史の勉強をしているかのように一コマ。
そして、ここで望美はようやく分かったようで声を上げた。


「鞍馬の天狗って先生のことだったの!?」


「……やっぱり知らなかったんだ」


驚く望美をよそに、はくすくすと笑うばかり。
知っていたからこそ、余計に余裕をこける。


「だって、勉強から離れて結構経つもん」


「離れて忘れるんじゃ、意味ないでしょ」


「う……」


「ほらほら、あまり望美をいじめないで頂戴」


「いじめてないよ〜」


じめられた障子が開けられて、顔を出したのは朔だった。
朔の言葉には笑いながら否定をし、立ち上がる。


「夕飯の準備が出来たの?」


「ええ 譲殿が呼んできてと言っていたわ」


「そうなの?じゃあ、、行こう!」


勢い良く望美も立ち上がり、の腕を掴むと部屋を出た。


「ほんと、望美は譲殿の作る料理が好きね」


その様子を見て、朔は苦笑を浮かべた。










「ようやく来ましたね」


ようやく現れた達の姿に、弁慶が苦笑した。


「なに……この豪勢な料理は」


「ああ 先輩が合流したわけですだから……少し豪華にしてみようかと思って」


いつもの料理とは違う豪華さに望美が驚きの声を上げていた。
向こうの世界とは違って、食料や調味料を手に入れるのも九郎するこの時代。
向こうの世界では質素でも、こちらの世界では豪華になる料理もあるのだ。


「え……?私??」


「はい いきなり呼ばれたわけですから……少しは元気になってもらおうと」


「あ、ありがとう……譲」


微笑む譲に、嬉しそうに微笑む
凄く、そういう心遣いが嬉しかった。
友達が居るというだけで、本当に心が安心する。


「実を言うとさ……本当は凄く不安だったんだ」


言いながら、は空いた席へと腰を落ち着けた。
隣には弁慶がいて、その反対には景時がいる。


「いきなりこんな風に飛び入り参加で、みんなと仲良くやっていけるのかなって
 分からないことの多い世界だし、知らないこともいろいろ知っていかなきゃいけないし……」


さん そんなに、肩肘張らなくていいんですよ」


呟くにやんわりと微笑み呟く弁慶。
その言葉に、は弁慶の顔をジッと見つめた。


「僕らは嫌々君を連れいれたわけじゃない 君の意思あってこそ、君はここに居るんです」


「そうだよ、ちゃん もしもオレ達が嫌がってたら、君を参加させたりしないって〜」


弁慶とは違って、景時はリズミカルに口ずさみの頭を撫でた。


「そうだな だから、お前がそこまで気にする必要はない」


「……ありがとう、ございます」


そんな風に励まされて、嬉しくて、恥ずかしくて。
俯きながら、軽く微笑み、か細くお礼の言葉を口にした。


「それじゃ、そろそろ食べよっか〜」


景時の楽しそうな声が夕飯の開始の掛け声となった。









to be continued.................




主人公、悩む場所そこ!?みたいなw
とりあえず、戦うことへの悩みは三草山での戦いまで持ち越します!(ぉ)
ここでは、リズ先生と稽古して八葉のみんなと絆を上げていこう!って感じで。
……これ、景時結構主人公寄り?w






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